クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

【閑話休題】"Lucanidae科甲虫などの変異"に関する論考①

 

 昆虫などの生物を調べてみると雌雄型(モザイクを含め)をはじめ、「奇形」や「突然変異」の単語を見聞きすることが少なからずある。外的影響のみによる外傷など身体の状態変化に限った見た目の変貌とは異なり、遺伝子的な影響が主として働き生じる変貌である。

 人気昆虫のクワガタムシやカブトムシ、また蝶や蛾では、其れらの自然発生的な突然変異の例が比較的頻繁に紹介されている。2021年現在だと、自然界のクワガタムシ・カブトムシ等では種によった形態的多様性が知見として多く報告され、少なくない愛好家に常識的に知られる。

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(サイズや個体、また雌雄差により著しい種内の形態的変異が見られるKatsuraius ikedaorum Nagai, 1996:ヌエクワガタの例;スケールバー無し)

 そして其れらの遺伝学的な理解は、モデル生物としてのキイロショウジョウバエ等から発見されている遺伝学的知見に相関する部分が多い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%90%E3%82%A8

 これらを理解するには、高校生レベルの生物学の思考が必要不可欠になる。メンデル遺伝学、モーガン遺伝学は考える上で必修である。

http://spider.art.coocan.jp/biology2/titlepage.htm

 遺伝子がどのような構造で、どのような働きをしているか理解すると、とてつもなく途方もない機能の役割を果たしている事がだんだん分かってくる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90

 突然変異の生じ方がいかなるメカニズムかは、具体的に説明する事は困難だが、方向性はいくつか挙げられている。多少の変異ではそこまで影響が無い場合と、僅かな変異が著しく影響する場合がある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AA%81%E7%84%B6%E5%A4%89%E7%95%B0

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(脚が7本のキクロマトイデスミヤマクワガタ

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(通常形態よりも大顎が著しく太いベトナムアスタコデスノコギリクワガタ天然個体。綺麗に左右対称的であるので、まるで独立種かと勘違いしやすい形態とも見える。交尾器は既知種の典型的な形態。)

 あたかも新種かのような生物を人為的に作り出す技術も、もう既に揃っている。近年ノーベル賞を受賞したクリスパーキャス9は素晴らしい技術だが、全く新しい生物種を人工的に生み出せる技術でもあり、倫理的には取扱いが注意されなくてはならない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Cas9

 トランスポゾンによる転座で、フレームシフト的な変異を生じる事もある。

https://www.megabank.tohoku.ac.jp/genome/archives/tag/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%82%BE%E3%83%B3

  雌雄モザイクも遺伝学的にメカニズムが推定されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%8C%E9%9B%84%E3%83%A2%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%82%AF

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(殆ど左右バッチリに雌雄の形態が分かれたと分かりやすいテルシテスゾウカブトムシ雌雄型の例)

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ギラファノコギリクワガタのモザイク的な雌雄型)

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パプアキンイロクワガタのモザイク的な雌雄型。飼育者の多い種は分母に相関して奇形も数が多い。)

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(ラノンガ島産ウッドフォードネブトクワガタの典型的モザイク的な雌雄型。特徴の出る部位がバラバラである。)

 一般的には出来ない染色体地図作製や全ゲノム解析が必要になるが、人為的に雌雄型の作出は可能である。

https://brh.co.jp/s_library/interview/42/

 環境要因により生じる可逆的変異も存在し、「フェノコピー」と呼ばれる(過去に何度も記事で書いているが一応URLを付記する)。

https://www.netinbag.com/ja/science/what-is-a-phenocopy.html

 また別々の遺伝子で、其々が似た表現型を発現させる「ジェノコピー」も存在する。

 https://ja.strephonsays.com/genocopy-and-phenocopy-6554

 このフェノコピーとジェノコピーが連携して作用する形態変動は非常に考察が難しく、検証専用の薬品による別なアプローチが必須になる。

 日本のミヤマクワガタはフェノコピーの例としては典型例であり、これが地域変異の正体と考えられる。

https://www.asahi-net.or.jp/~id8k-sgn/kuwabaka2004a/t/miyamajapan.html

 クワガタの化石種と現生種を見比べてみても分かるが、それらの間には形態的に著しい差異がある。形態変化をしたと考えられる時代は、やはり環境の変化が著しくあったと考えられ、何世代にも亘り遺伝子的変化を繰り返されたのだろうと推測が出来る。

 随所で「変異」は「ヴァリエーション」とも呼ばれる。また其れらは表現型、フェノコピー、様々な要因で生じる事を前述した。この変異幅は、森羅万象の自然現象で存在し、これまで見つかってきた物理法則も、その変異幅と特徴を識別されて見つかっている。生物形態は、二重螺旋構造のDNAにより物理法則下で決定されているという事が、具体的に判明しているという事である。

 では「生物種」とは何か、「種概念」とは何か。それも変異と特徴の網羅的検証からの識別により分類されたものであり、ダーウィンやメイヤーの論考に理解されるように進化と淘汰により「偶然」生き残った生物系統が、悠久の時を経て独立系統として特化した集団を人間の認知可能な範囲内で区別されるものである。

【Reference】

Nagai, S. A new genus and a new species of the lucanid beetles from northern Vietnam. Gekkan-Mushi 309:12-14. (1996).

【追記】

 それならば何故、遺伝子的コンタミネーションの可能性がある飼育品をホロタイプにした新種記載があったり、ホロタイプ1頭で新種記載したり、種や亜種の集団隔離を正しい方法で検証せずに分類したり、既知種のホロタイプや変異幅をしっかり調べないで同定記載される論文だらけなのかと、私はもう何年も前から疑問視している。既知の生物学を知っていれば分かるが、其れらの論文の記述は曖昧且つ不確定要素を根拠として白昼堂々と「分かった」などと明白な嘘を公文書として書いているのだ。

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(短歯しかいないと噂の憐憫なノセオニクワガタ、その「思い込み」は「諦め」に近い。)