クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【第柒欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私にとって盲亀浮木の邂逅だった7個体目のクワガタムシ科入り琥珀左右触角※腹面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20220225204332j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体は少し異物が付着しているが非常にクリアな状態。触角第一節基部は空気にまかれている)

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 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang, 2017に酷似しているが前胸側縁では、それほどギザギザにならない(小突起列の出方にメリハリが無い)。しかも触角片状節の肥大が大きい。なお種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 同琥珀には開翅13mm程度のアミメカゲロウ目(Neuroptera)クシヒゲカゲロウ科(Dilaridae)絶滅属†Cretanallachius sp.(?)が入り、こちらが主役として出品された琥珀だった(クワガタは気づかれていなかった)。また2mm程度の赤い個体を始めサイズ様々にダニなども同封されている。専門外は疎いので一応「?」を付ける。

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 北半球では、種子植物に対応したクワガタムシ亜科が主として激しい分化をしていて、なお古そうなマグソクワガタ系統はそこまで激しい形態変化をしていない上、南半球に比べて地域面積あたりの種数が少ない。おそらく分布域拡大に時間がかかって形態進化をするだけの環境適応期間が未だ短いと考えられる。

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

D. Y. Huang, D. Azar, C. Y. Cai, R. Garrouste, and A. Nel. 2015. The first Mesozoic pleasing lacewing (Neuroptera: Dilaridae). Cretaceous Research 56:274-277

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ琥珀の透明度が高く観察がしやすい。虫の姿勢から生きた状態で埋没した情景が思い浮かぶ。まるでついさっき固まったかのような光景を封じている。

 約1億年前の白亜紀とは一体どれだけ昔なのか、1万年の経過が1万回過ぎ去った計算に近いと考えれば途方もない昔という事に気付かされる。白亜紀のマグソクワガタ類が現生のマグソクワガタにかけて進化するまで1世代につき1年1化の生活史をしていたとすると、約1億世代を経てきた計算になる。他化石などから観て10万世代くらいだと自然界では生物種としての変化は成りにくいようだが、その千倍の1億世代ならば余裕で形態変化の機会がありそうである。

 琥珀Protonicagus taniのホロタイプ標本ほどクリアでは無いものの自身で観る中では其れ迄に無いクリアさがあった。アミメカゲロウの保存状態も頗る良い。不思議な事だがクワガタとアミメカゲロウが同じ琥珀に入るのを見るのはこれが2つめで生態的な接点が垣間見える。

 アミメカゲロウ入り琥珀としての出品で甲虫もあるとされていたものだったが、なんと其の甲虫はクワガタだった。透明度が高く出品画像でも一見してクワガタと分かったが、それでありながら出品者が何故甲虫個体を同定しなかったのか今になっても謎のままである。たしかにアミメカゲロウに眼を奪われはするが其れは単なる"beetle"ではない。

 とりあえず透明度の高い虫入り琥珀は通常よりも高く評価出来る。細部を観察しやすい標本は良い資料である。腹面の観察、触角や爪周辺、口器など、文献や其処らではあまり目にしない角度からの観察が同定には必須だからである。

 美しい虫入り琥珀を観る度に想うのだが、現生種の虫は苦手なのに絶滅種の虫入り琥珀なら平気という人が一般的には割とよくいる。たしかに虫入り琥珀というのは不思議と清潔感がある。実際に顕微鏡で覗いてみても精美な雰囲気で溢れている。

【雑記・業について】

 日本国内での虫業界というと長らく「」の考え方が隣り合わせであったという印象がある。ヤクザ屋が沸かし始めだした業界とはいえ、インターネットが流行りでなかった結構昔だが「調べる上で犠牲になってもらっている。自然から物事を教えていただいている。」とよく教えられたものである。だから出来るだけ丁寧に対象を見るという姿勢に自然になっていった。動物実験をする前には、免罪や神頼み等という為の意識ではなく、いずれは殺生が減る事を願い謝罪の念を込める。外国僻地の山奥で見知らぬ虫を採集してきている古株の採集家達も此の意識を持っている。しかし近年になってから、なんでも分かっているかのような面をしながら「どうして其の解釈になったのか」と疑問を抱かせるような格好悪い虚勢を張る人達が多い。即ち謙虚さが感じられない人達が多い。

