クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【論考】「亜属」という概念のユーザビリティ

 分類学では「亜属」という概念が使用されうる。これまでの歴史で、属内種数が多くなり過ぎた属分類群では、いくつかの亜属に分けた方が分かりやすいという考え方も理解出来る。属分類がファイリングのような分類であるとして、亜属もその中の似た分類法で使われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E5%B1%9E

 例としては大属であるDorcus属やAegus属などが有名かもしれない。シノニムになった属名もあるが、いくつかは亜属として使用しても良いのでは無いかというのもある。現行の整理では生物学的に異論が多かろうが、ゆくゆくは整理されるものと考えられる。

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(例えば日本にもいるアカアシクワガタのグループは、中国〜インドシナ〜インドまで複数種分布する。Dorcus属らしさもあるが♀脚部形態や♂顎形態などを観れば、遠縁らしきグループの種とは一纏まりで相関形態が異なるように見える。Dorcus rubrofemoratus (Vollenhoven, 1865)を基に設立されたNipponodorcus Nomura & Kurosawa, 1960を亜属名として使用しても問題無いと考えられるhttp://insecta.pro/taxonomy/1034213。ちなみにDorcus rubrofemoratusの原記載時に結合されていたEurytrachelus Thomson,1862の属名はCarabidae科Bembidion属の亜属名Eurytrachelus Motschulsky, 1850のシノニムになっているhttps://en.wikipedia.org/wiki/Bembidion_(Eurytrachelus)

 一方で「いやいやそんなので分けるなよ」とバッサリシノニムにされるような学名が乱立しているというのも現状ではある。私が友人達とよく揶揄する「書きたい病」の人達によるマーキングのような残滓的論文で頻繁に出てくる。他記事で書いた"スプラッター"著者らとそんなに意味は変わらない。例えば属名だと論文上で批判されるのは「大きさだけで別属・別亜属になっている分類」である。グループによっては近縁種間でも主に大きさに差異があるという種群グループもある。「だからそんな事もあるのにサイズ差だけで別属に分類するなよ」という議論は妥当と言える。

 例えば、1914年にLeaによって設立されたEucarteria属は,Reid (1999) によってCacostomusのジュニアシノニムとされ,彼はこの2つの属を分ける重要な分類学的特徴がないと判断し,大きさと雄の大あごの形は2群を分けるためにあまり有用でないとして除外している。したがって、Eucarteriaの2種(E. floralisE. subvittata)は、現在Cacostomus属に位置づけられている。

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(件の3種。並べてみるとサイズ差は確かに大きいから分類したくなる気持ちも分からなくはない。だが細部形態に属や亜属に分類するほどの差異は見られない。)

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(別属でも種間サイズに差が著しくある例は多々ある。)

 玄人なら詳しく知っている人がいそうな話だが、ポッと出の研究家には難しいハナシかもしれない。網羅的観察というのはここでも重要になってくる。

【References】

Snellen van Vollenhoven, M. 1865. Sur quelques Lucanides du Muséum Royal d'Histoire Naturelle à Leide. Tijdschrift voor Entomologie. Amsterdam 8:137-156.

Newman, E. 1840. Descriptions of some new species of coleopterous insects. Magazine of natural history and journal of zoology, botany, mineralogy, geology and meteorology 4(New Series):362-368.

Reid CAM (1999) A new generic synonym in the Australian Lucanidae (Coleoptera). Coleopterists Bulletin 53(2), 175-177.

【追記】

 あまり話題にされないような話だが、知っておいて損は無いので記事化してみたという話。

人生の辛い試練は、どこかで説明がつくはずである。
(ジャン・アンリ・ファーブル)