クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【論考】ホロタイプなど担名性を持つ模式標本観察の重要性とはなんぞや。

 巷ではよく「誤同定」がなされる。昔ならば、誤同定をしている人達は指摘されるとすぐに正確な情報に従い、己の信頼性を維持していた。しかし昨今では、其の「信頼性」に無関係な宗教観やイデオロギーを由来して観る人間がTwitterなどのSNSで先鋭化され、間違いを指摘されてもキレて従わない人、正しい知識を誤解して間違った知識を使い間違いだと指摘する人がとてつもなく増えた。それが起因している為か、分からない分からないと文句を言われる割に調べてみればアッサリ正解が出てくる話題が何故か存在する。

 以下は其れを考える上で挙げる例。

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 上からLycomedes ohausi Arrow, 1908、Lycomedes burmeisteri Waterhouse, 1879(基産地から離れるが同形態と言われている)、Lycomedes bubeniki Milani, 2017(Milaniの記載は分類群により評価が分かれるが当分類群は認められる)。其々、胸角*頭角*体格と交尾器形態の相関が異なる。

 其れ等のホロタイプ等担名級タイプはネットで調べれば出てくる(厳密には実際に交尾器などとの比較が必要になり、殆どの昆虫種で交尾器の変異等図示が無いため、現状の論文や図鑑のみでは観察不足が避けられない)。

Lycomedes ohausi Arrow, 1908 Type (記載文では16頭を検し11頭は♂とされる。Lycomedes burmeisteriと比較される。Lectotypeは未指定のようなので、記載文の特徴通りの形態を示すURLにある個体が指定されうる:立場上シンタイプと同等)https://www.flickr.com/photos/nhm_beetle_id/28370351652

Lycomedes burmeisteri Waterhouse, 1879 Lectotype https://www.flickr.com/photos/nhm_beetle_id/28442682256

Lycomedes bubeniki Milani, 2017 Holotype in article https://docplayer.it/59271676-Warning-the-copyright-proprietor-giornale-italiano-di-entomologia-has-licensed-this-pdf-for-private-use-only-all-other-rights-are-reserved.html

 正式な手続きで定義されたホロタイプ標本・レクトタイプ標本・ネオタイプ標本は国際動物命名規約の効力により担名性を持ち、各々の分類群で生物種学名に対応する形態の唯一無二の物証である(論文に記載された生物種特徴の形態に一致するからといってホロタイプという訳では無い)。ホロタイプ等の担名性のある標本が1種や1亜種の分類群に複数あれば、後年個体により別種を含んでいたと判明した場合に混乱リスクがあるため、国際動物命名規約により1分類群単位につき1頭のみと制限される(古い記載種で標本が沢山あるのに代表が決まっていないタイプシリーズは"シンタイプ"としてひとまとまりの担名タイプとされ、後年にレクトタイプとパラレクトタイプを指定される事が望ましい)。だから単なる規約の決まり事であるから当然の事なのに「世界に唯一のホロタイプ」なんて仰々しくも他意を含んだかのような表現で強調された宣伝があるといかにもミスリーディングで間抜けなのである。 

 要は一般人はそういう調べ方を知らずに、この分類が分からんと頭の弱い暴言を吐きながら右往左往している様がTwitterで見られる訳である。もしかしなくとも本気で分かっていない人もいるだろうが、普段雑談する仲間内であろう人達の間柄でさえ誰も調べて教えてあげようとはしないのだ(※私は全くの他人なので関わらない)。もはや「信用」に対する概念に、あらゆる人達の憶測や想像、危険思想付きのしがらみが混じりこんですらいると言って良い時代かもしれない。

 ちなみにLycomedes lydiae Arnaud, 2012は、Lycomedes reichei Brême, 1844のシノニムであると、Lycomedes enigmaticus Neita-Moreno & Ratcliffe, 2019の記載論文で記述されている。たしかに、L. lydiaeの原記載に載るL. lydiaeL. reicheiの外見はサイズ差を考えればそんなに変わらないし、交尾器は光の当たり方が違うくらいで変異内の同形態に見える(白亜紀後期当たりから出現したとされるカブトムシは外形進化を急激に行なっただけで、交尾器形態の安定度は低く、変異幅がクワガタムシなどの古系統に比べると広い)。ちなみにこういうリスクがありうる為、献名を籤引で決めようなんてイベントも生物学、というか自然現象・科学への無理解がどう考えても明瞭であり、他科学者・研究者また巻き込まれる一般庶民に対してすら傲岸無礼で失礼、そして一介のアマチュアに科学的根拠絡みの疑問を与えるのだから間抜けである。

【Reference】

Arrow G.J. (1908) A contribution to the classification of the Coleopterous family Dynastidae, Transactions of the entomological Society Londen (2):321-358

Waterhouse C.O. (1879) Description of new Coleoptera from Medelin Colombia, recently added to the British Museum Collection, Cistula Entomologica 2:421-429

Milani, L. (2017) Sinopsi del genere Lycomedes Breme con ridescrizione di Lycomedes ohausi Arrow maschio, descrizione di Lycomedes ohausi Arrow femmina e di una nuova specie dall'Ecuador. Giornale Italiano di Entomologia14(62):755-774.

Arnaud P. (2012) Une nouvelle espéce de Lycomedes , Besoiro 21:2-3

Brême F.M. de (1844) Insectes Coléoptères nouveaux ou peu connus , Annales de la Société Entomologique de France. Paris (2)2:287-313

【追記】

 どの博物館の誰かとは、其の人の人生を左右してしまいかねないため決して言えないが「論文書くのにホロタイプなんて見なくて良いじゃん。」と博物館の存在理由を真っ向から否定した事を私に面と向かった状態で言ってきた学芸員を絶対に忘れない(即座に反論して黙ってもらった)。

 それまでは、そのような考え方の研究者がまさかそんなに中枢に近い場所で職を担っているとは考えてもおらず、極めて重大な問題と考えたため戒めとしても、こういう考え方が公式内部でありうる事を疑問視する意味で記す。その学芸員の学歴、出身大学、そしてその大学に勤める学者らの論文やSNS書き込みを知り、今の昆虫業界を牛耳りつつある界隈が如何なる方向性か、その時点でかなりの事を理解した。要は他人を馬車馬のように働かし、当該学者らは好き勝手な事をし、実績だけ貰おうというアンバランスな強欲思想を組織的に持っている事が透けて見えたのだ(たまに一番の功労者を無視してたりする)。いや、この人達は他者を騙すのに余念が無さ過ぎるな。。

https://www.asahi.com/articles/ASPCZ569NPCZPLBJ00F.html

(別の大学だが実例。バレているのは珍しいが、悪い学者なら間抜けだな〜程度にしか思わないんだろう。まぁコンプライアンスの行き届いていない大学ならば世界的にある不正。)

 そりゃあ、普段から信者収集を目的にSNS活動で必死な人が実名で変な事言ってても、いや、だからこそ其れが学者なら一般人は善人だと思い込んでしまうな、と。

https://twitter.com/ygramul0110/status/1063242965735243776?s=21