クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【第參欠片】約1億年前・後期白亜紀セノマニアン前期のクワガタムシ科入りBurmese amberについて

 以下は私にとって苦尽甘来の邂逅となった3つ目のクワガタムシ科入り琥珀触角画像(全身は現状秘密)。※琥珀の真偽判定は簡単に可能な方法(食塩水テスト、UVテストなど)では確認済。

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f:id:iVene:20211031142600j:image(マグソクワガタ属に似た体長3.5mm程度のクワガタムシ、本体はやや多くの異物に巻かれている。同琥珀には2頭マグソクワガタ属に似た甲虫が入るが、触角の節が不鮮明で撮影に難儀した。見やすい方の個体の触角も片方は異物で第七節が隠れて見えない。暫定的にこの画像だが、もう少し撮影法を工夫出来るかもしれない。とはいえラメラがこれだけ肥大していれば、体型など他特徴と合わせて同定が可能)

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(もう1頭の触角は更に見づらいが一応見える)

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。クワガタは、いずれも†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang,2017に酷似している。なお同種であるとは言いきれず別種であるとも言いきれない。種内雌雄差か種内個体差か別種かの関係性判断は不可能である。ただし現生種とは、いずれとも異なる。

 琥珀自体は小さく、中には様々な虫が入っていた。クワガタが2頭入っている事自体が異例中の異例だが、半損した4〜5mmのアミメカゲロウ目(Neuroptera)ミズバカゲロウ科(Sisyridae)絶滅亜科†Paradoxosisyrinaeの毛深い絶滅属種†Buratina sp.(?)や、3mm程のカメムシ目(Hemiptera)ヨコバイ亜目(Homoptera)カイガラムシ上科 (Coccoidea)絶滅科†Weitschatidae(?)の成虫、2mm位のハナノミ科(Mordellidae)?甲虫や、1mm程度のコケムシ科(Scydmaenidae)?らしき極小甲虫などが混入していた。専門外は疎いので一応「?」を付ける。

 私の予想ではクワガタの初期系統は南半球の何処かに始祖を生じたと考えている。ミャンマー琥珀からのクワガタ形態は今の南半球にしか居ない現生種と共通点が多く北半球ではかなり種数が少ない(KT境界の隕石が原因かもしれないが間違いなくクワガタと分かる白亜紀以前の化石が無い)。琥珀にあるクワガタからミャンマー琥珀インド亜大陸とともに北上したと考えるのが自然である。

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【References】

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

天然琥珀 VS 偽物・贋作・フェイクアンバー

 "琥珀"という話題になると、偽物が沢山売買されてきた歴史が一般常識になっているかと思うくらい会話の冒頭にやってくる。一目見て贋作と分かるのに「本物」として売買される贋作も大量に見てきたから市井の人々が不安な気分になるのは当然と言える。こういう事も多いから分類学と同じく事前の予習を必ず行い、余裕を持って慎重に事にあたる事が必然不可欠となる。しかし其れにしては真偽判定方法を調べてもまとまりが無い。「これで充分」「(理由を示さず)分からない」など、誰しも天然琥珀の事など知らずに騙っているような、そういう情報だらけで散漫な気分になりスッキリしない。論理的でも読者の要求に沿った情報開示でも無い人の主観ばかりで、科学的な手法がネット上や論文などでも充足していない。だから、やや労力だったが当記事で以下にまとめる事にした。

(「琥珀とは」)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%A5%E7%8F%80

 現生種昆虫標本であればデータラベルの正確さや真実性を担保するのが自然界しか無い事は最早当ブログ読者の殆どが理解した事と推察する(ここ20日間程度で4000アクセス程度:200~ access/ day)。一方で琥珀の場合であれば産地が少なく、また樹脂そのものの物性が様々な情報を持っているからある程度はそれだけからでも真偽判定出来うる。「天然性」の担保はやはり自然界に無尽蔵的にあるため其処から再現性を再確認する事もそんなに難しくない。