 出会い頭に開口一番「交尾器見たんか?同定違うぞ」と他人に詰め寄る割に交尾器形態の変異も知らない著名人もいるが、粗悪な実績から丸分かりだから「貴殿も見てへんやん(笑)」と突っ込みたくなるそんな世の中。昨今の虫屋というのはどうも自身を優勢な立場に置きたい人達が悪目立ちしているが其れは世渡り下手の取る下策にしか見えない。

 検証の甘い話をゴリ押しされても私が納得行かないのは此の懸念がいつも気がかりだからである(結論ありきの予断さえしないよう気をつけてもらえるだけで良いのだが、商魂逞しい?人達にとって金銭的な事以外に誠実である事は自傷行為なんだろうか)。SNSで色々貢献した風な宣伝をされても詳細からして私はなかなか納得できない。そもそも教育的配慮に全く欠けたslacktivismの態度で押売りをしてくる人達の容態とは一体何が基点なのか。他の様々な分野でも素人にもすぐに分かるような"著者・査読者らに誤った解釈がある論文"などは沢山あり「談合でもして不正を庇い合っているのか」とすら思わせる。結局は自身で大量の論文を読み様々なメカニズムを調べ物理法則の篩にかけていかなくては本当の事が分からない。"実績"とやらが数を増やすに伴い、かけなくてはならない労力量がとんでもない時代になってしまっている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%93%E3%82%BA%E3%83%A0

 かなり身も蓋も無い事を言ってしまえば、別に誰かが無理をしてまで飼育や採集、また標本収集、報文投稿とかなんてしなくても殆ど誰も困らない。頭をそんなに使わなくても出来る事を報文にされて威張られても困惑するのみ。むしろ予断を事実かのように嘯いて論文にされてしまっている方が迷惑である。昔から良い仕事というものはじっくり時間をかけて行われてきている。市場に商品として陳列されている命ある虫達が如何に高額かを説明、宣伝するため大慌てで急いで色々研究したっぽいような事を言われても知識の粗が目立ち、私には其れ等が悪足掻きにしか見えない。関心が欲しいならば分かるようにプレゼンテーションする事が其れに対する必要条件である。生物種学名を用いるならば命名規約を矛盾なく理解出来たのか、原記載を読んでいるのか、該当種の担名タイプ標本と其の変異内個体群を識別出来ているのか、"特徴"を理解出来ているのか、遺伝型による変異と其れと紛らしい別要因の変異の事を網羅的に知れているのか、教条主義的分類をしていないと証明出来るか、種や亜種の隔離要件は説明出来るか、全ての整合性を固めた説明をしてからの応用研究で無いならば信用しきれない。

 実物を伴わない文章のみである程度納得させられるレベルのプレゼンというのを工夫を凝らしてやろうとすれば例として編集しやすいプラットフォームでページを作るのが一番やりやすい。他SNSなんかを上手く利用しようと考えたとしても係争ある古い歴史文書の検証やURLリンクくらいにしか使用性を感じないから私は誤認サンプル抽出の為以外には使わない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%AD

 そして業界の軽薄さを証拠づけるかのように今代ネット社会では虫=換金物という誤った考え方が蔓延っていて学者らですら虫の転売を良しと促すような表現をSNS上で憚らず嘯く。業の考え方と密接する業界なだけに玩具的な業界とはあまり親和性がないから違和感が残るが、売買正当化を無理にしようとする人達が俄然増えてきている。コレクターにしても集めたコレクションを最終的にどうするか考えていない人達が殆どである。株取引みたいに相場相場とうるさい時代になってきているのもここ1〜2年の事。ネットオークションが盛んな時代だからか、どうも堅気の考え方から離れつつある。

https://www.tv-osaka.co.jp/onair/detail/oaid=2054669/

(標本商の友人と話題になった番組。チュウホソアカクワガタの80mmが50万円?聞いた事も無い。生体だから?としても死骸になればかなり値下がりする。現在は様々な要因故に入荷減という事で昔よりは高値を付けても仕方ないが50万円というのは言い過ぎである。参考までに2000〜2010年前後で標本商が付けていた価格は80mmで10〜12万円程度で、脚部が1本欠損の80mmで7万円程度であった。私は過去、故・葛信彦氏が生前の頃に御自宅にお邪魔させていただいた事があり、結局買わなかったが結構な量のチュウホソアカを見せてもらっていて50万円を付ける程の希少性は感じなかった)

