クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【第拾貳欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が堅忍不抜の意気込みで入手した12個体目のクワガタムシ科入り琥珀触角(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

f:id:iVene:20211031144549j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ。本体は少し異物が付着している。左側触角が明瞭に露出していて観察しやすい)

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(右触角は収納されている様子が腹面から僅かに見えるが"全然に明瞭ではない事"が分かる。こちら側の触覚はどう頑張っても節々がボヤけて同定に使えない。私はこういう様態に対して"見えない"*"見づらい"と文句を付ける。本来ならば見せる意味の無い画像だが、知見として示された事もあまり無さそうだから図示する。見やすい光景と見づらい光景の差が分かると考える)

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 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang, 2017に酷似しているが前胸側縁では其れほどギザギザにならない。なお雌雄差なのか種内個体差なのか判別が不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

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(肩部は現生のマグソクワガタ属ほど突出せずにまるみを帯びる)

 同琥珀内には1.5mm程度のキノコバエ(Sciaridae)?が同封される。

 クワガタムシ科でも最も原始的と考えられるマグソクワガタやマダラクワガタの種群を見るに近縁別科との分岐がどうだったのか色々考えさせられる。

 日本のマグソクワガタは文献にはあまり記述されない面白い生態がある。ある地域ではオスばかり観察されメスが見つかりにくいが、別のある地域ではそんなに雌雄の個体観察数に偏りは無い。特に別種や別亜種という差異も無い。これがどういう事なのかは未解明だが、環境因子と遺伝子的要因の関わりによりメスの産出量が少ないのか、はたまた環境によりメスの活動エリアとオスの活動エリアに共通する部位としない部位があるのかなど、色々な仮説を考えられる。自然界から分かる事は様々あるが混沌とした中から分かる真だから、そう簡単には理解させてくれない。

 過去に絶滅した多くの古生物種は大量絶滅の期に大規模な環境改変が原因となり其の前後で生態系の変化が各々の種群に生存を許すか否かを決したと考えられる。例として白亜紀に恐竜を絶滅させた隕石の衝突後は蝶類が爆発的に種分化と進化を行ったが其れ以前は代置的に別科のカゲロウ類昆虫が繁栄している。

 現時点では詳しい事は不明だが同じような事が三畳紀からジュラ紀に変わる節、ジュラ紀から白亜紀に変わる節等にもクワガタでも起こったと考える。温度変化などは遺伝子改変に覿面の効果がある。環境が著しく変換して生物大量絶滅が起こる度に、別属、別種、種内変異レベルでしか違わなかった各系統が突然踵を返したように特定の系統のみで特定の方向に向かって形態進化を始めていたと考えると、クワガタムシが科として系統化した事も納得がいきやすくなる。実際どうだったのか未だ分からないが、少なくともミャンマー琥珀からは既に殆ど全亜科の形態がクワガタムシで見られている。

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ此の琥珀は私にとって"確実に白亜紀クワガタムシ科が入る琥珀"と言える標本の収集として最後に入手した個体である。左触角が外側に出ていて観察しやすいという意味でも質の良い標本。

 琥珀商から送られる琥珀が手元に届くと先ず琥珀を取り出し顕微鏡で真偽判定と同定の過程を行う。大抵は粗キズがあるので再研磨して透明度を上げて中身の観察をよりしやすくする。とはいえ虫の周りに異物が付いていて見えない部位がある事も多々ある。

 大抵の場合に出品時画像では爪間板などの細部が見えない。出品者に撮影をやり直してもらってもやはり見えない。彼らは爪間板を見ようとしない程度に観察に対する意識が低いし、彼らの使っている顕微鏡やカメラのスペックが其処まで高くないからどうしようも無い。

 "見えるor見えない問題"は言わば"結果こそ全て"の科学的評価に直結する。"同定が出来なくても面白い"という視点もあるが、見たい部分が見えていた方が其れは良い。様々な背景を知る目的にしても我々人間は"視覚的認知"を最も活用するからである。科学というのはノンフィクションSFドラマの集合体でもあるから科学好きにとっては拘らない理由が無い。

 私自身、琥珀の実物を顕微鏡で覗きながら「これ以上見えないのか」と悶絶する事もある。触角の節々や爪間板はライティングを工夫しつつ観察するが、ある1点方向の角度でしか見えない事が多いから苦労する。「視える」「見える」「観える」は全て重要である。

 同定や真偽判定を追究する理由は「標本が自身だけでなく他の人達に対しても、どれくらい役立ち得るか否かを見定める為」でもある。つまり再現性の確認。曲がりなりにも論文上で予断は許されない。少し其れらしい事を書くとしても"仮説の段階"と注記が要される。実態検証が無いと議論にならない。

https://twitter.com/yukin_done/status/1513667256466948096?s=21&t=Y2NlnKxh1BCL2d36tZL5hA

 "人間の行い"が自然界の物理法則より偉くなる事は無い。人間は相対的にどうしても不器用だからである。「自然界より人間の方が偉い」という考え方をする人達は誤った考え方をしている。"優生思想"というのは知的生物の本能的行動に通ずるものであるからありとあらゆる場で見られる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4645bbf6a7850ea36ade5160978c6f46dbab1703

https://dot.asahi.com/sports/sp/2013021900012.html

http://www.y-history.net/appendix/wh0203-128.html

 私も言葉や文章だけで読者を納得させられるとは思わない。そのため必要な作業について様々な説明をする。再現性を保証する道筋とは何なのか賢い読者ならば容易に理解していると察する。観察不足での考察が単なる思い込みに過ぎず無意味になりやすいというのは私自身が嫌というほど体験してきている。

http://fanblogs.jp/rekishiii/archive/2/0

https://s.japanese.joins.com/JArticle/248700?sectcode=400&servcode=400

 こういう自戒の倫理観は古くからやっている人々の間では常識的だったが、近視眼的に金銭的な要素を重要視している人達は知らない人が多そうである。

f:id:iVene:20220116220641j:image(確実な天然琥珀という資料として念のため別途入手しておいた†Haidomyrmex属のジゴクアリ入りミャンマー琥珀。ジゴクアリ類は形態的に特化した頭部をしていて白亜紀に絶滅したとされる。カナダのカンパニアンや、フランスのセノマニアンの地層からも見つかっている事から古いグループと考えられる。天然琥珀で研磨切削以外の人為加工が間違いなく無い標本が必要だったから中身がそんなに見えていない安物で済ませたが顕微鏡下でも観察しづらい個体だった。やはり見やすい標本の方が良い)

 しかしとはいえなんとやらで白亜紀や始新世のクワガタが体毛や小突起列、体表の篆刻、また爪間板まで鮮明に見えた時の感動は言葉では言い表せない。保存状態に感動する。

 細部形態を撮影するために虫がハッキリ見えるほど琥珀の透明度が高いと嬉しいものの逆に撮影に苦労するとなかなかしんどい。しかしながら色々な工夫を考えてライティングなどを様々試すと見方によって琥珀内の虫は色んな表情を魅せる事が分かる。現生種の標本観察のような勝手には行かないが、虫入り琥珀の観察という感覚が全く新鮮で浪漫駆け巡る。まるで海底湖底に沈んだ船や文明の跡を見た時のような光景である。

【References 2】

Barden, P.; Grimaldi, D. 2012. "Rediscovery of the bizarre Cretaceous ant Haidomyrmex Dlussky (Hymenoptera: Formicidae), with two new species". American Museum Novitates. 3755 (3755): 1–16.

Dlussky, G. M. 1996. "Ants (Hymenoptera: Formicidae) from Burmese amber". Paleontological Journal. 30 (4): 449–454.

【雑記・前件否定*後件肯定*選言肯定の誤謬】

 記事を色々書いてきたが現在は記事投稿の間隔を空け数も減らした為か、やはり日毎のアクセス数は減少傾向にある(記事数を減らした割に読まれる回数は増えている)。しかし実際問題で反響の感じからして比較的厳しい論調にした記事群の方が明らかにアクセス数が多いという結果があり其れは私も予期していなかった。そんなところで今回は頻繁に見られる誤謬の話題。

 論理の正否を制定しているのは現象の実態である。証言単体では実態を保証しない。人間は文章を使うことに比較的卓越した生き物だが、生物の行動をわざわざ文章で正当化する事自体が既に選言肯定と言えてしまう。現実的な解答をすれば我々人類が地球上に存在しているのは"偶然"以外の何物でもない。我々は生存本能に生かされてはいるが論理的に生存したいならば生存する為の考え方を固めておかなくては意味が無い。

選言肯定(せんげんこうてい、英: Affirming a disjunct)

この誤謬は、論理和の一方が真であるとき両方が真である可能性もあるのに、もう一方が偽であると結論付けることから生じる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%B8%E8%A8%80%E8%82%AF%E5%AE%9A

 私が世界のあらゆる場所で採集する人達に投資するのは"クワガタムシ科甲虫の存在性を知りたい為"というのもあるが、他にやっている人が少ないからというのもある。密度が高いとトラブルも増えるし規制もされやすくなる。難しい活動は少数精鋭くらいで一番やりやすい。

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(「Mizunuma, T. 2000. Stag Beetles II, Lucanidae. Endless Collection Series, volume 5, Tokyo, 101 pp.」より引用抜粋。22年も前の図鑑にここまで鋭い記述があるのは脱帽だが"分類学"を理解している人だったから言えるという事である。当時は変異と特徴を考察するなどは当然の世の中で、怪しげな標本もそんなに無かったから今代に問題にされているような事には言及が無い。出版物の上では"最後の筆"にも実際成っていて重みのある記述である)

 標本商をやっている私の友人は未開拓エリアの調査を勢力的に行っていて支持を集めているが、別の業者らによるルート乗っ取りや妨害を受け追い回されて新地に繰り出していたという事情もある。ルート乗っ取りが違法という訳ではないが初期投資を全くせずに出来上がったルートを奪うだけという所業はビジネス倫理からすると非道というもの。しかしこの業界では頻繁に起こりうる。

https://www.jiji.com/amp/article?k=2021070900612&g=int

http://mylife.2chblog.jp/archives/44002421.html

 私の知る限り筋を通さずに商売をしている業者は沢山あったがSNSでは正義面しているから滑稽という観点もある。科学的論証は法廷の場ですら最も尊重されるうえ簡単にやれる事も多いのだが彼らにはされない事の方が多い。

(↓※閲覧注意)

https://twitter.com/terimakasih0001/status/1444244060407926789?s=21&t=s-ipWA4Ns5Ebc-NBfx4gdg

 "一般的に未知とされる事"が少なからずあるのは調べていれば自ずと知れてくる。しかし"科学的に調べる"という行動が無くては未知がある事すら全く知る事も無い。科学的知見のパズルのピースを埋める作業の難易度が高いというのは普遍的事実である。イメージしにくい読者がいれば当記事などの断片的図示がどういう図示であるか批判的に考えてみればなんとなく分かるかもしれない(当ブログでは個人的資料について全て意図的にinformalな図示をしている)。

 僅かな知見での誤った結論は前件否定の過程を踏みやすいから生じやすい。だから網羅的縦横無尽に調べて考えて出した結論とは往々にして異なる。自然界で有り得ない事を有り得るかのように言っている人達は"知ったかぶりが激しい"という事である。

前件否定(ぜんけんひてい、英: Denying the antecedent)

この形式の論証はたとえ前提が真であっても、結論を導く推論過程に瑕疵がある。「前件否定」という名称は、「前件」すなわち論証の前提部分(もし - ならば)を否定する形式であることに由来している。 「逆もまた真なり」という真理を建前にして逆と裏を意図的に混用することで相手の誤認を誘い、本来は偽である命題を真なるものと強引に主張する手法としてしばしば見受けられる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E4%BB%B6%E5%90%A6%E5%AE%9A

 おそらく"入手した個体資料群の全てから交尾器を取り出して(失われていれば其の事をラベルに書く)参照性のある標本にしている人間"は世界で私だけだが、作業を始めたのは確か2002〜2003年で、かなり時間がかかっている。観察不足や考察不足があっては自然現象を理解出来ない。

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(画像は1982年7月30日に屋久島の宮之浦林道で採集されたという日本国産ミヤマクワガタ♂個体の頭部。周辺の黒島などには居るが、一般的に屋久島にはミヤマクワガタが分布していないとされる。コレは私が分類屋の友人からお譲り頂いたもので、氏の友人でカミキリムシに専門を置くH氏が採集した2個体の内の1頭との事。もう1♂は比較的状態が良く中型の細っこい型をしていた。また2個体が得られたポイントは別な場所であった。屋久島にミヤマクワガタがいるのか。分類屋の友人によるとH氏は嘘を吐くような人間では無いと云われる。ふうむ、当時に誰かが別産地から屋久島に運んで脱走したとかが原因の偶産だったのだろうか。こういう場合は現地での再調査が必要になるものだが、長年沢山の人達が調べている屋久島でこの2個体しか見つかっていないというのは判断が難しい)

 私自身"未知の知"を考えるキッカケとして最も大きな衝撃を受けた最初は学校の教科書であったと回顧する。教科書という本は子供時分には絶対的であるかのように教育される。だが其れは権威主義的な思考でしかなく「実態は知らずとも教科書に書いてある事ならば信用出来る」等という後件肯定の誤謬であるとも解釈可能だった。

後件肯定(こうけんこうてい、英: Affirming the consequent)

この形式では前提が真であっても結論を導く推論の構造が正しくない。「後件肯定」の「後件」とは、大前提(条件文)の後半部分を指す。小前提は後件を肯定しているが、そこから大前提の前件を導くことはできない。

後件肯定は演繹としては間違った推論方法であるが、アブダクション(仮説形成)においては必須で使われる。この仮説の孕む可謬性は、仮説が静態的に固定的に示されるのではなく、遡及推論的に、試行錯誤的に、自己修正的に、動態的に示されるということで消失して行く。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E4%BB%B6%E8%82%AF%E5%AE%9A

 よく思い出してみれば高校からの教科書と其れ迄の教科書の情報的繋がりは非常に希薄であった覚えがある。"学校で付いていけなくなった人達"に色々聞いてみると「高校から付いていけなくなった」と話される人達が割合多かった。文章を覚え論理をボンヤリ理解するだけの作業しか無い義務教育課程からして、なんだか非日常的であった覚えもある。そんな状態で繋がりの無い課程に入れば当然のように落ちこぼれる事になる。塾で攻略法を買わなくては学歴を得られないように誘導される。

 奇しくも其の頃は「裏口入学」や「縁故採用」が問題視されている時代だった。陰謀論は好きでは無いが財力だけはある人達というのはいつの時代も変わらず"キナ臭い"。無能なまま成り上がった人達というのは傍から見ても分かるように大成出来る器では無く早晩化けの皮が剥がれる。

http://shikatanaku.blogspot.com/2009/12/cgcgring-of-gundam.html?m=1

 所謂「参考書」を読むにあたっても其れは想像の域を出ないから普通は"参考・手掛かりにする迄"に留めて読むが、其れを物理法則くらいに絶対的な事かのような論調にして話す模倣者らが結構多い。

 教科書を読んで面白みを感じるのは大抵の場合に社会に出てからなのだが、なぜ学生の頃はあんなに"つまらないもの"に見えていたのか、其れはひとえに「信用出来なかったから」「納得出来なかったから」「読解だけから出来るイメージが曖昧で教科書だけだと"教科書が何を言いたいのか"を理解する予備知識が不足していたから」等、個々の持つ人生経験からの要因に尽きると考えられる。覚える事だけ得意な人達は学業は好きでやるが、現実との勝負となるといきなり庶民と変わらなくなるのも似た理由である。

 しかも大学に入ると結構いきなり「教科書だからといって鵜呑みにしてはならない」とか「偉い人の言っている事が全てではない」などと教えこまされる。実際に著名人が出鱈目を大拡散する事は少なくない。正直普通の人達にはついていけなくて当然という気しかしない。

https://twitter.com/terimakasih0001/status/1519605625398865920?s=21&t=rwgkTLF2kOwO0l72RNfLYg

 しかしだからといって全く何も信用出来なくなるのは疲労感がとてつもない。"教科書や論文は全く信用ならない"というのも極論であるし、其れらを理解しないと論文が書けない。私自身が猜疑心に呑まれていた時代は学生時分から結構長かったが実体験による学びを得れば徐々に自然現象を信じる事が出来るようになった。そして信じる事が出来る自然現象は記憶に残りやすい。

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(「Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.」より引用抜粋。科学的成果物で1位の評価を狙うのは国家間の競争としては当然であり2位なんて殆ど評価されない。日本という国は歴史的にみても世界の科学を牽引してきた事が無い。日本人はノーベル賞を取っている人数が比較的多いが其れは日本語と日本文化が科学研究と非常に相性の良い言語と文明社会をしてきたからで、英語など他言語的の壁などが原因で科学的な誇り由来の理解を持つ日本人は滅多に居ないから支援者は少ない。アメリカ合衆国やヨーロッパ諸国は科学を牽引してきたプライドがあるから先端科学に対する一般的な理解がある。だから日本人は科学研究に対する関心が薄いし成果も比較的センチメンタルな雰囲気のものばかりなのである)

 昆虫の分類学だったとしても実物を大量に観て自然界で起こりえたドラマを理解し初めて考察のスタート地点に立てる。だから網羅的観察も陸すっぽしていない人達が偉そうな態度をしているのを見る度に「やっぱり"見栄張りが目的なだけ"なのか」と、お察しするわけなのである。

https://twitter.com/tioffoa1iny67ll/status/1342856433453342722?s=21&t=rwgkTLF2kOwO0l72RNfLYg

 今代は娯楽ジャンルも活発である故にfictionableな作品を嗜む人達も多い。近世 - 現代では学校に通うよりも早い段階でそういう表現物に影響を受ける子供達が殆どだろう事は自明的である。だから教科書がどれだけ厳選された情報の詰め合わせであったとしても現実と想像の区別が困難な人達で社会は溢れる。そうして簡単に詐欺師や詐欺師に丸め込まれるような大人になる。

https://twitter.com/ugp32/status/1524043234384752641?s=21&t=o6r7NizAVtQGd3edmlX65A

 酷いものの極めつけは教科書にある歴史の虚偽記載である(想像だけで一次ソースとは全く異なる説明に変更されている)。

https://twitter.com/yukin_done/status/1456114139865051142?s=21&t=P10G3XC1IF5FDJFgkudt0g

 こういう掲載を防げていない時点で教科書の設計がハリボテであるとの理解が極めて容易である。結局は文章媒体、書籍媒体、当ブログもそうだが2次元的情報媒体、また写本的媒体を含めて人間のやる事なす事は全て疑われる要素をはらんでいる。根源的調査や実物・実態調査以外は信じる事が難しく"覚える事"すらままならない。

https://twitter.com/shiomadoushi/status/1468326802120908800?s=21&t=o6r7NizAVtQGd3edmlX65A

 そんな中で生きてきた人達に対して、あまり良い使い方をされない言葉に"ゆとり教育世代"というのもあるが、私は彼らの知能をそんなに過小評価していない。むしろ歯抜けの不足だらけな知識だけで無理矢理社会で戦わされているから結構な根性持ちだと高く評価する方が多い。団塊の世代らへんの人達よりもfictionableな情報に悩み、加えて実体験での知得に乏しいから思想は狂いが生じやすい。更に学習量も明らかに多く中身は"散乱した情報の詰め込み的"である。根性は強く多少間抜けで小狡い生き方を余儀なくされているのが「ゆとり世代」とレッテルを貼られた犠牲者達だと私は評価している。

http://deepyellowpigment.myartsonline.com/yk02.html

 ゆとり教育を押し通した政治家らというのはやはりアチラ側であったため「また"彼ら"のお仲間か」と察してしまう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BA%E8%84%87%E7%A0%94

 "彼ら"は巧妙にミスリードを行う。"彼ら"のお仲間がやった迷惑極まりない過ちも頻繁に軽視される。

https://twitter.com/nhhidktbrkk/status/1524337574541619200?s=21&t=F7ZsHCAxkDWELJaP2OzYog

 某半匿名SNSで科学に模倣した明瞭な虚偽をバラまく著名学者らが大量にいるのも極めて簡単に分かるのだけど、やはり"彼ら"はアチラ側の政治家に近い。

https://twitter.com/cawaiikumasan/status/1524240316228059137?s=21&t=dj9hcwyBev2YnFvGAod_-A

 思考というか逆説的読解力に欠けた理系研究者というのも昔から沢山いる。論理の上では"説明が主たる目的"であるため前件否定は許さなれない筈だが、ルイセンコの擬似科学を盲信していた学者らが昔は一時代に沢山いたように人間という生物は不完全に塗れている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B3%E8%AB%96%E4%BA%89

 私や私の友人は某其SNSについて「自己顕示欲を満たす為の道具。科学的興味を集めるツールとして一度の投稿で140文字位しか書けないSNSを使用しているのは"デマ拡散のリスク"を防ぐ気が無い事を意味している。」と批判する。

https://twitter.com/amajaamajaaanal/status/1524186961887776768?s=21&t=dj9hcwyBev2YnFvGAod_-A

 たしかに自己採集に拘る虫屋が信仰する著名人の論文には盲信的だったり、査読の有無に拘る連中がSNSにはクサイ事を書いたりしている光景なんて噴飯物でしかない。一貫性の無い主張は自己顕示が目的でしかない。即ち"彼ら"はアレな人達と分かってしまうのである。

https://togetter.com/li/1687318

 昔から我々が戦っているのは"分かりにくい虚構"であって"小中学生でも簡単に突っ込めるようなデマ"では無い。デマで世を乱す権威主義者らのヤル気の無い態度は"権威主義だから"必然的に生じている。

https://twitter.com/terimakasih0001/status/1525290550047350784?s=21&t=1gZScBfEq7unj-bLxeYyuQ

 さて、とはいえ私にとっての戦いはもう別の世界にシフトしている。進むべき道は誰も知らない先に。

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(コロンビアのHorridocalia delislei Endrödi, 1974:ヨロイカブトムシ♂53mm。これはカブトムシの中でも滅多に観る事が叶わない希少種で実際に10頭くらいしか見つかってないらしい。画像のボロ個体は其のコンデションから死骸拾いで採集されたと推察される。年間に0〜2頭の観察数で個体によってはライトに寄ってくるとか死骸拾い等がある。ホロタイプ1頭で記載された理由など以前の記事に分類の話を少し記してあるhttps://ivene.hatenablog.com/entry/2021/12/18/085426。またGenus Lycomedes Brême, 1844に近しい形態をしているから其方の属に入れるべき種なのかもしれない。日本国内だと故・永井信二氏もボロ個体を所有していたが愛媛大学に搬入する際に見なかったらしく例の事件で消失した可能性が高いと聞く。原記載論文はドイツ語だが当分類群に対して「醜い」だの「化け物」だのと破天荒な感想が記述される。記載者は特化したカブトムシの新種発見を喜んだような記述もあったが、なかなか奇抜で激しい感想である。まぁ何と言うべきか、最近の胡散草い"多様性"の枠外にある多様性を見た気分である)

【References 3】

Mizunuma, T. 2000. Stag Beetles II, Lucanidae. Endless Collection Series, volume 5, Tokyo, 101 pp.

Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.

Motschulsky, V. 1861. Insectes du Japon. Coléoptères. Etudes Entomologiques. Helsingfors 10:3-19.

Brême, F.M. De. 1844. Insectes Coléoptères nouveaux ou peu connus. Annales de la Société Entomologique de France. Paris (2)2:287-313.

Endrödi, S. 1974. Horridocalia delislei gen.nov.sp.nov. Folia Entomologica Hungarica, Budapest 27(1):49-52.

【近況】

 ミャンマー琥珀から"私の所有外にある間違いなくクワガタムシ科甲虫入り琥珀"が1点新たに見つかったという報を受けた。当記事で述べたように私の手持ちにあるミャンマー産クワガタ琥珀は11個だから、合わせて21個の白亜紀クワガタムシ科甲虫入り琥珀が見つかった事になる。いずれお目見えするか否か不明だが10mmあたりの変わったクワガタであるとだけ記す。

 ブログ活動を始めるまでは暫く新規情報が来ないでいたが今は面白い情報が入ってくる。当ブログの記事は基本的に日本語だが割とワールドワイドに参照されているらしく、同定が悩ましかったストック琥珀から識別出来る個体が増えたようである。

†Litholamprima qizhihaoi Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022についての検証

Litholamprima qizhihaoi Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022

Holotype, NIGP 01D and NIGP 01V, from Liaoning, Lingyuan City, Dawangzhangzi Township, Mazhangzi, Liangyangpo, 41°09′38′′N, 119°17′08′′E.

Paratype, FAFS 02D and FAFS 02V, from Liaoning, Lingyuan City, near Dawangzhangzi Township, 41°08′10′′N, 119°14′36′′E.

 産地は中国北東部のYi-xian Formation。約1億2200万年前の中生代前期白亜紀アプチアンの地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明の為に図を引用する。

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(「Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.」より引用図。スケールバーは5mm

 ホロタイプとパラタイプの2化石で記載され、体長は23.9–24.8 mmとされていて白亜紀の甲虫としてはかなり大きい。記載文では♂個体群と断定されるが交尾器の検証は無い。また同属と予想される2化石を♀個体群として図示されている。既知種Litholamprima longimana Nikolajev & Ren, 2015とは大顎など諸外形差異と産出した地層の年代の差から別種とされた。しかしタイプ標本の計3個体の関係性が明瞭にされている訳では無い。

https://ivene.hatenablog.com/entry/2021/10/16/010354

 触角は10節と記述され、片状節は比較的明瞭に見える。Yi-xian Formationからの化石では保存状態が良い方と言える。しかし体型はクワガタムシ科らしくない。腹節板はあまり明瞭ではないが6節あるようにも見える。あと腹節先端に尖る様子があるのは何なのか。頭部前縁の飛び出したような形もなんだか難しい。雰囲気的にはFamily Geotrupidae Latreille, 1802:センチコガネ科的である。

https://alchetron.com/Geotrupidae#geotrupidae-1991da0a-c2fc-4c2f-b554-2826e4682f5-resize-750.jpg

 記載文ではドイツ・メッセルから記載された始新世の化石種Protognathinus spielbergi Chalumeau et Brochier, 2001に似ているとされ、なおキンイロクワガタ亜科などと比較される。ちなみに私はP. spielbergiもセンチコガネ科に近いと考えている。

https://ivene.hatenablog.com/entry/2021/10/16/132331

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(「Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.」より引用図。スケールバーはB,D,Gで2mm、A,Cで1mm、E,Fで0.5mm。※右下図は当ブログにてガイドラインを付記

 ホロタイプ標本の背面化石の触角は割と明瞭に図示がある。しかしやはり触角第一節が現生種に比べて短か過ぎる。というか此の画像に見える触角第一節〜第三節あたりは圧迫により潰れているように見える。またラメラは見かけ上は平たいが岩石化石だから圧迫されていて、生存時は球状形態だった可能性が予想されるほどこじんまりとしている。図を拡大してみると触角第一節:a1と第二節とされる節:a2の間に鞠状形態の節がうっすら引っこんだ状態で存在しているように見えるのだが、これはどうなんだろうか。著者らは数え損っていないだろうか。11節構成の触角ならばクワガタムシ科では無い。まぁ気のせいだったとしても、触角第一節のこの短かさはいただけない。加えて腹節板が不明瞭な点からRutelinae亜科のDidrepanephorina Ohaus, 1918である可能性もありうる。

https://zookeys.pensoft.net/article/75831/


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(「Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.」より引用図※右図は当ブログにてガイドラインを付記

 比較的変形の少ないパラタイプ個体の触角図では中間節が不明瞭で見づらいが、やはり11節に見える。ホロタイプ標本の個体よりも第二節の露出量が多い。

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(「Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.」より引用図。スケールバーはC-Fで2mm、A,Bで1mm。※下図2枚は当ブログにてガイドラインを付記

 このホロタイプ標本の腹面化石画像からでも触角第一節から小さく第二節が出ているように見える。そもそもクワガタムシ科では触角第二節と第三節以降の節々で形態を異する例が普通で其れは近縁別科でも似た風になる。だから当分類群の著者らがするような解釈の触角形態は違和感がある(スケッチで見られる)。またこのFigure中のC図では爪間板が一応見えている。

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(「Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.」より引用図。スケールバーはA-Dで5mm

 同属♀個体群とされる化石は触角が殆ど見えない。

 加えてそもそもだが触角第一節がクワガタムシ科にしかないくらい細長い形態か、第二節から膝状に曲がる関節をしていないならば爪間板の他に腹節板が明瞭に見えていなくてはならない。

 以上、結論として今回の分類群はクワガタムシ科とは言いきれない。センチコガネ科的である。

【References】

Rixin Jiang, Chenyang Cai, Michael S. Engel, Boyan Li, Haitian Song, Xiangsheng Chen, 2022. Litholamprima qizhihaoi sp. nov., a new stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from the Lower Cretaceous Yixian Formation, China. Cretaceous Research.

Latreille, P.A. 1802. Histoire naturelle, générale et particuliere des crustacés et des insectes. Paris 3:1-467.

G. V. Nikolajev and D. Ren. 2015. A new fossil Lucanidae subfamily (Coleoptera) from the Mesozoic of China. Caucasian Entomological Bulletin 11:15-18

F. Chalumeau and B. Brochier. 2001. Une forme fossile nouvelle de Chiasognathinae: Protognathinus spielbergi (Coleoptera, Lucanidae). Lambillionea 101:593-595

Ohaus F. 1918. Scarabaeidae: Euchirinae, Phaenomerinae, Rutelinae. In: Schenkling S (Ed.) Coleopterorum catalogus. Pars 66. Dr. W. Junk, s’-Gravenhage, Berlin, 241 pp.

