クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

†Syndesus ambericus Woodruff,2009についての検証

Syndesus ambericus Woodruff,2009

Type data: Burdigalian/Langhian Amber fossil, Dominican Republic, probably Cordillera Septentrional.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=226308

 産地はドミニカ共和国。約1400万年前〜2000万年前の新生代第三紀中新世バーディガリアン/ランギアンの地層から出土した琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「R. E. Woodruff. 2009. A new fossil species of stag beetle from Dominican Republic amber,with Australasian connections (Coleoptera: Lucanidae). Insecta Mundi 0098:1-10」より引用した図)

 体長は13mm。触覚は不鮮明だがツツクワガタ属(Genus Syndesus)以外には見られない特徴的な形態が見えるのでツツクワガタの仲間だろうと判断出来そう。

 大顎や前胸背の形態は現生種のツツクワガタ属では見られない形態であるので絶滅種と考えられる。

 原記載によればWoodruff氏が最初にクワガタムシ科と同定したのは1983年。スミソニアン研究所に買い取られた後(1989年)さらに米国国立博物館の昆虫学部門→古生物学部門と所蔵場所を点々としている間に、琥珀が一度壊されて修理されたため中身が見えにくくなったとの事(before図3→after図8)。これ以上無い貴重な琥珀を壊すとは、やはり公的機関にあると言えど肝が冷える。しかし、どうやったらそういう壊れ方になるのかというヒビ割れ模様。触った事があれば分かるが「琥珀」というのはそんなに脆いものでは無い。初期の粗研磨で壊れなかった琥珀を、後からこのように壊すというのは相当粗雑に扱ったという証左である。この標本はぞんざいに扱って良いものでは無い。

 琥珀の場合は真偽判定が色々ある。ある程度慣れると顕微鏡で覗いただけで、どの部分が本物を示し、どうなっていれば偽物なのか分かる。とりあえず中身の虫が綺麗過ぎる標本は避けたいところ。

https://www.kaseki7.info/c/?p=589

https://www.k-grace.com/hpgen/HPB/entries/6.html

 偽物の概念は様々。ちなみに琥珀を溶かす方法もあるが、数千万歳以上のものは虫がバラバラになってゴミになるので溶かしてはいけない(数万歳程度のコパルなら大丈夫な場合もある)。

https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/smp/kaiun_db/otakara/20200714/02.html

https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/smp/kaiun_db/otakara/20160202/07.html

https://plaza.rakuten.co.jp/hosomichiblog/diary/201502080000/?scid=wi_blg_amp_diary_next

 ちなみに画「ジュラシックパーク」のように恐竜のDNAを採取し復活させる事は出来ない。

https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02071.html

【Reference】

R. E. Woodruff. 2009. A new fossil species of stag beetle from Dominican Republic amber,with Australasian connections (Coleoptera: Lucanidae). Insecta Mundi 0098:1-10

【追記】

 DNA関連で頻繁に勘違いされるのだが、集団間の遺伝子差があれば分類して良いのでは無いかという人がいる。しかし遺伝子の差異のみで種分類は絶対に為されない(単細胞生物ですら形態が重視される)。別記事でも書いているが、生物種分類は「種間隔離の条件と形態的区別点」を確認されているから為されている。遺伝子(および其れに起因する形態変異)の差異だけなら遺伝型の記載になり、種分類とは別のルールに従われる。なので化石種も大抵の現生動物も形態だけで種分類が可能になっている。

