【閑話休題】"Lucanidae科甲虫などの変異"に関する論考②
クワガタムシを始めとする昆虫は、やはり発生変異が種によって振れ幅を違えるという状況が面白い。
しかし、一見して視界に入りやすい「外形」は良いのだが、論文上で別種であるという根拠で示される「交尾器形態」や、参考にされる遺伝子は変異の事をあまり示されない。学界全体がそういう空気だからである。
交尾器形態に変異があるのは、観察して初めて理解出来るのだが、その観察方法も正確でなくてはならない。隠蔽種を除き大抵の種は、外形特徴と交尾器形態特徴が100%相関している。しかし似ているものも少なくないため、沢山の標本観察が必要になる。観察を怠っていたり不正な研究をしている分類研究家は、都合の良いデータを選び出したり恣意的な解釈をして既知知見との擦り合わせが甘い論文を書く。
遺伝子の変異は近年の分類研究者なら誰しも実験解析するので存在が知られているが、これもやはり分類群により変異幅が異なるようなので部分的な解析データの比較はミスリーディングな理解を促す。

(個体により大した差異は無いように見えるが、細部ではしっかりヴァリエーションが見られるPrismognathus mekolaorum Okuda et Maeda, 2015:メコラオルムオニクワガタ;スケールバー無し。記載文に載るタイプ標本写真以外の画像公開は、おそらく当ブログが初になるであろう。外形はユキノブオニクワガタに酷似しながら交尾器は安定して全く異なるが、それを理解出来るのは2種其々の変異と特徴を理解しているから。)
結論を言えば、網羅的観察、交尾器と外形の大量観察、生物学的な相関(親兄弟か否か)、現地での生息状況(分布の重なり具合)を踏まえる事、そして観察標本が市場界でコンタミネーションした懸念が無いものと言えるかどうかをハッキリさせておく事が、正しい理解に近づける唯一無二の方法である。
【Reference】
Okuda, N.; Maeda, T. 2015: Three new species of the family Lucanidae (Coleoptera) from Arunachal Pradesh, northeastern India. Gekkan-Mushi, (528): 29-34. ISSN: 0388-418X
【追記】
真面目に観る、考える、という方向性で虫を観ていけば発見は芋づる式に出てくる。まぁ真面目にというか、普通の事をすれば良いだけなのだが。交尾器だけでなく、腹面や側面、正面、また後翅(まぁコガネムシ上科内なら退化的変化をしていない限り差異はあんまり無いように見えるが)、なんでも観察対象として既知知見に乏しい部位は腐るほどある。商売の為に其の努力を嫌がる人は多いが、私には勿体無いとしか思えない。