【追記】

 しっかりした論文ならここに書いてある事以外も読む価値があるけど、この論文もそうではないから意味が薄い。有料論文にしても結構高いのだからしっかりしてほしい。

【雑記・心構え】

 論文や書籍に表現を記すならば読者に疑問を持たせないように尽力するのが普通だと私は考えてきたが、そうでもない人達が多いように感じられる事が多々ある。

 クワガタムシ科甲虫は一般的に人気であり社会的認知度の高い分類群である事は確かだろうが、其れが仇となってか近似する別科甲虫は認知度が低い。だからボンヤリでもクワガタらしい形をしていればクワガタだと解釈同定してしまうパレイドリア現象が社会的必然に起こり化石種を考える上で難しい障壁である。

 科学的センスのある人達ならば、当記事の化石についてにしても触角第一節を見て普通は「クワガタじゃないかもしれない」と不安になり必死に調べる筈である。しかしそういう最後の重要な作業をする記載者らは殆ど滅多に居ないのだ。

 大抵の化石種を見ていても非科学的な論調が頻繁に引っかかり著者らの心構えを疑う事がお約束みたいになっている。図示は大きくしてほしいが毎度曖昧で、断定される各要素の記述理由を知りたくても平易明快には表現されていない。また著者らの氏名を見る度に記載文により異なっている事から彼らの就職活動や立場保身の為に論文が出ている可能性すら考えられる。即ち"カネ"の為に学術活動を模倣している人達と区別が付かない。

 発表の場等で少し立場のある人物に対して素朴なサイエンス上の質問を投げただけでめちゃくちゃに怒る人がいる。最初は其の態度に「何で怒るのか?」と驚くが、よくよく考えてみればそういう人間はセコい商売で生きているという事の裏返しの態度である事が分かる。そういう人間は想像以上に世の中にいる。

https://twitter.com/makkuro_ankoku/status/1521118338390261760?s=21&t=LNqlWhQn9NhL5doIr2-NhQ

 世の中"駄目な情報"というものの方が作られやすいから、人生生きていれば必ず悪い情報ばかりが入りやすくなってしまう。物量的に仕方が無い。良い情報だけ集めるという事は今代の社会では絶対的に不可能であるから、其れへの対策が必要な時代になっているという事である。ゴミが散乱すれば掃除するというように。

 私にとってすれば「クワガタなどの種記載論文」みたいな得意分野に瑕疵があると容易に問題点を一つ一つ潰せるが、どう考えてよいのか難しい対象に対しては判断の事前に調べなくては対処が出来ない。よく知らない事ほど"調べる方法"が重要になるが結局行き着く場所は最初から決まっているのが探究の道である。だから煙に巻いたような表現があると訝しくなお残念に思う訳である。

 論文が駄目、本も駄目、著名人さえ駄目となると何を信じれば良いのかと世間で議論すればいつものように「自然の理」という結論に行き着くが、やはりなんだか其れは寂しいという気分にもなる。信じられない人達なんて殆どの人達から必要とされないが彼らも足掻くから反動として人間不要論が社会通念の中で更に進行していく事になる。

 情報が回りやすいという状況がどういう影響を齎すのか、其れは私のような情報収集が趣味な程度の人達にとってはメリットがあるが社会的なデメリットは甚大であろう事は窺い知れる。難しい問題だが考えなくてはならない。

†Genus Anisoodontus Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022についての検証

Anisoodontus qizhihaoi Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022

Type data: mid-Cretaceous Burmese amber.

 産地はミャンマー・カチン州のフーコンバレー。約1億年前の"中生代白亜紀中期"(セノマニアン前期)の地層から出土した琥珀群を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022. The first representatives of Lucaninae from mid-Cretaceous Burmese amber based on two new species of Anisoodontus gen. nov. (Coleoptera: Scarabaeoidea: Lucanidae). Cretaceous Research. Volume 135.」より引用図)

 これは触角形態からクワガタムシ科甲虫で間違いない。虫の状態からして本物の白亜紀のクワガタとわかる。しかしラメラがよく見える画像が欲しい。おそらく通常時より中間節が90度捻じれてラメラが立っている。触角第一節が細長く第二節との関節で屈曲する様だけならばエンマムシ科にも似たのがいて紛らしい(エリトラ後縁形態と、触角節数もエンマムシ科では11~節で見分けられるが、触角先端数節は球桿状に合一していて数えづらい)。虫の左側の樹脂を削って側面を触角に近づけていけばラメラは横から見えそうである。また図示では爪間板も見辛いが一応見えている。とりあえず私にとっては初見だった琥珀個体。

https://roukanomushi.blog.fc2.com/blog-entry-886.html

 加えて「同産地同科既知化石種と分けられる」と断定される論調はやはり難しい。触角が膝状に曲がること、体が細長いこと、エリトラに縦溝があること、大顎が非対称であることなどで他の化石種と区別される。と記述説明されるが、遺伝学をやってみれば分かるように多型というのは種により様々な条件で現れる。現生のクワガタを見ても種内変異が多彩な種が多い事はわかる。白亜紀の記録に乏しい系統ともなると種内バリエーションが現生種に比べ更に多彩だった可能性は十分に考えられる。また"種"を示すならば生物的形態による生殖隔離を完全且つ明確に示されていなくてはならない。同産地の化石群において、現生では科階級とされている外部形態を持つ化石種が他化石生物種とどれくらい識別可能かという事くらいしか分からない(調べる化石種が生きていた当時の近縁別科との関係性が種変異内では無いか否かの見通しは必須)。また亜科レベルで分けられるか否かは交尾器の形でも判断され、今回の個体の場合だと触角形態の亜科内変異が多彩なキンイロクワガタ亜科との明瞭な区別点を検証されている訳では無い。そういう点から見ても"現生では亜科レベルの型の古生物化石記録を種記載レベルでやる必要性"はあまり無いように考えられる。さらに亜科の分類は沢山いる現生種では活用されやすいと考えるが化石種で其れをされてしまうと前述にもしたが「原始的ゆえに種内変異だった可能性」を考慮されていないと客観的に見て分かる。だから今回の論文は琥珀の記録としては興味深いが種記載に関してはあまり興が乗らない。あとスケールバーの尺がところどころ不安定に見える。

 ちなみにA. qizhihaoiのホロタイプ標本されるものは当ブログの第拾欠片のクワガタムシ科甲虫によく似る。

https://ivene.hatenablog.com/entry/2022/03/26/090736

Anisoodontus xiafangyuani Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022

Type data: mid-Cretaceous Burmese amber.

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(「Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022. The first representatives of Lucaninae from mid-Cretaceous Burmese amber based on two new species of Anisoodontus gen. nov. (Coleoptera: Scarabaeoidea: Lucanidae). Cretaceous Research. Volume 135.」より引用図)

 こちらの科同定は微妙。実はこの琥珀については別角度画像を今から5〜6年前に私も貰っている(たしか「触角が詳しく見えてないならクワガタムシ科とは言い切れない」とヒントを出してあげたと思うのだが)。記述では膝状に曲がると書いてある触角が図示では見えないから、記載者らが観察出来たのか読者には分からない。爪間板も見えていない。似た形になるクロツヤムシ科など別科甲虫の可能性を考慮されなくてはならない。

 クワガタムシ科か否か可能性を調べるには此の琥珀では難しそうに見える。今回の論文で図示のある2点は両方ともデブリが多く中身が見づらそうで、おそらくだがバックライトでかなり照らされた状態で観察されている。科階級同定に必要な各外形特徴が見える別琥珀の探索が要される。

https://www.flickr.com/photos/68961563@N02/26851960121

 今回の新属はチビクワガタ属に似ているとして設立されたようだがチビクワガタ類は触角の先端節内側がよく尖るからしっくりこない考察である。スケッチは粗描であるしどれくらい正確か比べるためにも写真画像の図示が欲しかったところ。

【Reference】

Long Wu, Hao Tang, Lingfei Peng, Huafeng Zhang, Haoran Tong, 2022. The first representatives of Lucaninae from mid-Cretaceous Burmese amber based on two new species of Anisoodontus gen. nov. (Coleoptera: Scarabaeoidea: Lucanidae). Cretaceous Research. Volume 135.

【追記】

 これで"私の所有外にある間違いのない白亜紀のクワガタ入りミャンマー琥珀"は9個となった。

 とはいえ本文中にも書いたが極めて貴重な資料を調べておきながら論文内容は正鵠を示せてはいない。「一貫性の無い提示」というのは単なる"自己顕示"であり最近のSNSで大流行である。再現性に乏しく実態の論理でも無い。"一貫性"は物理法則による現象が基点になり、"自然現象と合わない解釈"は一貫性が無いから信用ならない。人間の思想性は補足程度で考える(生物を分類しようという概念を人類が獲得したと分かるのはリンネよりも古く物々交換や文字も無い時代、祖を辿れば「生物の判別・識別をしやすくする」という方向で発達したのであって商売を目的に作られたものでは無い。動物と分かるような絵が描かれ、それをモチーフに文字が作られた歴史は世界的に知られる。初期の人類がやろうとした事が衣食住なのは考えなくても大体想像がつくが、生物分類は他の動物が植物や動物を選り好みして食すように生活上最も影響がありそうな"食"に関係していたと考えられるhttps://www.bbc.com/japanese/55661511.amp)。

 科学論文というのは読者が理解出来て初めて価値を得るから"主張の根拠論述を立証しようとする図示表現が命"になる。時代考証を考慮しなくてはならないが20世紀末には生物学的な知見が固まっているから21世紀になり四半世紀近く経つ今代に雑な記載は読めたものではない。いつの時代でもそうだが、だから時代に合わせて其の表現が帯びる嘘っぽさをなるべく削る努力を怠ってはならない。画像やなんだと言ったところで完全に信頼を得るまでにはならないがマトモな知見ならば自然界現象が再現性を担保をしてくれる。表現がマトモならば良い考察に繋がるが、駄目ならば次のステップに応用出来ない。重要な事を示す表現の所々抜けている論文が科学者に批判される理由はそういうところなのである。

https://twitter.com/terrakei07/status/1512703755925352449?s=21&t=yLl9Rri_88HCQ_acDMDWrw

 しかし"種記載"を断行されるのもそっちの方が研究資金を集めやすいとかそういう理由があるのだろうか?「型のレポート」とした方が科学的であったと考えられる。記載者らはどうやら中国の研究者らで、中国人の間では研究の競争が激しく粗雑な論文が出やすくなっているらしいから難しい。しかし観察量が圧倒的に不足している人達は考察もお座なりになるから何をやらせても粗が出る(現生種の虫業界にしても各々が全くと言っていいくらい連携を取れていないのは賢い読者なら簡単に察せる)。そういう訳で著者らにとってご都合主義的というか牽強付会な論文や報文が世に蔓延る訳である。

https://twitter.com/terrakei07/status/1512578228400971782?s=21&t=33CLnIlIKQ778gIpGv0DlA

 「世の中で起こった事」は「実際に起こった事以外には無い」のだから全ての科学考察は一つの解釈に帰趨する。見えるか見えないか等の実態的観測追究は考察の第一歩であり省略してはならない。

https://www.google.co.jp/amp/oookaworks.seesaa.net/article/448879592.html%3famp=1

 私が不正論文を毛嫌いしている理由は、ブラック企業と同根の精神性で嘘出鱈目な商売しようとしているのがまざまざと見えるから。彼らの上層部は組織的に犯罪を犯しておきながら正義面と被害者面を頑なに外そうとはせず、しかもチャンスが来るやいなやなんとも欲深く下心が丸見えの魂胆を沸々と滲み出す。ブラック企業の悪癖というのはよく見ておいて損は無い。其処には何の建設的議論も無い。

https://sunnyday31.xyz/tensyoku/burakuki.html?gclid=EAIaIQobChMIqN3PtOOK9wIVEZ_CCh1sXw5uEAAYASAAEgIt9fD_BwE

 ブラック企業に入った事がある人によっては分かるかもしれないが入社前と後で対応が豹変する場合が多い。"法令に従い厳しくする方針"なら問題無いが"法令をご都合主義的に悪用し嘘で内外を騙すだけ"なのがブラック企業である。そりゃあ品質低下とダンピングが止まらない。彼らの活動は多くの人々を苦しめるものでしかないから決して許されることは無い。

https://twitter.com/mitugoro2/status/1513694694072786944?s=21&t=pxe5QgRv7RdHLeV32Wcnag

【雑記・収集品の行く末】

 収集をしたら最後は何処へ行くのか。一般的には博物館への寄贈の話を耳にする(個人にキープされる場合もあり散逸する事もある)。国内種のコレクションだと採集個体が多く無償で寄贈されるケースを時折見る。

 他方で日本の場合に有名なのは、やはり稲原延夫氏の世界のクワガタムシコレクションを買収し兵庫県博に収めた株式会社日本生命保険相互会社の逸話である。氏のコレクションは其の時代に一人で集められたものとは思えないほど凄まじく、いまなお再発見が為されない推定未記載種の標本資料が含まれる。あの資料集の収蔵に成功した兵庫県博は非常に運が良い。

 私は"転売"を好ましく思わないが、大コレクター達が"活動の引き際"に売譲されるのは相当の労力を考えれば「義のある事」と考える。大コレクター達の持つ資料集は物量が凄まじく、種数と個体数の充実度は其々に持ち味があり専門性を考えれば如何なる博物館の所蔵庫をも凌いでいる。しかし今代の社会では彼らのコレクションを買収しようとする人あるいは機関は現れない厳しい現状がある。これを正当評価しないというのは甚だ勿体無い事である。

 聞く限りではどう考えても実際の出費を大きく下回る額でも良いと言われる人もいるが買い手はなかなか現れない。こう大コレクター達の活動が報われないのは私自身もあまり納得がいかない。とりあえず解決のヒントになりそうな情報を集めてみる。

https://www.nich.go.jp/data/konyubunkazai/

(参考までに国宝クラスの文化財は桁違いの額で国が購入するケースがあるが一点一点検査される。鑑定出来るか否かが先ず大前提。また替えの効かない重要な"資料・資料群"である事も前提で買取される)

https://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/08100105/103.htm

(上記URLで文部科学省が明記しているように文化財を国が買い取るのは「転売対策」というのもある。たしかに転売屋から買っても割高になるだけ。私もネット転売専門の商売人からは何も買わない。やはり生息域に現地入りしている人物の方が良い資料を持っている)

 博物館によっては簡単に入手出来る"普通種"についてはあまり入れたくないというポジションにある場合も多い。もう所蔵庫に満杯あるからだ。

https://sogyotecho.jp/qa/estimationmatching-or-bid/

 識別にしても生物種分類学は生物学のなかでもとりわけ思考停止でも実績になってしまいやすい分野であり文献資料が参考になり難い。だから評価が難しいという事情にもなっている。残念ながら今代の世の中では安くてお手軽に儲かるネタばかりしか買われない。

https://twitter.com/hirosetakao/status/1516356975013027841?s=21&t=EmCC7el6WhJt3LzVgXpJEw

 日本は基礎研究に資金が来ないと嘆く人達がいる。だが「博物館に毎回行くの?」「科学にどれくらい興味があるの?」と言われたらなかなか博物館には行かないし現地調査・実態調査もしないビッグマウスな人達が殆どである。私の場合だと手元の資料で満足だから人生生きていても同じ博物館に行く事は多くても2〜3回くらいしか無い(一方で分類屋の友人宅には60回以上往復していて延べ400時間以上お世話になっている)。普通の一般人にとってしても口コミで好評を広めるほどハマるような展示物が博物館にあるかと考えるとあまり思い浮かばない。ネット上の自演くさいレビューよりも巷の世間話から聞く厳しい評価の方が参考になる。

https://twitter.com/terrakei07/status/1514191703988584452?s=21&t=0HrFjutKqDqp6WDWu1dbHw

 世の中の関心を得る能力に乏しいプレゼンを見るにつけ脱力感が凄い。今代だと其の傾向が強くてなお"他人の売名には厳しい目線を向けながら自らの売名には忙しい人達"が沢山いるが、昔の景気が良かった頃の虫業界を知っていると相対的に見て異様な光景である。

https://twitter.com/megane2480/status/1515481246062718978?s=21&t=wyKEy6dBuUPzq8GmbtoVkw

https://twitter.com/megane2480/status/1515482100039749641?s=21&t=0HrFjutKqDqp6WDWu1dbHw

 一般庶民まで各種生物への認識もあんまり通っていない。私の実体験だが外国産クワガタ死虫を現地から送ってもらった際に税関が其れをマルガタクワガタ属と間違えてワシントン条約どうこう言ってきた事が何回かあった(ベトナム産のネブトクワガタとか)。彼らの関心の度合いからすれば"よく知る気にもならない虫"など"輸入規制対象だったら告発して実績のチャンス"くらいの認識でしか無い。生体か死虫かの判別すらされていないし100年以上経過した個体群すら似た理由で税関に引っかかった事もある。法的に何も問題ない資料を規制されているものと勘違いされるのは迷惑な話であるが其れが今の現実である。

 人々が得る情報の品質が下がると人々が取る行動の質も下がる。良質な情報以外は要らないとなるし、粗悪な情報ばかりにもなるから悪循環が生じてしまう。

https://twitter.com/bluechip_makoto/status/1259298400798818304?s=21&t=AzGiDtnNXwBHsP1wHE7VvA

 しかし正確な認知をされるようになるとマルガタクワガタ属のように規制されやすくなるというのも確かである。コロフォンがまだ採集されていた時期でも論文上ではブラックマーケットが問題だと毎回のように記述されていた。売買の為、遊びの為、単なる収集癖の為という客観的側面が強くなると「低俗な理由で不要な殺生をされている」と解釈されて当然だから規制に大義が生じ役人の昇格ネタになりうる。欧州の研究者らはそんなに良い論文を出さないが「コレクターはコロフォンを見てヨダレを垂らすのだろう?当然規制しなくちゃね」という目線を持つ。そういうものなのだ。

 実際には公的機関もアマチュアのコレクターと同じく収められていない資料が不足し欲しているが様々な障壁があるという事である。これは個々で解決策を考えなければならない。収集をやるなら自己責任で。

【第拾壹欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が破釜沈船の覚悟で入手に成功した11個体目のクワガタムシ科入り琥珀の左右触角※背面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20211031152026j:image(見かけはGenus Paralissotes Holloway, 1996:ヒメコツノクワガタ属やGenus Colophon Gray 1832:マルガタクワガタ属に似た体長14mm程度のクワガタムシ。本体は殆ど変形が無いが代わりになのか樹脂のクラックが多い。またクワガタ個体には空気層が付着し一部の脚・触角が削られている。型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタ。Caenolethrus属にも少し似ているhttps://unsm-ento.unl.edu/Guide/Scarabaeoidea/Lucanidae/LUC/CAE/Caenolethrus.html

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。琥珀のクワガタは絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

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(体躯は殆ど変形が無く、虫の立体的な情報について極めて保存状態が良い。様々な虫入り琥珀を観ていれば虫の構造が保存状態を左右しているというより埋没時の樹液の粘性や水分濃度・浸透性に左右されているように見える。今回のクワガタに見るエリトラは歩行特化の現生種と殆ど変わらず、肩部周辺には後翅関節部収納の為の内部空間を確保する隆起があまり無い※飛翔行動を行う種のクワガタは此処でカミキリムシでも似た形になるように"ボコッ"と隆起する)

 此の琥珀のオファーで初見した時の私は流石に腰を抜かした。まさか白亜紀セノマニアンには歩行特化への体型に移行しているクワガタがいたなんて露ほども考えていなかった。複眼が比率的に大きく歩行特化のクワガタムシ亜科的な型は現生種にも殆ど見られない形態であったから感情的には"クワガタじゃない"と思いたかったが触角が完全にクワガタだった為疑いようが無かった。ミャンマー琥珀白亜紀アルビアン〜セノマニアンに固まった天然樹脂であるとの推定はCruickshank, R.D; Ko, Ko. 2003での報告や他知見等から信頼性が固い。エリトラ肩部周辺の三次元的な形から歩行特化のクワガタと分かる。これはこの時代のクワガタ既知種の変異の一つなのか、独立した未記載種の系統だったのか、約1億年も昔に絶滅されていると調べる術が無い。とりあえずマルガタクワガタ属(日本では属学名をそのまま発音するようにコロフォンと会話上よく呼ばれる)やヒメコツノクワガタ属に近い形態を持っている事は非常に興味深い。

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南アフリカテーブルマウンテン山頂にのみ分布するマルガタクワガタ属の1種Colophon izardi Barnard, 1929:イザルドマルガタクワガタ♀個体。マルガタクワガタ属は左右エリトラが会合部で融合し後翅は退化的である既知知見は有名。触角や顎など以外はセンチコガネ科甲虫みたいなシルエットをしている。最初に琥珀のクワガタを見た時は「コロフォンだ!」と目を見開き驚いた。琥珀中のクワガタは前胸背をはじめ体型がマルガタクワガタ属そっくりだったのである。とはいえ頭部先端が盛り出す感じはよく似ているがマルガタクワガタ属の方では触角第七節がよく肥大する点で琥珀中のクワガタと形を違える。また琥珀中のクワガタは複眼が大きい点でもマルガタクワガタ属と異なる)

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ニュージーランドに産するParalissotes planus (Broun, 1880):プラヌスヒメコツノクワガタも左右エリトラが会合部で融合し後翅は退化的である。加えて"眼角の張り出しが弱く複眼が大きい"型としては今回の琥珀に入るクワガタと唯一似る現生種である。だから逆にヒメコツノクワガタ属は白亜紀から殆ど型を変えていないとすら想起されうる。ニュージーランドのクワガタ群は小型種ばかりだが原始的なクワガタと比較する上で考察が捗る)

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ニュージーランド・チャタム島に棲息するGeodorcus capito (H.C.Deyrolle, 1873):カピトオオズコツノクワガタ。これも後翅は退化的で歩行特化のクワガタである。琥珀のクワガタはここまで大顎を発達させている訳では無いが内歯の形態や出方はよく似ている)

 アフリカ大陸と南アメリカ大陸が繋がっていた頃のアトランティカ大陸(西ゴンドワナ大陸)が約1億3千万年前にマダガスカルインド亜大陸・南極・オーストラリアを構成する東ゴンドワナ大陸から分離したという推定からすると確かにアフリカ南端でマルガタクワガタ属が特化している状況は其れより古い時代と思わせる。

 化石からの推定で、おそらくはゴンドワナ大陸の時点でクワガタムシ亜科としての形態的特徴をクワガタ科系統が獲得していて其れの最初がコツノクワガタやチビクワガタ、ヒメキンイロクワガタ、ルリクワガタの類でマグソクワガタ亜科からキンイロクワガタ亜科の変化を経てクワガタムシ亜科としての形態を獲得したと推測する。

 ニュージーランドのオオズコツノクワガタ類、ヒメコツノクワガタ類、またオーストラリアのコツノクワガタ類、オオコツノクワガタ類、更に南米のチリハネナシクワガタ属、ムネツノクワガタ類、サメハダクワガタ類は、それぞれ近しい形態をしているがアフリカ大陸は独立した時代が古く南米やオーストラリアと再結合・再分離を繰り返した痕跡が無い。ちなみにタスマニアのコツノクワガタ類と南アフリカのマルガタクワガタ属種は少し似た生態をしているみたいで日中の霧がかった涼しい気候で活動するという話。

https://m.youtube.com/watch?v=gQqQhZp4uG8

(上記プレートテクトニクス予想動画は私の見知るなかで最もしっくりくる推測に見えるが60〜40MYAにはインド亜大陸がユーラシアに繋がっていたと私は予想する。アフリカ大陸とユーラシアの間にあるヒビ割れやインド亜大陸がユーラシア南端を押し込んだ痕跡はチベットで明瞭に残り、スッポリ入るようなスペースが用意されていたというのは違和感がある。他の予想図では70〜60MYAあたりで中東付近の陸地がバラけるが、其れは恐竜絶滅の主因となった隕石衝突による破壊跡で推測しづらくなっているからと考えられる。実際に始新世のヨーロッパの一部エリアが現在より南側10°〜低緯度にあったとの説もあるhttps://en.wikipedia.org/wiki/Messel_pit

 インド亜大陸に乗ってユーラシア方面へ侵入したクワガタ群は既に赤道付近の高温下で爆発的な巨大化・形態変化を起こしていて古い形態のクワガタはマグソクワガタ類やイッカククワガタ属、ツヤハダクワガタ属、ルリクワガタ類くらいしか残っておらずインド亜大陸から南アフリカまで南下したとは考えにくい。

 南アメリカ大陸とアフリカ大陸が分離以後にノコギリクワガタ属等が大挙してインド亜大陸からアフリカに侵入しただろうがユーラシアとインド亜大陸が繋がるより前の時代は独立したアフリカ大陸には原始的な種群しか居なかったと考えられる。つまり、この琥珀の祖先個体はマルガタクワガタ属の祖先種に近縁な個体だった可能性がありえる上、1億3千万年前より古い時代に独立していた可能性が高い。

 最近の知見にある系統樹によれば80MYAあたりにマルガタクワガタ属とヒメキンイロクワガタ類が分化したという推測がなされているが其れは見つかっている琥珀群から否定されうる説となった。実際は白亜紀セノマニアン前期より古い。やはり僅かな遺伝子配列と資料として低品質な化石を用いて恰も網羅したような系統樹を作り出すのは無理がある。資料一つで瓦解する論文は書くべきでは無いだろうが、こと生物分類学に不明瞭な研究を系統樹や絵・偏った情報表記、冗長的な長文で"煙にまく手法"は大流行りな現状であり、そういうのを査読者等に見極めろというのは流石に厳しいから、最初から上手く表現されていなくては再現性を確認されない懸念を査読や編集部も注視しておいた方が良い(粗っぽい知見を擁護するならば「他の論文もアレなのばっかりだから流されちゃうよね」というコメントくらいしかない)。昆虫類の分類で直接的な"種の隔離の因果関係"を持つか否か分からない遺伝子配列の差異が、どう種分類に関わっているのか明確に示せている論文は無い。強弁する論文は全て乏しい根拠からの論調でありながら"其れで必要十分"という感じの断定的表現がなされてある事は読者をミスリーディングな理解へ促すという意味で倫理上根深い問題である。

https://hibikore-tanren.com/necessary-sufficient-condition/

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(オーストラリアの一部で局所分布するSafrina jugularis (Westwood 1863):ユグラリスツヤムナコブクワガタは一見では飛ばないクワガタに似るが実際ではよく飛翔する。一見では形態的に歩行特化に見えるから飛翔の生態は関西在住の"採集の神様"ことM氏を現地観察にて驚かせたという逸話がある。念のため後翅を出してみると其れは立派な翅をしている。同M氏は「エリトラ肩部あたりが"撫で型"になる種は後翅を退化させていて、肩部近辺に張り出しの有る種は後翅があるから飛翔出来る」との説を私に話してくれた。左右エリトラを開けて後翅の配置を観てみれば後翅関節部の収納スペースの影響でエリトラの肩部が張り出している事が分かる。ムナコブクワガタ類は現在2属に分けられておりオーストラリアのみに特産する。形態的要素からコツノクワガタ類とヒメキンイロクワガタ類が分かれた後辺りに分岐した系統であると考えられ、シワバネクワガタらしさも垣間見える)

 ウメダギアナクワガタの後翅もやや退化的で肩部付近の隆起は控えめ。

https://ivene.hatenablog.com/entry/2021/12/30/235901

 また同琥珀内には1mmに満たないハネカクシ科 (Staphylinidae)? 甲虫や10mm程度のツツシンクイムシ科(Lymexylidae)†Cretoquadratus sp.(?)の甲虫が同封される。

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【References】

Cruickshank, R.D; Ko, Ko. 2003. "Geology of an amber locality in the Hukawng Valley, Northern Myanmar". Journal of Asian Earth Sciences. 21 (5): 441–455.

Holloway, B.A. 1996. Two new genera of New Zealand stag beetles previously treated as Dorcus MacLeay and Lissotes Westwood (Coleoptera: Lucanidae). New Zealand journal of zoology 23(1): 61–66.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

Mizukami, T., and Kawai, S. 1997. Nature of the South Africa and ecological note on the genus Colophon Gray (Coleoptera, Lucanidae). Gekkan-Mushi 2(Suppl.), 1–80.

Gray, G.R. Griffith & Pidgeon. 1832. The animal kingdom arranged in conformity with its organization by the Baron Cuvier. Insecta. London 14(1):1-570.

Barnard, K.H. 1929. A study of the genus Colophon Gray. Transactions of the Royal Society of South Africa 18(3):163-182.

Broun, T. 1880: Manual of the New Zealand Coleoptera. Colonial Museum & Geological Survey Department. Wellington, James Hughes. xix+651 pp.

Parry, F.J.Sidney. 1873. "XII. Characters of seven nondescript Lucanoid Coleoptera, and remarks upon the genera Lissotes, Nigidius and Figulus". Transactions of the Royal Entomological Society of London. 21: 339.

Westwood, J. O. 1863. Descriptions of some new exotic species of Lucanidae. Transactions of the Entomological Society of London, Series 3, 1, 429 - 437, pl. 14.

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Grossi, P.C., and M.J. Paulsen. 2009. Generic limits in South American stag beetles: taxa currently misplaced in Sclerostomus Burmeister (Coleoptera: Lucanidae: Lucaninae: Sclerostomini). Zootaxa 2139: 23-42.

Kim SI, Farrell BD. 2015. Phylogeny of world stag beetles (Coleoptera: Lucanidae) reveals a Gondwanan origin of Darwin’s stag beetle. Molecular Phylogenetics and Evolution 86: 35–48.

Reid, C.A.M.; Beatson, M. 2016. Revision of the stag beetle genus Ryssonotus MacLeay (Coleoptera: Lucanidae), with descriptions of a new genus and three new species. Zootaxa, 4150(1): 1-39.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ白亜紀に人間が居た形跡は皆無であるから間違いなく自然界で創出されたクワガタムシ。人の手がついていない自然から学ぶ事は人間がアレコレする"作り話"よりもずっと多い。熱く延々と語れる自然は素晴らしい。知らない間に探究心に対するrequirement何なのかも分かってくる。

 かなりの貴重な資料だからオファーがあった事自体に色々言いたい事があったが出品者にも事情があるのだろうと察し、また別に渡るリスクもあったから"ここは観念して自前にしておくべきか"と考え入手を決意したもの。これも相当な額のオファーから入手した琥珀だった。クワガタにしては見慣れない形態だが触角がクワガタムシ亜科的形態を示していたのも入手理由の重要な一要素。しかし前回の琥珀に続いたものだから大出費が私に大打撃を及ぼした。

 しかし現地から届くと想定していたより色々削れている事が分かった。出品者は「少し脚が削れているから安くした」と言っていたが、確認した所では脚の何本かは豪快に削れ右側触角も削れていた。ミャンマーの現地では大量の琥珀欠片をトリミングマシンを使って大急ぎで研磨しているからそうなるんだろう。大抵の琥珀原石は石ころと見た目あんまり変わらず、削って研磨してからでないと中身が見えないので、どうしても対策が難しい(バルト琥珀の場合は海中で表面が削れているものもあるが)。まぁ殆ど変形の無い大型のクワガタ入りミャンマー琥珀は初めて見た個体でもあり、そういう意味では極上の資料。ギリギリまで削られているから見える部位も多いというのもあるし贅沢を言っても仕方ない。

 色々あるが此の琥珀のクワガタからは色々な事を想像させられる。なんとも変わった不思議なクワガタである。替えの効かない資料だから多少頑張って入手していて良かったとも考えられる。

 ちなみに一連の白亜紀のクワガタ観察から、参考になりうる図鑑として以下の書籍が挙げられる。オセアニアのクワガタ群は原始的形態をしている種が多い。クワガタ各種標本図は殆どの種で背面図しか無いが触角などは詳細まで見る事が出来る点で外形的概要を知る上で使用性がある。

http://kawamo.co.jp/roppon-ashi/sub516.html

【References 2】

Luca Bartolozzi, Michele Zilioli & Roger de Keyzer, 2017. The Stag Beetles of Australia, New Zealand, New Caledonia and Fiji.

George Hangay, Roger de Keyzer, 2017. A GUIDE TO STAG BEETLES OF AUSTRALIA.