 そういうワケで伝統的な考え方としては「個体を採集されてきた労力と伴う其の個体自体の希少性・必要性」に対価が支払われてきている訳だが、換金して当然の物体かのように扱うのは拝金主義的過ぎる(言動不一致が常習でよく回る二枚舌を持つ"彼ら"は人身売買容認するのだろうか)。苦労して採集された希少種である訳でもなく知見を改めるような良質な個体でも無いものに高額を付ける意味とはなんぞや分からない。SNS等で言動が軽薄な人と論文の体裁が杜撰な人が一致しやすいのもそういう人達に人間性や性格に様々な難があるという事を示している。自戒の方法など遠く彼方に忘れて置き去りにしたような不思議な社会になっている。何故か彼らは謙虚になれない。

 他方、犬のブリード業界では近年漸く生物的に苦しみを抱えて生まれてくる雑種をフェードアウト的に絶やそうという方向になってきているが、虫業界の新参者達は全く逆の道を行く。「赤信号、皆で渡れば怖くない」はお笑いのネタで有名だが、其れを本気にして適当な理由を付けて断行しようとするような人達と彼らは変わらない。適当な理由を付けて筋の通らない事を無理矢理する様は、商用論文や、最近での某国による別某国侵攻が全く同じ精神性と見える。

https://www.jiji.com/sp/article?k=2022021400837&g=int

 またDNA検査法を理解せずに「使えない」と雑種論争で主張する半匿名SNSユーザーがいるが、誤解して欲しくない事に遺伝子汚染の疑いがある飼育品の判定に使えないのはmtDNAで、核DNAの「allele:対立遺伝子」等からの比較考察は一定程度に有効な交雑判定法として存在している(※alleleと其れに伴い発現する形態差異だけで種や亜種の分類が為されないのはモデル生物の例で確定している)。単純に絵データでしか出てこないしコストパフォーマンスが悪いから殆ど誰もやっていない(真実に気づいても言う意味が無いから黙している人達が多い)。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.businessinsider.jp/amp/post-1723

 遺伝学はそこまで歴史が長くないがモデル生物では一般人や専門でない研究者らの想像しているよりも遥か深く具体的に調べられている。モデル生物は医療に密接した研究材料になるため莫大な資金でもって世界的に大勢の研究者らが調べてきている(故に不正も多いが不正研究は再現性が無く応用利用にならない)。其れでも未知な部分がまだまだある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%A6

 以下のカブトムシ雑種に関する論文はメソッドおよび具体的な検体数記述が無く、図示も各世代とされる表記の1個体ずつ計3個体のみ且つ論文なのにinformalな形式と"お座なり"で、また別の一般的知見と噛み合わない。記述で延々と種概念的な事の既知知見を考察しているみたいだが、ヘラクレスネプチューンの交雑個体系統がF2以降"孵化"したという他例は無い。過去に私以外にも複数のショップやブリーダーらが全国範囲的に試したが其れ等からの情報では全てF2や戻し交配は私の知る限り無精卵の結果となっている。前提として以下論文の結果には確固たる再現性を認められないため論自体も参照価値が無い(あれだけ試されたパターンで成功例が出ても信用出来ない)。このように例によっては物議を醸すレポートがある。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ece3.6524

 また雑種第二世代で幼虫が孵化したと言う場合、其れは3パターンの可能性が考えられる。1つめは単純に別種ではなく別亜種の関係だったという可能性(冠進化の原因でもある)。2つめは変わった事を言いたい人の受け狙いのための嘘。3つめは擬似的な交尾行動による刺激での単為生殖。自身で実験し成虫が羽化するまでは本当に累代出来たか分からない。雑種の単為生殖であるから染色体の不全も想定され上手く成長出来ず死亡率が高いのは其れの為と推察されうる(ダウン症などに似る)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%98%E7%82%BA%E7%94%9F%E6%AE%96