比重テスト。琥珀を食塩1:水4の飽和食塩水の中に入れると天然琥珀は浮いて来て偽物は沈下する。琥珀の密度は1.05―1.10間にあって材質はとても軽い。※ちなみに琥珀、コーパル、スチレン樹脂でできたものは浮いてくるが、ガラスやプラスチック、セルロイドカゼイン、フェノール樹脂等でできたものは沈むから、これだけのテストでは不足がある。また内部気泡で比重が変わりプラスチックでも浮く場合がある。何故かネット上などでは此のテスト法だけで良いとする書き込みが多いが理論上でも実際的にも全く不十分である。

※食塩水が琥珀のヒビなどから内部に侵入すると乾燥後に結晶化した塩の内圧で樹脂のヒビが大きくなり割れるリスクが高くなる為、実験後は必ず水洗いで塩を落とす。ちなみに水洗いも樹脂の状態を変える場合がある為なるだけ回数は少ない方が良い(乾燥と湿潤を繰り返さない方が良いという意味)。

②針で炙るテスト。熱して赤くなった程度の熱い針で琥珀の表面を炙ると焼けた部分が黒くなり、しかし針にベタつかないし、しかも竜涎香みたいな刺すような強い樹脂の香り、コーパルなら少し甘酸っぱい樹脂の香りが出てくる。人工的なものからできた偽物は針に樹脂にベタついて、酷いものならプラスチックのような刺激的な匂いがある。

弾音を聞くテスト。天然琥珀ならば琥珀同士を"コツン"と当てれば相対的にやや重みのある音があって、ガラスなど偽物の音は比較的軽快。感覚的に難しい方法とも考えられる。

光沢を見るテスト・UVテスト。人工琥珀の光沢は見た目で硬い感じがある。天然琥珀はUVライトで照射すれば照らす角度の異なりによっての色と屈折も違い、偽物はこのような効果が無い。琥珀を偽札識標機の下に置いて紫外線で照射すると天然琥珀は緑色・青色・白色などの蛍光を示し、"見た目が精巧"な偽物ほど同様の変色することがない(人工の合成樹脂でも蛍光するものはあるが紛らしい人工琥珀では見つかっていない)。※天然琥珀の一部をくり抜かれた部分に虫体入り偽物樹脂を埋め込まれた偽物もこの方法で見分けがつく。

エーテルによるテスト。エーテルを含むマニキュアの除光液などで琥珀の表面を拭いても天然琥珀ならば問題ない。偽物は腐食させられる。ただしアクリルや軟質の塩化ビニール以外のプラスチック類の大部分はエーテルの影響を受けない。

※化学薬品は樹脂にどのような影響を与えるか分からない為、コレも水洗いで落としてから保管する。また同様の理由でナフタレンなどの揮発性薬品を入れた現生種昆虫用標本箱に同封するのはリスクがあると予想されるため別の箱で保管した方が無難である。

静電気テスト。琥珀を綿の布などの静電気を帯びやすい繊維と摩擦させれば、本物は静電気が生じ小さな紙くず片を引きつけることができる。偽物にはできないものと出来るものがある。

コーパル(若い琥珀)可能性テスト。コーパルはアルコールを1~2滴垂らすと粘つく。琥珀は粘つかない。

加傷テスト(破損がついて再研磨など面倒なので非推奨)。プラスチックの最も解りやすい特徴は曲がることと切れること。人工プラスチック製では、カッターで削ぎ取るように切れば彫刻の削りカスのように繋がった薄片が削り取れる。本物の琥珀ではカッターで削ってもポロポロと粉片が出るのみ。削った手ごたえも異なる。

ガラス製偽物との判別テスト。ガラス製は冷たく感じ、それ以外の樹脂・プラスチックでは冷たく感じない。琥珀の場合だと触ったときに冷たさをあまり感じない。よく「ほんのりあったかい感じ」という表現がなされている。

赤外線吸収スペクトル測定(赤外線分光法)テスト。これで測ると接着剤混入痕跡や不自然なプラスチック・樹脂成分構成などの計測結果で本物と偽物の違いを知る事が出来る。またバルト産など産地がどうか調べることもできうる。バルト産の琥珀には「バルティックショルダー」と呼ばれる特定の波形が現れるので一目瞭然とされる。