【雑記・収集の動機と目的】

 殆ど誰しも虫界には趣味趣向の延長から入り趣味嗜好になっている訳だから動機がある。そして目標や目的がハッキリしていればドップリハマる。とりわけクワガタムシ成虫の見た目は相対的な感覚なのか不思議な話だが子供の頃の純粋無垢な感性に強く訴える魅力がある。私の場合も例に漏れず他の虫に比べてクワガタムシやカブトムシの仲間というのは見た目に本能的な親しみ(人や犬猫に対するものとは異なる)があってハマったという最初があった。だからいまなお狂ったように調べているのかもしれない。始めたのがもう四半世紀くらい前なのかと思うと文献にも残らない様々な歴史を思い返す。私が参入したか未だしていないかくらいの中途半端だった頃いまなお続く老舗標本商のとあるビルでカウンターにいた店員氏に対応していただいたのを覚えているが其の御仁は後年独立し業界で大活躍をしている大虫屋になっている。未知エリアの自然界を開拓し新種を次々発見するなど抜群のセンスを持たれる大採集家の一人でもあり、資料個体に付くデータの正確性について語ってもらうと其れは熱い。現地調査の重要性や難易度について多くの事をお教えいただいた。

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(画像は約四半世紀前に件の店舗で買った古い個体で其れ以後そのまま未だ姿勢を全く弄っていない※時が来ればやる。あの頃の業界には僅か数える程度のルートから齎される野外個体しか無く混乱する事も全くなかった。当時の店内はライトもLEDではなく少し暗い宛らバーのような雰囲気だった。飼育など全くされていなかった頃のカンターミヤマクワガタやヨーロッパミヤマクワガタ個体群が並んでいたのを思い出す。其の数年後に少々知識のついた私が再度遠出してまで見たかったウエストウッディオオシカクワガタは野外採集個体群が非常に少なかったらしく其の場で観る事は叶わなかった。後に大コレクターに見せていただくのだが昔はウエストウッディを観るなんて事自体大変で個体があっても秘蔵というのが当然の風潮であった。個人的知見だが時代の移り変わりを感じさせる)

 始めて以降、私の場合だと標本を集める動機は"①調べたいから"*"②なるべく借りたくないから"の2点に尽きる。最初は確かに"見栄え"に釣られたが其れだけだと簡単に飽きてしまう感覚から不安があったから調べる事を目的にしたというキッカケが図らずも長期化させたという話もある。私は自身の飽き性を自覚していたから理解出来ない対象にはすぐに絶対飽きる自信があった。とはいえ資料が自身にとって安ければ良いが昔はそんな話もなかなか無なかったし見た目だけで良いなら身分不相応な金額を支払ってまで無理をして実物を買わずに図鑑を眺めるだけで十分満足出来る(私がブラック企業勤めだった頃は「碌な投資も出来ない虫屋など業界にとっては邪魔なだけ」と自己批判し業界から撤退を考えすらするくらいだった)。また様々な事を理詰めに考えた方が明らかに飽きない。私の場合だと偶然近くに住んでおられた世界のクワガタムシ大コレクターである御仁のコレクションに相当感銘を受けて参入を堅くしたが勿論他の先輩大コレクター方からも影響を受けてきた。関西圏には1200種前後のクワガタムシ科甲虫を収集している人物が5人もいて全部のコレクションを合わせれば1500種近くなる見通しがある。また日本には有名なクワガタを扱う図鑑がいくつもあるが大コレクターのコレクションには掲載されていない標本が沢山ある。だから大コレクター達の殆どは分類学の発展に貢献され彼らも其の自負がある。虫談義的な議論をすると面白い昔話が沢山出てくる。更にとりわけ影響を受けたのが現在世界のクワガタムシ科甲虫1300種以上に亘り交尾器と外形を調べ相関を確かめクワガタムシ科分類の先駆的な研究をする大コレクターの御仁である。網羅的に調べる事によって新種発見する前段階作業の重要性や種概念を理解する事の分類学的面白さ・大切さを多岐に亘りお教えいただいた。

 今代は昔の私が思い描いていた期待に反し「虫と言えば値札が付く」と思われがちなのだが、とはいえ"標本というのは本来ならば自然界にて採集で得るべきものである"とは多くの虫屋が昔から伝統的に大切にされてきた考え方。実際にはどうしても不足する資料を金銭で買い取るという手法が後追いで発展してきた。自国産の虫は大抵の先人達が割と採集してきているし、そういうのにご執心な方々は沢山おられるので採集スキルに乏しい私が割って入っていく余地はあまり見えない。一方で外国の虫は調べきられていない事が沢山あったから"コレは裾野が広い"と見え私ものめり込んでいった訳である。

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(メキシコ・トゥクストラ産エレファスゾウカブト野外奇形♂個体。2〜3年前くらいだったか、ebayで350~400USDくらいの即決で出品されたのだが全然落札されず勿体無い気分もしたから私が落札した。実物を見てみれば「やっぱり面白い個体じゃないか」と感動があったから何で誰も買わなかったかは謎のままである。同産地で沢山見られる種の虫だが野生下で見られる明らか且つ美しい奇形というのは大体の場合"唯一無二の特別な型"である。自然界で起こる事の面白みも標本として残りうる)

 前述のように私の場合だと現地採集には滅多に赴かず「虫を好む」と言いつつ恥ずかしながらフィールドに出た回数は100回にも満たない(※通勤時や通学時の虫観察はカウントに含まない)。都市圏にある私の住居の近隣は昔ならば虫が沢山いたのだが、日本人の平均的な感覚よろしく虫嫌いな住民が多いので薬剤散布が定期的に行われ今は虫が少なく観察が難しい(殆ど二次的な人工林だから放置すると害虫だらけになってしまう対策が必要という事情はあるのだが)。遠出して採集したい種のクワガタムシなどもいるのだが、いかんせん社会の束縛が邪魔をして出かけにくい。

 そのため虫は殆ど"買って調べる"という活動が私の生活習慣の一部になってしまっているのだが都市圏だとどうしても虫を集めるのには販売を行う標本商などの業者をしている人達から買取る率が上がる。2時間かけてコクワガタの採集に行くよりも連絡一本で済んでしまうが外国特産種のクワガタを買った方が研究には効率が良くなってしまう。ある意味なんともあっけない有り難みを感じない世の中とも言えるが、ここで浮上するメリットとして採集に行かない分デスクワークの時間は取りやすいから標本を作ったり分類を調べたりするのには多少都合がつく。

https://twitter.com/yangcai2015/status/1508005545982464007?s=21&t=n0lMvbvlWKKBsXc_IF0hbw

(このURLで公開されている琥珀の別角度画像は5〜6年前に私も貰っている。絵的には美しい琥珀だが、触角や腹節板が同定に必要なレベルに鮮明には見えないため絶滅したフンチュウの仲間かもしれずクワガタムシ科甲虫とは特定しきれないから資料にするには弱点が多い)

 とはいえやはり採集には憧れがある。何故ならば虫の様々な観察、あるいは生物学的な考察をしていくと連絡一本では済まされないような悠久の時を経て進化してきた事が何度も確認出来るからである。外形は殆ど変わらないのに交尾器だけ安定して異なる隠蔽種の観察は此の分野の研究の裾野に展望を開かせる。加えて地域変異への理解は種や亜種の分類とは異なる遺伝的要素があると理解を促す。知れば知るほど必要な情報が分かってくる。観察をすればするほど物事の理解が深まり、外国の遠く熱帯雨林や森林奥地にいる諸希少種を現地で観察してみたくなる。一つ一つのステップを踏む意味は"其れ"なのだと分かってくる。だから私からすれば採集にスッと行ける人達が正直なところ羨ましいし、好きとは言え外国僻地から様々なリスクやコストを乗り越え成果を出してくる様には大きなリスペクトがある。

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(インド北東部〜チベットからミャンマー、タイに分布するFalcicornis groulti Planet, 1894:グラウトコクワガタは地域により3亜種に分けられている※Falcicornis属の学名は別学名の亜属に分類されがちだが安定しない事と特化的な外形から当ブログではPlanet. 1894の原記載および中華鍬甲IIIに従い独立属として扱う。しかし原亜種とミャンマー・ザガイン州亜種の見分け方は難しい。何故ならば原亜種の基準産地に近いアッサム地方の個体群が極めて希少であり、新しいものを含めても標本が微量しか無いからである。記載文で原亜種に比べザガイン州亜種はエリトラ会合部が比較的暗色になる等が説明されるが原亜種でも暗色になる個体も存在する。また他の比較説明も微妙過ぎる。グラウトコクワガタ原亜種の個体群は古い標本が多く色褪せた状態であるか否か判断をつけにくいから生体観察が望まれる。グラウトコクワガタの3分類群は交尾器の種間的差異は認められないから同種内の関係ではある※外形もだが交尾器にも地域変異がある可能性があるから似ていればいるほど沢山の個体で比較しなくてはならない。タイ亜種もなかなか分かりやすい外見をしている。しかしミャンマー産は難しく、原亜種の地域変異だとしたらシノニムになる。小型種なので顕微鏡を覗いて観察すると産地により前胸背中央部などの点刻の大きさに差異がある事が分かった。しかし此のくらいの差異しか無い上、私が顕微鏡で観た基産地付近の個体はたった3頭。この程度の差異ではまだまだ比較に必要な個体数が不足している感じがある。だから現状では分類上の確定的な結果を出すのを保留としている

 外国僻地の奥深くで"採集をする側"も分類を調べる時間がそんなに無いから、私のような"先駆的に調べる側"へリスペクトを示してくれる。そして大コレクターと呼ばれる人達も"投資"という形で業界に参加してきた。だからお互いの信頼関係が様々ある。業界の信頼性という聖域はSNSが発展するまでには相当保守をされてきたが、どうしても"競争"が其れにダメージを負わせてしまう。横槍を入れてくるならばせめて大言壮語に見合うだけの努力はやって欲しいが、あまり期待しても疲れさせるだけであるからあんまり急かしたり要求し過ぎてもよろしくない現実的問題もある。

https://dime.jp/genre/1218896/

https://twitter.com/terrakei07/status/1380156612711739392?s=21&t=1E2hTEFq0wnP54PT25oplA

 しかし此の買取り習慣が当然みたいになってきた今代はやはりなんだか寂しい。トレーディングカードの売買みたいなやり方はやはり大した労力の成果には見えずモヤモヤする。それに加えてデータの危ない個体を収集品にコンタミしてしまいやすくなる不安を増大させる。外国での採集事情など詳しく知らない人達はどういう事か想像しづらい人が多そうだが深く鬱蒼とした原生林で自国内では見られない生物種がいる事を想像するだけで浸れる感傷はなんとも言いがたいほどロマンがある。また純粋な自然はそこにあるのだという確信の度合いも高い。未知或いは記録の少ない希少種昆虫を見つけ出すまでの労力は実際に現場まで足を運び探した人物にしか分からないのだから外野は過少評価をしてはならない。そこに横から相場云々の話をされると一気に情熱が冷めてしまう(まぁオーストラリアか何処かで目的の虫を見つけた瞬間「〇〇〇万円だー!」と叫んだ採集家が40年くらい前に居たという話も聞いた事があるが)。私の場合は何の売り文句にも流行りにも惑わされず欲しい資料を集める活動になるべく終始していたい。だからあまり突っ込んで因果関係の希薄且つバイアスありきの予断で豪快に外されたような言を見かけると鼻に付く。

https://twitter.com/terrakei07/status/1510818720150528005?s=21&t=p_vLRkOyXHF-WxxIgOC_DA

 また他方でコントロールとして野外個体を一通り調べたり揃えずに飼育個体のみで考察するのは純粋な考察をしていないという前提があるが憚らずやる人達は多い(しかし「見れないものを見ろ」と言っても困らせるだけだからあまり責める事は出来ないのだが、考察に使われている死虫の姿勢や図示の様子を見れば簡単に出来る修正をしないプレゼン者達の主観的誤謬を察し鵜呑みにしてはいけない事を容易に察せる)。希少種の野外個体の観察が難しいのは世の中のしがらみというのもあり、そうホイホイと図示されない事の方が多いから、ただ断片的な情報を吸収しただけで気を大きくし誤った解釈を売り文句にする人達も多い。生物の学名を使用する上で記載文に不備が無いのか何も恐れない虫屋が沢山いるのは"やはり人間は人間"という事を思い出させる。そういう訳で自己相対化をしない人達の持つコレクションや資料は客観的に見れば不安を集めやすい。だから何をターゲットにして資料を集めれば良いのか、或いはどう考えれば良いのか人為依存的に見極めるのはバイアスだらけになる懸念を考慮せねばならずとても難しい。

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(インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州東部のみに分布するLucanus rondoi Okuda & Maeda, 2018:ロンドミヤマクワガタ。画像にあるような野外個体群は貴重な資料である。原産地エリアで発見されている個体数が少ない事から分かるように野生下ではなかなか得られない。初めて此のミヤマクワガタを見た時の感動は凄まじかった。「なんて綺麗な形をしているんだ!」と。特異的且つ線細く流れる流線形の大顎、控えめな内歯と其の個体変異、メアレーミヤマクワガタに近縁な系統でありながら種としての独立性も高く形態変化を遂げている。全体的に侘び寂びとし落ち着いた佇まいは自然界での永い時をかけて進化してきた事をわからしめる※私は侘び寂びとしたクワガタばかり好きだったりする。最近は飼育も流行り個体群をよく散見されるが、やはり野外個体とはなんだか雰囲気が違うような気分になる。自然界では高標高の特異的な環境を選んで生息しているミヤマクワガタ属の仲間は野外個体と飼育個体で型に偏りを違えやすい種が多い。だから飼育個体を元に色々な事を調べるにしても自然界本来の視覚的知見を得るには野外個体群資料が必須になる。飼育品をホロタイプにしてはならない理由のヒトツでもある)

 私の収集品は入手した時系列的に考えても全く問題無い標本ばかりと主観的には絶対的な自信があるようなものばかりだが、知らない人から客観的に見れば「其れは自信過剰だろう」と思われそうな不安がなくは無い。というのも単純に"人為的表現だけでは科学的知見を客観的に保証するだけの因果関係は無く信用されきれない"という現実的問題があるから自己批判的な姿勢と自問自答が欠かせない。昨今だと"印象操作だけで価値付けをしよう"とする人が少なからず増えているがフンワリとした印象だけでは"科学的資料としての信頼性"との因果関係が全く無いというのは少し自己相対化すれば見えてくる。如何なる界隈でもそうだが権威主義や党派性に陥ると観察・考察・論理性が"お座なり"になりやすい。虫の標本・コレクション・資料というのは自然界から切り取ってきた資料であるから資料信頼性の主体が自然界ではなく人としての所有者に移っている。つまり資料について自然界との直接的な繋がりがどの程度純粋な情報を持っているのか客観的には正確な判断をしづらい。"権威"は"論理性や真実"とは全く何の科学的因果関係も持たない。だから自己相対化を応用するとポツンとその場に虫があるだけでは客観的に何の考察の保証にもならない。しかし良い資料であれば確固たる再現性を自然界から得られる手掛かりにはなる。だから今の私は「間違いのない資料は自然界にこそある」と考えている訳である(放虫や移入の問題も考慮しなくてはならないが)。

【References 3】

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Huang Hao & Chen Chang Chin, 2017. Stag Beetles of China III. 524pp. Taiwan.

【第拾欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が不惜身命の覚悟で入手に成功した10個体目のクワガタムシ科入り琥珀の左右触角※右は背面・左は腹面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

f:id:iVene:20220314135542j:image(型として細部はマダガスカルのGenus Ganelius Benesh, 1955:ニセヒョウタンクワガタ属や南アフリカのGenus Oonotus Parry, 1864:コバンクワガタ属に似た細身の体長15mm程度のクワガタムシ、本体は樹脂の脱水収縮でヒビだらけ。型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタムシ。さまざまに変わっている。上図は左触角画像で当該琥珀内甲虫個体は間違いなくLucaninae:クワガタムシ亜科としての型を獲得していたと理解出来る形態と姿勢をしている)

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(右触角は第一節が潰れてヒビだらけなど大きく変形するがクワガタとしての特徴がかろうじて分かる。また関節孔の位置も部位により分かる。最初は私も此の見た目で判断したが保存状態に文句はあった。だから変形のあまり見られない左触角が見えた時は感動と安心があった)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。同琥珀には、3mm程度のウンカに似たヨコバイ亜目(Homoptera)?等が同封される。

 琥珀のクワガタは、絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 ミャンマー琥珀から出ているクワガタでは最大級。私の知る限りでは、ここまで触角関節部で膝状に屈曲した白亜紀のクワガタは他に無い。当標本の琥珀中甲虫は明らかにクワガタムシ亜科に近い形態を獲得している。しかも大顎や脚の一部形態が何やら変わっている不思議な形態のクワガタである。

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(大顎先端は切株状形態になる)

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(前脚ケイ節距刺も切株状形態)

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(中脚ケイ節距刺も切株状形態※此の脚はフセツが欠損し、反対側の脚部ケイ節距棘は撮影困難)

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(後脚ケイ節距刺も切株状形態。ケイ節側縁の棘列も変わった配置をしている。後脚は非常に保存状態が良く体毛もよく見える。ついでに爪間板もしっかり見える)

 後脚ケイ節の距刺のみ切株状形態になっているなど一部の脚だけなら現生種でも見た事がある形態だ全ての脚で此の形態をしているのは現生種では見た事が無い。

 また大顎外縁に突起がある。

 この化石からゴンドワナを思わせる最も繁栄したクワガタムシ亜科のグループはオセアニアのGenus Lissotes Westwood, 1855や南米にいるSclerostomus Burmeister, 1847をはじめとしたコツノクワガタ類・ムネツノクワガタ類各属、Oonotus属、Agnelius属に近縁な祖先と考えられる。

 マダガスカルは約1億3千万年前にアフリカから分離し約9000万年前にはインド亜大陸とも分離し独立したそうで、となるとAgnelius属は其の辺りの時代に分化独立したと推測できOonotus属は更に古い。

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南アフリカOonotus (Oonotus) adspersus (Boheman, 1857):コバンクワガタ♂個体13.2mm)

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南アメリカ大陸チリの一部に生息しているGenus Sclerostomulus Weinreich,1960 はOonotus属やGenus Xiphodontus Westwood, 1838:オニツツクワガタ属の一型のように前胸背の前方付近中央に特徴的な3突起がある。アフリカ大陸とアメリカ大陸が分離したのが1億年以上昔と言われている事から、この特徴が非常に古いものと予想されうる)

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マダガスカル島にのみ1属1種で分布が見つかっていて雌雄差があまり無い種Agnelius nageli (Kriesche, 1926)♀個体18.6mm〈左〉と、同島の雌雄差が分かりやすい種Ganelius sp.♂個体16.5mm〈右〉※Ganelius属は複数種が纏められた論文があるが交尾器の図示が小さ過ぎるしスケールバー無いし変異検証やっぱり無いしでモヤモヤしたままなので追補報告を期待したい。マダガスカルインド亜大陸と近かった事からこちらの方が件の琥珀の虫と近縁だった可能性もありうる)

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(南米ブラジルのとある地域に局所分布するSclerostomus truncatus Lüderwaldt, 1935:トルンカトゥスムネツノクワガタ。大顎の形態が複雑で、外縁突起は背面を向いているが祖先種では外側を向いていた名残りに見える。また顎裏には体毛が見られる)

 およそ1億年前には既に15mmサイズのクワガタムシ亜科形態を獲得していたという事から、近縁科のフンチュウなどよりは後かもしれないが、やはり三畳紀に別科と分かれたのでは?と予想する。3mm程度の甲虫がクワガタの始祖だろうとすると、15mmとなると5倍、大して被子植物が繁栄していない時代にここまでサイズを大きくするのはかなりの障壁があったと推察する。

 アフリカ大陸南端辺りで分布するOonotus属やは同様に南アフリカ地域で分布するXiphodontus endroedyi Bartolozzi, 2005:エンドロディオニツツクワガタ♀に同じく前胸背板前方に特徴的な3つの小さな凸状形態が見られる。そして其の特徴は南米チリに分布するSclerostomulus属でも同様に見られる。別系統で偶然それぞれが獲得したとは思えないくらいに似た形態特徴である。

https://pdfs.semanticscholar.org/ac00/151e7162387036711dcb70eae2265120db00.pdf

 およそ1億3千万年前には既にクワガタムシ亜科形態を獲得した個体が居たと考えれば、クワガタムシの始祖出現は更にずっと古い。

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【References】

Smith ABT 2006. A review of the family-group names for the superfamily Scarabaeoidea (Coleoptera) with corrections to nomenclature and a current classification. Coleopterists Society Monograph 5: 144–204.

Bartolozzi L. 2005. Description of two new stag beetle species from South Africa (Coleoptera: Lucanidae). African Ento- mology, 13(2): 347–352.

Bartolozzi, L., Perissinotto, R., & Clennell, L. 2019. Description of the female of Xiphodontus endroedyi Bartolozzi, 2005 (Coleoptera: Lucanidae). Fragmenta Entomologica, 51(2), 187–188.

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Benesh, B. 1955. Some further notes on the stagbeetles, with especial reference to Figulinae. Transactions of the American Entomological Society 81:59-76.

Parry, F.J.S. 1864. A catalogue of lucanoid Coleoptera; with illustrations and descriptions of various new and interesting species. Transactions of the Entomological Society of London (3)2:1-113.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

Westwood, J.O. 1838. Lucanidarum novarum exoticarum Descripcum Monographia Generum Nigidii et Figuli. The Entomological magazine 5:259-268.

Westwood, J.O. 1855. Descriptions of some new species of exotic Lucanidae. Transactions of the Royal Entomological Society of London, (N.S.) 3:197-221.

Burmeister, H.C.C. 1847. Handbuch der Entomologie. Coleoptera Lamellicornia, Xylophila et Pectinicornia. Enslin. Berlin 5:1-584.

Weinreich, E. 1960. Revision südamerikanischer Lucanidae (Ins. Col.), II. Senckenbergiana Biologica 41 (1/2), 41–95.

Lüderwaldt, H. 1935. Monographia dos lucanideos brasileiros. Revista do Museu Paulista, 19, 447–574.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。変形が多いが透明度が高く形態的にも様々に面白い。白亜紀の甲虫としては大型でミャンマー琥珀中の虫では触角形態も特異的である。

 触角はperfectにクワガタムシ科甲虫である事を示しており出品者にかなりの自信があったらしく飛び抜けて最高額の琥珀であった。同定が出来る天然琥珀標本は偉い。しかしそれでも最初は頭部背面に葉が乗っており背面から顎が見えない状態だった為、私自身で切削・研磨し見えるようにした。綺麗に切削・研磨する為には、最初に予め色々計画を考えておく。素晴らしい出来に仕上げられると最高の資料になるが、細かい切削は相当に繊細で難しい作業であるので致命的な破壊をしないように作業するのは慣れていない人にはお勧め出来ない。

 出品時の画像では樹脂の揮発収縮で変形した右側触角のみしか見えずだったが、入手後に色々工夫して観察してみると左側触角は殆ど変形せずに綺麗な形態を保っている事が分かって僥倖であった。希少性は最高クラスと言って申し分無い。

 しかしやはりあの値段はかなりキツかった。詳しい額はロマンにしておきたいから言わないでおくが庶民的な価格では全くなかった。大富豪が目利きならサッと売れただろう。。他に目利きの富豪琥珀バイヤーが居ないから私が買う羽目になったらしい。

【雑記】

 虫入り琥珀について調べるにしても生物学的知見を照らし合わす目的で現生の虫をよく調べる必要がある。標本資料や琥珀資料について一通り知識を頭に入れるには其れ形の労力が不可欠であると実際に観察・考察を続けていけば理解出来てくる。しかし資料を集めるのは資金も要るし当ブログで色々書いているように諸般の事情で難しい気分になる事が多い。

 私も最初は琥珀の知識に関して年季が浅く中身の虫の色が現生の時点とあまり変わっていないと思っていた。しかし自然界で体組織が樹脂により"固定"される形であったため色は本来の生物色から黒色化していると理解し今は其れを念頭に置いて虫入り琥珀を観察している。保存状態がいくらよくとも物性的に経年劣化は免れない。其の事をはじめ色々な事が分かったのも理科学的な資料が今代の時代に出揃っているからとも言える。

http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/2anat/cn9/cn12/cn20/pg277.html

 資料を集める際は誰しも「不安要素を払拭したい」と考えるのが至極当然普通の感覚である。しかし其れを簡単にやる方法は無く結局は悩み、頭痛のタネになる。統計データにしても数字のトリックで恣意的解釈がよく見られるが其れ等は再現性や応用性が殆ど無い論理構成で作られているから早晩バレる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%8D%E7%8F%BE%E6%80%A7

 だから生(なま)データ、つまり文字や数値化されたものではなく現物に近いデータでの比較資料があるというのはいずれの検証に於いても必要不可欠になってくる。この「生データ」という言葉について数値や文字の事と勘違いする人も多いが其れは間接的なデータであって、捏造されていないデータかどうか其れ等だけでは簡単には分からない。「対照群または対照区」としての"コントロール"の考え方を知らない一般人はまだまだモノ凄く多い。

https://www.weblio.jp/content/%E7%94%9F%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF

 何処においても禹行舜趨*慇懃無礼*阿諛追従*一言居士*外巧内嫉*口蜜腹剣*皮相浅薄*辺幅修飾*走馬看花な人達は存在しているが、其れ等も客観的に見てみれば標本資料的であるかもしれない。分かりにくい論文などは反面教師的資料として考察ネタになる。しかし最早論文とは"そういうものだ"というネガティブバイアスを一般庶民すら持って読む事が普通な時代になっていてきていてやるせない。

https://toyokeizai.net/articles/-/230832?page=2

 例えば研究不正があるが、其れが行われる原因は大きく3つある。1つは明らかな間違い。2つめは競争が激しく資金を得にくい人達の悪足掻き、そしてもうひとつは目立ちたいという功名心で研究不正そのものが最初から目的になっている人達による無謀な挑戦である。前者2つの方が割合美談にされやすいからか目立つが、実際のところでは後者である3つめも多い。方向性では良く似るが悪質さで後者が明らかに勝る。彼らの無謀さには"他人を見下している"か、"概要を知らずに細々とした知識で誤った考え方をしている"かの原因が考えられうる。だから何にしても研究不正をするなんて阿保以外の何者でも無い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%98%98%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E5%AD%90%E4%BE%9B

 実績がダメでもカネは欲しいという人達が満杯溢れていて競争も激しく情報の価値が薄れているこの世の中は悪循環の歯車がどんどんと組み上がっていっているように見える。悪循環の歯車は組み合いやすい。例えば"動的平衡"などという「定常状態」を曖昧にしたような造語があるが仰々しい言葉だからと言うだけで其れに感心する人達も沢山いて、なんと雰囲気に流される人の多い事かと唖然とする。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E5%B8%B8%E7%8A%B6%E6%85%8B

https://synodos.jp/opinion/science/1578/

 生物分類でも「詳しくは分からないけど雰囲気は其れっぽいからとりあえず論文を発表して他の人にネタを取られないようにしよう」とする人達は少なからずいる。種概念や生物学的な知識が半端な状態と自覚がありながら誤った現状認識で予断を論文にする事を自己中心的に"お手付き的"に発表する著者達である。間違いの無い新種でも似たような競合例があり戦略としては急ぐ意味は無くはないが、残念な人達は其れを"戦略さえよければ"と勘違いし体裁のみ真似て"単なる地域変異や種内変異程度の差異"で慌てて"別種"と記載するのである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E9%96%A2%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%A8%E5%9B%A0%E6%9E%9C%E9%96%A2%E4%BF%82

 学術活動が商業的に密接した人達が少なからずいるのは見ていれば分かるが、信用に関しては"カネの為"なのか"純粋な研究の為"なのか客観的に判断されにくくハンデを負いやすい。だからこそ信用を持って商業的に学術活動をする人達は信用問題についてシビアでなくてはならない。

https://en.wikipedia.org/wiki/Coincidence

 悪い著者らは予断の論文を方法論も全く度外視して強引に確かなものだと言い張る。科学界でこういう様態は「政治的過ぎる表現行動」と嗜められる。駄目な論文が増えると研究不正がどんどん増えてしまい、良い論文の存在感が無くなってしまうデメリットが甚大である。だから派閥的・商業的な論文ほど性根を疑って読まないと読者らは足を掬われる。

https://gimon-sukkiri.jp/mislead/

 例として最近、タイムリーに捏造論文の話がやってきたので話題に触れてみるが、なんと実験データの捏造、そして再現性実験をした別の人のデータもコソコソと地道に改竄していたという捏造に執念深さを感じる案件であった。犯行に及んだ元大学院生は初期から捏造に手を染めていたという調査結果から極めて計画的且つ悪質、そして54箇所もの捏造を携えながらNature誌に論文を堂々投稿し見事に査読を突破した上で掲載された事が全て赤裸々に分かった。

https://www.nagoya-u.ac.jp/info/20220316_jimu.html

 似たような捏造は堂々と商業誌や雑多な論文には載るからやはり一般人は頻繁に騙される。ニュースになった理由はNature誌というインパクトファクターの極めて高い一般誌で様々なところからの資金が関わっているからという素因が大きい(その辺の商業誌の信用度が"話半分聞いておけば良い程度"だなんて事は一般常識的に知られているからスキャンダルとしてはインパクトが弱い)。「STAP事件」の時もそうだったが研究不正がニュースになるたび無意味な事務仕事が増える。研究不正の検証になんで貴重なコストを使う羽目にならなくてはならないのか。研究不正などは「始末が悪い」という意味で"電車への飛び込み自殺"に似ている。分類学をはじめ変異や根源的調査、論理的考察を怠りながら予断を論文にされているなど普通に考えれば360°どこからどう見ても不正な論文なんていうのは大量にある。インパクトファクターの高い一般誌に論文を掲載させる事が仕事になっているのは俗な出版社に出しても良いとすると不正が増える可能性が見通されるから其の対策になっていると聞いた事がある。だから対策を擦り抜けて見破られにくい不正が通るとなかなかのスキャンダルであるからニュースになる。インパクトファクターや査読、雑多な文章などは少し化粧を施したお飾りのようなものでしか無いのが実際である(まぁ分類学の論文を掲載するところなんて何処もかしこも読者を納得させるレベルでは無い。インパクトファクターなんて科学誌の中では知れている)。"応用の効かない論文"というのはこういう風に粗が掘り起こされる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%A9%E5%A8%81%E4%B8%BB%E7%BE%A9

 今代の日本は出る研究費が足りないと曰う学者も多い。競争が激しいからとか資金不足だからとかで不正な研究にならざるをえない人達が多いという論で研究不正が擁護されがちである。たしかに彼らは生活の為に大変なのかもしれない。彼らは上辺だけは良く見せようする。生物学の界隈は理系というよりは文系チックな雰囲気が強く科学的に見ればどう考えても悪しき慣例なのを堅持する風潮を持つ小規模界隈が点々とある。そして日本では歴史的に見れば昔より研究費が増えているという事実は何故かあまり語られない。

https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2019/RM283_11.html

 他方で実験器具や資材などを調達しているとどう考えても年々とクオリティが下がっている。原因は世界経済の混乱が一つ挙げられる。中国製品は安い代わりに想像以上に粗悪品が多い、というか増えている(最初だけは客引きの為に良い場合はある)。またヨーロッパでも移民を頻繁に雇い出しただろう所の製品は粗悪品に一変してしまった。世界的に中国経済依存になり影響は計り知れないが日常的に粗悪品を手に取る時代になっている。しかも日本の代理店は其れらをメーカーから横流しするだけの仕事で暴利の値段をふっかける(「過少労力のクセに製造会社より儲けてどうすんだよ」と言いたくなる)。そうやって質が下がったところで後継品として売られるか、製品名も製品番号も一切変えず何の説明や注記もしないまま何食わぬ顔で既製品として販売される。そして需要サイドは「安かろう悪かろう」の製品を見た目だけで"安かろう良かろう"と誤認して買うから何も安心出来ない。対策としては怪しげな製品なんて買わずに自身で作るしか無い。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/violation/

 このように研究倫理とビジネス倫理は一見全く別モノに見えて結構近いところにある事が分かるが、どちらか一方のみに傾倒した主張をする半匿名SNSユーザー等は多い。彼らの"都合の悪い片方に目を瞑り珍説を主張するチェリーピッキングの様子"は甚だ滑稽な光景である。貧しいながらも様々な工夫でやってきている側からすれば「リッチそうな格好をしておきながら毎度のようにslangishな事を言ったり粗悪な論文ばかり出している人達にカネの無心をされてもね」と困惑する。この期に及んで普段から杜撰な論文を誇示しながら尊大な態度でお金を欲しがるなんて"当たり屋"と何が違うのか区別出来ない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%93%E3%81%9F%E3%82%8A%E5%B1%8B

 このように疑いだしたらキリがない「資料収集」の背景というのは、コストがかかりやすく想像されているよりも大変なのである。

https://www.suiha.co.jp/column/%E7%BE%8E%E8%A1%93%E5%95%86%E3%81%8C%E6%8A%B1%E3%81%88%E3%82%8B%E8%B4%8B%E4%BD%9C%E5%95%8F%E9%A1%8C/

†Prolucanus beipiaoensis Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022についての検証

Prolucanus beipiaoensis Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022

Type data: Yixian Formation near the Huangbanjigou Village of Beipiao City, Liaoning Province.