 第二世代で卵が孵化しない場合は2パターンあり、1つめは擬似的な交尾活動による刺激で産卵だけした場合、もう一つは植物における定説で昆虫では調べられきれていないが受精卵が減数分裂を出来ない場合である。

 また植物では雑種崩壊という例があるが具体的な原因は様々考えられ単純に適応度が低いからそうなるため世代数をふむ。

 高校生物の教科書で習うメンデル遺伝学などは簡単な例しか示されていないのだが其れですら理解出来ていない人が社会でも殆どである。そもそも"安直な娯楽的商用利用が殆どの目的になっている実験結果"なんて信用ならない。野生型のハプロタイプと其れに対応する塩基配列を調べ比較したり染色体地図を作成するなどの研究ならまぁなんとなく分からなくもないのだがクワガタ等で其れを莫大な資金をかけて調べる意義はあまり見えない(遺伝子汚染が不明な状態の"商用系統"をわざわざ選ぶのは何故なのか。「"いわくつき"の個体」程度で資料性の意味合いは低い)。歴史的発見だったメンデルのエンドウマメ実験で使われた各検体のP1個体群の全ては、偶然にも調べた表現型が純系のホモ接合体であったため遺伝学の発見になった(P1個体群がヘテロ接合体であれば現在にも応用されている程正しい理解にならなかった)。また核DNA検査をすると言っても方法を確立されているモデル生物みたいなのは使用性の高い生物種系統が選ばれて研究されていて、クワガタなんかの染色体数が多く遺伝子配列の知見も少なく理解が難しい生物を莫大な時間と経費で調べられてきたモデル生物と同じ条件で容易に出来るかのように考える事も甚だ間違っている。これまでの科学史において生物学者らが人気生物で研究していたのを挫折しモデル生物研究に転向した例が多いのも様々な事を物語っているが研究資金が慢性的に集まりにくいテーマであるという事情は他分野への致命的遅れが原因なのだがあまり語られない。微視的形態であるDNAの検査が煩雑で金銭的コストや時間もかかって絵でしか結果が現れないのをいい事に強気な態度で汚言暴言を吐くなど威嚇をしている怪しげな人達も沢山いる(なぜ彼らはあんなに横柄なのか)。また他人の実験結果を鵜呑みにする人達は何なのか(なぜ読んで疑わないのか。なぜ他人に不要な労力コストをかけさせようと促すのか。客観的に見て金銭目的にしか見えず実験の信頼性が低い事を軽視するのは何故か。一般論からかけ離れ"一部虫屋だけの内輪やり取りという薄ら寒い印象"しかない。近年話題の「撮り鉄」を連想する)。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5fec7ae521fea2d483175de629902e1a77ee1f01

(一昔前、友人と"撮り鉄"のマナーに対する一般的な評判が悪い事について話題になり「虫業界はこうでなくて良かったですね」と言っていたのだが、、)

 今代は薬品処理により形態を容易に変える技術がある。交雑による育種に限らず遺伝子導入など遺伝子工学的な方法は様々容易になりつつある。酵素活性を増大させる遺伝子を別生物種から調達し、クワガタなどを大型化させるのは少し試行錯誤すれば造作無い。Overexpressionさせたり等やり方はいくらでもある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E5%BC%8F

 自然界で生物種が体サイズの平衡域を上げる等の進化は相当な世代数を必要とする。大体の昆虫は自然界だと10万世代程度では大きく形態を変えない。人工飼育下でのモデル生物からの検証でも安定した突然変異は数百〜千世代から僅かと相場が決まっていて、別昆虫の化石群からも然り分かる(飼育下の突然変異は殆どの場合自然界への適応度が低いから自然界では生き延びる確率が低い)。それがたった20〜30世代の個体セレクションや飼育環境の工夫だけで最大サイズの平衡域を10パーセント以上も上方シフトさせるなんてどう考えても土台無理な話である(可能なのはせいぜい平衡域サイズをうろつく程度)。

 情報不足でも思い込みでどんどん見知らぬ世界に踏み込んでしまう人々は多い。コロナ禍の情報でも似たような例をよく見る。熟慮は必須であるが、いつのまにか其れが軽視される危険な社会になってしまった。とはいえ自身で確かめられない事の方が多いから、特別な事を発信する場合は責任重大となる訳である。