※赤外線吸収スペクトル測定は充分な測定を出来る機器が高額で、所有する研究所などに測定依頼をしなければならない場合が殆どである。また自身でどういう測定をしているのか理解しなければならず、さらに測定結果は書面で波形でしか出ない為、偽造書類では無いと証明するためには其の都度さまざまな研究所で測定出来なければ真実を担保出来ない。それらの為の制約が大きく良い判定の割には煩雑且つ時間のかかり過ぎる作業とも言える。

 本物の琥珀ならば上記①〜⑩の全てのテストで偽物でない事が判る。また中身に人工物が混入していたら偽物や合体標本と簡単に疑える。他にもグリッターと呼ばれるヒビの形態が放射的かどうかとか色々あるが其れは私自身で見比べていないのでなんとも言えない。また触角の長いハエが同じ琥珀内に入っていれば大丈夫という説も見たがキノコバエなら現生でも多々いるし私は「後翅が前翅に隠れて見えにくいヨコバイの仲間か何かの虫」とハエを見間違えた事もあるから、あんまり良い方法でも無い気がする。

※しかし最後に、一つだけなかなか何処にもハッキリ説明されていない厄介な代物の判別法を加えて記しておきたい(おそらく初めての言及と考えるが何処かに書いてあるんだろうか)。何故誰もハッキリと書いていないのかも不明瞭で調べていてかなり苛々したのだが「再生琥珀(練り琥珀:圧縮琥珀:アンブロイド)」と「天然琥珀」の見分け方である。再生琥珀とは天然琥珀の破片群を、高温か高濃度エタノールかの何かの手法で溶かし纏めて一塊にしたようなものであるから、"人工的に作り出した素材では無い"という意味では「琥珀」であると言う人もいるし、しかし"人為的な処置で天然琥珀と見間違うような紛らわしい物を作っている"という意味で「偽物」であるという鑑定が常識的である。これまでは大抵の再生琥珀は赤外線吸収スペクトル測定で接着剤混入があるか無いか調べられてきたが「精巧な偽物がある」という噂があり、これは「噂程度でも確かにあり得ない話じゃないかもしれない」という気分にさせてきて私だけでなく多くの琥珀愛好家を不快且つ苛々させたままである(琥珀片を集めインゴットを作る技術があるらしい)。残念ながら私の見立てでは"インクルージョンが何も入っていない琥珀の場合"だと見分け方がないように考えられた(鑑定不可能という鑑定書がついた琥珀もあるくらい難しい)。まぁインクルージョンについて調べている私のような虫屋には中身無しの琥珀なんて見る動機が"ちょっとした比較をする程度以外"だと殆ど無いからそんなに大した障壁は無い。しかし虫などのインクルージョンを調べたい場合には厄介極まりない話である。噂程度に負ける方法論なんて何の役にも立たない。最近は細かい造形物をナノ3Dプリンターで簡単に作れる。CGで作られた画像が論文に載っているとはコスパが悪すぎてあんまり想像出来ないが偽物の虫が再生琥珀に入れてあったらややこしいにも程がある。だが大抵の論文はそんな面倒な話を説明や図示して疑惑を晴らすみたいな事はやらないから「実際どうなのか」を見分ける事が難しくなり過ぎている。レプリカと本物の見分けがつかないなら、レプリカをレプリカとして参考にするにしても本物を参考にするにしてもハッキリしないモノを見ている可能性を払拭しきれず参照価値が共倒れして消え失せてしまう(フィクションはフィクション、ノンフィクションはノンフィクションと判別出来なければ"偽物か本物か分からないミスリーディングなモノ"を見る羽目になり参照する意味が無い)。良心的な表現をする普通の人達はレプリカと本物の確実な見分け方を必ず付記してくれるが、我欲ばかりで性格の捻じ曲がった人達は"情報を提供する側としての自覚"が足りていないため気になる疑惑部分の見分け方を一切示さずのらりくらりとどうでもいい話ばかりして明瞭な議論・言及を避け一般庶民に対して背徳的な態度を取り続ける。

 実際の虫入り琥珀は"精巧"な模造品を作るより低コストで入手出来るため其処まで疑う事も無い。あれだけ精巧なモノを作ろうとすると低コストでは済まない。低コストで済まされたような贋作ならば「現生種が入ってるじゃん」とか「樹脂が偽物くさい」とか絶対に情報の粗が出てきて検証すれば「それみたことか」と容易に偽物である鑑定結果に行き着く。現地琥珀商も堂々と「贋作よりも低コストで天然の"虫入り琥珀"を入手出来る事」を売り文句にしているくらいである。しかし良いインクルージョンであれば値が張ってくるようになるため疑惑がつきやすくなる。

