クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

†Electraesalopsis beuteli Bai, Zhang & Qiu 2017についての検証

Electraesalopsis beuteli Bai, Zhang, & Qiu 2017

Type data: Hukawng Valley of Myanmar, Noije Bum, near Tanai Village (26°21′33.41″N, 96°43′11.88″E).

https://www.researchgate.net/publication/318588724_Electraesalopsis_beuteli_gen_sp_nov_the_first_lucanid_beetle_from_the_Cretaceous_Burmese_amber_Coleoptera_Scarabaeoidea

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=357848

 産地はミャンマー・カチン州のフーコンバレー。約1億年前の中生代後期白亜紀セノマニアン前期の地層から出土した琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210925230118j:image

(「Qiu T., Lu Y., Zhang W., Wang S., Yang Y. & Bai M. 2017 Electraesalopsis beuteli gen. & sp. nov., the first lucanid beetle from the Cretaceous Burmese amber Zoological Systematics 42(3):390-394」より引用した図)

 ミャンマー琥珀から2017年7月にクワガタムシ科として記載された分類群。

 しかし、この記載文では触角の状況が分かりにくい。もう少し鮮明な画像が必要と考える。スケッチでは左側の触角(背面からでは右側)が腹面図で描写されているが、ラメラはクワガタムシ科らしからぬとも解釈出来る描写がなされている。画像の腹面図では右側の触角(背面からでは左側)の方が良く見えそう。。このようにボヤけていると読者にはクワガタムシ科か否かも判然としない。追加レポートなり望まれる。

 また、Protonicagus taniとの関係性は別種なのか種内の形態変異なのか判然としない。おそらく新種記載が競争されてしまったため、研究者ら同士で情報交換がなされずに出版になったのだろうと考えられる。後行論文の参考文献にも先行論文は挙げられていない。

 Protonicagus taniとの外形は現生種に照らして考えると差異が大きいが、流石に白亜紀の生物。現生生物と比べて進化の発展途上な生物とあっては種内変異が幅広い同種であったという可能性を否定しきれない。つまりシノニムになる可能性を否定出来ない。そもそも雌雄差かもしれない。外形差異と交尾器形態差異の相関さえ分かればなんとか解決への出口が見えるのだろうが、それには交尾器が完全に露出した最高品質のクワガタ入り琥珀を沢山ズラリと集めて比較しないと達成されないという絶望的稀有な条件を前提とした検証が最低限必要な条件になる。

 なお10年以上前からミャンマー琥珀を取扱う大手琥珀商に聞いたところ、恐らくクワガタムシ科との同定で大丈夫そうな虫が入った琥珀の産出量は20〜30片程度という話である。ミャンマー琥珀ブームで流通した琥珀量を考えると20〜30片は希少過ぎて分類学には縁が無いのかもしれないという見通し。

【Reference】

Qiu T., Lu Y., Zhang W., Wang S., Yang Y. & Bai M. 2017 Electraesalopsis beuteli gen. & sp. nov., the first lucanid beetle from the Cretaceous Burmese amber Zoological Systematics 42(3):390-394

【追記】

 惜しい状態の化石は、科階級の同定については保留と出来る場合も有る。琥珀ならば、気をつけて研磨すれば、またより良い顕微鏡を使用すれば細部形態を更に明瞭に観察可能かもしれない。

 ただし、同じ産地(時代)からの同じ科(今回ならクワガタムシ科)の甲虫化石が既知種で存在する場合は、別形態と言えど其の既知種とは同種か別種か不明の「新型という解釈」が限界と考えられる(属概念はグルーピングなので深くは考えなくて良い)。なので、同科既知種がいるのに「新種だ!」と言われても根拠不十分なせいでモヤモヤして胡散臭い。

 この場合、新種記載とはいかなくとも型の報文で十分、と言うか寧ろより良いエフォートがあり面白い。

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