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(ebayでとあるドイツ人から"パラワン島Dorcus sp.の♀"として落札した個体。形態的にはギラファノコギリクワガタの♀で「パラワンにも居たの?」となったが1頭きりで怪しい。ちなみにヨーロッパの各地博物館にも"ボルネオ島ギラファノコギリクワガタ"の記録がチラホラあるがボルネオ島から此の巨大種が新しく発見されている例は無い)

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(これもebayでとある中国人から"チベット産クワガタ"として落札した個体だが調べてみるとプラティオドンネブトの♀にしか見えない。ちなみに21.5mm。チベットからプラティオドン?本当に?聞いた事が無い。出品者はチベット産の特産種をよく出していたから変なものが混じり出してからは違和感があった。其の後、裏情報から件の中国人がヤフオクで落札したものをebayに出品していたという話を聞きつけ、飼育品を野外採集データに改竄されたりしていたらしかったため此の人物からの入手を一切辞めにした。中国の業者は最初は良くて段々悪くなるパターンと逆のパターンの2パターンがある)

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("ヘラクレスオオカブト原亜種"からとある太角血統の初期個体群の一つ。角だけでなく触角や前脚爪も全て極太になっている。一部ではなく先端のみを全て選択して変化させている。自然界や通常環境での奇形では先ず絶対的に見られない。だがどうやって作られたのか科学的には説明されていない)

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(2005年頃に譲り受けた"メキシコ産ヘラクレス"の飼育個体。其の当時業界が全体的に加担しかけた広範囲詐欺事件の物証である。エクアドルヘラクレスオオカブト亜種オキシデンタリスにしか見えない。当時は"メキシコ産ネプチューンオオカブト"などの死骸も出回った。こういうあからさまな詐欺が多くの愛好家から情熱を奪う。此の事件の後に私の飼育仲間達は殆ど全員が虫業界から撤退、近場の昆虫ショップも殆ど全て転業し、私も数年かけて生体飼育から一切撤退する事にした。所詮は趣味人の集まり、カネの為に巧妙な嘘を吐く人間を排除出来ない脆弱な業界と分かった為である。正直この一件以後、私自身には生体飼育する動機が見いだせなくなっている。先ずは自然界で起きている事を調べるべきと気づきがあった。人づてに聞いて分かる事は限界がある)

https://www.google.co.jp/amp/s/yomi.tokyo/agate/hobby10/insect/1102066088/1-/a

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(左下はジャワ島産で恐らくブケットフタマタクワガタとリノケロスフタマタクワガタの野外雑種と考えられ他でも同様の個体が稀に見られる。しかし右上は"スマトラ産WF1"という個体なのにジャワ島産の雑種にソックリである。セアカフタマタとリノケロスフタマタのハイブリッドでも同様の形態が出るのか、これは輸入ルートの信頼性も低く自身で実験した個体ではないから分からない)

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スマトラ島産の所謂"アンドレアスフタマタクワガタ"。セアカフタマタとリノケロスフタマタのハイブリッドと言われているが、マンディブラリスフタマタとセアカフタマタのハイブリッドと考えられる。"キルヒナーフタマタ"とは親の♂と♀の種が逆パターンとの予想である)

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(ちなみにスマトラ島産の"キルヒナーフタマタクワガタ亜種プロッシ"に近しい形態の個体。一応WF1だそうで88.3mmある。ちなみに交雑種に付けられた学名は国際動物命名規約第四版第一条で除外の対象となる)

 そもそも今代に昆虫を使用した研究が分類学と其れを踏まえた生物学くらいしか軸が無くなっているのは理由があって、単純な事を一つ言ってしまうと1960年に発見され庶民に知られない程度に活躍していたGFPの研究が2008年にノーベル賞を受賞し脚光を浴びた事で生物学内のパワーバランスが相当様変わりしている事情がある。iPS細胞の発見も相当な社会現象になったし他バイオ関連技術も凄まじい勢いで揃ってきた。こうして此のたった十数年の間に遺伝学や発生学また進化学にとって永らく謎だった生物の多様性について応用研究が瞬く間に流行り恐ろしいスピードで様々な謎を解いた。つまり主要な謎の殆ど無くなった「多様性」とやらは研究テーマとしては"残飯"めいた扱いになっている訳である(これがまた纏められきれていないから学生が苦労する)。"バイオミメティクス"というワードも近年盛んだったがコレも凄いスピードで消費された。SNSは沢山の人達が時代遅れな話題を延々と回し時間やコストを浪費ばかりしていて、なかなかこちらにやってこれない。