 この件で私も色々悩んでいたが虫入り琥珀の実物をかなり良い顕微鏡で覗いてみればモヤモヤが一切消え失せた。虫入り琥珀愛好家は安心して欲しい。本物の琥珀資料の方が、潜在している要素で真偽判別法の再現性を確実にするくらい圧倒的な物量が自然界にあるのだから模造品が天然個体にとって変わる事は未来永劫無い。琥珀内部をよく見えるように研磨する必要性が前提としてあるが、かなり良い顕微鏡で観察してみれば、虫そのもののキューティクル(微細な炭素繊維)で構成された細部構造が生物形態の証拠と言っても良い関節部位でも数マイクロメートル単位まで非常に細かく保存されている(本物の虫はナノ3Dプリンター出力物に残るようなプラスチック積層痕跡や熔けて爛れた感じなど粗造りの痕跡が一切無い)。またこのサイズ感だと人為的には再現出来ない自然な様態(内部に入ってから圧力で分解したと分かる)のヒビや破損が虫体表面や体毛などの何処かの状態で殆どお約束と言えるくらい必ず見られる(※大抵の論文上の虫入り琥珀画像ではこの状態が見えるようになっていないから実物を見た方が分かりやすい)。ヒビ割れは虫体の薄い部分ほど見やすく下から透過光で照らせば虫のヒビ割れ模様がクッキリ浮かび上がる。加えて虫の一部が透けて内部構造が見える場合もある。琥珀というのは樹脂が固まってから数千万年以上かけて出来上がったものを言い、もちろん水分が悠久の年月をかけてゆっくり揮発する・また地中にあるため弱い圧力で樹脂がゆっくり変形する。だから割れ方少なく樹脂の変形に伴い必ず中身の虫体も変形しうる訳である(急速に乾燥させたり圧縮をかけると琥珀内の不溶性成分と溶性成分などの3次元的な偏りで内部応力に大きな歪みが出て割れやすい)。虫体の生物形態的組織構造は樹脂内で永い時を経過しているから分解を起こしていて、例えば高濃度エタノールに長期間入れておいたり高温処理で溶かしたりすると姿見を保てない。本物の虫入り琥珀の虫は琥珀の中にあるから姿をある程度保っている(炭化が進んでいる為"色"は変わっていると考えられる)。つまり虫入り琥珀を「半永久的に参照可能な標本」として残し大切に扱おうとするならば樹脂から取り出せない(コーパルであれば樹脂が若いので綺麗に取り出せる場合がある)。例えばProtonicagus taniのホロタイプ標本も保存状態が最高クラスに良いが其れでも眼角小顎髭にヒビ割れが見られる。5mm以上の甲虫ほど此の傾向が顕著にあり、現生種の入った樹脂標本はそんな見た目が全然見られないから判別は容易である。虫体のヒビ割れについてはミャンマー琥珀、バルト琥珀、ドミニカ琥珀のいずれでも確認出来る(古いほどヒビ割れ率が高く規模も大きい傾向がある)。むしろ虫体にヒビ割れの無い琥珀の方が珍しいのではなかろうか(そういう画像の個体もあったが良い顕微鏡で見直せばヒビ割れが見えそうである)。加えて虫が明らかに現生種じゃない絶滅種と判るならば最早疑問の余地なく本物の天然琥珀と見分けられる。また虫の一部断面が見えている場合は欠損が気になる一方で中身が生物構造である事も確認出来る(空洞になっている場合と樹脂が侵入している事が見える場合があり"人工プラスチック樹脂が充填された人為的造形物"か"生物体"かどうかの判別は非常に容易である)。コレを人為的に作る技術は今の所無いと考えられる。大自然は何より偉大なのだ。様々なナノ3Dプリンター製品を見てきたが造形技術的にも上記したような本物の虫入り琥珀状態と見間違うレベルの精密さを造形する段階には到底到達していない。前述にも様々な判別法を書いているが、この見分け方だと殆ど他の真偽テストをパスしても虫入り琥珀樹脂の真偽判定を出来ると考えられる。問題なのは「使用性の良い高額な顕微鏡が要る」という事くらいと推察される。