 産地は中国北東部のYi-xian Formation。約1億2000万年前(記載文記述では"circa 125 MYA"とされる)の中生代前期白亜紀アプチアンの地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明の為に図を引用する。

 体長は14.5 mmとされていて白亜紀の甲虫としては大きい方。触角が10節と片状節も比較的明瞭に見える(記載文では片方のみ拡大があり第七節にガイドラインがあるが拡大すれば左右両方で10節が見える)。Yi-xian Formationからの化石とすると保存状態としてはかなり良い。しかし爪間板は見えないようで、体型もコブスジコガネ科(Trogidae)にも見えて悩ましい。

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(「Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022. Prolucanus beipiaoensis gen. et sp. nov.: The First Fossil Species of Lucaninae (Coleoptera: Lucanidae) from the Early Cretaceous of Northeastern China. Insects 2022, 13(3), 272」より引用図)

 記載文の記述によれば、触角形態や眼角形態などからクワガタムシ亜科に分類するとされている。しかし、この形態だけでは未だクワガタムシ亜科的であるとまでは言い切れない。触角第一節と第二節の間は左右両方の触角で膝状に曲がっているように見えるが、この程度の湾曲角度、またついでに眼角形態であればマダラクワガタ亜科であり得なくは無い形態である。

 論文中では大顎先端が二叉状で内歯が一対あるかのような旨が書かれているが、拡大してよく観てみると小顎髭の間違いである事が分かる。片方で各節に分かれている形態的様子が見える。ならば顎形態はコブスジコガネ科甲虫(例としてコブナシコブスジコガネ)も似る。触角第一節は多少細長く逆テーパーの少ない形態だがコブスジコガネ科にも同じくらいの種が存在していて区別点にならない。

http://insect.nakamura.business/archives/37798812.html

https://www.zin.ru/animalia/coleoptera/eng/trosp_km.htm

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(「Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022. Prolucanus beipiaoensis gen. et sp. nov.: The First Fossil Species of Lucaninae (Coleoptera: Lucanidae) from the Early Cretaceous of Northeastern China. Insects 2022, 13(3), 272」より引用図)

 さらに第一節と第二節の関節形態はよくよく見てみるとそんなにクワガタムシ亜科的かどうかハッキリせず判断が難しい。クワガタムシ亜科でも似たのはいるが確定的特徴ではない。クワガタムシ亜科として確定的である形態では触角第一節と第二節の関節穴の位置が特異的になり、触角第一節は例えば"パイプ煙草"みたいな形で穴の付く方向が別亜科とは異なる。化石の甲虫が持つ触角は第一節の先端からそのまま第二節が生えておりジョイント部に可動を許す"あそび"空間が見られない。似たような曲がり方をする触角を持つのはクワガタでもコブスジコガネでも私はあまり覚えが無い。姿勢的問題で膝状に曲がっているかのように見えているのではなかろうか。

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(「パイプ煙草のイメージ」フリー素材より引用)

 たしかにマダラクワガタ類やツヤハダクワガタ属などは似たような触角をするが、種や姿勢などの条件によってはコブスジコガネ科甲虫も似たようになりうると考えられる。

https://bugguide.net/node/view/486252

 なお片状節は殆ど閉じた形態で見かけ上扁平なのは岩石化石であるからで本当は球状だったかもしれなさが垣間見える。また化石に含まれる甲虫は爪間板が見えない。前胸背形態を始め体型もコブスジコガネ科チックさがある。コブスジコガネをクワガタとして見てしまっている感じが未だ全然抜けない。

 一見すればクワガタ的な触角だがダメージや姿勢の事を考慮しだすと微妙な線で判断が難しい。更に良い保存状態の化石で追加記録がなされる事を期待したいが。。

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(「Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022. Prolucanus beipiaoensis gen. et sp. nov.: The First Fossil Species of Lucaninae (Coleoptera: Lucanidae) from the Early Cretaceous of Northeastern China. Insects 2022, 13(3), 272」より引用図)

 左触角の拡大図で第七節のガイド線がついているが、別の画像を見る限りそこまで肥大しているようには見えない。ガイド線の位置がやや間違っているように見える。

 この化石の甲虫について、私は分類屋の友人と「実際どうなのか」議論してみた。友人は爪間板を欠損した状態の原始的なクワガタムシ科である可能性を考え、私はコブスジコガネ科の仲間である可能性を考えた。この相違がなくなるか否か様々な議論をしたが"爪間板が見えない"および"豪州などに似た感じの触角を持つコブスジコガネがいる"とはいえ"触角はコブスジコガネらしくもありクワガタらしい雰囲気もある"事から科同定まで追究出来ない化石」との結論に至った。また仮にクワガタムシ科であったとしても触角形態からクワガタムシ亜科とは言い切れない点について意見が一致している。

【References】

Zhi-Hao Qi, Erik Tihelka, Chen-Yang Cai, Hai-Tian Song and Hong-Mu Ai, 2022. Prolucanus beipiaoensis gen. et sp. nov.: The First Fossil Species of Lucaninae (Coleoptera: Lucanidae) from the Early Cretaceous of Northeastern China. Insects 2022, 13(3), 272; https://doi.org/10.3390/insects13030272

MacLeay, W.S. 1819. Horae entomologicae: or essays on the annulose animals. S.Bagster. London Vol.1 part 1:1-160.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 パッと見てクワガタムシ科的で検証も割と深い論文。既知化石種への評価も厳しく自他共に厳しく考察しようとの姿勢は科学的に好感がある。この論文を読むまで私は白亜紀の北半球にクワガタムシ科甲虫が居たかどうか全く分からない気分でいたが、読んでからは「もしかしたら?」という気分にもなった(産地や時代情報が正確であれば良いが、全く鵜呑みには出来ない。再現性を期待したい)。白亜紀前期の北半球にクワガタムシ科甲虫が分布していたとすると始祖は三畳紀に出現していた可能性が高くなる。

 しかし"白亜紀前期の北半球に分布していたクワガタムシ亜科"と断じた論調に先ず違和感を覚えざるを得なかった。しかも14.5mmと大きい割にクワガタムシ科では滅多に見られない体型である。私は「ん〜?なんだこれ?」と検証の最初の方では頭を痛めたが、よくよく見てみるとクワガタムシ亜科としての触角とは言い切れないからマダラクワガタ亜科的でもあり、爪間板が見えないからコブスジコガネ科的とも取れると考察した。

 岩石化石というのは難しい。私にはやはりコブスジコガネ科甲虫にも見える。背面、プロポーション、脚部形態、どれを取ってもコブスジコガネ科的ともとれる。クワガタを見つけたいなら「爪間板も揃った化石があれば良いね」とコメントしたいが、そもそも本当に白亜紀前期の北半球にクワガタがいたか否か現状では未だハッキリしていない段階と言えるし、爪間板が保存される岩石化石なんてとてつもなく希少だと考えられる(このサイズ感以下の甲虫では私は見知らない)。

【雑記】

 ちなみに私の所有琥珀にあるクワガタムシ科甲虫では全ての琥珀で「触角が9節構成か10節構成なのか」が見えており、第伍欠片ともう一つについて以外は全てで「爪間板」が見えており、第陸欠片・第捌欠片以外の全てで「腹節板が見かけ上5枚構成である事」が見えている。

【第玖欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が曇華一現から入手に成功した9個体目のクワガタムシ科入り琥珀触角(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20211031144434j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体は異物が付着し複数の脚が削られている。触角もややこしい場所に亀裂が入っていて撮影に難儀する。実際に此の琥珀は実物を顕微鏡下で色々角度を変えながら観察した方が見やすい。画像の方がインパクトがあるが、実物の方が調査においては満足が大きい)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang,2017に酷似しているが、種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とは、いずれとも異なる。

 同琥珀には、2mm程度の双翅類(Diptera)カ科(Culicidae)や、1.5mm程度のドロムシ上科(Dryopoidea)甲虫(?)が同封される。

 白亜紀のクワガタと同じような形態を約1億年保つグループが、南半球で強大な進化をせずに種分化ばかりしているのは、たまたま植物層などの環境に変化が無いからだと考えるが、様々な状況から現生種群は元は南に居ただろうクワガタが北上してから新たな進化をしたと類推させる。まさに白亜紀セノマニアンの時代には北半球にはクワガタが居なかった事すら連想する。

https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_08_04_01.html

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f:id:iVene:20211105093209j:image

【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシミャンマー琥珀のクワガタではマグソクワガタ形態の個体が割合多い感触がある。

 この琥珀は未同定琥珀として安価入手に成功したがこれほどのラッキーは前例も後例も無い。出品時は画質が悪く触角が見えなかった。体型で判断した私以外にはクワガタとは気付かれなかったと考えられる。

 マグソクワガタ形態の個体は、本当に日本や北米のマグソクワガタ属現生種そっくりなシルエット。しかし大きさはまるで違う。いまは叶わない願いだがやはり生きた姿が見てみたい。

 マグソクワガタというのは記載以降しばらくはコブスジコガネ科に分類するかクワガタムシ科に分類するかで論争状態にあった。それをクワガタムシ科に分類すると決着させたのが1992年のTabana, M., Okuda, N.による論文だった訳である。数ページの論文だが誰も反論出来ない古典且つ確定の論文でありよく引用されているし当ブログでも殆どお約束のように引用している。時代を先取りしたような素晴らしい論文だった。

【雑記】

 本来ならば現地で採掘し自己採集してみたいというところだが悍しいレベルの希少性だから「そんなのは夢物語」という話がある。目的の琥珀を狙って採集出来て、研磨も出来て、科同定も正確に出来て、撮影も出来れば個人的な文句は無いがソレをどうやって成し遂げるかと考えるだけでゾッとする。資料入手・切削研磨・科同定・細部撮影が出来ているだけで運が良い。なお私の現生種資料群でも99%以上が他者採集であるという悩みがあり其れに起因する資料性の質不足は否めない(誰かの自己採集は他人からすれば他者採集ではあるが)。だから現生種についても目的が"調べる為"だから殆ど"現地迄のルートを追跡出来る個体"を選んで集めてきているのだが、昔と違い今の時代だと偽造書類や嘘やらの話が沢山あるからルートの選定が大変難しい。最近になってこの業界に入ってきた人達は大変である。出品者は誰だって出品者自身の売り物を粗悪と思われたくないから"パチモンではない"として流す。その為"買い手の眼で判断しなくてはならない"のだが野生での変異なんてそんなに観る機会が無い時代であるから一般庶民や新参者達にはかなり厳しい条件である。

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(グァンシーシカノコギリクワガタやダビソンフタマタクワガタ等は飼育累代個体でも安心である。交雑などで形を変え詐欺的に販売強化しようとする人間がいたとしても個体を見ればすぐに看破出来るし、他種とは混ざらないか混ざりにくい種群だからである。ちなみにダビソンフタマタの75mmを越えるサイズで大顎内歯が鋸歯状になるのは稀型。飼育個体群でも野生個体群とそんなに型は変わらない)

 虫入り琥珀の場合は産地の一部として虫に樹脂が付いてくる。現状では偽物と本物の見分け方は以前の記事で詳しく記したがあの通りで安心感が現生種を扱う時の比では無い。虫入り琥珀も偽物を本物と言い販売する商売人達がいるから真偽については買い手判断になる。

 某なんでも鑑定団なる番組は色々な品の真贋を放送しているが結構な量の偽物が紹介されてきている。これについて騙された人を嘲笑う人達が多いが「どれだけ詐欺師が沢山いるのか」と私は不安になるだけだった。

https://hikakaku.com/blog/%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A7%E3%82%82%E9%91%91%E5%AE%9A%E5%9B%A3%E3%81%AF%E5%81%BD%E7%89%A9%E3%82%92%E6%9C%AC%E7%89%A9%E3%81%A8%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%EF%BC%9F/

 数年前、東京のインセクトフェアで飼育が非常に難しいと評判のアジア産大型ミヤマクワガタ属種野外採集個体群標本が並んでいて購入を悩む数人の外国人バイヤー達が居た場に私も居たのだが其処へ著名人K.Y氏がやってきて「全部飼育品だよ」と冗談の気分か知らないがコメントを入れてきた。勿論バイヤー達は冷めて散ってしまったが初心者に分かる筈もない冗談で営業妨害するとは流石の評判を集める某氏である。本当に空気が読めていない。こういう事もある。

 専門外の真贋判定なんて非常に難しい。私が専門にする此の分野でも難しさを感じる事はあるが其処らの人達よりも観察をしてきているからある程度は分別が出来る。しかし普通の一般庶民からすれば欲しくもないパチモンがどこからやってくるか分からない不安を拭いきれない。私の知る人も「今はさホラ。"ああいう"のが多いから簡単な気分で集めらんないよね」とコメントする。輸血液にウイルスがコンタミしている可能性があれば普通は廃棄するが業界によりそうしない精神性の選択を取る。色々な議論をしていたとしても曖昧な情報で最終的な目的がカネになっている物品は避けられる。そうして混ざりの可能性がありきたりの普通種を避けるようになり、混ざりの不安が少ない希少種を求めるようになる訳である。

 とはいえクワガタ入りの琥珀なんかみたいに無い物強請りのエネルギーを探索に向けると健康を害しやすい。永遠とも思える時間の流れの中ひたすらに目当ての品が出て来るのをチェックし続ける。外国僻地でとある種が飛んでくるのをひたすら待つという採集方法もあるが其れの不健康的且つしんどいバージョンだ。競合相手がいないと気楽ではあるのだが世の中そんなに甘くは無い。液晶画面を永遠かのように見続けると眼精疲労で毎日のように頭痛が激しいし睡眠不足になりがちでフラフラになる。「こんなのはもうしまいだ!」と少し思ったところで未知型のクワガタが出ないとも限らず気になるからついつい知らぬ間に探している。

【第捌欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が天佑神助に恵まれ入手に成功した8個体目のクワガタムシ科入り琥珀左右触角背面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20220309082814j:image(オニクワガタ属:Prismognathus Motschulsky, 1860などに似た体型の体長15mm程度のクワガタムシ、本体は樹脂の脱水収縮でヒビだらけで、研磨時に腹部と脚が一部削られている。右触角は片状節が変形、左触角は第一節先端等所々が割れている。オニクワガタ属等に似るが触角第七節は肥大しない。型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタ。※ただし体型の良く似た細長い大顎を持ったクワガタが別途見つかっていて其方の個体は触角第10節が無く第9節が左右の触角で対象的な形態になっていた。半欠損していたのだろうか。琥珀の中の虫は欠損や歪みが普遍的であるから欠損部位を色々屁理屈を捏ねて生物的特徴として記載されかねない)

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(前胸背側縁形態も白亜紀にはクワガタムシ科の進化が進んでいた事を思わせる)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。琥珀のクワガタは絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 触角第一節が細長くクワガタムシ亜科的である。しかしたまたまそういう姿勢だった可能性は否めないが其れ程には膝状の曲がり方をしていない。とりあえずここまで触角第一節が細長く他形態と合わせて考えれば間違いなくクワガタムシ科とまでは分かる。

 大顎は閉じていて見えづらいがツヤクワガタ的で太短い形態。内歯は鋭く突出し左右大顎で非対称的である。

 同琥珀では2mm程度のハチ目(Hymenoptera)昆虫が同封される。

 セノマニアン前期には既にクワガタムシ亜科の形態を獲得していたとなると、南半球で生じたクワガタの始祖は、やはりジュラ紀よりも更に古い段階とまで予想出来る。何故ならば約1億年前には既にアトランティカ大陸(アフリカ・南アメリカ大陸)を含む西ゴンドワナ大陸と、東ゴンドワナ大陸(南極・オーストラリア・インド亜大陸)の分離が終わっているとされる説が有力となっているからだ。おそらくこの時点でコバンクワガタ属やムネツノクワガタ属、オニツツクワガタ属、そしてマルガタクワガタ属の祖先はコツノクワガタ類の祖先種との系統分化が完了している。ただし触角の形態変化が各系統で並行して起こった可能性があるため白亜紀時点での亜科分化がどれくらい進んでいたかの具体的な推定は出来ない。クワガタムシ亜科〜キンイロクワガタ亜科〜マダラクワガタ亜科の形態が当時の種内変異か否か分からないが、ゴンドワナ大陸時には既に獲得されていた形態という事が推定可能である。

 ちなみに太古のクワガタで現生の大型種のようなサイズの個体はいまのところ見つかっていない。白亜紀〜始新世では最大でも15mm程度で、クワガタが巨大化したのはアジアを中心としたエリアの漸新世以降の時代だと考えられる。琥珀に入った太古のクワガタならば10mmを越せば大型、15mmなら特大である。甲虫類だとなかなか15mmは越えず迫るだけで希少標本である。ナガヒラタムシ科で20mm近く、甲虫だとコメツキムシで25mmが私の見た最大かなぁ。トンボでも30mm程度、カマキリ成虫も20mm、触角がギザギザのオオツノカメムシが10mm、蝶は2〜3mm、ゴキブリは20mm、アワフキで15mm、アリエノプテラは15mmくらい、カゲロウは50mmに迫るのがあった。最大クラスは昆虫では無いがウデムシで40mm、ムカデで50mmくらい。サソリやサソリモドキもあり小さくても人気である。大抵は2〜7mmの小型昆虫で観察には顕微鏡が必要になる。琥珀には色々入る。カタツムリ、花、葉、トカゲ、鳥、蛙、様々ある。海岸に近い場所だったからか、海洋性の生物痕跡も入る。少ないがフナムシも見たし、アンモナイト入りもニュースになった琥珀以外に1つ見た事がある。記載種としてはカニも最近有名になった。

 最も琥珀ジャンルを沸かしたのは恐竜の羽毛だったかと考えるがアレらが本当に恐竜の一部だったか否か不明瞭という印象である。恐竜の脚入りという琥珀も見たが鳥の脚と変わらなかった。ゴンドワナから分離した後のインド亜大陸に恐竜はいたのか。マダガスカルには恐竜が居たようだが、インド亜大陸と分離と接合を繰り返したという仮説もある。およそ1億年前のミャンマーに恐竜が居たかどうか知るためのハッキリした化石を見てみたい。

https://www.google.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/oldworld/entry-10267538645.html

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Motschulsky, V. 1860. Coléoptères rapportés de la Siberie orientale et notamment des pays situées sur les bors du fleuve Amour par M.M.Schrenck, Maack, Ditmar, Voznessenski déterminés et décrits. Dr.L.v.Schrenck's Reisen und Forschungen im Amur-Lande Band II. Zweite Lieferung. Coleoptera. St.Petersburg :77-258 (131-138).

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。15mmクラスのクワガタが白亜紀に出現していた事に驚きがあった。腹部がかなり削り取られていて状態がそんなによくないがこれは大きい。以前の記事に書いた12mmクラスのクワガタでも相当大型だと思うくらいミャンマー琥珀に入る虫は現生種に比べてアベレージで小さい。

 触角を観れば第一節がニュッと細長く伸びていて容易にクワガタムシ科と分かる筈なのだが何故か「コガネムシ上科」として出品されて驚きだった(まぁクワガタムシ科がコガネムシ上科の中に分類されているから間違いでは無いのだが)。他の誰にも気付かれなかった為か大した競合もなく"ミャンマー琥珀に入る甲虫にしてはそこそこ大型の破損個体"という程度の評価額で落札に成功した。天の助けかと思ったくらい神がかった入手劇であった。

 琥珀に入った体型の似た細長い顎を持つクワガタは現生のミヤシタオニクワガタにも似ていた。其方は腹部が同様に削られ触角先端が両方とも欠損していたのは惜しかったが一目見てクワガタと分かる面白い琥珀だった。

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北ベトナム産ミヤシタオニクワガタ原亜種:Prismognathus miyashitai miyashitai Ikeda, 1997は高標高で局所的に分布する。ミャンマー亜種やインド産チベット産は最大サイズに近づくともう一段階大顎の形態を変えるがベトナムの原亜種は中歯止まり。原始的な系統の種なのかもしれない)

 この琥珀は詳細な同定がされなかったおかげで安価入手に成功できた。こういう同定は知識が無い人には迷惑な話だが知識の有る人にとっては有利な状況を齎しえる。しかし十分な知識では無いと誤同定と正同定を逆解釈する事になりかねない。ゆめゆめ油断しないように同定は消去法で行う。

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(インド北東部産ヤザキノコギリクワガタProsopocoilus yazakii Nagai 2005?は歯型や模様の変異があまり知られない※Prosopocoilus inclinatus (Motschulsky, 1857)の亜種という説もあるが納得の行くレベルで検証されていないし私もP. inclinatusの検証は不十分なのでここでは暫定的にこう扱う。♂や♀またサイズ差によって型の変わり方が異なるのは変異の多い種ならば普遍的である。画像個体群はいずれも飼育個体群であるが最大個体は40.1mmと巨大で大顎の発達は限界に近いと考えられる。種内・亜種内の変異がどんなものなのか、あまり知見の無い分類群では観察者の固定概念硬直の程度が低いから視覚的に認知を改めやすい)

【References 2】

Ikeda, H. 1997. Three new species of the genus Prismognathus from northern Vietnam. Gekkan-Mushi 318:28-30.

Nagai, S. 2005b. Notes on some SE. Asian Stag-beetles (Coleoptera, Lucanidae) with descriptions of several new taxa (5). Gekkan-Mushi, 415: 20-25.

【雑記・"借りパク"に御用心】

 有史以前のクワガタムシ科絶滅種甲虫入り琥珀というのは入手に異常に苦労する。だから其れだけに他人に話題を"我田引水されにくい"というメリットが物凄くある。現生種標本商の場合でも苦労して開拓した現地ルートを業界の寄生虫みたいな人達にすかさず奪わているような例が散見される。何処でも"ネタの盗用"や"商業上の激しい競争"が行われている事があるからそういうのに足を掬われないよう気をつけるのは必要不可欠な対策になってくる。誰がどんな人間性をしているのか長年かけてもなかなか分からない。

https://twitter.com/ttamu1228/status/1499367052523438080?s=21

コンタミ汚染の恐ろしさは人間の認知外にありうるから本当に怖い)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E5%BA%A6%E6%BC%AC%E3%81%91%E7%A6%81%E6%AD%A2

 当ブログには「しんどい話も沢山あるなぁ」と読者達に思われるような事を沢山書いている事は勿論のこと私も重々承知である。"何も書かずに放置する事"と"書き残す事"を天秤にかけマシな方の選択をしたという動機である(業界を主導しようなんて考えは全く無い。正常な世の中になって欲しいという祈り)。どちらにしろ厳しい世の中になるという見通しが立ってしまっているから免疫と耐性を付けておいて損は無い。

 実例として虫業界にいるとどうしてもネタを盗用する人に少なからず出会う。非難したところで彼らは他所様のかけたコストを考えずに都合良く「シェアだもんね」と嘯き正当化する。情報の無価値化が止まらないが、此の延々と終わらない様はPCウイルスのバージョンアップと其の対策がイタチごっこで延々終わらない現状に似る。

 何かの話題を自分の手柄にしようと逞しい人達は沢山いるし極めつけは標本を黙って「借りパク」される事すらある。彼ら自身が態度を大きくしている事がどういう事なのか彼ら自身はなかなか気付かない。自己相対化は殆どの社会人が苦手とする思考法である。

 実は私も借りパク被害に遭った事があるのだが相手が著名人であったのもあり解決は困難を極め、別な著名人に助けを願い9割程度だが解決してもらった事がある(1割は行方不明)。借りパク問題は何処かしこで散見され、聞けば最近は中国のクワガタ業界でも此の借りパク騒動が増えつつあるらしい。

 借りパクをされると本当に鬱陶しいのは"貸し出す側の善意と返却の期待"を悪用された上で時間をかけてじっくり狡猾に行われる「陰湿な窃盗」である事だ。別件でもホイホイと借りパクしていく人が複数いて被害に遭われている著名人もいて本人が疲弊しているという話も回ってきている。更にはもう15~20年以上前だがある教授なんかは有名採集家から希少種のクワガタを借りパクしてあらぬところから標本が見つかり一騒動起こした事もあった(古株クワガタ屋の間では有名な事件)。まぁそんなのは序の口で件の教授氏は外国の各博物館から貴重な標本を借りて返却催促があっても15年以上無視をかます程度との評判もある。

 借りパク常習犯の彼らは偽善者そのものの態度をしてくるから初心者には普通の人と見分けにくいが、慣れれば判別する方法は簡単で「返却催促をして返事が無い」または「段々と返事してこなくなる」が特徴的である(まぁ貸した後に分かる話だから判明した所でしんどいだけなのだが)。しかも借りパクをするような人間性なくらいだからか"借りた相手が何らかの理由で借りた側の評判を落としかねない場合は返却される"し、"そうで無い人の良さそうな人物が相手ならば借りパクされる"といった「人選」も行われる。"舐められている"と感じたら相手が誰であっても相当に信用出来ない限り貸さない事が吉である。

 著名人が借りたいと思うようなものは得てして貴重なもので誰でも入手に手古摺るような殆ど誰も持っていないレベルの資料である。だからそういうのを無名な人物が持っていると簡単に目をつけられてしまうから注意していてわるい事は無いし、ケースバイケースではあるが"名を売っている割にトップコレクターでは無い人物"ほどコレクションにコンプレックスを持っていて嫉妬深さを隠している傾向があるから警戒した方が良いというのもある(私なんかはそういう風に思われたくないから初期から非常に正直に「調べる為に標本が欲しい」とガツガツやってきた)。

 或いはレアケースだが他人のコレクションを「返却してくれ」と言ってくるヤバい人達もいる。どういう事かというと"貸し借りや譲渡の関係が無い他人の所有資料"を「貸したものだよね」という架空の前提でもって強奪しようとする輩である。冗談なら良いが、そうではなく嘘を既成事実かのようにしてやってくる本気の詐欺師である。法律上での「所有権」を考えれば有り得ない言い掛かりだが、過去にある標本商氏が実際に被害に遭われた話を私にしてくれた。コレクション活動というのはトラブルが付き物なのだが危ない人というのは非常に面倒くさい"キマリ方"をしてやってくるので対応が大変なのである。

 前述にもしたが私も実際に被害に遭った事がある経験則からの忠告である。アドバイスとしては貸し出す前に貸し借りのメールなど書類・自身の所有にあると示せる資料画像を残しておく事が推奨される(※ただしややこしい相手の場合は普通のやり取りが困難なケースがありうる)。寄贈や譲渡も本来ならば書類があった方が良い。例えばだがヨーロッパの博物館から私に標本資料を寄贈されるというレアケースもあったが極めて正式な書類が付いてきた。「所有権」という概念と定義、法律的な公的立ち位置について、よくよく知っておいた方が今後の身の為になる。まともな人間関係ならば慎重にしているから信用を置きやすいというのもある。

https://kotobank.jp/word/%E6%89%80%E6%9C%89%E6%A8%A9-80634

(「博物館に寄贈予定」と出版済文書である記載論文に記述される分類群のホロタイプ標本が偶々手元にあったからといって個人所有に挿げ替え博物館館長と共謀してオークションに出品断行し一般人から金銭を巻き上げた虫屋もいたがあの行為はどう言い訳されようが"置き引き"とやっている事が変わらない)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BD%AE%E5%BC%95%E3%81%8D

【近況】

 クワガタムシ科甲虫入りミャンマー琥珀が3個体出回った情報が入ってきた。私の見逃した個体群である。これで現時点では「私の所有外で"間違いなく白亜紀クワガタムシ科甲虫入り琥珀"は8個ある」という事になった。なお最初は3頭が入っていた一つの琥珀が切り分けられたという話。

 実は私が見逃すのは此れが2度めで、1個体めは私自身の観察眼を疑って色々検討している内に、私が出品を見つけたプラットフォームとは別のルートで売り切れてしまったという話だった。だが仕方がない。当時は長らくクワガタとは思わず難しさを感じていたからである。私が其の個体をクワガタと理解したのはかなり経ってからだった。

 件の計4個体は変わった形態の大顎をしたマグソクワガタ系甲虫で資料としても大変面白そうであるが私の持ち合わせに無い型で、且つ稀有な事に4個体はいずれも酷似している。まるで私とのご縁がなかなか無い型という切なさを感じさせる。ともあれ其れ等は絶滅系統という線が濃いがツヤハダクワガタ属などの祖先種だった可能性もありうる。クワガタムシ科甲虫入り琥珀というのは本当に一瞬で売り切れてしまう。だから一瞬で同定の可否を確認し可ならば金額に対して躊躇なく入手を決断せねば手に入らない。

【第柒欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私にとって盲亀浮木の邂逅だった7個体目のクワガタムシ科入り琥珀左右触角※腹面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20220225204332j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体は少し異物が付着しているが非常にクリアな状態。触角第一節基部は空気にまかれている)

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 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang, 2017に酷似しているが前胸側縁では、それほどギザギザにならない(小突起列の出方にメリハリが無い)。しかも触角片状節の肥大が大きい。なお種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 同琥珀には開翅13mm程度のアミメカゲロウ目(Neuroptera)クシヒゲカゲロウ科(Dilaridae)絶滅属†Cretanallachius sp.(?)が入り、こちらが主役として出品された琥珀だった(クワガタは気づかれていなかった)。また2mm程度の赤い個体を始めサイズ様々にダニなども同封されている。専門外は疎いので一応「?」を付ける。

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 北半球では、種子植物に対応したクワガタムシ亜科が主として激しい分化をしていて、なお古そうなマグソクワガタ系統はそこまで激しい形態変化をしていない上、南半球に比べて地域面積あたりの種数が少ない。おそらく分布域拡大に時間がかかって形態進化をするだけの環境適応期間が未だ短いと考えられる。

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

D. Y. Huang, D. Azar, C. Y. Cai, R. Garrouste, and A. Nel. 2015. The first Mesozoic pleasing lacewing (Neuroptera: Dilaridae). Cretaceous Research 56:274-277

