クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【論考】めんどくさい標本とはなんぞや。

 データが曖昧で、既知分類群の形態に当て嵌めにくい標本は視覚的には興味深いのに研究には使えない。しかし、そういう標本も半永久的に残りうる。

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(1999年スマトラ島産66mm。採集人が適当に仲介業者に渡すと詳しいデータが分からない。形態も細部は歪で、天然個体なのに天然らしさが薄い。トルンカトゥスホソアカクワガタの頭部矮小奇形なのか、キルクネルホソアカクワガタ=真エラフスホソアカクワガタ?の長歯型なのか、採集場所の山と標高が分からないため考察が困難。ちなみに両分類群の交尾器形態差異は少なく、標高差で地理的隔離を成している亜種関係かもしれない)

http://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/archive/31/0

 こういう標本は、上記の理由から通常は論文に使用出来ない。分類群の特徴として扱うには飛びデータのコンタミは考察にならないので、データから外す意義を説明されうる。

 私のところではたまたま1頭こういう戒めをしてくれる個体があったので一応記事にした次第。決して利用価値が安定したものでは無いと付記しておく。

【References】

Gestro, R. 1881. Enumerazione dei Lucanidi raccolti nell'Arcipelago Malese e L.M.D'Albertis. Annali del Museo civico di Storia Naturale di Genova 16:303-347.

Schenk, K.D. 2000. Beitrag zur Kenntnis von Cyclommatus elaphus Gestro, 1881, von der Insel Sumatra. Entomologische Zeitschrift 110(7):214-216. 

【追記】

 博物館にあるややこしい標本などは、場所を食うので廃棄される。「いやあ廃棄なんてしないよ」と言われても信じない。そんなのは歴史的標本を捨てなかったり外面を気にした建前を目的にした言である。もう随分何年も昔だから今はどうか知らないが欧州のとある博物館各所のバックヤードで針ごと廃棄箱にドッサリ壊れながら蝶か蛾の標本が入っていたのを見た事がある。初めて見た時はあまりに衝撃的だったので鮮明に記憶してしまった。アレほどショックだった事もなかなか無い。日本の博物館でも「廃棄行き」と書かれた死骸を入れた箱群を見た事がある。今更シレっと方針を変えていて説明が無いというのは不自然である。ゴミ回収業者さん達が虫ピンで怪我をしていない事を祈る。

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(ブラジル現地での採集者らが絶滅を囁くBrachysiderus paranensis Arrow, 1902。パラナからサンパウロまで見つかっているらしいが、森林伐採の盛んな地域に近い。データは1920年6月20日サンパウロ産の貴重な標本であるが、この種は博物館で見る事は滅多に無い。博物館が購入しなかったためか、希少性を考えればそんなに高額でもない値段でebayに出品されたが、誰も入札しなかったため物悲しくなり私が落札した。)

【Reference 2】

Arrow G.J. (1902) Notes and descriptions of some Dynastidae from tropical America, chiefly supplementary to the "Biologia Centrali-Americana", The Annals and Magazine of natural History, including Zoology, Botany and Geology. London 7(10):137-147