 もし遺伝子が違うだけで分類群が定義されれば世の中は大混乱する。遺伝型名と冗長になる名称は不要だからである。

 よく系統樹に使われる遺伝子は大きく2種類。一つは生物種を形成し生命活動を維持する核DNA(およびRNA)で、これは配列する塩基の数が非常に多く、また顕性遺伝子と潜性遺伝子の対立遺伝子等を非常に複雑に持ち合わせているので、変異幅を確かめる事は大変と言える(ショウジョウバエなどのモデル生物は集中的且つ網羅的に研究されていて知見のレベルが全く異なる)。もう一つはmtDNAで、こちらは生物種の核DNAなどに対しては直接的な働きかけは不明と考えられ、精子卵子の細胞内核外にあるので雌親からしか受け継がれない(mtDNAは筋繊維に割合多く存在し、代謝において利用されていると推定される)。系統関係を調べるにはmtDNAで調べられる場合が多いが、このmtDNAも継続的な変異が経時的に一定かどうか不明であるため近縁遠縁論には弱いエビデンスという印象がある。産地が違えば別産地からの流入があっても集団が持つ傾向に差異は必ず出うる。また核DNAもmtDNAも塩基配列が転座など大きく突然変異した痕跡例が知られているので、大なり小なりこの階段的無秩序な突然変異の蓄積が絶対的にあると踏まえると系統関係を調べる意味はかなり希薄となる。大抵の系統樹を計算するソフトウェアはこの按配をバランスよく最もらしく見せるように設計されている。そして大抵の論文は全体ではなく一部の遺伝子配列を調べてあるのみである。なので、比較する生物種群を同じにしても、遺伝子解析の方法が違うだけで全く異なる系統樹がいとも簡単に検出されてしまう

 DNA解析実験を自身でやってみたり意見を聞いたりすると、データとして有効利用出来るような材料と実験の相性であれば良いけど、さまざまな生物種にあたると何をやっているのか分からない事が多々あると言われるし分かる。この方法が良いと言われて使用しても自分の眼で見えるサイズの構造では無いために納得しづらい。であるので、よく遺伝子系統樹を調べる人に何故調べているのか聞くと「あくまでも参考の位置付け」と答えられる。

 クワガタムシ科の系統樹も何度か作られているのを論文で見るが、色々異論が飛んでいるのは部分的にしか解析していない方法の其れが原因だったりする。ちなみにそういう系統樹は、遺伝子情報だけでは足りないとして形態解析で化石種なども含めたデータが埋め込まれ、既に説得力を出そうと模索された結果で其れなのである。

 またmtDNA系統樹では特定の1種の中に入るのに形態的には別種・別亜種となっていて(レニノコギリクワガタブランカルドノコギリクワガタの関係の例など)混乱している人がいるが、それはある系統が地域隔離でフェノコピーを形成し核DNAを大幅に変異されたからだと考えられる。実験室で突然変異を選び出し、特定の飼育瓶に閉じ込めて飼育累代系統化している話と同じ方向性の話で、本質的には人為選択か自然選択か差異。それが生殖隔離を持つか持たないか、形態的差異を持つか持たないか、どれもこれも独立し経時的に一定では無い速度で行われていく。それよりも古い時代からは全く見つかっていない昆虫類が石炭紀になってから爆発的に多様化し且つ最大種を出現させている時点で、遺伝子と形態の変化が一定では無い事がまざまざと知らしめられているではないか。種分化がいつ行われたのか遺伝子のみからの推定は困難である。

 近年、発生学的にカブトムシやクワガタムシを使用した遺伝学的な実験が行われているが、其れらは全てショウジョウバエで確かめられてきたような事の焼き増しである。各ニュースではブレイクスルーかのような評価で報じられるが、我々にとってはそこまで驚くべき話では無い。

 mtDNAには種や亜種の隔離に対する直接的な因果関係は無いし、核DNAには因果関係の無い配列が殆どで、僅かな特定の配列が隔離の形質発生に関わっているかどうかの見極めは非常に難しい。万象の可能性から消去法でミクロ視点とマクロ視点を繋げる作業になるので無理難題である。

 というか現生の昆虫種なら交尾器硬質部位の形態が隔離にどう関わっているか調べるための比較観察をもっとやれば良いのではないかな。人によっては交尾器の部位でも形態状態が定まらない内袋を変異幅も反証実験も無視して分類への使用をしたり、遺伝子情報だけで分類しようとしていて、いやいや一番説得力のありそうな部分を避けてどうするのかと。何の情報も検知されていないような、しかもかなりな割合少量の遺伝子情報なんて何を調べているのか全然分からない。全ゲノム解析が家庭にまで普及するまでは、そんなの見ても一般庶民にはどうしようもないししょうがない。

 頻繁に情報交換する分類友からの話によると「遺伝子考察はアマチュア論文との差別化のために入れている」と、とある○○大学学生が言っていたという事だった。

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