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ琥珀の透明度が高く観察がしやすい。虫の姿勢から生きた状態で埋没した情景が思い浮かぶ。まるでついさっき固まったかのような光景を封じている。

 約1億年前の白亜紀とは一体どれだけ昔なのか、1万年の経過が1万回過ぎ去った計算に近いと考えれば途方もない昔という事に気付かされる。白亜紀のマグソクワガタ類が現生のマグソクワガタにかけて進化するまで1世代につき1年1化の生活史をしていたとすると、約1億世代を経てきた計算になる。他化石などから観て10万世代くらいだと自然界では生物種としての変化は成りにくいようだが、その千倍の1億世代ならば余裕で形態変化の機会がありそうである。

 琥珀Protonicagus taniのホロタイプ標本ほどクリアでは無いものの自身で観る中では其れ迄に無いクリアさがあった。アミメカゲロウの保存状態も頗る良い。不思議な事だがクワガタとアミメカゲロウが同じ琥珀に入るのを見るのはこれが2つめで生態的な接点が垣間見える。

 アミメカゲロウ入り琥珀としての出品で甲虫もあるとされていたものだったが、なんと其の甲虫はクワガタだった。透明度が高く出品画像でも一見してクワガタと分かったが、それでありながら出品者が何故甲虫個体を同定しなかったのか今になっても謎のままである。たしかにアミメカゲロウに眼を奪われはするが其れは単なる"beetle"ではない。

 とりあえず透明度の高い虫入り琥珀は通常よりも高く評価出来る。細部を観察しやすい標本は良い資料である。腹面の観察、触角や爪周辺、口器など、文献や其処らではあまり目にしない角度からの観察が同定には必須だからである。

 美しい虫入り琥珀を観る度に想うのだが、現生種の虫は苦手なのに絶滅種の虫入り琥珀なら平気という人が一般的には割とよくいる。たしかに虫入り琥珀というのは不思議と清潔感がある。実際に顕微鏡で覗いてみても精美な雰囲気で溢れている。

【雑記・業について】

 日本国内での虫業界というと長らく「」の考え方が隣り合わせであったという印象がある。ヤクザ屋が沸かし始めだした業界とはいえ、インターネットが流行りでなかった結構昔だが「調べる上で犠牲になってもらっている。自然から物事を教えていただいている。」とよく教えられたものである。だから出来るだけ丁寧に対象を見るという姿勢に自然になっていった。動物実験をする前には、免罪や神頼み等という為の意識ではなく、いずれは殺生が減る事を願い謝罪の念を込める。外国僻地の山奥で見知らぬ虫を採集してきている古株の採集家達も此の意識を持っている。しかし近年になってから、なんでも分かっているかのような面をしながら「どうして其の解釈になったのか」と疑問を抱かせるような格好悪い虚勢を張る人達が多い。即ち謙虚さが感じられない人達が多い。

 出会い頭に開口一番「交尾器見たんか?同定違うぞ」と他人に詰め寄る割に交尾器形態の変異も知らない著名人もいるが、粗悪な実績から丸分かりだから「貴殿も見てへんやん(笑)」と突っ込みたくなるそんな世の中。昨今の虫屋というのはどうも自身を優勢な立場に置きたい人達が悪目立ちしているが其れは世渡り下手の取る下策にしか見えない。

 検証の甘い話をゴリ押しされても私が納得行かないのは此の懸念がいつも気がかりだからである(結論ありきの予断さえしないよう気をつけてもらえるだけで良いのだが、商魂逞しい?人達にとって金銭的な事以外に誠実である事は自傷行為なんだろうか)。SNSで色々貢献した風な宣伝をされても詳細からして私はなかなか納得できない。そもそも教育的配慮に全く欠けたslacktivismの態度で押売りをしてくる人達の容態とは一体何が基点なのか。他の様々な分野でも素人にもすぐに分かるような"著者・査読者らに誤った解釈がある論文"などは沢山あり「談合でもして不正を庇い合っているのか」とすら思わせる。結局は自身で大量の論文を読み様々なメカニズムを調べ物理法則の篩にかけていかなくては本当の事が分からない。"実績"とやらが数を増やすに伴い、かけなくてはならない労力量がとんでもない時代になってしまっている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%93%E3%82%BA%E3%83%A0

 かなり身も蓋も無い事を言ってしまえば、別に誰かが無理をしてまで飼育や採集、また標本収集、報文投稿とかなんてしなくても殆ど誰も困らない。頭をそんなに使わなくても出来る事を報文にされて威張られても困惑するのみ。むしろ予断を事実かのように嘯いて論文にされてしまっている方が迷惑である。昔から良い仕事というものはじっくり時間をかけて行われてきている。市場に商品として陳列されている命ある虫達が如何に高額かを説明、宣伝するため大慌てで急いで色々研究したっぽいような事を言われても知識の粗が目立ち、私には其れ等が悪足掻きにしか見えない。関心が欲しいならば分かるようにプレゼンテーションする事が其れに対する必要条件である。生物種学名を用いるならば命名規約を矛盾なく理解出来たのか、原記載を読んでいるのか、該当種の担名タイプ標本と其の変異内個体群を識別出来ているのか、"特徴"を理解出来ているのか、遺伝型による変異と其れと紛らしい別要因の変異の事を網羅的に知れているのか、教条主義的分類をしていないと証明出来るか、種や亜種の隔離要件は説明出来るか、全ての整合性を固めた説明をしてからの応用研究で無いならば信用しきれない。

 実物を伴わない文章のみである程度納得させられるレベルのプレゼンというのを工夫を凝らしてやろうとすれば例として編集しやすいプラットフォームでページを作るのが一番やりやすい。他SNSなんかを上手く利用しようと考えたとしても係争ある古い歴史文書の検証やURLリンクくらいにしか使用性を感じないから私は誤認サンプル抽出の為以外には使わない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%AD

 そして業界の軽薄さを証拠づけるかのように今代ネット社会では虫=換金物という誤った考え方が蔓延っていて学者らですら虫の転売を良しと促すような表現をSNS上で憚らず嘯く。業の考え方と密接する業界なだけに玩具的な業界とはあまり親和性がないから違和感が残るが、売買正当化を無理にしようとする人達が俄然増えてきている。コレクターにしても集めたコレクションを最終的にどうするか考えていない人達が殆どである。株取引みたいに相場相場とうるさい時代になってきているのもここ1〜2年の事。ネットオークションが盛んな時代だからか、どうも堅気の考え方から離れつつある。

https://www.tv-osaka.co.jp/onair/detail/oaid=2054669/

(標本商の友人と話題になった番組。チュウホソアカクワガタの80mmが50万円?聞いた事も無い。生体だから?としても死骸になればかなり値下がりする。現在は様々な要因故に入荷減という事で昔よりは高値を付けても仕方ないが50万円というのは言い過ぎである。参考までに2000〜2010年前後で標本商が付けていた価格は80mmで10〜12万円程度で、脚部が1本欠損の80mmで7万円程度であった。私は過去、故・葛信彦氏が生前の頃に御自宅にお邪魔させていただいた事があり、結局買わなかったが結構な量のチュウホソアカを見せてもらっていて50万円を付ける程の希少性は感じなかった)

 そういうワケで伝統的な考え方としては「個体を採集されてきた労力と伴う其の個体自体の希少性・必要性」に対価が支払われてきている訳だが、換金して当然の物体かのように扱うのは拝金主義的過ぎる(言動不一致が常習でよく回る二枚舌を持つ"彼ら"は人身売買容認するのだろうか)。苦労して採集された希少種である訳でもなく知見を改めるような良質な個体でも無いものに高額を付ける意味とはなんぞや分からない。SNS等で言動が軽薄な人と論文の体裁が杜撰な人が一致しやすいのもそういう人達に人間性や性格に様々な難があるという事を示している。自戒の方法など遠く彼方に忘れて置き去りにしたような不思議な社会になっている。何故か彼らは謙虚になれない。

 他方、犬のブリード業界では近年漸く生物的に苦しみを抱えて生まれてくる雑種をフェードアウト的に絶やそうという方向になってきているが、虫業界の新参者達は全く逆の道を行く。「赤信号、皆で渡れば怖くない」はお笑いのネタで有名だが、其れを本気にして適当な理由を付けて断行しようとするような人達と彼らは変わらない。適当な理由を付けて筋の通らない事を無理矢理する様は、商用論文や、最近での某国による別某国侵攻が全く同じ精神性と見える。

https://www.jiji.com/sp/article?k=2022021400837&g=int

 またDNA検査法を理解せずに「使えない」と雑種論争で主張する半匿名SNSユーザーがいるが、誤解して欲しくない事に遺伝子汚染の疑いがある飼育品の判定に使えないのはmtDNAで、核DNAの「allele:対立遺伝子」等からの比較考察は一定程度に有効な交雑判定法として存在している(※alleleと其れに伴い発現する形態差異だけで種や亜種の分類が為されないのはモデル生物の例で確定している)。単純に絵データでしか出てこないしコストパフォーマンスが悪いから殆ど誰もやっていない(真実に気づいても言う意味が無いから黙している人達が多い)。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.businessinsider.jp/amp/post-1723

 遺伝学はそこまで歴史が長くないがモデル生物では一般人や専門でない研究者らの想像しているよりも遥か深く具体的に調べられている。モデル生物は医療に密接した研究材料になるため莫大な資金でもって世界的に大勢の研究者らが調べてきている(故に不正も多いが不正研究は再現性が無く応用利用にならない)。其れでも未知な部分がまだまだある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%A6

 以下のカブトムシ雑種に関する論文はメソッドおよび具体的な検体数記述が無く、図示も各世代とされる表記の1個体ずつ計3個体のみ且つ論文なのにinformalな形式と"お座なり"で、また別の一般的知見と噛み合わない。記述で延々と種概念的な事の既知知見を考察しているみたいだが、ヘラクレスネプチューンの交雑個体系統がF2以降"孵化"したという他例は無い。過去に私以外にも複数のショップやブリーダーらが全国範囲的に試したが其れ等からの情報では全てF2や戻し交配は私の知る限り無精卵の結果となっている。前提として以下論文の結果には確固たる再現性を認められないため論自体も参照価値が無い(あれだけ試されたパターンで成功例が出ても信用出来ない)。このように例によっては物議を醸すレポートがある。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ece3.6524

 また雑種第二世代で幼虫が孵化したと言う場合、其れは3パターンの可能性が考えられる。1つめは単純に別種ではなく別亜種の関係だったという可能性(冠進化の原因でもある)。2つめは変わった事を言いたい人の受け狙いのための嘘。3つめは擬似的な交尾行動による刺激での単為生殖。自身で実験し成虫が羽化するまでは本当に累代出来たか分からない。雑種の単為生殖であるから染色体の不全も想定され上手く成長出来ず死亡率が高いのは其れの為と推察されうる(ダウン症などに似る)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%98%E7%82%BA%E7%94%9F%E6%AE%96

 第二世代で卵が孵化しない場合は2パターンあり、1つめは擬似的な交尾活動による刺激で産卵だけした場合、もう一つは植物における定説で昆虫では調べられきれていないが受精卵が減数分裂を出来ない場合である。

 また植物では雑種崩壊という例があるが具体的な原因は様々考えられ単純に適応度が低いからそうなるため世代数をふむ。

 高校生物の教科書で習うメンデル遺伝学などは簡単な例しか示されていないのだが其れですら理解出来ていない人が社会でも殆どである。そもそも"安直な娯楽的商用利用が殆どの目的になっている実験結果"なんて信用ならない。野生型のハプロタイプと其れに対応する塩基配列を調べ比較したり染色体地図を作成するなどの研究ならまぁなんとなく分からなくもないのだがクワガタ等で其れを莫大な資金をかけて調べる意義はあまり見えない(遺伝子汚染が不明な状態の"商用系統"をわざわざ選ぶのは何故なのか。「"いわくつき"の個体」程度で資料性の意味合いは低い)。歴史的発見だったメンデルのエンドウマメ実験で使われた各検体のP1個体群の全ては、偶然にも調べた表現型が純系のホモ接合体であったため遺伝学の発見になった(P1個体群がヘテロ接合体であれば現在にも応用されている程正しい理解にならなかった)。また核DNA検査をすると言っても方法を確立されているモデル生物みたいなのは使用性の高い生物種系統が選ばれて研究されていて、クワガタなんかの染色体数が多く遺伝子配列の知見も少なく理解が難しい生物を莫大な時間と経費で調べられてきたモデル生物と同じ条件で容易に出来るかのように考える事も甚だ間違っている。これまでの科学史において生物学者らが人気生物で研究していたのを挫折しモデル生物研究に転向した例が多いのも様々な事を物語っているが研究資金が慢性的に集まりにくいテーマであるという事情は他分野への致命的遅れが原因なのだがあまり語られない。微視的形態であるDNAの検査が煩雑で金銭的コストや時間もかかって絵でしか結果が現れないのをいい事に強気な態度で汚言暴言を吐くなど威嚇をしている怪しげな人達も沢山いる(なぜ彼らはあんなに横柄なのか)。また他人の実験結果を鵜呑みにする人達は何なのか(なぜ読んで疑わないのか。なぜ他人に不要な労力コストをかけさせようと促すのか。客観的に見て金銭目的にしか見えず実験の信頼性が低い事を軽視するのは何故か。一般論からかけ離れ"一部虫屋だけの内輪やり取りという薄ら寒い印象"しかない。近年話題の「撮り鉄」を連想する)。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5fec7ae521fea2d483175de629902e1a77ee1f01

(一昔前、友人と"撮り鉄"のマナーに対する一般的な評判が悪い事について話題になり「虫業界はこうでなくて良かったですね」と言っていたのだが、、)

 今代は薬品処理により形態を容易に変える技術がある。交雑による育種に限らず遺伝子導入など遺伝子工学的な方法は様々容易になりつつある。酵素活性を増大させる遺伝子を別生物種から調達し、クワガタなどを大型化させるのは少し試行錯誤すれば造作無い。Overexpressionさせたり等やり方はいくらでもある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E5%BC%8F

 自然界で生物種が体サイズの平衡域を上げる等の進化は相当な世代数を必要とする。大体の昆虫は自然界だと10万世代程度では大きく形態を変えない。人工飼育下でのモデル生物からの検証でも安定した突然変異は数百〜千世代から僅かと相場が決まっていて、別昆虫の化石群からも然り分かる(飼育下の突然変異は殆どの場合自然界への適応度が低いから自然界では生き延びる確率が低い)。それがたった20〜30世代の個体セレクションや飼育環境の工夫だけで最大サイズの平衡域を10パーセント以上も上方シフトさせるなんてどう考えても土台無理な話である(可能なのはせいぜい平衡域サイズをうろつく程度)。

 情報不足でも思い込みでどんどん見知らぬ世界に踏み込んでしまう人々は多い。コロナ禍の情報でも似たような例をよく見る。熟慮は必須であるが、いつのまにか其れが軽視される危険な社会になってしまった。とはいえ自身で確かめられない事の方が多いから、特別な事を発信する場合は責任重大となる訳である。

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(ebayでとあるドイツ人から"パラワン島Dorcus sp.の♀"として落札した個体。形態的にはギラファノコギリクワガタの♀で「パラワンにも居たの?」となったが1頭きりで怪しい。ちなみにヨーロッパの各地博物館にも"ボルネオ島ギラファノコギリクワガタ"の記録がチラホラあるがボルネオ島から此の巨大種が新しく発見されている例は無い)

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(これもebayでとある中国人から"チベット産クワガタ"として落札した個体だが調べてみるとプラティオドンネブトの♀にしか見えない。ちなみに21.5mm。チベットからプラティオドン?本当に?聞いた事が無い。出品者はチベット産の特産種をよく出していたから変なものが混じり出してからは違和感があった。其の後、裏情報から件の中国人がヤフオクで落札したものをebayに出品していたという話を聞きつけ、飼育品を野外採集データに改竄されたりしていたらしかったため此の人物からの入手を一切辞めにした。中国の業者は最初は良くて段々悪くなるパターンと逆のパターンの2パターンがある)

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("ヘラクレスオオカブト原亜種"からとある太角血統の初期個体群の一つ。角だけでなく触角や前脚爪も全て極太になっている。一部ではなく先端のみを全て選択して変化させている。自然界や通常環境での奇形では先ず絶対的に見られない。だがどうやって作られたのか科学的には説明されていない)

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(2005年頃に譲り受けた"メキシコ産ヘラクレス"の飼育個体。其の当時業界が全体的に加担しかけた広範囲詐欺事件の物証である。エクアドルヘラクレスオオカブト亜種オキシデンタリスにしか見えない。当時は"メキシコ産ネプチューンオオカブト"などの死骸も出回った。こういうあからさまな詐欺が多くの愛好家から情熱を奪う。此の事件の後に私の飼育仲間達は殆ど全員が虫業界から撤退、近場の昆虫ショップも殆ど全て転業し、私も数年かけて生体飼育から一切撤退する事にした。所詮は趣味人の集まり、カネの為に巧妙な嘘を吐く人間を排除出来ない脆弱な業界と分かった為である。正直この一件以後、私自身には生体飼育する動機が見いだせなくなっている。先ずは自然界で起きている事を調べるべきと気づきがあった。人づてに聞いて分かる事は限界がある)

https://www.google.co.jp/amp/s/yomi.tokyo/agate/hobby10/insect/1102066088/1-/a

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(左下はジャワ島産で恐らくブケットフタマタクワガタとリノケロスフタマタクワガタの野外雑種と考えられ他でも同様の個体が稀に見られる。しかし右上は"スマトラ産WF1"という個体なのにジャワ島産の雑種にソックリである。セアカフタマタとリノケロスフタマタのハイブリッドでも同様の形態が出るのか、これは輸入ルートの信頼性も低く自身で実験した個体ではないから分からない)

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スマトラ島産の所謂"アンドレアスフタマタクワガタ"。セアカフタマタとリノケロスフタマタのハイブリッドと言われているが、マンディブラリスフタマタとセアカフタマタのハイブリッドと考えられる。"キルヒナーフタマタ"とは親の♂と♀の種が逆パターンとの予想である)

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(ちなみにスマトラ島産の"キルヒナーフタマタクワガタ亜種プロッシ"に近しい形態の個体。一応WF1だそうで88.3mmある。ちなみに交雑種に付けられた学名は国際動物命名規約第四版第一条で除外の対象となる)

 そもそも今代に昆虫を使用した研究が分類学と其れを踏まえた生物学くらいしか軸が無くなっているのは理由があって、単純な事を一つ言ってしまうと1960年に発見され庶民に知られない程度に活躍していたGFPの研究が2008年にノーベル賞を受賞し脚光を浴びた事で生物学内のパワーバランスが相当様変わりしている事情がある。iPS細胞の発見も相当な社会現象になったし他バイオ関連技術も凄まじい勢いで揃ってきた。こうして此のたった十数年の間に遺伝学や発生学また進化学にとって永らく謎だった生物の多様性について応用研究が瞬く間に流行り恐ろしいスピードで様々な謎を解いた。つまり主要な謎の殆ど無くなった「多様性」とやらは研究テーマとしては"残飯"めいた扱いになっている訳である(これがまた纏められきれていないから学生が苦労する)。"バイオミメティクス"というワードも近年盛んだったがコレも凄いスピードで消費された。SNSは沢山の人達が時代遅れな話題を延々と回し時間やコストを浪費ばかりしていて、なかなかこちらにやってこれない。

 とまぁそんなこんなあって現生種に対して熱を冷ましてしまいそうになるのを防ぐため私個人として随分長い間「虫入り琥珀」の出品を見てきている訳だから此処で話を転換するのだが、其方も資金面の難しさを考えて"殆どクワガタ縛り"にしている。「恐竜が居た白亜紀の間違いないクワガタ絶滅種」こんなに面白い話はなかなか無い。ネットを介し輸入的に入手をしているため変な物が混じったりトラブルがあったとしても自己責任が絶対的である。ただまぁ扱う個体数が少ないというのもあり、現生種と違って生物学的なトラブルも誤同定以外には殆ど無く、金銭的な事はPayPalが良い働きをしてくれているから今のところ問題が無い。


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(第一欠片の遠景。UVテストで表面が青く蛍光する)


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(第二欠片の遠景。UVテストの結果は同様)

 他の虫なんかも手をつけてみたいと考えたが良い虫入り琥珀は全般的に競争率が高い故に先立つものが多く"無い袖は振れない"という状況になりやすい。「これは調べたい」と思った琥珀でも高額であるどの琥珀も唯一無二性が非常に高く逃したら一巻の終わりだから緊張感がモノ凄くある。庶民的なジャンルでは先ず無いように思える。琥珀業を集中してやるにしても専門外の雑虫等(※私は本当は"雑虫"という呼称について会話上では使用性が高い今代だから使用しているが言葉に軽薄さを感じてしまいあんまり好きでは無い)について同定が難しいから敷居が高いし折角苦心して手にした琥珀を不特定多数の知らない人に売りたくない。また絶滅したとハッキリ分かる虫の琥珀は高額故に高級ジャンルとして流行っている訳ではない日本国内ではやはり扱うのが厳しい。

 とはいえ虫に詳しければ詳しいほど既知種には無いと分かる琥珀中の虫への感動は大きいし、虫入り琥珀について詳しいほどコンディションに対する評価目線が出来てくる。そして同定識別が容易に出来るものほど評価が高く、そういう琥珀は希少である。つまり資料性能が高い虫入り琥珀ほど原価も異常に高い。情勢なども調べ各メディアの中国寄りな欺瞞を分析し、また有史以前の絶滅昆虫であるから倫理的な事も大体クリアできる。

https://mypaper.m.pchome.com.tw/z2941z/post/1324338208

(國立台灣博物館にあるという"鍬形蟲入り琥珀"が紹介されているが3.5cmもあるらしい割にデータが示されていない。また触角も見えず脚も短くクワガタらしく無い。このサイズの甲虫で2013年展示となると一番考えられそうなのはコロンビア産コパルなど比較的若い樹脂)

http://zaphkielyang.blogspot.com/2013/04/blog-post_30.html?m=1

(同琥珀?の別画像が見える。脚の形態からして南米系のゴミムシダマシ科に見える。展示側は頭部形態のみで同定していて添付される解説は正確性に欠ける。先のURLで「クワガタが琥珀に入るのは珍しくないが、大抵が1cm前後なのに3.5cmもある」と誇らしげに解説されているが、そういう誤認をされていたならそういう解説も付くかと御察し)

 現地採掘現場を知ればミャンマー琥珀であるバーマイトは採掘労働者に対する同情をしてしまう。過酷な環境で何をしているのかもハッキリ分からずにひたすら岩を叩くのは辛そうである。

https://m.youtube.com/watch?v=-bBH7W55Nf4

https://m.youtube.com/watch?v=hLn0p8cKNXM

 ドミニカンアンバーやメキシカンアンバーも似た採掘場だが、ここまで過酷ではない。バーマイト業は中国経済に買い叩かれているからブラック業界化していると考えられる。

https://m.youtube.com/watch?v=HlYk76Wrbp8

 一方でバルト琥珀は海岸に打ちあがったものが拾われるだけだからそんなに辛そうではない。バルト琥珀で大きな制約があるとすれば虫入りなどのインクルージョンを含んだ琥珀が希少という事である。バルト琥珀採掘の歴史から見てもクワガタが入る事など信じられないくらいに少なく、ミャンマー琥珀の比では無い。

https://m.youtube.com/watch?v=2nRS2lUDe4M&feature=emb_title

 バーマイトに関する様々な経済状況は非常にブラック業界的で、翡翠なども似た状況にあるらしい。ミャンマーは鉱物が多種多様に産出するが、中国など他国に安く買い叩かれ、またカチン独立軍とミャンマー軍の衝突も背後には中国経済が関わっているとレポートが出ている(レドロードの一件等)。

 ブラック企業というのは今代の日本的に考えれば道理の通らない威圧、違法な薄給、労災無視などが想起されやすいが、単純な話として"ガス抜き"でコントロールされているというのもある。ブラック企業経営者の思想では現在雇用の社員を外国に飛ばして現地で会社を経営させようという計画があるのを聞いた事があるが、何故日本人が外国に行ってまでそんな事をする必要があるのか私にはとんと分からなかった。現地人にネットを介して色々情報を渡せば其れなりに有効利用されるから現地に居る必要が無いし、日本から離れた日本人は情報入手の質が外国レベルになるから儲け所が無くなる。

 バーマイト採掘場を見れば「そんな過酷な業界で働かずに別業界に行った方が良いんじゃないか」と思うが情勢もありそうはいかないのだろう。だがその情勢を作っているのは労働者らの資金源である。単純な話、大勢いる殆ど不労といって良い人々が暴利を掠めとるために技術者労働の価値を奪い取っている。これは日本でも同じ状況があり、日の目にあたりにくい技術職ほど蔑ろにされがちになりつつあるのが何ともよろしくない。日本で起こった好景気というのは技術革新が主な原動力だったのだが、様々な社会的構造上の問題で、今代は使用性や耐久性などが軽視されがちになってしまっている。

http://honne.biz/sp/

(最も重大な社会問題は"職業差別"であると考えられる。制度的・構造的な問題があまりにも根深い。SNSでお手軽にカルト宗教じみた活動が出来てしまうのも本当に良くない)

 しかし虫入り琥珀を顕微鏡でしっかり観察し、現地では調べられていないレベルまで細部を見ると各細部がどれだけ面白い状況をしているのかが目に見えて延々と飽きない。現生種昆虫でも遠景だけでは飽きが早いが実物の細部を観察している間は時の流れを全く感じない。大体の現地に近い売り手は、このように細部まで見たり研究的に虫の同定基準を理解していないから良い琥珀でも売却してしまうし、大体の原産国では相対的に高額故か買われないため原産国外に品質の良いものが流れてくる。

https://m.bilibili.com/video/BV1Cg411P7oM?from=seopage

(中国内で出回る琥珀はこの動画で紹介される程度が殆ど。おそらく触角など細部の観察が困難。彼らの殆どは体型と脚と頭部の形態だけでクワガタと判断しているから正確な同定にはなかなか行きつけない。明らかに良い琥珀は現地入りしている琥珀商が大抵の場合キープするので市場に出てこない。例えば私に良いクワガタ入り琥珀をオファーしてきてくれる優秀な人物は今は虫入り琥珀市場から身を引いているが、老舗宝石商で「クワガタよりもお金に興味がある」と正直に語ってもらえた。「現生種」業界の方面だと普通はカネカネと守銭奴くさい話ばかりする人間は信用ならないバイアスがかかって当たり前だが、送られてきた「琥珀」は実物を詳細まで観ても間違いなく本物であった。つまり例外的であった)。

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(最初に私を"世界のクワガタムシ"への興味に誘ったアフリカの広くに分布するサバゲノコギリクワガタ。普通種故に評価する人が少ないが初心を覚えている人ほど此の虫を高評価する。広域分布し亜種名もいくつかあるが数十頭ずつ並べても地域変異程度で亜種としての形態特徴は無い)

 なかなか出会えないものに邂逅するには自身の"業"を良くしておかねばならない。

【第陸欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が剛毅果断の気概を賭けて入手に成功した6個体目のクワガタムシ科入り琥珀右触角画像※1枚目:背面・2枚目:腹面(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

f:id:iVene:20220217125043j:image(体長約12mmのクワガタ。本体は樹脂の脱水収縮で潰れている。腹面は気泡が巻かれて腹節板が見えないが、触角は10節構成で第一節が細長く第二節との関節で膝状に曲がる形態・片状節形態から間違いなくクワガタムシと分かる。型としては1点モノで他に見た事の無い外形のクワガタ)

f:id:iVene:20211031143945j:image(触角の細部形態はニセキンイロクワガタHomolamprima crenulata MacLeay, 1885に似て、第八節から第十節にかけて肥大率が下がりキンイロクワガタ亜科的。大顎の雰囲気もドウイロクワガタに似ている)


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(ちなみに左触角は引っ込んでいて片状節形態が分かる程度。なお腹面からは樹脂の亀裂が遮り鮮明には見えない)

https://artsandculture.google.com/asset/homolamprima-crenulata-geoff-thompson-queensland-museum/xwGQv0A2bZ9cWQ

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(南米チリのドウイロクワガタ:Streptocerus speciosus Fairmaire, 1850も豪州のニセキンイロクワガタに似るが触角第七節の肥大が異なる。琥珀のクワガタはサイズ的にかなり離れ大顎もここまで大振りでは無いが最初に連想した種はこれだった)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。琥珀のクワガタは絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 同琥珀は大きく、白亜紀の双翅類(Diptera)?など沢山の虫群が同封される。蜂らしいのも見える。専門外は疎いので一応「?」を付ける。

 触角は10節構成で第一節が細長く伸び第二節との関節が膝状に曲がっている形態および片状節形態クワガタムシ科以外の別科には該当しない。ただ、これだけを観るとクワガタムシ亜科のそのものが系統化していたかのように見えるから勘違いする人もいそうだが、此の形態は単に普遍的クワガタムシ亜科の触角形態に偶然一致をしているだけでキンイロクワガタ亜科であるかもしれないから詳しい系統関係までは特定出来ない。ニュージーランドに分布するマダラクワガタ亜科の一部の種も微妙に似た感じの触角になっている。

 キンイロクワガタ亜科にはクワガタムシ亜科的な形態の触角をする種と、マダラクワガタ亜科的な形態の触角をする種がいる。蛹の形態や交尾器形態で別亜科にされているみたいだが、交尾器形態はどちらかというとマダラクワガタ亜科的である。今回の琥珀に入るクワガタの触角は、クワガタムシ亜科的でもあるしキンイロクワガタ亜科的でもあり、其れ等が分岐する以前の様々な触角形態を発生させる種系統の個体であった可能性もあり、ミャンマー琥珀から知られる琥珀種がそういう種内変異を持つ特殊な系統であったかもしれない可能性はそもそも交尾器形態の変異と特徴を定量出来ないから否定出来ない。もしかすると全く別の絶滅系統が収斂で似た感じになった可能性も考えられる。

 またクワガタムシ科はジュラ紀に出現し白亜紀にベースとなる分化をしたという現在の定説自体も実際にはやや信じがたい。というのも、白亜紀後期セノマニアン前期には体長10mmを越しクワガタムシ亜科の型になるような形態を獲得しているのは想像以上に早い段階で分化を始めていたという事を示唆するからである。最小で3.5mm程度のクワガタムシ科始祖が生じたと仮定するとその3〜4倍のサイズに大型化するのはかなりの時間がかかっていそうである。実際は更に古いのではないか。しかし白亜紀セノマニアンより古い確実なクワガタムシの化石は見つかっていない。

 そしてジュラ紀に出現したクワガタという根拠の既知化石種は論文を読んでみたり化石の画像を見る限りではクワガタムシ科の定義に当てはまるほど特徴が残っていない虫の化石で考察がなされているし記載文は曖昧な長い文章で読者の関心に煙を巻いてある。その殆どは北半球の虫の化石であり、別科甲虫の雰囲気がある化石ばかりで、クワガタとは確定出来ないように見える状態の悪い化石という問題も解決が無いまま種までの分類がなされている。北半球の化石を調べるのは良いが、質の悪い化石で分類をしていくべきではなく、南半球にあったであろう産地をメインに化石種を調べた方が良さそうな予感がする。少なくとも現状の南半球での化石調査は、あまり大規模とは見えにくい。

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【References】

Fairmaire, L. 1850. Description d'un nouveau genre de Lucanide. Annales de la Société Entomologique de France (2) 8:53-57.