 また虫の姿勢が溺れ苦しんだような姿勢という状況証拠から判定するという人達もいるが、偽物を本物として売る詐欺師なら虫を生きたまま樹脂に埋めるなんて非道な事も黙って平気でするに決まっているのだから保険にならない手法であると分かる。庶民感覚での判別方法は今の所モヤモヤしたものばかりで困難と考えられ、またやはり"虫入り琥珀"を理解するにはレプリカの造りが精巧になればなるほど相当に良い顕微鏡など高価な道具が必要になる。

【追記】

 さて、記事の主役とした琥珀の虫は推定約1億年前、白亜紀セノマニアンのクワガタムシ。クワガタ個体群の外部形態は既知種のProtonicagusに酷似というか殆ど完全に一致していたため悩まず即決入手した。前胸背形態なんかは分類するには全く困らないくらいに一致している。「百聞は一見にしかず」やはり見りゃ分かると言うのは本当に良い。†Protonicagus tani Cai, Yin, Liu et Huang,2017の化石種としての記載文にも本当に感謝している(※良くない論文に対する好評を除き)。

 種記載原著論文は"対象"に関する「description:説明」と書いているのだから"今代なら本来コレ位が最低限でなくてはならない"という普通のコメントも聞いている。確かに無尽蔵な観察と考察を繰り返して漸く見えてくる自然界の成り立ちや構成を説明するのに致命的な不足があってはならない。

https://g-lance.net/other/chesterton/

 ちなみに大体この手の論文を一般人は有料入手する訳だが、よくない論文についても同様である場合がチラホラある。良い論文ならば多少の金額を払っても良かったと思えるが、よくない論文というのは当ブログで原典批判している"統計学も遺伝学も論理学も何も分かっていないような読んでも「よくも騙してくれたなァ」と地面に叩きつける以外使い道の無い資源の無駄遣い"みたいなモノで、そういう悪い出版物の販売については「アフィリエイト詐欺」の1種に見えて区別もつかない。「論文」「出版物」を情報商材に使う人は多いのだが、違和感の多いものの中から価値ある情報を掬える事は稀である。

アフィリエイト詐欺の見分け方URL)

https://sundaygamer.net/ng-words-affili-kasu/

 遺伝学は最古の歴史ではヒポクラテスアリストテレスが少し何か言ったくらいでメンデル遺伝学やDNA研究など本格的に確立してからは未だ歴史が浅いから目を瞑ったとしても、統計学は"統計学"という纏った概念が無かった紀元前の古代ローマから生活に密接して使われている極めて基本的な科学的手法なんだから使い方(確率的現象か絶対的現象かの前提で統計データの解釈が全く異なる)を外す意味が分からないのだが、統計学の使い道を理解している人なんて生物分類学者では見た事も聞いた事も無い。誌面でも論文でも生物種形態を間違った方法で見分ける等、其の辺の小中学生でも容易に誤っていると気付ける表現例が載っている事があって落胆する(客観的に見れば読者の思考を混乱させる為にやっているのと変わらない質の書籍が多い)。誰々とは言わないが簡単にすぐ出来る事をさも大変そうに誇張して言う人達も世間一般から普通に阿保扱いされているが、彼らは自覚が無く本気で主観的過信を公言して訂正は一切しない(気づいたなら公式ネットページ等で訂正付記なんか容易に出来る時代であるが)。彼らは科学に全く反した虚偽的な行いで商売をしている訳だから、普通の科学者らは彼らを偽計業務妨害の罪で問えそうとすら考えられる。まぁネット上で殆ど無料で入手出来るような情報の詰め合わせなんか当ブログでやっているみたいに無料で良いとすら考えられるが。

https://ai-trend.jp/basic-study/basic/history/

 さて、入手した標本は濁りが気になる琥珀だが贅沢を言っても仕方がない。現生のマグソクワガタ属にもよく似ているが其れ等よりもかなり小さい。

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アメリカ合衆国のオブスクルスマグソクワガタ:Nicagus obscurus (LeConte, 1847) ♂個体〈左〉と、日本のマグソクワガタ:Nicagus japonicus Nagel, 1928 ♂個体〈右〉は産地が離れるが形態はよく似る。此の2種を含めマグソクワガタ属は北半球の日本と米国で3種のみ記載がある。いつの時代か詳しくは不明だが地球の温暖期に北上し、ユーラシア側から北アメリカ側に移った後、寒冷化に伴い南下したと考えられる。刻々と環境の変わる地球上で理想的な新天地を探す旅の中では形態を変化させる暇もなかなか無かったのだろうと推察する)

