クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【雑談】Lucanidae科甲虫から観る新種昆虫発現について考察

 Lucanidae科甲虫は世界に1500種程度いると言われている。しかし、ん?と思う事が一つ、たった1500種だけ?という点が気になる。場所によっては狭いエリアに数十〜百数種が混生して生息し、近縁種同士が邂逅するような産地では互いが交わらないように形態差を増している(ウォレス効果)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%AE%E5%88%86%E5%8C%96

 新種の発現というのは、必ず遺伝子による素因が絡んでいる。もはや定説だが、環境変化によりゲノム損傷を引き起こし分化する「茎進化」、また一時的に産地が分断され後年に再度繋がる事によって外形的形態差しか無かった種間の交雑などが関わる「冠進化」がある。

 だが冠進化が起こるには産地の分離と再結合が前提的であり、大規模な大陸移動や海面上下にかかる時間を考えると、少し現実味が薄い。現生種からの類推だが、一つの生物種が独立系統として特化するのにかかる時間は数百万年で、陸地が一旦離れるよりも短い期間で行われる。冠進化が行われるには、分離して間もなく分化したとはいえ、生殖隔離を獲得していない亜種関係の生息域が再結合する必要がある。亜種分化が生じる場合、勿論そこまで不確定だろうが、およそ数十〜数百万年の時間で行われると考えられる。現生種を観ても解るように、別生物種同士ならば同地混生しても其々の系統独立性を維持している。大陸移動などを絡めた長期間の生息域変化であると分離前は近縁だったとしても、おそらく既に別生物種の関係性になっており交雑種が同地域で戻し交配などで片一方の種を淘汰もせずに系統化すると考えるのは極めて不自然である。故に、冠進化は小規模な生息域の変化で決められると考えられるため、大規模な冠進化は起きにくいと考えられる。

 とするとクワガタムシの場合だと茎進化が多かったのだと考えられる。現生種でも頻繁に見られる地域変異的なフェノコピーがサイレンス突然変異で形態をバランスすれば亜種の完成であり、さらに数百万年〜数千万年をかけて生殖隔離も徐々に進んでいけば完全なる独立種としての系統化を成し遂げられる。つまり、いくら世界が広くともゴンドワナ大陸で生じ、以降プレートテクトニクスに任せて分化したのみの種群であると一塊の科分類群で1500〜2000種程度でもまあまあ頑張った方だという事なのである(オセアニアアンデス山脈の低地にいる原始的なクワガタムシ群もそれなりに生息環境に振り回されて種分化したと考えられる)。

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Aegus macroparvus Huang et Chen, 2017:マクロパルブスネブトクワガタ♂個体31.6mm。おそらくタイプ標本以外の図示は当ブログが初であり、最大個体である。タイプ標本の2♂1♀の他、私は手元の31.6mm♂と友人の小型個体1♂を見知る程度の希少種だが、ネブトクワガタの中でも外骨格が硬く、顎先まで分厚い形態をしていて、そういう構造でないと生存しづらいような環境を好んで特化したと推測出来る。※ちなみに学名"Aegus macroparvus"をgoogleで調べると汎用されているGBIFhttps://www.gbif.org/species/9661407とBioLibhttps://www.biolib.cz/cz/taxon/id1668436/の2件データベースでNagelが 1941に記載した綴りと表現されているが、友人に参照してもらうと、そのような記述はNagel, 1941のAegus属記載欄には無く所謂公式ネットデマというものと分かった。ネット上に記載文のPDFが出ていたので読んでみると確かに無かったhttps://www.zobodat.at/pdf/Deutsche-Ent-Zeitschrift_1941_0054-0075.pdf。Huang et Chen, 2017で語源は「Aegus parvusの大きいバージョン。交尾器も似ているから」と説明されている。)

【References】

Huang, H., and C.-C. Chen. 2017. Stag beetles of China, Vol. 3. Formosa Ecological Company; Taipei, Taiwan. 524 p.

Nagel, P. 1941. Neues über Hirschkäfer (Col. Lucanidae). Deutsche Entomologische Zeitschrift, 1/2:54 -75.

【追記】

 無料公開状態のブログでここまで書いて良いのかと思われるかもしれないが、単なる一般論としての雑談である。私の矜持からして、そんな誰でも思いつくような何の労力もかけた感じもしない事で金銭は受け取れない。むしろそこまで容易な事で金銭的な関わりがあるのは気持ちが悪い。また、やや過激な論調とも思われるかもしれないが、普通に考えていれば当然に思いつく話ばかりであるので私は何の引け目も無く自信を持って推敲している。

 今はネット普及の時代であるし、いくらでも一般論が手に入る。ネットが普及していなかった時代は社会通念を理解するのにも非常に苦労したが、そんな事も今は昔。書籍や文献に関してはネット普及以前の物でまぁまぁの使用性はあるため苦労少なく情報収集が可能である。

 このブログ記事の推敲が1時間程度で終わるように、分類学は論文を書くにしても必要な資料が全て揃っていれば、ゆっくり時間をかけても2〜3日でドラフトペーパーが書ける(逆に資料が揃っていなければ倫理的な悩みが解消せず未来永劫書く事が出来ない)。査読されてから〆切までの時間もたっぷりあるので余裕を持って修正部分は修正し、まるで大層悩んだかのような態度で〆切ギリギリに提出する(提出するまでは頭の中で別な修正部分を考えられる)。私が論文投稿を頻繁にしないのは単純に論文活動が大してつまらないからであるが、分類よりずっと難易度の高い本業をしながら趣味の片手間でやっている私よりも、ずっと長期間研究している筈の分類学者らは何故こんなに容易な事をしないのだろうかと、不鮮明な図示と理解で記載される学者ら研究家らの論文に目を通しては不思議な気持ちになる。研究よりも論文を書く方が好きという人が稀にいるが、そういう人の論文はフィクションじみていて大抵読んでも頭がスッキリせずに苛々する。

 だから私にとっては、まるで苦労しましたみたいな態度でデスクワークばかり解説する人を見ても底が知れてお寒いだけなのだ。

 そういう輩は大抵の場合に売名と自己顕示欲に塗れていて、ネットを開けば大体満足するような幾らでも替えの効く簡単な話でカネをとる。そしてそういう人のSNS過去書き込みを見ると他者の自己顕示に対しては厳しい態度をしていたりする。なんと自己讃美と他罰に忙しい連中だろうか。まぁ多様な昆虫の姿見等を見るだけならば、ここ10年はebayが非常に優秀で、ひっきりなしに取っ替え引っ替え新しい虫がupされ常時的に新規性を感じられる。また相場の乱上下が見られるので、如何に情報商材屋が曖昧な相場を話しているか理解出来る。ebayのおかげで、SNSや何処かのブログで毎回見るような話ばかり掲載されたような、せこい情報商材屋のステルスマーケティングに騙されず済むのは大変ありがたい。