MacLeay, W.J. 1885. Two new Australian Lucanidae. Proceedings of the Linnean Society of New South Wales 10(2):199-202.

G. V. Nikolajev, B. Wang, Y. Liu and H. C. Zhang. 2011. Stag beetles from the Mesozoic of Inner Mongolia, China (Scarabaeoidea: Lucanidae). ActaPalaeontologica Sinica 50:41-47

G. V. Nikolajev. 2000. New subfamily of the stag beetles (Coleoptera: Scarabaeoidea: Lucanidae) from the Mesozoic of Mongolia, and its position in the system of the superfamily. Paleontological Journal 34(Suppl 3):S327-S330

G. V. Nikolajev. 2007. Mezozoyskiy Etap Evolyutsii Plastinchatousykh (Insecta: Coleoptera: Scarabaeoidea) 1-222

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ白亜紀の10mm越えをしていて触角や大顎も発達したクワガタムシとしては私が初めて見た個体。

 出品者に自信があったようで其れまでに無い高額に気圧されそうになったが「背に腹はかえられぬ」と考え入手したものであった。とはいえ実は此れでも博打であった。出品時画像ではクワガタ個体が琥珀樹脂の深い部分にあった事と樹脂の流れた痕跡が縞状に入り内部の光屈折率を変えて見えづらかったので触角がブレて見えていた。だが普遍的クワガタらしい雰囲気の触角が見え、別科だったとしても興味深いと考え決断に至った訳である。

 手元に届いてから虫を見やすくする為に切削・研磨を行ったのだがミャンマー琥珀はなかなかに堅かった。琥珀が大きめだったので削る量が多く、また沢山の虫が同封されていたから最小限の切削にする。また貴重な琥珀だから絶対に壊してはならない。割れないように最終的な琥珀形態を予め設計する。綿密に計画を練って切削・研磨を行った。

 しかし最初にこの琥珀を見た時はまた驚きだった。白亜紀セノマニアンに大顎や触角がここまで発達していて10mm以上あるクワガタが居たなんて当時は全く知らなかった。そういうのも薄々いるかもしれないとは考えていたが、論文や報文どころか個人的知見も全く無いの状態で此のレベルの琥珀が出品されたのも意外で不意打ちであった。見る迄は白亜紀からはマグソクワガタ系などの原始的クワガタしか知らなかった為「インド亜大陸にまつわるプレートテクトニクス理論に間違いがあるのかもしれない」とも考えていたが、そうとも言い切れないと理解した。

 このように発見というのはいつも即物的なものだからNature誌やScience誌などのインパクトファクターの高い科学誌では画像図示などで済む話を長々と文章記述しないようにと言われている訳でもあるが、生物種分類学論文、特に昆虫類では読者の期待から外れ理解から遠くに行く論文が多い。

 さて、当ブログでの活動から分かる通り私は既に以前話した「ステルス式収集」を辞めている。私個人で調べたかった資料としては充分な収集が成っているからである。判別法等も記したが、これから如何なる世の中になるのかは時代の流れに任せてみたい。

VSCoincidence:偶然の一致」

 世の中には恰も最もらしい因果関係があるようで全く異なる因果関係や偶然に起こる現象に溢れている。解釈を間違えると致命的な誤認を促しかねないから、自然科学を扱う業界では因果関係がどのようなものであるか整合性を確認するために注意されている基本的な観念の一つである。

 関係する話では、虫を始めとした生物種の同定が難しいのは自然界での"変異"がどういう意味を含むのか分かりにくいからという理由がある。「変異を知っていても"破損形態"と"生物的形態"を見間違える人」も沢山見てきたが、予備知識の無い基本的な人間の認知能力は其れくらいが限界である。しかして"雰囲気同定"は大損の始まりである。

 そのように我々人間のような知的生物は「偶然の一致」を因果的なものと頻繁に見間違う。心理学においてカール・ユングの提唱した"synchronicity"があるが其方はあまり具体的な話では無く、科学では"coincidence"が問題になる。論理学においては例えば"同音異義語・同綴異義語"は最も分かりやすい「偶然の一致」の例であり、更にその中の例として"同姓同名の別人が此の世に居る"という事が其れの本質的証拠である。だから普通の社会では相手が察しにくい場合を配慮し、意味を説明して会話する事が最も普通の良心的コミュニケーションである。種小名の語源が分かるものと分からないもの(ニックネーム由来かもしれない等)が国際動物命名規約第四版で論理的に触れられているのはつまりそういう配慮を踏まえているという事である。同音異義語・同綴異義語は、一般的には文脈のみからでは意味を読解しきれない場合の方が多いが、天然思考をすると経験不足の直感による慢心的予断を行う事になってしまう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E7%B6%B4%E7%95%B0%E7%BE%A9%E8%AA%9E

 自然現象でも似たような事がある。例えばジェノコピー(遺伝子模倣)やフェノコピー(表現型模倣)。それを知らない人達は簡単に間違った種同定の解釈をしている。現生種生物の外形による見分け方が有効とは限らない事は隠蔽種生物の存在が証拠である。

 昆虫の生態でも、例えばカマキリは大抵の場合に交尾中♂が頭部から♀に捕食されるが、頭部を失って脳による思考的行動が出来なくなったとしても、立脚や交尾継続などある程度の行動は身体側に残る神経だけで出来るように構造上なっている。大抵の大型動物は様々な指令を身体側に下す脳を失うと身体機能を即座に失っていくから、昆虫で首無しの生態的行動を観るとまるで脳が無くても、或いは頭部以外に脳があって生き延びられるかのように錯覚するが実際はそういう訳では無い。

 これ等のように人間には予備知識無しに"偶然に起きた現象"と"因果的な現象"が一致していた場合に見分ける認知能力が無い。特に後天的な脳障害がある訳ではなく全ての人間が持っている人としての認知限界である。だから実際問題として正確性と想像力はトレードオフの関係であるという事を考慮しなければ誤解が必ず生まれる。

 視野狭窄な人達は調べる事について「広く」且つ「深く」知らないから勘違いしやすい。だが広く深くなんて難しいから謙虚にモノを見る事が慎重で良い方法であると先人は学び生きてきた。それ故に「木を見て森を見ず」という諺があるのだが近年のSNS界で其れをマトモに理解している人々は少ない。だから分の悪い賭けに夢を見て神頼みする人達が沢山いる訳でもある。

 私からしても、学者らによって出される「図示不足や一貫性の無い考察で作られた論文」と、詐欺師らが書く「悪徳商売目的の論文」とは見分けがつかず区別が大変困難と感じる事が多い。まぁ結局はどちらにしても読者を舐めたような態度が垣間見える論文だという訳なのだが。

https://twitter.com/terrakei07/status/1486595403877212160?s=21

 こういう誤認を利用する詐欺師が産地擬装など行い景品表示法違反で罰せられたり、研究不正をしてペナルティを受ける学者もいたりする。また"舞台に上がるオーディエンス"をエキストラにやってもらいあたかも奇跡を起こしているように見せかける「自作自演」的なマジックショーもある。純粋な一般人は是等をコロッと錯覚し簡単に騙される。自作自演を始めとした露骨なマッチポンプ某巨大掲示板"2ch"でも頻繁に見られ、私も遭遇した際はよく笑った。

 実在が証明された事の無い「神」という概念も様々な宗教で登場し、人間がたまたま"種としての生存率"を上げるために獲得してきた能力で得ただけの幸運を「神からの贈り物」と勘違いしたりする。科学的思考をすれば「神」なる概念を物理的に恒久的存在証明になる証拠が無いと分かる(居ないとも証明出来ないが)。"精神"というものに対する神秘性に価値を見出す人も多いが結局のところ色々な経験則から得た生存本能的意識の組み合わせ、つまり生物学的に無意識に起こる条件反射的思考を神秘と誤認しているだけに等しい。

 贋作の絵画や文書、また偽論理も人間の思考限界による誤認メカニズムが悪用されてしまい、詐欺的行いが横行蔓延する訳である。歴史認識でも同様の問題があるし政治利用も沢山ある。一瞬で解決しそうな歴史問題とやらが何十年も終わらないのは為政意識の強すぎる人達が誤認を促す事が原因である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3%E9%81%8B%E5%8B%95

 また、こと"歴史を政治利用する人達"は根源的調査を避けて「差別」という言葉を軽々しく意識から発露させ政治的に扱い陳腐化させる。そもそも差別的認知というのは人間を始め全ての知的生物が持っている本能的生物機能であり犬ですら"飼い主"と"そうでない人間"を差別的に対応する。どの"括り"が自身の生活にとって支障をきたすかは様々な経験学習で決まるから差別的思考をしない知的生物は居ないし差別的思考をしていないと証明出来る人間は居ない。つまり個々でどれだけこの鬱陶しい話題に怒りが溜まろうとも表現上では自身で気をつけるしか無いのだが、此の知的生物の本能的行動の一つであるグルーピングの思考を完全に失くせると勘違いしている人達は多いし、分かっていて悪徳ビジネスに利用する輩も多い。

https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcSCTyi4vnmYkJ9naq4c6uxv3Tm15Xzeoz8YJg&usqp=CAU

 世の中めんどくさがって正解を出さない人や、成果を焦って間違いに気付かない人達は、このように"洞察力"という幻影に惑わされ続ける。人間は予備知識で色々な見通しを立てているだけで洞察能力なんてものは持っておらず、客観的に見れば"其のエスパーじみた洞察的行為"が因果的に起きているかのように誤認されているだけである。似た誤認が「独創性」という単語の使用でも見られる。客観的に見れば独特な製作物も、どこかからのアイデアを真似て少し突飛な組み合わせにしてあるだけである。よくよく考えてみると思考上では単純な事しか出来ず人間とは案外に機械的と思わされる事の方が多い。実質的には如何なる作品にも独創性は無く、非常に独創的に見えたとしても沢山の単純アイデアの複雑且つ過密な組み合わせで構成されているだけで「独創」そのものでは無く、あくまでも「独創的」に作られているのみに留まる。

 また自然科学の世界では"真実はいつも一つ"である。真実とは事実の集合体である。だから「沢山の真実がある」というような嘘くさい解釈をするのは「想像と現実をハッキリ区別して認識出来ない人間を始めとした知的生物の脳内思考だけ」である。全ての人間を含め知的生物は誤認をしたとしても「自身にとって都合の良い解釈」になるように進化上で"思い込みをしやすい生態"の形質を獲得したのが原因である。だからcoincidence検証による消去法的思考が必要になり、不足している考察はウソッパチである例が多い。

 詐欺師が他人を騙す悪事はこのような人間の誤認を利用して行われる。オレオレ詐欺を始めとする振り込め詐欺は全くの典型例である。"詐欺師"は此の誤認メカニズムをフンワリ理解しているため"社会的正義の雰囲気"を模倣し積極的に他人を騙そうとする。悪質カルト宗教が擬似科学を用いてマルチ商法をしているのも正にそういう詐欺である。

 客観的にありとあらゆる森羅万象の物性物理は動物の意識の上にではなく物理法則の上に成り立っているのだから嘘を決して吐かない。立場の高い人が詐欺師ならば追随する人達も意図せず詐欺師になり一般社会は混乱の極みを呈し出す。悪因悪果*そして天網恢恢疎にして漏らさずという訳である。

 ところで日本の仏教的地獄観というのは道徳的によく戒められるべき行いを示している。以下に引用するので興味があるなら読まれたい。

大叫喚地獄

殺生・盗み・邪淫・飲酒に加えて、嘘をついて人をだますなどの「妄言」の罪が加わった者が落とされる大叫喚地獄に付随する小地獄。「他人の田畑を奪い取るために嘘をついた者」などの細かい条件によって十八種類の小地獄が用意されている。ここのみ二種類多いことになるが、本来黒縄地獄に入れるべき物が混ざったのか、理由は明らかでない。 叫喚地獄の10倍の苦しみ。

吼吼処(くくしょ/こうこうしょ)
恩を仇で返した者、自分を信頼してくれる古くからの友人に対して嘘をついた者が落ちる。獄卒が罪人の顎に穴をあけて熱した鉄のはさみで舌を引き出し、毒の泥を塗って焼け爛れたところに毒虫がたかる。

受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)
嘘をでっち上げて、目上の人を陥れた者が落ちる。獄卒に打たれて傷つくと、その傷口に草を植えられる。成長し根を張ったところで引き抜かれる。

受堅苦悩不可忍耐処(じゅけんくのうふかにんたいしょ)
王や貴族の部下で、保身のために嘘をついた者、またはその地位を利用して嘘をついた者が落ちる。叫喚地獄同様に罪人たちの体内の蛇が動き回り、肉や内臓を食い荒らす。

随意圧処(ずいいあつしょ)
他人の田畑を奪い取るために嘘をついた者が落ちる。さながら鍛冶師が刀を作るときのように、罪人を鉄に見立てて火で焼き、ふいごで火力を強め、鉄槌で打たれ、引き延ばされ、瓶の中の湯で固められ、また火で焼く、ということが延々くり返される。

一切闇処(いっさいあんしょ)
婦女を犯して裁判にかけられながら、王の前で嘘をついてしらを切り通し、かえって相手の婦女を犯罪者に仕立て上げた者が落ちる。頭を裂いて舌を引き出し、それを熱鉄の刀で引き裂き、舌が生えてくるとまた同じ事を繰り返す。

人闇煙処(じんあんえんしょ)
実際は十分に財産があるのに財産がないと嘘をつき、本当は手に入れる資格がないものを皆と一緒に分け合って手に入れた者が落ちる。獄卒に細かく身体を裂かれ、生き返るとまだ柔らかいうちにまた裂かれる。また、骨の中に虫が生じて内側から食われる。

如飛虫堕処(にょひちゅうだしょ)
穀物であれ衣であれ、サンガの所有物によって商売を行い、安く買い高く売り、得たものをサンガと共有せず、「儲けがなかった」と嘘をつく者が落ちる。獄卒が罪人を斧で切り裂き、秤で計って、群がる犬達に食わせる。

死活等処(しかつとうしょ)
出家人(僧侶)でもないのにその格好をし、人をだまして強盗を働いた者が落ちる。獄卒に苦しめられる罪人たちの前に青蓮華の林が見え、そこに救いを求めて駆け寄ると、炎の中に飛び込むことになる。また、両目をえぐられ両手足も奪われて抵抗できないまま焼き殺される。

異々転処(いいてんしょ)
優れた陰陽師で正しく占うことができ、世人の信用を得ていながら、占いで嘘をつき、国土や立派な人物を失う原因を作った者が落ちる。目の前に父母、妻子、親友など(の幻)が出現するので、救いを求めて駆け寄ると灼熱の河に落ちて煮られる。再生して河から出ると、再び同様の幻が出現し、駆け寄ると地面の鉄鉤で切り裂かれる。また、上下からの回転ノコギリ(のようなもの)で切り刻まれる。

唐悕望処(とうきぼうしょ)
病気で苦しんだり、生活に困ったりしている人が助けを求めているのに、助けると口先ばかりで嘘をついて、実際には何もしてやらなかった者が落ちる。目の前においしそうな料理が出現するので駆け寄ると、途中に生えた鉄鉤で傷つき、しかもたどり着くと実は料理に見えたのは熱鉄や糞尿の池で、その中に落ちて苦しむ。また、夜露をしのぐ家を貸すといって貸さなかった者は、深さ50由旬の瓶の中で高熱の鉄汁に逆さまに浸されるなど、嘘に応じた罰がある。

双逼悩処(そうひつのうしょ)
村々の会合などで嘘をついた者、悪口を言って集団の和を乱した者が落ちる。炎の牙の獅子がおり、罪人を口の中で何度も噛んで苦しめる。

迭相圧処(てっそうあつしょ)
親兄弟親戚縁者などが争っているときに、自分の身近な者が得するように嘘をついた者が落ちる。罪人に騙されたものたち(本人かどうかは不明)が出現し、罪人の肉をはさみで切り取って口の中で噛んで苦しめる。切り取られた肉片にも感覚がある。

金剛嘴烏処(こんごうしうしょ)
病気で苦しむ人に薬を与えると言っておきながら与えなかった者が落ちる。金剛のくちばしを持つカラスが罪人の肉を喰う。喰い尽くされると罪人は復活し、また始めから喰われる。

火鬘処(かまんしょ)
祝い事の最中に法を犯しておきながら、しらを切った者が落ちる。獄卒が鉄板と鉄板の間に罪人を挟み、くり返しこすって血と肉の泥にしてしまう。

受鋒苦処(じゅほうくしょ)
布施しようと言っておきながら布施をしなかった者、布施の内容にケチをつけた者が落ちる。獄卒に熱鉄の串で舌と口を刺される。嘘をつくことはおろか泣き叫ぶこともできない。

受無辺苦処(じゅむへんくしょ)
船長でありながら海賊と結託し、船に乗っている商人達の財産を奪った者が落ちる。熱鉄の金箸で吼々処のように舌を引き抜かれる。いくら抜いても舌は再生し、そのたびに抜かれる。さらに目を引き抜いたり、刀で肉を削られたりする。

血髄食処(けつずいじきしょ)
王や領主の地位にあって税物を取り立てておきながら、まだ足りないと嘘をついて多くの税を取り上げた者が落ちる。黒縄で縛られて木に逆さづりにされた上、金剛のくちばしのカラスに足を食われる。罪人は流れてきた自分の血を飲むことになる。

十一炎処(じゅういちえんしょ)
王、領主、長者のように人から信頼される立場にありながら、情によって偏った判断を下した者が落ちる。10方向から炎が吹き出して罪人を焼き、罪人の体内から11番目の炎が生じて口から吹き出し舌を焼く。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E5%85%AD%E5%B0%8F%E5%9C%B0%E7%8D%84より引用抜粋

 大抵の人が陥りやすい落とし穴だが、戒めが足りないと人間は必ず偶然の一致を因果的なものと想像で決め付けて勘違いする。対抗意識本意で社会を生きる人達や競争を好き好んでやる人達は殆ど此の落とし穴に嵌っている。

【第伍欠片】約4千万年前・始新世のクワガタムシ科入りBaltic amberについて

 写真の標本はバルト琥珀で私個人所蔵のクワガタムシ科入り琥珀としては難行苦行の末の5個体目。特異的な触角の形態から不明種としてのSucciniplatycerus sp. またはS. berendti (Zang, 1905)のどちらか。生物種の特定までは不可能。属和名を付けられた事は無いと思うが、ここでは属名原記載での説明に従い「コハクルリクワガタ属」と訳しておきたい(琥珀に限らない場合を考慮して「カセキルリクワガタ」でも良いかもしれない)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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(体長は約14mmで♂個体。※当記事での画像以外は秘密)

 顕微鏡で覗くと数マイクロメートル単位まで詳細に構造が見える。琥珀内には植物片や、樹脂の流れでバラけた2mm程度のキノコバエ(Sciaridae)?の破片が2頭分混入している。

 産地はリトアニア沿岸部のバルト琥珀。高額だったが私自身人生をかけて探していたものだったから価格からの躊躇は無かった。化石業界の事情でミャンマー琥珀からの「クワガタ入り琥珀」という誤同定のケシキスイ等が入る琥珀が多数出品された経緯があり業界人各位はクワガタムシ科とそれ以外の甲虫との区別点を知らない人ばかりのようだったため本当のクワガタ入り琥珀時価は相当に足を引っ張られ下げられた状態である。しかし後述にもするがバルト琥珀からのクワガタムシ科絶滅種はミャンマー琥珀の其れよりも出会える確率がずっと低い。

 出品された事を知った時は私自身もあり得ないほど驚いた。何故出品されたのか。出品者はゾウムシやカミキリムシの絶滅種に造詣が深いようだった一方で、Succiniplatycerus属を知らなかったあたりクワガタについては詳しくなかったと思われる。また中国人出品者らがクワガタでは無い「クワガタ」入りミャンマー琥珀を多数出品したため焦って出してしまったのかもしれない。とはいえ富豪でも無い私一個人には高い買い物だったので、相当にバルト琥珀の鑑定法を予習し、再現性のある実物での鑑定法を理解した。様々やって漸く価値を担保出来る。鑑定を他人に丸投げする他責的なコレクターが多いので偽物の流通が収まらないが、まぁ其のおかげで希望の品を実際の価値よりもずっと安価で入手出来たという事情もある。

 やや煩雑な検査法だが赤外線吸収スペクトル測定による分析ならば、バルト琥珀であれば他産地では見られない「バルティックショルダー」と呼ばれる波形が見られるという話、また再生琥珀等で作られた贋作の虫入り琥珀は接着剤の成分が混入していたとの報文が出ている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E5%A4%96%E5%88%86%E5%85%89%E6%B3%95

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1386142518301707

https://www.semanticscholar.org/paper/Identification-Characteristics-for-Amber-and-its-Li-Wang/413f750ef8874a50e3f957a62fa1783b1e2b8925

 また中身の虫が絶滅種ならば同定は殆ど安心である。クワガタムシ科の場合だと現生種の網羅率が高いから他の昆虫よりも検証が容易という要素も大きい(本当は色んな虫の分類を知りたいが業界は人気生物ばかりに研究テーマが偏りがちである)。なお現生種を大量に集めたり知り合いに見せていただいたりして未記載種を含め1500種近くのクワガタムシ科甲虫個体群を網羅的に観察してきた私などは有利である。観察や考察はなるべく多く且つ根源的である方が良い。

 加えて公式的に調べられるクワガタムシ科の定義はネブラスカ大学のページにあるクワガタムシ科やコガネムシ上科の比較説明が参考になる。ここで参考にされている南北アメリカ大陸のクワガタムシ科には全ての亜科があり、また化石種に似た形態のものもいる。このページに関しては私の研究活動に役立てる事が出来たから高く評価したい(※爪間板に関する記述は一部の近縁別科に特異的であるためか省略されているが、本来は具体的に示されているべきである)。

https://unsm-ento.unl.edu/Guide/Scarabaeoidea/Lucanidae/Lucanidae-Overview/LucanidaeO.html

https://unsm-ento.unl.edu/Guide/Scarabaeoidea/Scarabaeoidea-pages/Scarabaeoidea-Key/ScarabaeoideaK.html

 琥珀に入る原始的なクワガタ達は素人眼にはクワガタムシか否か分かりにくい。だから誰にとってもかなりの予習が必要になる訳だが、誤認常習者や詐欺師による検索妨害的な情報拡散が多く、なかなか情報収集になりにくい。まぁこの業界の詐欺師というのは使い回すフレーズがワンパターンでいかにも香ばしい連中であるから普通の社会人なら看破しやすいが、虫の同定となると条件が変わってしまい一般庶民には識別が難しい。

 また深くサーチしてみれば分かるが20〜30欠片近く出土していると噂のミャンマー産クワガタ琥珀とは異なり、バルト琥珀やドミニカ琥珀に入るクワガタというのは全くと言えるくらいに情報が無い。採掘場では既に大量の琥珀が産出しており、努力すれば見つかるという次元のクワガタでは無い。私は画像だけでも見たいと20年近く延々と探して見つけたが、入手まで出来た事は非常に運が良かったと考えられる。能動的に入手しようとすると想像を絶するキツさがありそうだ。ドミニカ琥珀は未だ採掘の歴史が浅いから仕方ないが、バルト琥珀はこれまでに少なくとも10万トン(=100億グラム)は産出しているとされる。このクワガタ琥珀は約3.44グラム。歴史上1800年以降の記録から分かる「バルト琥珀にクワガタが入る率」は100年にほんの数個?程度で、1800年以前の記録は全く無い。全体から見ると相当な低確率と分かる。バルト琥珀がこれまでに10万トンが産出しているとされる一方で未だ50〜60万トンが未産出で自然界に眠っていると推定されている。逆算すればクワガタ入りバルト琥珀は自然界ストックを含めても数十片も存在しない見通しがなされ、産出されきるまで未だ数百年はかかりそうという見通しがなされうる。

 さて、当記事主役のクワガタの体長は約14mmとルリクワガタ類では大型個体、最大体幅は約6〜7mmありルリクワガタの仲間では突出して幅広い、さらに大顎は鸚鵡の嘴のように太短い。また特筆すべきは他にない分厚さでボッテリ太ったような形態、それに鞘翅だけで長さが10mm近くあり、鞘翅外縁形態もこのサイズ感だと他では別科甲虫ですら見た事が無いような変わった形態をしている。ここまで大きな絶滅種クワガタが入った琥珀は初めてだったから其れは感動が凄まじかった。これが約4000万年前の始新世に生息し、現在は絶滅して居ないリトアニア産コハクルリクワガタ属の1種1個体なのだと。既知種ベレンティコハクルリとの関係性は不明で、同種かもしれないし別種かもしれない。虫体は構造が組織分解しているため取り出せない。遺伝子は半減期により殆ど全て残っていないし琥珀内なのでDNA配列の痕跡はコンタミして正確に読み取る術は無いと考えられる。しかし極めて珍しい事に交尾器硬質部位の先端が見えており、ルリクワガタ系の♂とまで分かる

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(♂交尾器の側片と陰茎の一部※背面。天然琥珀内の昆虫、特にクワガタで雌雄が明らかに判る標本は極めて稀)

 虫のコンディションは約4000万年に亘る樹脂の脱水収縮によりヒビが入り、また頭部など部分的に乳白色の濁ったような異物が付着している。だが変形は殆ど見られず部分的に金属光沢が健在ですらあり、保存状態が虫入り琥珀にしては最高クラスに近いと考えられる。

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(およそ四千万年も古くの虫個体とは思えないくらいに保存状態が良いが、顕微鏡を使い更に眼を凝らして細部を見ると虫の翅表面に細かいヒビ割れが走っている状態が分かる)

 現生のルリクワガタグループでは見られない程の巨躯であり、実物を観察したときには先ずそこに驚きがあった。そんなに体積のあるルリクワガタが居たのかと。なお触角第6〜7節が殆ど肥大せず、8〜9節で急激な肥大をしている点で、この属は判別が容易。その特徴は現生のコツノクワガタ類などの祖先に近縁で南半球に居ただろう白亜紀クワガタムシ亜科型個体群も同様である。この触角第7節が肥大する傾向は現生種では普遍的多数派である。発達以前の始新世より古い段階で分化したはずの各系統で各々が並行的に収斂進化を成している事は、変化する環境適応のために馴化的変化をしたような変遷を呈している様で面白い。

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(鮮明に見える触角。クワガタムシ科以外ではあり得ない形態。ルリクワガタ的な片状節でありながら全体的に見ると現生のルリクワガタには無い触角形態。1990年のNikolayevによるSucciniplatycerus属記載はたった1頭分のスケッチと記述の参照で記載され属内変異を考慮されていないから一致する属の特徴は第七節くらい)

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(しかし体躯は現生種では見られない形態なのに、まるでついさっき固まったかのように時が止まっている琥珀内景に感歎が絶えない)

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(前脚ケイ節の形態も現生のルリクワガタグループでは見られない形態)

 また♂交尾器は全ルリクワガタでは小さい方で、体躯の大きさからは想像しづらいサイズである。前脚脛節外縁の棘列状態は現生種のルリクワガタグループでは見られないパターンであり、現状で見知る個体群のみからの比較観察ではコハクルリクワガタ属種にのみ特異な形態と考えられる。

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アメリカ合衆国カリフォルニア州に分布があるポタックスニセルリクワガタ:Platyceroides (Platyceroides) potax Paulsen, 2014. ♂個体11.4mm。触角第七節は同属内で控えめな方の種だがしっかりと発達が見られる。かなりおおまかなプロポーションは今回記事にする琥珀内のクワガタに似る)

 なお、此の琥珀からはクワガタが埋没した時の状況が少しだけ分かる。クワガタ頭部より前方に葉のような破片、重力で埋没した方向が分かる生物的な移動以外の移動痕跡、小楯板の辺りから出る気泡の形態から分かる埋没時の上下方向、そして埋没時は暫く生きていて溺れ苦しむ姿勢。おそらく飛んできて葉か何かの破片に掴まったところで、自重で下に流れていた樹液に其の破片ごと落ちて流されてしまったと考えられる。腹面が樹液に入り苦しみ暴れる最中に、上から更に樹液が流れて完全に埋没した様子が読み取れる。綺麗に埋没しているのは、異物混入少なく液性の高い樹液に埋没したためと考える。約4000万年前の正確にはどれくらい昔なのか分かる術は無いが、その時起こった事が様々な痕跡として保存されている。

 ルリクワガタ類はクワガタムシ科の中ではやや古い段階で分化したグループと推定されておりキンイロクワガタ亜科グループと近縁だったらしい。始新世から現生種まで似たままであるという事も古い系統だと示唆している。また北半球にしかいない事から、インド亜大陸ゴンドワナから分離して以降に出現し、ローラシア側へ繋がってから北半球広域に分布を広げていったと考えられる。現在はバルト海底に沈む大森林には始新世の其の昔、ルリクワガタの進化系統がインド亜大陸から北上して到達したと考えられる。

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リトアニアを含め広大なエリアに分布するカプレアルリクワガタ:Platycerus caprea (DeGeer, 1774)。画像のリトアニア産個体群は偶然そうなのか紫色が強い。ヨーロッパでの同属現生種は種数が少ないが、太古では様々いたかもしれない。現生のルリクワガタ属が小型種ばかりなのは何が原因しているのだろうか)

 人間が出現するよりもずっと昔の始新世の時代はどんなだったろうか。クジラの祖先が4本の脚で陸上を歩いていた様はどのようなものだったのか。色々な想像を引き出され、まさにロマンの塊とも見える。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9%E4%BA%9C%E7%9B%AE

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【References】

R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205

G. B. Nikolayev. 1990. Stag Beetles (Coleoptera, Lucanidae) from the Paleogene of Eurasia. Paleontological Journal24(4):119-122

Paulsen, M.J. 2014: A new species of stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from California. Insecta mundi, (0358)

DeGeer, C. 1774. Mémoires pour servir à l'Histoire des Insectes (tom.1-7. 1752-1778). Hesselberg, Stockholm 4:1-456.

