クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

†Cretaesalus ponomarenkoi Nikolajev,1993についての検証

Cretaesalus ponomarenkoi Nikolajev,1993

Type data: Cretaceous Turonian pond mudstone in Kazakhstan (44.4° N, 67.3° E: paleocoordinates 39.8° N, 60.5° E), Kzyl-Zhar Locality (PIN collection 2383).

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=303542

 産地はカザフスタンのKzyl-Zhar Locality。約9000万年前の中生代白亜紀チューロニアンの地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210925220030j:image
f:id:iVene:20210925220028j:image

(「G. V. Nikolajev. 2007. Mezozoyskiy Etap Evolyutsii Plastinchatousykh (Insecta: Coleoptera: Scarabaeoidea) 1-222」より引用した図)

 見れば分かるが破損が大きく、肝心の触角や爪間板が見えないので、クワガタムシ科に分類されているのにクワガタムシ科ではない可能性を考えだすと止まらない。この腹節板の見た目だけの判断なら別の科の可能性としてコブスジコガネ科(Trogidae)等いくらでもありうる。

 以上の事から、この分類は部位部分的な見た目の偶然の一致(coincidence)を勘違いした結果と思える。

【References】

G. V. Nikolajev. 1993. Nakhodka grebenchatousogo zhuka (Coleoptera, Lucanidae) v verkhnem Mele Kazakhstana. Selevinia 1:89-92

G. V. Nikolajev. 2007. Mezozoyskiy Etap Evolyutsii Plastinchatousykh (Insecta: Coleoptera: Scarabaeoidea) 1-222

【追記】

 この分類群の原記載論文への批評は上記でやったのでともかく、引用をする幾つかの文献(「荒谷, 2004. 月刊むし」,「荒谷, 2004. KUWATA」)についても苦言を言いたいのだが、「腹板が5枚であることなどや、腹板の特徴が現在のマダラクワガタの仲間のそれと良く一致している」だけで、何故クワガタムシ科だと断定するようなキャプションを付けるのか。マダラクワガタ系統に似た体型でも、触覚と爪間板の見えない化石では絶対にクワガタムシ科と特定出来ないと1992年の報文(Tabana, M., Okuda, N., 1992)から理解できる。この程度の一致率で破損大な昆虫化石(推定絶滅種)ならば、近縁別科の可能性が幾らでもありうる。私が初心者だった頃は1992年の報文を知らずに、2004年2記事の記述を鵜呑みしてしまったお陰で相当赤っ恥をかいた。昆虫と自然 9月号 (ニュー・サイエンス社、発売日2007年08月20日)にも記事があるみたいだがお察し。無意に踏襲された記事には気をつけなければならない。今となっては騙されないよう気をつける事が出来るようになったが、KUWATAの方の記事は他に記述されている情報も何処から出てきた話なのか分からない話がチラホラある(記述中の"Paeognathus"ってPaleognathusの事かな?でも「Paeognathusなどの絶滅属に混じってミヤマクワガタ属や、やルリクワガタ属、ツヤハダクワガタ属など、現生と属まで同じと同定される化石が見つかっている」とは何処の文献に書いてあるのか?)。

 僅か一部の特徴で絶滅生物について、まるで現生種かのように詳しく議論することは無理難題である。アノマロカリスの例を戒めとされたい。

http://kmktwo.blog95.fc2.com/blog-entry-45.html

【References 2】

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

荒谷邦雄, 「クワガタムシを学ぼう」クワガタムシの系統と進化(2) クワガタムシの化石., KUWATA, (20): 114-115, 2004.01.

荒谷邦雄, マダラクワガタの魅力., 月刊むし, (402) :18-25, 2004.01.

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,