 とまぁそんなこんなあって現生種に対して熱を冷ましてしまいそうになるのを防ぐため私個人として随分長い間「虫入り琥珀」の出品を見てきている訳だから此処で話を転換するのだが、其方も資金面の難しさを考えて"殆どクワガタ縛り"にしている。「恐竜が居た白亜紀の間違いないクワガタ絶滅種」こんなに面白い話はなかなか無い。ネットを介し輸入的に入手をしているため変な物が混じったりトラブルがあったとしても自己責任が絶対的である。ただまぁ扱う個体数が少ないというのもあり、現生種と違って生物学的なトラブルも誤同定以外には殆ど無く、金銭的な事はPayPalが良い働きをしてくれているから今のところ問題が無い。


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(第一欠片の遠景。UVテストで表面が青く蛍光する)


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(第二欠片の遠景。UVテストの結果は同様)

 他の虫なんかも手をつけてみたいと考えたが良い虫入り琥珀は全般的に競争率が高い故に先立つものが多く"無い袖は振れない"という状況になりやすい。「これは調べたい」と思った琥珀でも高額であるどの琥珀も唯一無二性が非常に高く逃したら一巻の終わりだから緊張感がモノ凄くある。庶民的なジャンルでは先ず無いように思える。琥珀業を集中してやるにしても専門外の雑虫等(※私は本当は"雑虫"という呼称について会話上では使用性が高い今代だから使用しているが言葉に軽薄さを感じてしまいあんまり好きでは無い)について同定が難しいから敷居が高いし折角苦心して手にした琥珀を不特定多数の知らない人に売りたくない。また絶滅したとハッキリ分かる虫の琥珀は高額故に高級ジャンルとして流行っている訳ではない日本国内ではやはり扱うのが厳しい。

 とはいえ虫に詳しければ詳しいほど既知種には無いと分かる琥珀中の虫への感動は大きいし、虫入り琥珀について詳しいほどコンディションに対する評価目線が出来てくる。そして同定識別が容易に出来るものほど評価が高く、そういう琥珀は希少である。つまり資料性能が高い虫入り琥珀ほど原価も異常に高い。情勢なども調べ各メディアの中国寄りな欺瞞を分析し、また有史以前の絶滅昆虫であるから倫理的な事も大体クリアできる。

https://mypaper.m.pchome.com.tw/z2941z/post/1324338208

(國立台灣博物館にあるという"鍬形蟲入り琥珀"が紹介されているが3.5cmもあるらしい割にデータが示されていない。また触角も見えず脚も短くクワガタらしく無い。このサイズの甲虫で2013年展示となると一番考えられそうなのはコロンビア産コパルなど比較的若い樹脂)

http://zaphkielyang.blogspot.com/2013/04/blog-post_30.html?m=1

(同琥珀?の別画像が見える。脚の形態からして南米系のゴミムシダマシ科に見える。展示側は頭部形態のみで同定していて添付される解説は正確性に欠ける。先のURLで「クワガタが琥珀に入るのは珍しくないが、大抵が1cm前後なのに3.5cmもある」と誇らしげに解説されているが、そういう誤認をされていたならそういう解説も付くかと御察し)