【追記】

 生前の姿が殆ど変わっていない約4000万〜4500万年前の始新世にいた美しく金属光沢を放つクワガタムシ。バルト琥珀の其の実物を自由に観察出来るなんて昔は思ってもみなかった。

 近年はルリクワガタ類について適切な図示・考察を省き、形態が簡単に変形し尚且つ種内変異もある内袋と微妙な外形の差異だけで新分類群が記載されている事が多く、昔は熱意を持ってルリクワガタ属を見ていた私の友人もやる気を無くしていたが、私の琥珀標本を見て感動を取り戻していただけた。どんなルリクワガタよりも始新世の個体がズバ抜けて一番評価が高い。

 ちなみに私は有史以前に絶滅したクワガタムシ入りの天然バルト琥珀を20年近く追っていたので出品されたのを見つけた時は驚きが凄まじかった。

 回想すれば長いが最初に私が虫入り琥珀に興味を持ったのは私が虫界に興味を持つより昔の話。もう27年以上前になるがドミニカンアンバーの虫入り琥珀を手にした時である。何処か忘れたが博物館の売店で売られていた安物だった。「琥珀に虫?琥珀って?」という初心ながら興味を持ったが其の時代は虫入り琥珀はあまり出物が無く、またインターネットが流行り出したといっても紹介に出てくる"琥珀"はどれもこれも偽物くさい"羊頭狗肉"な業態を呈していた。出鼻を挫くように「贋作が出回る」という情報が沢山ある中で"人の主観"以外の真偽判定法が安定した情報になっていないなら本物なんて分からない。当時は文献も少なくそこそこ情報密度が高かったのがゲームボーイRPGゲームの一つ「ポケットモンスター」に登場するアイテム"ひみつの琥珀"であった。当時其のゲームシナリオではどうやって虫入り琥珀から巨大な翼竜ポケモンが復活するのか解説が見当たらず意味不明だったが映画"ジュラシックパーク"のオマージュだったという事から理解した。"ジュラシックパーク"の映画の方がまだ理解を促したが完全な論理的シナリオでは無く、やはりフィクションである(琥珀を削るシーンがあったがあんなに簡単に削れる訳が無い)。ちなみにDNAの半減期は521年であるため所詮はフィクション、数千万年以上昔の化石生物種の復活は現実的に不可能である。

http://sumaburayasan.com/archives/23684166.html

 その後、現生のクワガタムシ科にドハマりしていた私はとにかく色々情報を集めた(香ばしい連中も多かったが今と違い避ける方法はあった。最近は"羊質虎皮"の香ばしい人達が多いから大変である)。しかし不意に"ebay"に出会う訳である。たしか2002年だったか、当時のebayには現生種昆虫個体群が少ない一方でヨーロッパの化石商が沢山の化石を出品していた。当時は高額だった世界の昆虫収集など金持ち趣味であり一般庶民のする事では無いという社会通念が普遍的だった一方で化石は管理が易しく、葉っぱの化石なんかは採集が簡単で低コストでもロマンのある話題になっていたため収集が流行りだった。そして中には虫入り琥珀があり、忘れもしない出品に出会う。サイン付き鑑定書がついた「10mm程度のカマキリ成虫全身入りバルト琥珀」(※鑑定書が真偽の担保になっているとは限らない)が信じられないくらい白熱したオークションを呈し、10€スタートだったのに30人以上の参加者によってアレよアレよと入札が入り10,000€を軽く越えて落札されたのだ(当時のレートで120万円程度)。外国産現生昆虫が日本に入ってきて間も無かった時代、私は世界のクワガタにすら感動していたのに「虫入り琥珀だなんて」と、とんでもない世界を知ってしまったと思った。しかし同時にクワガタムシ入り琥珀があれば見てみたいと考え、どうせ買えないだろうと思いつつ探してみた訳である。まぁ文献などでも全然記載されないのだから有る訳が無い(出物があったとしても一見して現生種が入る贋作であった)。だがいつ出てくるか分からないというのは、それまでの私の経験則からすぐに考えられたので誰にも話さず(当時お世話になっていた人達にすら)極めて秘密裏に探索をすると戦略立てた訳である。しかしステルス式収集は収集活動の基本中の基本である。最初から高額である故に買えない事の方がありうるが、画像を見る価値はあるし、それにもし同定ミスで出てきたら買える値段かもしれない。しかし競合する人がいたら先ず入手出来ない。誤同定も多かったのに分類学の情報もそんなに入ってこないから殆ど独学を試される条件であった。自身の知識をブラッシュアップするためには知りうる限り出来うる限りの事をなるだけ全て行なう。当該琥珀を見つけるまでは色々な虫入り琥珀を無尽蔵に見てきたが専門外の虫は分からない。化石種にも色々いるんだな〜と感心しつつ自身の知識になりにくい虫ばかり見て結構な苦行にもなっていた(現生種の生物学的特性を知らずして化石種分類は語れない。「自身で理解しきれていない」と解る虫を延々と見つづける苦痛は凄まじい)。しかし2010年頃からのミャンマー琥珀大量出品と其れに伴う誤同定頻発大暴落事件が後年の虫入り琥珀全体的な相場低迷のキッカケになったのは私にとってまるで神風だった。他琥珀についてもそうだが全ての状況が私の活動の追い風になってくれた。

 私が此のクワガタ琥珀を見つけたのは仕事終わりで疲れ眠そうにチェックしていた時だったが、気づいたと同時に条件反射的にスッカリ目醒め人目を憚らず叫んでしまったくらい驚いた。どこからどう見ても本物の虫入りバルト琥珀で、私の見た事の無いクワガタが入っていたからだ。コレほど私を驚かせた虫個体は他に無い。是非も無く自身でバルト海沿岸で採集した訳ではないから読者には大して参考にし辛く面白い話では無いかもしれないが、産地の光景を見ても分かるようにコレを原産地で見つける自信なんて私にも全く無い。しかしてだから私の人生にとってはまさしく「ラーの涙」、大切な資料なのである。

https://karapaia.com/archives/52210511.html

【雑記】

 当ブログ記事では現生種の画像もブログだから図鑑式の図示をしていないし、琥珀内クワガタに至っては部分的にしか載せていないが理由は複数ある(見れば容易に分かるのだが図鑑という割に役に立たない物も多いが)。全身を公開しない事については「意味が薄いから」というニュアンスの理由を以前に書いたが、個人的にも「非常に苦労して入手した物品を勝手に利用されたくない」という理由もある。大抵の大コレクターが秘蔵にする理由も似た理由である。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.cnn.co.jp/amp/article/35120409.html

 例えば恐竜の全身骨格等を個人収集している人がいるのを非難する研究家がいるが、私に言わせれば「文句言わずに協力してもらうよう交渉するか協力拒否されてるんなら自分の仕事をキッチリやれ」としか思えない。そんなに見たいなら原産地に行って探すという手段もある。「自分は賢い頭脳を持っているんだからつまらない仕事に引っ張られるのは嫌だ」みたいなアカデミックハラスメントを恥ずかしげもなく公言する学者・研究者がアホらしくて見せる気を喪失している人達も多い。貴重な資料でなくとも研究テーマはある。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/101400601/?ST=m_news

 大富豪のコレクターが良い資料を集める事は其れに違法性がまとわりつかない限り悪い事ではないと私は考える。むしろこんな世の中で科学への関心を忘れないでいてもらえるのはありがたい。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.sankeibiz.jp/macro/amp/170704/mcb1707040500003-a.htm

 彼らは確かに権威を示したいがために貴重且つ目立つ資料を集めるという動機もあろうが、知識欲があって標本を欲しいという動機も必ずある。だから学者や研究家の立場であったとしても彼ら富豪コレクターの自然科学への興味を無視して無下に扱う事は非科学的であると瞬時に分かる。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.cnn.co.jp/amp/article/35178434.html

 また大コレクターの場合は頻繁にコレクションを秘蔵にする。私も特別殆ど誰も知らないような資料群の秘蔵をやってみて理解したが、自然や科学に対し不遜な態度をする人達が如何に大量にいるかという不快感に気づきがあった。他方「秘蔵をするなんて独りよがりだ」という人達の意見も分からなくは無い。しかし「なんであんな偉そうに馬鹿な事を言える人達に見えるよう大切な秘蔵資料を見せなくてはいかんのか。検閲のつもりなのか」と怒りすら湧いてくる我々側の意見も汲んで欲しい。だから信用出来る人物にしか見せない。秘蔵は正当防衛でありうる。

https://www.afpbb.com/articles/-/3170946?cx_amp=all&act=all

 単純に純粋な興味で大コレクターの秘蔵資料を見たい人達が其れ等を見る事が出来ない理由は馬鹿な人達の活動から広がる波紋のトバッチリである場合が多い。恨むなら不遜で夜郎自大な人間を恨むべしという結論であるが人間社会とはそういう生き物が構成するモノだからいつの時代もそうなる。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.afpbb.com/articles/amp/3309616

 博物館に寄贈するとした大コレクターも拘りの個体群だけは先んじて他に回されうる。まぁ大切な個体群を失礼な人達に見せる意味は無い。博物館の所蔵庫で他では見られない驚くべき資料があった場合、其れは大抵が高額取引が成立して博物館に入ったものである(稲原コレクションやBomansコレクション等)。

https://toyokeizai.net/articles/amp/414929?display=b

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(ハワイハネナシクワガタ不明亜種?:Apterocyclus honoluluensis ssp.?。変わった個体群。ハワイハネナシクワガタはいくつかの既知種があるが未だ見つかっていない種はいると考えられる。様々なところで紹介される多くの個体は"コケ"という割と出入りしやすいエリアだが、画像の個体群は谷と山をいくつか越えた奥地で得られたものである。見て分かるとおり後脚が太短く、また傾向として前胸背形態がやや角ばる。其の山の個体群はそうなるのだとか。実は手前の個体は私が標本を再形成しているが、図鑑に掲載された書載モノで、近年に売られていたものである。念のため2オス入手しておいた。曰く成虫の発生期は雨季であり歩行性特化のハワイハネナシクワガタは水浸しになった低標高に降りられず隔離が起こっているのだろうという話で"未記載亜種"を予想されている。たしかにコケのポピュラーな個体群と交尾器形態は変わらないが外形は結構異なるように見える。ちなみにコケと此れ等の産地の間の山や離れた場所の個体群も変わっている。個体数が少ないのだが、採集された後年に道が土砂崩れで通れなくなり復興もされないから追加採集出来なくなったという貴重なクワガタである。こういう資料ほど博物館にはなかなか入らない)

【References 2】

Waterhouse, C.O. 1871. On a new genus and species of Coleoptera belonging to the family Lucanidae from the Sandwich Islands. Transactions of the Royal Entomological Society of London :315-316.

Paulsen, M. J., Hawks, David C. 2014. A review of the primary types of the Hawaiian stag beetle genus Apterocyclus Waterhouse (Coleoptera, Lucanidae, Lucaninae), with the description of a new species. ZooKeys 433: 77-88.

【第肆欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が大惑不解を乗り越え入手に成功した4つ目のクワガタムシ科入り琥珀触角等画像(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。


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f:id:iVene:20220126005126j:image(マダラクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体は頭部が気泡に巻かれて見づらいが第一節に剛毛が無い等の触角形態や爪間板が有る事で近似するコブスジコガネ科とは異なると分かる。型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタ。サイズはマダラクワガタグループはじめクワガタとしては最小クラス)

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f:id:iVene:20220125221739j:image(実際問題として画像からも分かるように、触角などの細部形態も変形している事は多々ある。比較的状態の分かる形態を参考にしなくてはならないが、それが全く変形していないとも限らない。当琥珀では、節数は左右触角で、ラメラ形態は右側触角で観察する。右触角はあらゆる角度から見て各節の位置を識別する。左触角は亀裂が多く難しいが数えられる)

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(このクワガタ個体は爪間板の観察にやや手間取ったため苦労の跡を図示する。中脚と後脚はフセツ先端が絡みあった状態になっており画像の通り)

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(前脚の爪間板も見えるが撮影がなかなか難しい)

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(この付節ならば爪間板のsetaeの部分は爪に沿っていて見えにくいがrod部位は輪郭が少し見えている。色々参考にした感じでは南半球側オセアニアのマダラクワガタ類現生種はrod部位が細長く伸びるのに対して、北半球側〜東南アジアの現生種群は画像琥珀個体のようにrod部位が太短い)

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(前脚ケイ節形態はニュージーランドのクシヒゲマグソクワガタ属:Mitophyllusやオーストラリアのキバマグソクワガタ属:Ceratognathusに近い)

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(エリトラ上は毛束が配される。左エリトラは薄い空気層に覆われてしまっているが点刻等はハッキリ見えている)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。琥珀のクワガタは絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とは、いずれとも異なる。

 琥珀内のクワガタは翅を閉じる際に別昆虫を巻き込んで鞘翅下へ収納してしまっていて、無関係な虫の翅がクワガタの鞘翅から食み出ている。

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スカラベオイデスマダラクワガタ:Aesalus (Aesalus) scarabaeoides (Panzer, 1793)〈左〉とタイワンネッタイマダラクワガタEchinoaesalus chungi Huang & Chen, 2015〈右〉。北半球側のマダラクワガタ類も色々いる。琥珀のマダラクワガタ近似型個体は、やや細身で毛束がありAesalus属らしい比率をしているが脚部形態は異なる。またサイズ的にはEchinoaesalus chungiと同じくらいである)

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ニュージーランドのパリアヌスクシヒゲマグソクワガタ:Mitophyllus parrianus Westwood, 1863の雌雄。この前脚形態は現生種でも南半球側オセアニアのマダラクワガタ類に特有的)

 ちなみに私はミャンマー琥珀の産地はインド亜大陸と共に南半球から現在の位置に移動してきたと考えている。全世界で僅かにしか発見されていない化石の産地を元に孤島だったとする仮説があるが根拠が希薄だった故に信用していない。という事でマダラクワガタのグループもインド亜大陸という方舟でユーラシアにやってきたのではないだろうかと考えている。

 過去、アフリカをクワガタの起源と考えた仮説を見た事があるが、アフリカにはマダラクワガタの記載はなされていない。しかし月刊むし402号によればアフリカ産マダラクワガタ未記載種が得られているとされる。この記事では記載予定とあるが2022年現在迄に記載された事は無い。何も続報が無いが記載が無いという事はデータミスか誤同定だったのだろうか。

 まぁアフリカにマダラクワガタ亜科の種が居たとしてもインド亜大陸から移動してきたという可能性はありうる。インドネシアのオウゴンオニクワガタ属:Allotopusとアフリカのオオツヤクワガタ属:Mesotopus・ミツノツツクワガタ属:Dendezia、また同じく分布を広げたノコギリクワガタ属:Prosopocoilusは其のような移動経路だったかと考えられる(約一億年前の南アメリカ大陸とアフリカ大陸が分離後にアフリカに侵入したと考えられ、それまでのアフリカ・南アメリカにはいなかったと考えられる為)。ただし中南米に産するマダラクワガタ類はどういうルートで入ってきたのか未だよく分かっていない。

【References】

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

Huang, Hao, Chen, Chang-Chin, 2015. Discovery of a second species of Aesalini from Taiwan, with description of the new species of the genus Echinoaesalus Zelenka, 1993 (Coleoptera: Lucanidae). Zootaxa 3920 (1): 163-170.

Fabricius, J.C. 1801. Systema Eleutheratorum secundum ordines, genera, species: adiectis synonymis, locis, observationibus, descriptionibus. Tomus II. Impensis bibliopoli academici novi, Kiliae:1-687.

Westwood, J.O. 1838. Lucanidarum novarum exoticarum Descripcum Monographia Generum Nigidii et Figuli. The Entomological magazine 5:259-268.

Westwood, J.O. 1863. Descriptions of some new species of exotic Lucanidae. Transactions of the Royal Entomological Society of London (3)1:429-437.

Albers, G. 1894. Beiträge zur Kenntniss der Lucaniden. Deutsche Entomologische Zeitschrift 38(2):161-167.

Hope, F. W. & Westwood, J.O. 1845. A Catalogue of the Lucanoid Coleoptera in the collection of the Rev. F. W. Hope, together with descriptions of the new species therein contained. J. C. Bridgewater, South Molton street, London :1-31.

荒谷邦雄, マダラクワガタの魅力., 月刊むし, (402) :18-25, 2004.01.

【追記】

 推定約1億年前の白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。マダラクワガタにとてもよく似ているが、脚部が発達している形態はマダラクワガタにしては特異的。前脚ケイ節形態もどちらかというとオセアニアのマダラクワガタ亜科で安定した形態とまぁまぁ一致する。

 出品時画像は殆どクワガタに見えず相当悩んだ。触角先端らしき部位が微妙に見えていたが、コブスジコガネ科やカツオブシムシ科もマダラクワガタ系に体型の見た目がよく似ている。また事前に出品者の出品物他ロットのチェックも欠かせない(出品者によっては色々な所から仕入れているようで偽物が混じっていそうだった事もある。入手ルートというのはどれだけ名の通った人物のものであっても常時厳しく評価しなくてはならない)。当琥珀についてはクワガタ分類屋の友人にも相談したが「出品画像では分からない」という事で、もしかしたらクワガタかもしれないという僅かな望みに賭け、またもや博打的に落札するしかなかった琥珀であった。コブスジコガネ科との見分け方が一番難しかったが前脚フセツが長い事で目星をつけた。ただし証拠の部位が異物や気泡、亀裂などで見えないせいで科同定不可標本だったとしても敗北であるから其れも覚悟したものであった。結果的に触角と爪間板などの形態からクワガタムシ科と分かり安堵した訳だが手元に来るまではやはりしんどかった。

 マダラクワガタが白亜紀に居た事自体は、そこまで意外ではない。しかし琥珀に入るという事は例外的だと考えられる。何故ならばマダラクワガタの好む材の植物(被子植物樹木)と琥珀樹脂を分泌する植物(シダや杉などの裸子植物)は大きく異なると考えられているからである。ミャンマー琥珀からは被子植物裸子植物の両方のインクルージョンが出ているため同所的に生息していたと推定されるが、非常に希少である事を考えれば当時当産地では勢力的には未だ被子植物は劣勢だったかと想像されうる。また当時のマダラクワガタ祖先種の食性が異なった可能性もなくはない。

f:id:iVene:20220116220713j:image(†Tropidogyne属の花琥珀。一応の資料として入手しておいた物)

 また、こういう琥珀の中身である虫をハッキリ見るには研磨が必要になる。私はこういう作業も沢山やった事があるので慣れた感じで出来るが慣れていない人は宝石研磨師などに依頼した方が良いように考えられる。特に切削に関しては琥珀が堅いからかなり難しい。タングステン製のドリルを使いたくなるがグリッターにドリルの刃が引っかかると豪快に琥珀が割れるリスクがあるから殆ど推奨されない。また中身の虫等インクルージョンを削ってしまわないようにしなければならない。ダイヤモンドヤスリで撫でるように慎重に切削していく事が無難である。あとは紙ヤスリ等(粗面から徐々にキメ細かい番号にしつつ)撫でる感じでやすって表面の滑らかさを出していく。最後はコンパウンド研磨剤を使い艶出しを行う。作業は虫を削らないようにする為に、また樹脂表面の傷残しを防ぎたいため顕微鏡下で行う。しかし1回では傷残しがある場合が多いので研磨工程を2〜3回繰り返す事が多い。小さくても3時間、大きい琥珀だと20時間近く作業しなければならない事もある。だが中身を鮮明に観たいが為にやる作業だから疲労感は少なく、私はいつもなるべく通しで行う。現地から届いた時は大抵やすっぽいプラスチックのような光沢をしていたりくすんだりしているが上手い感じに再研磨すれば水面のように透き通った艶の光沢になる。

 しかしやはり出品時でも論文でも図鑑でもそうだが無意味な図示は頭を痛くする。部分的では分からない事だらけで殆どの部位が見えていても必要な部分が見えていなければパレイドリア的な誤同定や誤解をしやすい。非効率と思われるかもしれないが、こういう品が出る度に私は近似別科甲虫を参照し、考えに不足が無いかどうかを確かめる。なんせまとまったページが無いから大変である。平易明快な図示や説明表現のページでなければ頭が覚えてくれない。当ブログでも何度も書いているがクワガタムシ科だけでなく生物種の見分け方などと言って変異も考えず僅かな部分だけを根拠に分類する連中や、万能ではないと分かっているのに"DNA万能論"を持ち出して色々重要な考察をすっ飛ばす連中も全く不親切である。いくつかの琥珀について私は博打的入手をしていると書いているが、そんなに軽い気分で出せる額ではないから悩ましいというのもある。

琥珀の保管方法

 琥珀の保管方法については色々な私見があるが、基本的に数千万年〜1億年と自然界の地中で過ごしている訳だから相当に様々な環境を耐えぬいてきていると推察できる。特にミャンマー琥珀白亜紀に固まった事が同じ地層の他化石や鉱物状態などから分かっており、KT境界と呼ばれる生物大絶滅の原因となった隕石による災厄を乗り越えたものであるからそれなりに頑丈と分かる。だから室温湿度環境下での保管で問題無いと言える。

 しかしとはいえ、相手は元はと言えば植物の樹液が固まったもので、天然のプラスチックとも言えて火で焼けるし、高温加熱処理をすると酸化して色がわるくなる。また有機成分だから人類文明でしか出てこないような薬品がどういう影響を及ぼすか不明だから保管は或る程度無難な方法でやっておきたい。

 大抵の天然琥珀にはヒビ割れがある。割れていない部分が強力な構造故に繋がっているが、硬い物質であるため強い衝撃を加えると割れる事もある。初期研磨ではマシンを使って豪快に切削され割れなかった部位のみ最後まで研磨されていくから、最終的には壊れにくい欠片になっているように考えられもする。しかしいくら頑丈でも何が起こるか分からないから慎重に扱う事が推奨されている。

 水に付ける事を忌避する人もいる。水がヒビから内部に侵入し、湿潤と乾燥を繰り返しヒビ割れを大きくするかもしれないというリスクがなくはない。

 また酸化等での変色リスクを避けるため紫外線や日光に当てない所で保管しておいた方が良いという事もよく言われる。昆虫標本も日光に曝さない方が良いのは虫体のクチクラが構造を変質させかねないからであるが此れを紫外線だけ遮断しておけば良いと勘違いする人が虫業界にはとてつもなく多い。UV:紫外線を殆どカットするフィルターでもブルーライト始め可視光ほか長波長は通ってくる。だから問題が解決されない。ブルーライトの影響は詳しく分かっていないが紫外線に近い波長だから長期的には紫外線に似た影響を及ぼす可能性を見通せる(日光からの暴露量は人工光の1000倍以上)。またそのようにしてガラス箱に入れておくと日光による近赤外光の熱線も入ってきて箱内が照り焼き状態になり標本もタンパク質部分などが熱変性するという寸法である。

 なお琥珀になりきっていないコーパルについては私は触っていないので無責任な事を書けないが、まだ湿潤を残している樹脂であるため乾燥するとヒビ割れやすいらしく其れが注意点として挙げられている。

【第參欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私にとって苦尽甘来の邂逅となった3つ目のクワガタムシ科入り琥珀触角画像(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20211031142600j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体はやや多くの異物に巻かれている。同琥珀には2頭マグソクワガタ属に似た甲虫が入るが、触角の節が不鮮明で撮影に難儀した。見やすい方の個体の触角も片方は異物で第七節が隠れて見えない。暫定的にこの画像だが、もう少し撮影法を工夫出来るかもしれない。とはいえラメラがこれだけ肥大していれば、体型など他特徴と合わせて同定が可能)

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(もう1頭の触角は更に見づらいが一応見える)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、いずれも†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang,2017に酷似している。なお同種であるとは言いきれず別種であるとも言いきれない。種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とは、いずれとも異なる。

 琥珀自体は小さく、中には様々な虫が入っていた。クワガタが2頭入っている事自体が異例中の異例だが、半損した4〜5mmのアミメカゲロウ目(Neuroptera)ミズバカゲロウ科(Sisyridae)絶滅亜科†Paradoxosisyrinaeの毛深い絶滅属種†Buratina sp.(?)や、3mm程のカメムシ目(Hemiptera)ヨコバイ亜目(Homoptera)カイガラムシ上科 (Coccoidea)絶滅科†Weitschatidae(?)の成虫、2mm位のハナノミ科(Mordellidae)?甲虫や、1mm程度のコケムシ科(Scydmaenidae)?らしき極小甲虫などが混入していた。専門外は疎いので一応「?」を付ける。

 私の予想ではクワガタの初期系統は南半球の何処かに始祖を生じたと考えている。ミャンマー琥珀からのクワガタ形態は今の南半球にしか居ない現生種と共通点が多く北半球ではかなり種数が少ない(KT境界の隕石が原因かもしれないが間違いなくクワガタと分かる白亜紀以前の化石が無い)。琥珀にあるクワガタからミャンマー琥珀インド亜大陸とともに北上したと考えるのが自然である。

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

天然琥珀 VS 偽物・贋作・フェイクアンバー

 "琥珀"という話題になると、偽物が沢山売買されてきた歴史が一般常識になっているかと思うくらい会話の冒頭にやってくる。一目見て贋作と分かるのに「本物」として売買される贋作も大量に見てきたから市井の人々が不安な気分になるのは当然と言える。こういう事も多いから分類学と同じく事前の予習を必ず行い、余裕を持って慎重に事にあたる事が必然不可欠となる。しかし其れにしては真偽判定方法を調べてもまとまりが無い。「これで充分」「(理由を示さず)分からない」など、誰しも天然琥珀の事など知らずに騙っているような、そういう情報だらけで散漫な気分になりスッキリしない。論理的でも読者の要求に沿った情報開示でも無い人の主観ばかりで、科学的な手法がネット上や論文などでも充足していない。だから、やや労力だったが当記事で以下にまとめる事にした。

(「琥珀とは」)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%A5%E7%8F%80

 現生種昆虫標本であればデータラベルの正確さや真実性を担保するのが自然界しか無い事は最早当ブログ読者の殆どが理解した事と推察する(ここ20日間程度で4000アクセス程度:200~ access/ day)。一方で琥珀の場合であれば産地が少なく、また樹脂そのものの物性が様々な情報を持っているからある程度はそれだけからでも真偽判定出来うる。「天然性」の担保はやはり自然界に無尽蔵的にあるため其処から再現性を再確認する事もそんなに難しくない。

比重テスト。琥珀を食塩1:水4の飽和食塩水の中に入れると天然琥珀は浮いて来て偽物は沈下する。琥珀の密度は1.05―1.10間にあって材質はとても軽い。※ちなみに琥珀、コーパル、スチレン樹脂でできたものは浮いてくるが、ガラスやプラスチック、セルロイドカゼイン、フェノール樹脂等でできたものは沈むから、これだけのテストでは不足がある。また内部気泡で比重が変わりプラスチックでも浮く場合がある。何故かネット上などでは此のテスト法だけで良いとする書き込みが多いが理論上でも実際的にも全く不十分である。

※食塩水が琥珀のヒビなどから内部に侵入すると乾燥後に結晶化した塩の内圧で樹脂のヒビが大きくなり割れるリスクが高くなる為、実験後は必ず水洗いで塩を落とす。ちなみに水洗いも樹脂の状態を変える場合がある為なるだけ回数は少ない方が良い(乾燥と湿潤を繰り返さない方が良いという意味)。

②針で炙るテスト。熱して赤くなった程度の熱い針で琥珀の表面を炙ると焼けた部分が黒くなり、しかし針にベタつかないし、しかも竜涎香みたいな刺すような強い樹脂の香り、コーパルなら少し甘酸っぱい樹脂の香りが出てくる。人工的なものからできた偽物は針に樹脂にベタついて、酷いものならプラスチックのような刺激的な匂いがある。

弾音を聞くテスト。天然琥珀ならば琥珀同士を"コツン"と当てれば相対的にやや重みのある音があって、ガラスなど偽物の音は比較的軽快。感覚的に難しい方法とも考えられる。

光沢を見るテスト・UVテスト。人工琥珀の光沢は見た目で硬い感じがある。天然琥珀はUVライトで照射すれば照らす角度の異なりによっての色と屈折も違い、偽物はこのような効果が無い。琥珀を偽札識標機の下に置いて紫外線で照射すると天然琥珀は緑色・青色・白色などの蛍光を示し、"見た目が精巧"な偽物ほど同様の変色することがない(人工の合成樹脂でも蛍光するものはあるが紛らしい人工琥珀では見つかっていない)。※天然琥珀の一部をくり抜かれた部分に虫体入り偽物樹脂を埋め込まれた偽物もこの方法で見分けがつく。

エーテルによるテスト。エーテルを含むマニキュアの除光液などで琥珀の表面を拭いても天然琥珀ならば問題ない。偽物は腐食させられる。ただしアクリルや軟質の塩化ビニール以外のプラスチック類の大部分はエーテルの影響を受けない。

※化学薬品は樹脂にどのような影響を与えるか分からない為、コレも水洗いで落としてから保管する。また同様の理由でナフタレンなどの揮発性薬品を入れた現生種昆虫用標本箱に同封するのはリスクがあると予想されるため別の箱で保管した方が無難である。

静電気テスト。琥珀を綿の布などの静電気を帯びやすい繊維と摩擦させれば、本物は静電気が生じ小さな紙くず片を引きつけることができる。偽物にはできないものと出来るものがある。

コーパル(若い琥珀)可能性テスト。コーパルはアルコールを1~2滴垂らすと粘つく。琥珀は粘つかない。

加傷テスト(破損がついて再研磨など面倒なので非推奨)。プラスチックの最も解りやすい特徴は曲がることと切れること。人工プラスチック製では、カッターで削ぎ取るように切れば彫刻の削りカスのように繋がった薄片が削り取れる。本物の琥珀ではカッターで削ってもポロポロと粉片が出るのみ。削った手ごたえも異なる。

ガラス製偽物との判別テスト。ガラス製は冷たく感じ、それ以外の樹脂・プラスチックでは冷たく感じない。琥珀の場合だと触ったときに冷たさをあまり感じない。よく「ほんのりあったかい感じ」という表現がなされている。

赤外線吸収スペクトル測定(赤外線分光法)テスト。これで測ると接着剤混入痕跡や不自然なプラスチック・樹脂成分構成などの計測結果で本物と偽物の違いを知る事が出来る。またバルト産など産地がどうか調べることもできうる。バルト産の琥珀には「バルティックショルダー」と呼ばれる特定の波形が現れるので一目瞭然とされる。

※赤外線吸収スペクトル測定は充分な測定を出来る機器が高額で、所有する研究所などに測定依頼をしなければならない場合が殆どである。また自身でどういう測定をしているのか理解しなければならず、さらに測定結果は書面で波形でしか出ない為、偽造書類では無いと証明するためには其の都度さまざまな研究所で測定出来なければ真実を担保出来ない。それらの為の制約が大きく良い判定の割には煩雑且つ時間のかかり過ぎる作業とも言える。

 本物の琥珀ならば上記①〜⑩の全てのテストで偽物でない事が判る。また中身に人工物が混入していたら偽物や合体標本と簡単に疑える。他にもグリッターと呼ばれるヒビの形態が放射的かどうかとか色々あるが其れは私自身で見比べていないのでなんとも言えない。また触角の長いハエが同じ琥珀内に入っていれば大丈夫という説も見たがキノコバエなら現生でも多々いるし私は「後翅が前翅に隠れて見えにくいヨコバイの仲間か何かの虫」とハエを見間違えた事もあるから、あんまり良い方法でも無い気がする。

