クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【論考】化石種昆虫は実質"未確定種"

 クワガタを始め昆虫類などの絶滅生物化石・琥珀は人類が地球上に出現するよりも遥か昔から地下深くに保存されてきた。其れ等が掘り返されて視認出来るようになっている。

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中生代白亜紀に生きたとあるクワガタの顎内歯)

 琥珀内のクワガタ群を当ブログで示したように"種分類・種同定はしない方針"については色々モヤモヤがあると考えられるが、此れは国際動物命名規約第四版で説明される所の未確定種との認識に相当する同定と考えてもらえれば結構かと考える。化石種の種学名なんて殆ど覚える気にならないのはそういう背景があって知らず知らずのうちに意識から外れる。

未確定種. species inquirenda (複 species inquirendae); 正体が疑わしく, さらに探求が必要な種.

(国際動物命名規約第四版より引用抜粋)

(この用語があるという事から命名規約は、論文内容の精度や真偽までは担保しておらず、学名の出版手続きを行うシンプルなツールとして論文と繋がりがあると読解できる。命名規約は"記載時の生物学"を尊重するようにも促しており、分類屋は生物学を理解しておくべきであるというように誘導される。また生物学側に問題があってもならないと暗に問題提議している)

 お解りの通り太古の生物資料は分かる事に限界が付き物で、状態がわるいとか分類や判別が出来ないなんていうのは日常茶飯事で、資料収集の難易度を考えれば贅沢を言えない。

 有史以前太古のクワガタムシをはじめとする琥珀や化石内の昆虫類に関しては生物種分類の方法論に則った種レベルの検証は殆ど出来ない。客観的な考察追究が殆ど不可能である。既知学名の上手く使えないものも含めて永久的に未確定種と扱われるのが最も社会に対して配慮のある科学的方針であろうかと考えられる。

 そもそも"非科学的で奇矯な記載を出版するな"という話でもあるが、ブッチャケたハナシ応用研究する人達は信用ならない学名や文献の情報を使わない。雑な論文を鵜呑みにして何か書いても大した成果を出せないなんて賢い人達は皆分かってるから(そもそも功を焦って記載文を書く人なんて実力が知れてる)。

 扨もまだまだ今は調査が難しい時代だと考えられるが、しかしてだから"残された白紙部分は膨大"というようにも解釈出来ると考えられる。

【追記】

 化石というものは不思議な感覚を齎してくれる。もう25年以上前、初めて欧州の諸博物館を回ったころの私は巨大な恐竜の全身骨格化石が目白押しで圧倒され通しだった。学術的な事も殆ど理解していなかったのに、その壮大な自然史の背景に比べれば人間の経験する事など、どれだけ少ないのだろうかと。

 初心者の頃はレプリカの前でも同じような事を感じたりして雑な感性だったが、それでも大自然の過去を理屈で理解しようとするとそれだけで自然史の存在、その壮大さに"圧倒"された。真贋を見極めようとしだすと"純粋な気持ち"を忘れてしまいそうにも度々なるが「人間がいなかった頃の生物化石」というだけで純粋な自然への興味を思い出させてくれる。

 一億年や四千万年前に生きていた太古のクワガタムシに畏れ慄く。自身の手の上に"在る"だけで途方も無い感覚に襲われる。無意識に様々な事を考えるようになりだしたりと、想像力を付けるキッカケにもなり裾野が広い。

 不思議なご縁が沢山あって様々なクワガタムシが手元に揃った。其れがここまで集まるのは何か神秘的な現象にすら見えてくる。赤字になっていないのもなかなか奇跡的だろう。

 協力してくれた友人達と古くから知見を残してきてくれた先人達、そして居るのならクワガタの神様に沢山のクワガタムシとの出会いを齎してくれてた事を感謝したい。

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クワガタムシ科甲虫入り天然琥珀群遠景。日本で世界のクワガタを興したパイオニアである故・稲原延夫氏が仰られたような「他の追随を許さないコレクション」も知らず知らずなし得たのではなかろうか。UVライトで照らすとミャンマー琥珀は比較的青っぽい蛍光を、バルト琥珀は比較的水色っぽい蛍光をする。通常の光照射でもミャンマー琥珀はバルト琥珀に比べて僅かに暗赤っぽさが地にある。とはいえ通常時の樹脂色は同産地でも個体ごとに違うのだが、蛍光色で分かりやすい判別が可能なのは樹脂の成分構成に"普通では見えない差"がある事を示唆している)