 現地採掘現場を知ればミャンマー琥珀であるバーマイトは採掘労働者に対する同情をしてしまう。過酷な環境で何をしているのかもハッキリ分からずにひたすら岩を叩くのは辛そうである。

https://m.youtube.com/watch?v=-bBH7W55Nf4

https://m.youtube.com/watch?v=hLn0p8cKNXM

 ドミニカンアンバーやメキシカンアンバーも似た採掘場だが、ここまで過酷ではない。バーマイト業は中国経済に買い叩かれているからブラック業界化していると考えられる。

https://m.youtube.com/watch?v=HlYk76Wrbp8

 一方でバルト琥珀は海岸に打ちあがったものが拾われるだけだからそんなに辛そうではない。バルト琥珀で大きな制約があるとすれば虫入りなどのインクルージョンを含んだ琥珀が希少という事である。バルト琥珀採掘の歴史から見てもクワガタが入る事など信じられないくらいに少なく、ミャンマー琥珀の比では無い。

https://m.youtube.com/watch?v=2nRS2lUDe4M&feature=emb_title

 バーマイトに関する様々な経済状況は非常にブラック業界的で、翡翠なども似た状況にあるらしい。ミャンマーは鉱物が多種多様に産出するが、中国など他国に安く買い叩かれ、またカチン独立軍とミャンマー軍の衝突も背後には中国経済が関わっているとレポートが出ている(レドロードの一件等)。

 ブラック企業というのは今代の日本的に考えれば道理の通らない威圧、違法な薄給、労災無視などが想起されやすいが、単純な話として"ガス抜き"でコントロールされているというのもある。ブラック企業経営者の思想では現在雇用の社員を外国に飛ばして現地で会社を経営させようという計画があるのを聞いた事があるが、何故日本人が外国に行ってまでそんな事をする必要があるのか私にはとんと分からなかった。現地人にネットを介して色々情報を渡せば其れなりに有効利用されるから現地に居る必要が無いし、日本から離れた日本人は情報入手の質が外国レベルになるから儲け所が無くなる。

 バーマイト採掘場を見れば「そんな過酷な業界で働かずに別業界に行った方が良いんじゃないか」と思うが情勢もありそうはいかないのだろう。だがその情勢を作っているのは労働者らの資金源である。単純な話、大勢いる殆ど不労といって良い人々が暴利を掠めとるために技術者労働の価値を奪い取っている。これは日本でも同じ状況があり、日の目にあたりにくい技術職ほど蔑ろにされがちになりつつあるのが何ともよろしくない。日本で起こった好景気というのは技術革新が主な原動力だったのだが、様々な社会的構造上の問題で、今代は使用性や耐久性などが軽視されがちになってしまっている。

http://honne.biz/sp/

(最も重大な社会問題は"職業差別"であると考えられる。制度的・構造的な問題があまりにも根深い。SNSでお手軽にカルト宗教じみた活動が出来てしまうのも本当に良くない)

 しかし虫入り琥珀を顕微鏡でしっかり観察し、現地では調べられていないレベルまで細部を見ると各細部がどれだけ面白い状況をしているのかが目に見えて延々と飽きない。現生種昆虫でも遠景だけでは飽きが早いが実物の細部を観察している間は時の流れを全く感じない。大体の現地に近い売り手は、このように細部まで見たり研究的に虫の同定基準を理解していないから良い琥珀でも売却してしまうし、大体の原産国では相対的に高額故か買われないため原産国外に品質の良いものが流れてくる。

https://m.bilibili.com/video/BV1Cg411P7oM?from=seopage

(中国内で出回る琥珀はこの動画で紹介される程度が殆ど。おそらく触角など細部の観察が困難。彼らの殆どは体型と脚と頭部の形態だけでクワガタと判断しているから正確な同定にはなかなか行きつけない。明らかに良い琥珀は現地入りしている琥珀商が大抵の場合キープするので市場に出てこない。例えば私に良いクワガタ入り琥珀をオファーしてきてくれる優秀な人物は今は虫入り琥珀市場から身を引いているが、老舗宝石商で「クワガタよりもお金に興味がある」と正直に語ってもらえた。「現生種」業界の方面だと普通はカネカネと守銭奴くさい話ばかりする人間は信用ならないバイアスがかかって当たり前だが、送られてきた「琥珀」は実物を詳細まで観ても間違いなく本物であった。つまり例外的であった)。

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(最初に私を"世界のクワガタムシ"への興味に誘ったアフリカの広くに分布するサバゲノコギリクワガタ。普通種故に評価する人が少ないが初心を覚えている人ほど此の虫を高評価する。広域分布し亜種名もいくつかあるが数十頭ずつ並べても地域変異程度で亜種としての形態特徴は無い)

 なかなか出会えないものに邂逅するには自身の"業"を良くしておかねばならない。