※しかし最後に、一つだけなかなか何処にもハッキリ説明されていない厄介な代物の判別法を加えて記しておきたい(おそらく初めての言及と考えるが何処かに書いてあるんだろうか)。何故誰もハッキリと書いていないのかも不明瞭で調べていてかなり苛々したのだが「再生琥珀(練り琥珀:圧縮琥珀:アンブロイド)」と「天然琥珀」の見分け方である。再生琥珀とは天然琥珀の破片群を、高温か高濃度エタノールかの何かの手法で溶かし纏めて一塊にしたようなものであるから、"人工的に作り出した素材では無い"という意味では「琥珀」であると言う人もいるし、しかし"人為的な処置で天然琥珀と見間違うような紛らわしい物を作っている"という意味で「偽物」であるという鑑定が常識的である。これまでは大抵の再生琥珀は赤外線吸収スペクトル測定で接着剤混入があるか無いか調べられてきたが「精巧な偽物がある」という噂があり、これは「噂程度でも確かにあり得ない話じゃないかもしれない」という気分にさせてきて私だけでなく多くの琥珀愛好家を不快且つ苛々させたままである(琥珀片を集めインゴットを作る技術があるらしい)。残念ながら私の見立てでは"インクルージョンが何も入っていない琥珀の場合"だと見分け方がないように考えられた(鑑定不可能という鑑定書がついた琥珀もあるくらい難しい)。まぁインクルージョンについて調べている私のような虫屋には中身無しの琥珀なんて見る動機が"ちょっとした比較をする程度以外"だと殆ど無いからそんなに大した障壁は無い。しかし虫などのインクルージョンを調べたい場合には厄介極まりない話である。噂程度に負ける方法論なんて何の役にも立たない。最近は細かい造形物をナノ3Dプリンターで簡単に作れる。CGで作られた画像が論文に載っているとはコスパが悪すぎてあんまり想像出来ないが偽物の虫が再生琥珀に入れてあったらややこしいにも程がある。だが大抵の論文はそんな面倒な話を説明や図示して疑惑を晴らすみたいな事はやらないから「実際どうなのか」を見分ける事が難しくなり過ぎている。レプリカと本物の見分けがつかないなら、レプリカをレプリカとして参考にするにしても本物を参考にするにしてもハッキリしないモノを見ている可能性を払拭しきれず参照価値が共倒れして消え失せてしまう(フィクションはフィクション、ノンフィクションはノンフィクションと判別出来なければ"偽物か本物か分からないミスリーディングなモノ"を見る羽目になり参照する意味が無い)。良心的な表現をする普通の人達はレプリカと本物の確実な見分け方を必ず付記してくれるが、我欲ばかりで性格の捻じ曲がった人達は"情報を提供する側としての自覚"が足りていないため気になる疑惑部分の見分け方を一切示さずのらりくらりとどうでもいい話ばかりして明瞭な議論・言及を避け一般庶民に対して背徳的な態度を取り続ける。

 実際の虫入り琥珀は"精巧"な模造品を作るより低コストで入手出来るため其処まで疑う事も無い。あれだけ精巧なモノを作ろうとすると低コストでは済まない。低コストで済まされたような贋作ならば「現生種が入ってるじゃん」とか「樹脂が偽物くさい」とか絶対に情報の粗が出てきて検証すれば「それみたことか」と容易に偽物である鑑定結果に行き着く。現地琥珀商も堂々と「贋作よりも低コストで天然の"虫入り琥珀"を入手出来る事」を売り文句にしているくらいである。しかし良いインクルージョンであれば値が張ってくるようになるため疑惑がつきやすくなる。

 この件で私も色々悩んでいたが虫入り琥珀の実物をかなり良い顕微鏡で覗いてみればモヤモヤが一切消え失せた。虫入り琥珀愛好家は安心して欲しい。本物の琥珀資料の方が、潜在している要素で真偽判別法の再現性を確実にするくらい圧倒的な物量が自然界にあるのだから模造品が天然個体にとって変わる事は未来永劫無い。琥珀内部をよく見えるように研磨する必要性が前提としてあるが、かなり良い顕微鏡で観察してみれば、虫そのもののキューティクル(微細な炭素繊維)で構成された細部構造が生物形態の証拠と言っても良い関節部位でも数マイクロメートル単位まで非常に細かく保存されている(本物の虫はナノ3Dプリンター出力物に残るようなプラスチック積層痕跡や熔けて爛れた感じなど粗造りの痕跡が一切無い)。またこのサイズ感だと人為的には再現出来ない自然な様態(内部に入ってから圧力で分解したと分かる)のヒビや破損が虫体表面や体毛などの何処かの状態で殆どお約束と言えるくらい必ず見られる(※大抵の論文上の虫入り琥珀画像ではこの状態が見えるようになっていないから実物を見た方が分かりやすい)。ヒビ割れは虫体の薄い部分ほど見やすく下から透過光で照らせば虫のヒビ割れ模様がクッキリ浮かび上がる。加えて虫の一部が透けて内部構造が見える場合もある。琥珀というのは樹脂が固まってから数千万年以上かけて出来上がったものを言い、もちろん水分が悠久の年月をかけてゆっくり揮発する・また地中にあるため弱い圧力で樹脂がゆっくり変形する。だから割れ方少なく樹脂の変形に伴い必ず中身の虫体も変形しうる訳である(急速に乾燥させたり圧縮をかけると琥珀内の不溶性成分と溶性成分などの3次元的な偏りで内部応力に大きな歪みが出て割れやすい)。虫体の生物形態的組織構造は樹脂内で永い時を経過しているから分解を起こしていて、例えば高濃度エタノールに長期間入れておいたり高温処理で溶かしたりすると姿見を保てない。本物の虫入り琥珀の虫は琥珀の中にあるから姿をある程度保っている(炭化が進んでいる為"色"は変わっていると考えられる)。つまり虫入り琥珀を「半永久的に参照可能な標本」として残し大切に扱おうとするならば樹脂から取り出せない(コーパルであれば樹脂が若いので綺麗に取り出せる場合がある)。例えばProtonicagus taniのホロタイプ標本も保存状態が最高クラスに良いが其れでも眼角小顎髭にヒビ割れが見られる。5mm以上の甲虫ほど此の傾向が顕著にあり、現生種の入った樹脂標本はそんな見た目が全然見られないから判別は容易である。虫体のヒビ割れについてはミャンマー琥珀、バルト琥珀、ドミニカ琥珀のいずれでも確認出来る(古いほどヒビ割れ率が高く規模も大きい傾向がある)。むしろ虫体にヒビ割れの無い琥珀の方が珍しいのではなかろうか(そういう画像の個体もあったが良い顕微鏡で見直せばヒビ割れが見えそうである)。加えて虫が明らかに現生種じゃない絶滅種と判るならば最早疑問の余地なく本物の天然琥珀と見分けられる。また虫の一部断面が見えている場合は欠損が気になる一方で中身が生物構造である事も確認出来る(空洞になっている場合と樹脂が侵入している事が見える場合があり"人工プラスチック樹脂が充填された人為的造形物"か"生物体"かどうかの判別は非常に容易である)。コレを人為的に作る技術は今の所無いと考えられる。大自然は何より偉大なのだ。様々なナノ3Dプリンター製品を見てきたが造形技術的にも上記したような本物の虫入り琥珀状態と見間違うレベルの精密さを造形する段階には到底到達していない。前述にも様々な判別法を書いているが、この見分け方だと殆ど他の真偽テストをパスしても虫入り琥珀樹脂の真偽判定を出来ると考えられる。問題なのは「使用性の良い高額な顕微鏡が要る」という事くらいと推察される。

 また虫の姿勢が溺れ苦しんだような姿勢という状況証拠から判定するという人達もいるが、偽物を本物として売る詐欺師なら虫を生きたまま樹脂に埋めるなんて非道な事も黙って平気でするに決まっているのだから保険にならない手法であると分かる。庶民感覚での判別方法は今の所モヤモヤしたものばかりで困難と考えられ、またやはり"虫入り琥珀"を理解するにはレプリカの造りが精巧になればなるほど相当に良い顕微鏡など高価な道具が必要になる。

【追記】

 さて、記事の主役とした琥珀の虫は推定約1億年前、白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。クワガタ個体群の外部形態は既知種のProtonicagusに酷似というか殆ど完全に一致していたため悩まず即決入手した。前胸背形態なんかは分類するには全く困らないくらいに一致している。「百聞は一見にしかず」やはり見りゃ分かると言うのは本当に良い。†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang,2017の化石種としての記載文にも本当に感謝している(※良くない論文に対する好評を除き)。

 種記載原著論文は"対象"に関する「description:説明」と書いているのだから"今代なら本来コレ位が最低限でなくてはならない"という普通のコメントも聞いている。確かに無尽蔵な観察と考察を繰り返して漸く見えてくる自然界の成り立ちや構成を説明するのに致命的な不足があってはならない。

https://g-lance.net/other/chesterton/

 ちなみに大体この手の論文を一般人は有料入手する訳だが、よくない論文についても同様である場合がチラホラある。良い論文ならば多少の金額を払っても良かったと思えるが、よくない論文というのは当ブログで原典批判している"統計学も遺伝学も論理学も何も分かっていないような読んでも「よくも騙してくれたなァ」と地面に叩きつける以外使い道の無い資源の無駄遣い"みたいなモノで、そういう悪い出版物の販売については「アフィリエイト詐欺」の1種に見えて区別もつかない。「論文」「出版物」を情報商材に使う人は多いのだが、違和感の多いものの中から価値ある情報を掬える事は稀である。

アフィリエイト詐欺の見分け方URL)

https://sundaygamer.net/ng-words-affili-kasu/

 遺伝学は最古の歴史ではヒポクラテスアリストテレスが少し何か言ったくらいでメンデル遺伝学やDNA研究など本格的に確立してからは未だ歴史が浅いから目を瞑ったとしても、統計学は"統計学"という纏った概念が無かった紀元前の古代ローマから生活に密接して使われている極めて基本的な科学的手法なんだから使い方(確率的現象か絶対的現象かの前提で統計データの解釈が全く異なる)を外す意味が分からないのだが、統計学の使い道を理解している人なんて生物分類学者では見た事も聞いた事も無い。誌面でも論文でも生物種形態を間違った方法で見分ける等、其の辺の小中学生でも容易に誤っていると気付ける表現例が載っている事があって落胆する(客観的に見れば読者の思考を混乱させる為にやっているのと変わらない質の書籍が多い)。誰々とは言わないが簡単にすぐ出来る事をさも大変そうに誇張して言う人達も世間一般から普通に阿保扱いされているが、彼らは自覚が無く本気で主観的過信を公言して訂正は一切しない(気づいたなら公式ネットページ等で訂正付記なんか容易に出来る時代であるが)。彼らは科学に全く反した虚偽的な行いで商売をしている訳だから、普通の科学者らは彼らを偽計業務妨害の罪で問えそうとすら考えられる。まぁネット上で殆ど無料で入手出来るような情報の詰め合わせなんか当ブログでやっているみたいに無料で良いとすら考えられるが。

https://ai-trend.jp/basic-study/basic/history/

 さて、入手した標本は濁りが気になる琥珀だが贅沢を言っても仕方がない。現生のマグソクワガタ属にもよく似ているが其れ等よりもかなり小さい。

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アメリカ合衆国のオブスクルスマグソクワガタ:Nicagus obscurus (LeConte, 1847) ♂個体〈左〉と、日本のマグソクワガタ:Nicagus japonicus Nagel, 1928 ♂個体〈右〉は産地が離れるが形態はよく似る。此の2種を含めマグソクワガタ属は北半球の日本と米国で3種のみ記載がある。いつの時代か詳しくは不明だが地球の温暖期に北上し、ユーラシア側から北アメリカ側に移った後、寒冷化に伴い南下したと考えられる。刻々と環境の変わる地球上で理想的な新天地を探す旅の中では形態を変化させる暇もなかなか無かったのだろうと推察する)

 こういう時によく「生きた化石」という比喩表現を昔はよく聞いたのを思い出す。太古の昔から形の殆ど変わっていない生物種をそう喩える人が沢山いた。しかし「採集の神様」と呼ばれる御仁は其の表現に対して怪訝な印象を持っているようだった。曰く「太古から形が驚くほど変わった生物種も、そんなに変わっていない生物種も同じ時間を頑張って生きてきてるんやから、シーラカンスについてもそうやけどああやって変わっていないのを無下にするような比喩表現はよくないよね。」というニュアンスの理由だったと記憶している。氏は分類学的な実績も残されているが採集観察が好きだから分類は殆ど故・永井信二氏に任せっきりだったと言われた。しかしやはり虫を観る目が他とは違い、より鋭い視点を持たれていたのだ。後年に流行る遺伝子系統樹解釈がバラ撒く誤認を先んじて回避されていたとは、やはりnativeに自然を考える人は凄い。人間が主観的に受け取る"見た目"など人外の生物自身からすれば生存戦略上問題になる事は無い(むしろ"気持ち悪い"と思われた方が捕食されるリスクが減少するので虫にとっては好都合である。過去、アフリカのゴライアスオオツノカナブン類は捕食側生物から見て「鳥の糞」に擬態した形態だったおかげで被捕食率を下げられたため大型化出来たという話を聞いた私は「なるほどな〜」と自然界での営みの奥深さに感心した事がある。見方は色々あるのだ)。

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(約4億5000万年前の古い時代からおおまかな形態が維持されているカブトガニは有名である。画像個体群は私が過去に自己採集したアメリカブトガニLimulus polyphemus (Linnaeus, 1758)の死骸と抜け殻、またサイズ比較用のラコダールツヤクワガタ81.2mm♂個体)

 しかし白亜紀のクワガタが2頭も入った琥珀なんて例外中の例外なんではないだろうか。優秀な琥珀商によるとミャンマー産で真に白亜紀のクワガタ入り琥珀は恐らく20〜30片という事だが、私の知らない琥珀が実際どれくらいあるのか気になるところである。

 20〜30片というと沢山あるように感じる人もいるだろうが私が知る限りミャンマー産虫入り琥珀は私がチェックしただけでも50万片程だから分母からすれば超希少。この類の資料を私自身で自己採集する自信は全く無い。虫の入っていない琥珀は別用途なのか表市場には出てこないが虫入り琥珀は全体の15%ほどらしいので逆算すればおそらく400万片ほどは出回ったと推測出来る。また良い琥珀は大体どこかで出品されるが現地に掘り出されてストックされている分もある。ミャンマー琥珀は2010年あたりから本格的に産出が始まったという話と、2015年に中国に入ったミャンマー琥珀が推定100トンという話と2017年に鉱山がミャンマー軍に買収され産出が激減したという話、曇りやヒビ割れで売り物にならない琥珀が大量にあるというのを考えると現地のストックを合わせた総数はなんとなくの計算で500〜700トン(数百万〜数千万片)くらいと推定出来る。

【References 2】

Nagel, P. 1928. Neues über Hirschkäfer (Coleopt. Lucanidae). Entomologische Mitteilungen, 17,
257–261.

LeConte, J.L. 1847. Fragmenta entomologica. Journal of the Academy of Natural Sciences of
Philadelphia, series 2, 1, 71–93.

LeConte, J.L. 1861. Classification of the Coleoptera of North America, Part 1. Smithsonian Miscellaneous Collections, 136, 1–208.

Linnaeus, C. 1758. Systema Naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis. Editio decima, reformata [10th revised edition], vol. 1: 824 pp. Laurentius Salvius: Holmiae.

【第貳欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私が懊悩煩悶を経て入手に成功した2つ目のクワガタムシ科入り琥珀右触角の腹面・背面画像(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。また記事にした動機・目的は前回と同様である。

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f:id:iVene:20220114084937j:image(ニセルリクワガタ属に似て細長く平べったい体長5mm程度のクワガタムシ、胴体部位は樹脂の脱水収縮で平たく潰れている。触角はヒビ割れが多いが生物的形態の節の境目は識別出来るから10節構成と判断可能である。型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタムシ

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。なお琥珀のクワガタは絶滅既知種との種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とはいずれとも異なる。

 非常に特異的な外形で最初はクワガタムシ科には見えなかった。だが細長く平たい形態で、この触角形態や脚部形態、また爪間板など他の細部形態の総合判断からしクワガタムシ科としか考えられなかった。 

 大顎は短く状態としては閉じていたが片方のみ先端が尖っている形態が見える。各形態から現在のアメリカ合衆国カリフォルニア州オレゴン州に産するニセルリクワガタ属に似ている。前胸の特異的形態を鑑みるとキンイロクワガタ的な雰囲気も感じられる。ルリクワガタのグループとキンイロクワガタ亜科のグループは系統関係上では近縁とされる。キンイロクワガタ亜科は南半球にしかおらず、ルリクワガタは北半球にしかいないという状況をインド亜大陸の独立時に形成されたと考えると、もしかすると琥珀のクワガタは分岐以前の系統の個体だったかもしれない。

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(似た雰囲気のインフェルヌスニセルリクワガタ:Platyceroides (Platyceroides) infernus Paulsen, 2017〈?〉※Paulsen氏の記載文はよく観察されて書いてあるようだがスケールバー無いとか交尾器は殆ど見切れ画像とか図示が小さ過ぎるとか標本の姿勢が見づらいとか変異検証の結果が分かりにくい等の図示不足で参考にしづらいので追補報告を期待したい。ちなみに10.2mm。ニセルリクワガタ属はルリクワガタの仲間でも原始的なグループと考えられている。当記事の琥珀個体の触角は構造が異なりマグソクワガタらしいが脚部や体型など似る。そもそもマグソクワガタ属とニセルリクワガタ属の関係性には各形態の相関から近縁性があるとも考えられる)

 また同琥珀内には、2mm足らずのクモガタ綱(Arachnida)カニムシ目(Pseudoscorpiones)や、内顎綱(Entognatha)トビムシ目(Collembola)?など様々な生物遺骸が入る。

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【References】

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

Benesh, B. 1946. A systematic revision of the Holarctic genus Platycerus Geoffroy. Transactions of the American Entomological Society 72(3):139-202.

Paulsen, M.J. 2014. A new species of stag beetle (Coleoptera: Lucanidae) from California. Insecta Mundi 0358: 1-3.

Paulsen, M.J. 2015. A new species of Platyceroides (Coleoptera: Lucanidae) from Oregon. Insecta Mundi 0430: 1-5.

Paulsen, MJ. 2017. Correction of existing generic and species concepts in Platyceroidini (Coleoptera: Lucanidae: Lucaninae) and the description of four new species of Platyceroides Benesh. 4269 (3): 346-378.

【追記】

 推定約1億年前・白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。其の時代は例えば映画「ジュラシックパーク3」でも一躍有名になった大型肉食恐竜のスピノサウルスが地球上のアフリカ・モロッコや何処かで歩いていた時代に近しい。このようにミャンマー琥珀には白亜紀だった瞬の間の極小宇宙が閉じ込められている。

 虫は小さくとても変わったクワガタムシ。初めて見た時は前胸背形態が現生種には無い形態からクワガタムシ科甲虫ではない可能性をかなり悩んだ。マグソクワガタ的特徴もあったがシデムシ科やアツバコガネ科だったら私には用が無い。しかし本当にクワガタだったら?とも思えたからまた博打だった訳である。マグソクワガタ系らしき虫の場合に見えなければクワガタムシ科か否か判然としない「触角の節数」や「腹節板など腹面の状態」「爪間板」が出品時画像では見辛かったが、大まかな脚部形態からシデムシ科の可能性は排除可能で一応クワガタ的であったから手元に届けば確実な事が分かる(出品時画像だけなら凄く変わったセンチコガネ説もあった)。また出品者は限界まで鮮明に写したつもりだったらしいので再撮影を頼む意味が無い。悩み悩んで「まぁもし間違いで別科甲虫でも白亜紀特有の型なら面白いし良いか」と考えて落札したのだった。

 虫自体は実際に私の見た事も無い形態だったから、よくある現生種や合体標本や加工標本が入った模造品とは異なると鮮明に分かった。しかし生物分類的同定は絶滅種の場合困難を極める。だから事前の予習で世界中のあらゆる近似別科の姿見を頭に叩き込まなければならない。様々なページを参照してああだこうだ度々説明が異なる解釈を絞る作業は大変だった。原始的なクワガタほど紛らわしいものだから難易度が高くて参考になる文献やネット上の情報が全然足らず物凄く苛々する。肩書きや社名のブランドで内容の軽薄さが煙に巻かれただけの使用性が低い或いは無い文献などは参考にならず見ていて悲しくなる("落ち葉拾い"しただけみたいな解説は不要である)。

 この琥珀については入手後にも調べに調べ消去法でクワガタムシ科以外の何者でも無いという結論に至ったが、それに至るまでに件のクワガタ分類屋の友人にも色々助けて頂いた。現状では"文献上の一般論"と"巷の一般知識"には大きな乖離がある場合も多いから正確な判断を自身が出来ているか否か知る為にも専門の分類家の2ndや3rdの意見が欲しくなる。「原始的だがとても変わったクワガタムシ」というコメントも付いた。

 こういう琥珀資料はクローズドな場でのオファーやオーダーでの取引でも殆どリスクがある。というのも前回記事にも似た事を書いたがやっぱりクワガタじゃないか分からないのに"クワガタ"だと言って売り込んでくる事が殆どだからである。他にも私に「クワガタだろう」と堂々自慢してきたコレクターの琥珀も、クワガタじゃないかな?と同定依頼してきた人達の琥珀も、いずれもクワガタムシ科では無いかクワガタムシ科であると断定不可能な虫入り琥珀ばかりだった。割と優秀な現地業者もいたが分類はアマチュアだから誤同定も割合沢山していた。観察眼に自信を付けるまで集める事が出来ないジャンルと言える。これまでにおいて"私の所有個体群以外の琥珀群"から知る限り「間違いなく白亜紀にいたクワガタムシ科甲虫入り琥珀だ」と私の目からしても同定出来た個体はたったの5個体だった。

 しかし、やはり白亜紀のクワガタというのは"異世界のクワガタ"じみていると喩えたくなる。こういう自然史の奥深さを考えさせられる物を見るたびに思うのだが、人間長く生きていても見ていない事知らない事考えもしていなかった事がとてつもなく多い。

【第壹欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 ミャンマー琥珀からは既に以下の2既知学名があるため、後続の新種記載は控えられている。

Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang, 2017

Electraesalopsis beuteli Bai, Zhang & Qiu, 2017

 では、他で見つかっているミャンマー琥珀から見る白亜紀後期セノマニアン前期のクワガタムシ科甲虫とは如何なるものなのか。様々な状況を鑑み、論文は出版せずに平易なブログ化をしてみる(ミャンマー琥珀に関わる現地情勢の事は別記事の追記に記載 )。

 バーマイトからは、マグソクワガタやマダラクワガタ系統が報告されているが、他にもツツクワガタ的な形態の個体等が発見されている。

https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcQdDzLlK4LhqK2ywaaH2cR0aIbQReQIo6IV2g&usqp=CAU

 ミャンマーなのにオセアニア的というのは面白い。

 以下図示は、私が苦心惨憺して収集した白亜紀クワガタムシ科入り琥珀の最初の一つの右触角画像。触角形態が見える事はクワガタムシ科と同定する為に必須である。流石にクワガタムシ、およそ1億年も昔の系統は変わった型を呈している(※全身画像は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は、簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

 しかし、このクラスの琥珀を簡単な気分で出してしまうというのは出品者にとって非常に勿体無かったのではなかろうかと思案する。クワガタムシ科入りという体で誤同定の別科甲虫入り琥珀が沢山出ていたから、そもそもの希少性が過小評価されていると考えられる。読者の誰かで、こういう品をもし入手出来たのなら絶対に手放さない方が良い。手放してしまうようなら買わない方が良い。「貸す事すら厳禁」くらいに思っていた方が良い。

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f:id:iVene:20220107092149j:image(シワバネクワガタ属やハイイロクワガタ属に似た形態の体長6mm程度のクワガタムシ、本体は樹脂の脱水収縮でヒビが多い。大顎内側縁が鋸歯状になる型としては1点モノで、他に見た事の無い外形のクワガタ。※別角度だともう少し生物的形態な触角の節の境目が見やすいのだが第一節が隠れてしまう。また、体型の似る大顎の著しく発達したクワガタの琥珀が別途見つかっている。)

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 触角は10節構成。第一節が少し細長く、第二節は鞠状形態、第三節から第七節までの中間節は棒状構成、第八節から第十節を構成する片状節の棍棒状部は軸から一方向に肥大し全体として扁平形態を取る。また爪間板など他形態を合わせてクワガタムシ科と同定が可能である。白亜紀のこの頃には「クワガタムシ科」として確立した形態を獲得したようなので、同定に不可欠な観察が可能な標本ならば、例外なく科同定も可能と考えられる。※念のため私の20〜25年来の友人達(分類屋・標本商)には"他には秘密"としてクワガタの全身詳細画像を見てもらって御意見をいただいている。

 クワガタ個体は†Electraesalopsis beuteli Bai, Zhang & Qiu, 2017など既知化石種に似ているが、細かい形態は異なる。しかし外形のみでは、種内雌雄差か種内個体差か別種かの判断は不可能である。ただし現生種では見られない形態であるので現生種とはいずれとも異なる。私が分類仲間と琥珀種の分類考察を議論すると、このように外形のみでの種分類に懐疑的な結論に至る。

 南米〜オーストラリアで共通するシワバネクワガタ類やコフキクワガタ・ハイイロクワガタ類は、数千万年前の温暖化した時代で南極と繋がった頃に陸路を渡ったのではないかと考えられる(ジーランディア大陸のように沈んだと考える)。それよりもずっと昔の後期白亜紀セノマニアン前期にゴンドワナ南側大陸から分離独立したインド亜大陸地域でヒメキンイロクワガタ・ハイイロクワガタ形態のクワガタが出現していたという事実は私個人的に興味深い知見と考えられる。

 ※当記事の琥珀について簡易なレポートを何処かの出版社に投稿しようかとも考えたが、不特定多数の他人に全貌を見せる意味をあまり見出せ無かった事と、これまでの教訓から予想されうるリスクなどを考え、友人達と様々な議論を行い出版物での報文は出さない事とした。とはいえ日本国内に個人所有でありますよという報告・補足説明には意味がありそうという事で書いた記事である。

【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Qiu T., Lu Y., Zhang W., Wang S., Yang Y. & Bai M. 2017 Electraesalopsis beuteli gen. & sp. nov., the first lucanid beetle from the Cretaceous Burmese amber Zoological Systematics 42(3):390-394

Holloway, B. A., 2007. Lucanidae (lnsecta: Coleoptera). Fauna of New Zealand, 61, Manaaki Whenua Press, Lincoln, Canterbury, New Zealand, 254 pp.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 およそ1億前、白亜紀セノマニアンの美麗なクワガタムシ入り琥珀生物の持つ形態的機能美、進化と淘汰で太古に現れた自然の形態、細かい形態や姿勢は唯一無二で他では見られず琥珀だから精巧なレプリカも作られない。

 最初に此の琥珀を見た時は衝撃的だった。たしかに見た事も無いクワガタ的甲虫だったからである。其れ迄は偽物か誤同定か科同定不可ばかりな虫入り琥珀でしか見た事がなかった"クワガタ琥珀"が其れ迄になく鮮明に出品された訳である。しかも庶民的な価格では無かったが「其の値段で良いの?」という額面だった(前述したが誤同定の頻繁が影響して暴落していたと考えられる)。しかし出品時の画質でもイマイチ"科同定"が難しかった。クワガタらしい格好の分かる画像はあったが科同定に必要なだけの詳細図示が無かったのだ。別科甲虫かもしれないと。勿体ないが出品者らの殆どが持つ知識が浅いためミャンマー琥珀からは虫を誤同定した琥珀がホイホイ出品される(クワガタじゃないのにクワガタと同定された甲虫入り琥珀は私がチェックしてきた分だけで200件以上あった)。例えばマスメディアが何かの研究紹介をする時「関与遺伝子を沢山見つけたからメカニズムの全貌解明」みたいなミスリーディングな解説が付く場合があるが、全てとは言い切れない関与遺伝子だけなら「部分的」であり実際には全貌解明は程遠いんだからシレッと嘘吐くなよと言いたくなる、そういう類の苛々が此の琥珀の出品でも私を悩ませた。しかしこういう資料は替えが全く効かないから他者に先を越されると二度と実物観察を出来ない可能性が高い(論文で出ても大した表現を期待出来ないのは経験則から自明であった)。だからどうしても自身の眼で観察したくなり落札した訳である。とはいえ実物を手にするまでは真偽判定も同定確認も出来ないから私にとって大損の可能性が払拭しきれなかった時点では相当に精神的消耗をした。博打はやはり好きになれない。顕微鏡を覗き、分かりうる事の全てを理解して安堵した瞬間の開放感は人生一だったかもしれない(何処にも?載ってない真偽判別法も発見した)。

 真なるクワガタ入り琥珀を収集の本命とするならば、入手には事前の資金準備*同定や真偽判定法の予習*また観察眼の研鑽*そして何より幸運が必須であると考えられる。そういう対応が出来る体質は自身で作らなければ育たないのが人体で、幸運というのは大抵の場合「漁夫の利」のように降って下りてくる。しかし其れでも準備は大変である。だからソコらの図鑑やネットで現生種の豪快な誤同定がされてるのを見る度に「なんと迷惑な!」と思ったりもする訳である。

 ミャンマー琥珀から最初に「クワガタ入り琥珀」が出品されたのはいつだったか。もうだいぶ昔話だが、私が最初に出会った出品は酷かった。殆ど植物片か土か何か分からない物だらけの琥珀の中にうっすらとクワガタの頭部みたいな影が見えただけで「クワガタ入り琥珀!」として30万ドル(当時のレートでも30,000,000円程度)で出品されていたのだった。私には其れが虫の一部にすら見えなかった。何の参考にもならない物体ならば不必要と言える。パレイドリアにもほどがあると思ったくらいだったが、一般的にはそういうのでもよく受けた時代だったから、買ってしまった人がいたとしたら今頃其人は地獄のような辛さを感じているだろう。期待したのと合ってりゃ天国、全然違えば地獄である。

 次に出会ったのは、顎の細長い一見ではクワガタらしい形態の虫が入った琥珀だったが、既に売り切れていた。最初は私も舞い上がり「白亜紀のクワガタはこんなだったか!」と浮かれてしまったが、よくよく見れば2〜3mmの極小甲虫で触角も何だか見慣れない形態だった。詳しく調べてみるとケシキスイ等の別科甲虫だったようで、自身の観察眼を鍛えきれていなかった事に当時はかなり落胆した。まぁケシキスイでも面白いのだが。其れが売れたのを皮切りにしてか、後続でも同様な虫が入ったものや曇って中身が見え難い「クワガタ?琥珀」がチラホラ高額出品されてはよく売れた。私は「そんなの高額で買うなよ」と思っていたりしたが、暫くしてヨーロッパの化石界隈BBS(今は閉鎖されている模様)で「中国の業者によりミャンマー琥珀で"クワガタ"が売られていたけどアレらはケシキスイとかゴミムシダマシだ!酷い詐欺だ!」「え〜、買っちゃったよ。。」「アイツら分かってないのに自信満々で売ってるんだよ」なるニュアンスの書き込みがあり被害者達の存在が分かった(釣り上げ屋ではなかったのだ)。白亜紀には現生のクワガタそっくりなケシキスイ科等がいたのである。恐らく業者は気付かずに誤同定したのだろうが、知らずに売ったのだとしても其処まで豪快な誤同定ならば詐欺と憤怒されて当然である(まぁよく確認もしないで買う方もどうかとは思うが図示や調べが足りない出品者の方が立場がわるい)。この一連の事件があった時期のすぐ後くらいから虫入り琥珀が大暴落していったのをよく覚えている(ミャンマー軍が鉱山を買収するよりも結構昔の事。時系列的に琥珀と其の鉱山の大暴落が原因でミャンマー軍に鉱山を買収されたとも考えられる)。

 後年に記載種も出たが、後の祭りだったのは言うまでも無い。堅いスポンサーの離れた業界は萎むのが早い。薄利多売の流行った業界は豪快な誤同定もまるで止まらず現在でも至って毎回のように見られるから相場も安定しない。