クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【論考】原著論文を読む事の重要性とはなんぞや。

 生物種を知るためには標本が必要になる。そして具体的な概念とその定義の按配を知るには網羅的な観察に加え、原著論文の確認が必要になる(原綴りの確認にも必要だが、必要となる理由は過去記事の【追記】にて超長文だが説明したのでリンク:https://ivene.hatenablog.com/entry/2021/10/16/132331

 TwitterなどのSNSでは、これみよがしに希少種のブリードを自慢する人々が固定ハンドルネームなどで沢山いるが、時折間違った理解をされているクワガタを見かける。

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Digonophorus motuoensis wuchiae Okuda et Maeda, 2020:モートゥオセスジクワガタ・インド北東部亜種ウチ、未整形個体)

 画像はその1分類群であるが、これはインド北東部から亜種として記載され、原亜種はチベットに分布する。論文邦題でもそうだが非常に明確な記述がある。

 しかしTwitterを始めとしたSNS界、ヤフーオークション、また取扱う生体販売屋などではどうやらインド東部産を原亜種、チベット産を亜種ウチとして認識され、紹介のある際に原著論文内容とアベコベの認知は本日2021年12月4日現在の今まで殆ど100%に近い(流石はデマッター、バカッター)。

 たしかに、大まかな形態は似ているが亜種名を使用するならば特徴の把握が必要であり、知らないで同定したならば其れは「予断」と言われてしまい、今回の場合だと一般的にされている事は結果的に嘘や間違いである。最近のショップなどの人達がそんなに杜撰な理解で読んでいたとすると、少しガッカリである。

 当分類群に関しては、記載論文を読めばしっかりと特徴が示されており、輸入ルートの間違いない個体由来ならば飼育品でも形態特徴の再現性はバッチリ安定していてフェノコピーではないと分かる。

 こういう事もあるので、学名を使用する際は、よく論文を読み考えて参照されたい。

 ちなみに英題は"Three new species of..."となっているが、邦題と内容では「(前略)3新亜種」なので、英題は編集時による誤植と考えられる。

【References】

Okuda, N.; Maeda, T. 2020: Three new subspecies of the genus Digonophorus (Coleoptera, Lucanidae) from Arunachal Pradesh, northeastern India. Gekkan-Mushi, (588): 22-27. ISSN: 0388-418X

Huang. H. & C. C. Chen, 2013. Stag beetles of China II. 716pp., 140pls., Taiwan.

【追記】

 月刊むし発の記載論文なんだから、むし社関係者は把握していそうな気がするんだけど、なんで放置されているのか。。

【2022.04.08.追記】

 誤解が蔓延して2年も経っているから大した話ではないが修正されたらしい。

https://df-kabukuwa.net/archives/6136

 私の知る限り発端は此処では無かったと回顧するが誤解が直されたならなんでも良い。指摘した人物の一人は私の分類友で「昨今SNSで流行りの"逆ギレ"を懸念して指摘を遠慮していた」との事だった。