 こういう時によく「生きた化石」という比喩表現を昔はよく聞いたのを思い出す。太古の昔から形の殆ど変わっていない生物種をそう喩える人が沢山いた。しかし「採集の神様」と呼ばれる御仁は其の表現に対して怪訝な印象を持っているようだった。曰く「太古から形が驚くほど変わった生物種も、そんなに変わっていない生物種も同じ時間を頑張って生きてきてるんやから、シーラカンスについてもそうやけどああやって変わっていないのを無下にするような比喩表現はよくないよね。」というニュアンスの理由だったと記憶している。氏は分類学的な実績も残されているが採集観察が好きだから分類は殆ど故・永井信二氏に任せっきりだったと言われた。しかしやはり虫を観る目が他とは違い、より鋭い視点を持たれていたのだ。後年に流行る遺伝子系統樹解釈がバラ撒く誤認を先んじて回避されていたとは、やはりnativeに自然を考える人は凄い。人間が主観的に受け取る"見た目"など人外の生物自身からすれば生存戦略上問題になる事は無い(むしろ"気持ち悪い"と思われた方が捕食されるリスクが減少するので虫にとっては好都合である。過去、アフリカのゴライアスオオツノカナブン類は捕食側生物から見て「鳥の糞」に擬態した形態だったおかげで被捕食率を下げられたため大型化出来たという話を聞いた私は「なるほどな〜」と自然界での営みの奥深さに感心した事がある。見方は色々あるのだ)。

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(約4億5000万年前の古い時代からおおまかな形態が維持されているカブトガニは有名である。画像個体群は私が過去に自己採集したアメリカブトガニLimulus polyphemus (Linnaeus, 1758)の死骸と抜け殻、またサイズ比較用のラコダールツヤクワガタ81.2mm♂個体)

 しかし白亜紀のクワガタが2頭も入った琥珀なんて例外中の例外なんではないだろうか。優秀な琥珀商によるとミャンマー産で真に白亜紀のクワガタ入り琥珀は恐らく20〜30片という事だが、私の知らない琥珀が実際どれくらいあるのか気になるところである。

 20〜30片というと沢山あるように感じる人もいるだろうが私が知る限りミャンマー産虫入り琥珀は私がチェックしただけでも50万片程だから分母からすれば超希少。この類の資料を私自身で自己採集する自信は全く無い。虫の入っていない琥珀は別用途なのか表市場には出てこないが虫入り琥珀は全体の15%ほどらしいので逆算すればおそらく400万片ほどは出回ったと推測出来る。また良い琥珀は大体どこかで出品されるが現地に掘り出されてストックされている分もある。ミャンマー琥珀は2010年あたりから本格的に産出が始まったという話と、2015年に中国に入ったミャンマー琥珀が推定100トンという話と2017年に鉱山がミャンマー軍に買収され産出が激減したという話、曇りやヒビ割れで売り物にならない琥珀が大量にあるというのを考えると現地のストックを合わせた総数はなんとなくの計算で500〜700トン(数百万〜数千万片)くらいと推定出来る。

【References 2】

Nagel, P. 1928. Neues über Hirschkäfer (Coleopt. Lucanidae). Entomologische Mitteilungen, 17,
257–261.

LeConte, J.L. 1847. Fragmenta entomologica. Journal of the Academy of Natural Sciences of
Philadelphia, series 2, 1, 71–93.

LeConte, J.L. 1861. Classification of the Coleoptera of North America, Part 1. Smithsonian Miscellaneous Collections, 136, 1–208.

Linnaeus, C. 1758. Systema Naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis. Editio decima, reformata [10th revised edition], vol. 1: 824 pp. Laurentius Salvius: Holmiae.