クワガタムシ科(Lucanidae)についての調査記録など

目的はverificationismに基づく原典検証・情報整理・批評説明。なお非営利・完全匿名を前提としています。

琥珀や化石中のクワガタ(stag beetle)の見分け方について

 琥珀や化石からクワガタのような虫が見つかった場合、大抵が見た事も無い形態だったり、状態も悪いものが殆どです。なので、同定するなら精査を要求されるわけですが、しかしじゃあ世の中にあるクワガタムシ科(Lucanidae)、stag beetleって何?どんな形ならクワガタなの?という一般概念の問題に衝突します。普通なら詳しく形態的特徴を定義されていて、簡単に理解できると思われがちですが、どの文献上でも「クワガタムシ科」として的を得た平易明解な表現がなされていません。なので一般的な概念は曖昧化されており、再現性の低い記述が多くあるおかげで学術的定義の信頼度が低い現状があります。例えば、厳密では無い、或いは敢えて誤った使用をされ、誤った理解が広まっていながら効果的な対策が取られていないですよね。これでは琥珀中に入る見慣れない形態のクワガタらしい甲虫なんかを見つけても、本当にクワガタなのか否か確信を持てません。

 ヒラズゲンセイなど似た別の科の昆虫を「クワガタ」という単語で呼称される事例と、実際のクワガタムシ科を同定される「クワガタ」の単語使用の事例の関係は、同音異義語の関係です。そこから来る弊害の影響で、更に曖昧な概念化をしている人ならばタマムシやDynastinae亜科ヤマトカブトムシとクワガタの違いすら知りません。虫入り琥珀を市場に出す人達や研究者でも、近似の別科ならば頻繁に間違えますから、間違えないためには現生種の網羅的な観察が不可欠になります。

 少し知っている人はそんな状況を嘲笑うかもしれませんが、そういう人は思い出してみて下さい。全く知らなかった頃は何とか色々調べて色々興味を持ちながら理解していったでしょう。知る気が無い人に教える意味はありませんが、知らなかった一般の人が興味を持つ事に妨げになるような態度は控えるべきですね。とはいえ、まとまった説明をする文献が見当たりません。

 はてさて、少し多種多様な標本を数千頭ばかり調べてみると、なるほどそういう意味なのかと、これまでより詳しく知る事が出来るかもしれません(詳しくまで識別しようとすると幼虫の形態なども調べたり結構大変ですから成虫のみ記していきます)。

 初めて定義が載る文献が出版されたのはLatreilleによる1804年のものとされています。その頃は近似別科の記載はそこまで進んでいませんでしたので、現在の定義よりは曖昧でした。

 では私が自身の持ちうる1200種以上のクワガタムシ科標本調べと文献から補足した限りになりますが、現在の形態的知見(主にHolloway, 2007)を用いて判別に関する要点を簡単に列挙していきます。

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 今回はメインの例としてチリハネナシクワガタApterodorcus bacchus (Hope, 1845)の標本を使い、各々の部位に其の名称を付記した画像を作りましたので、それらを用いて説明していきます。

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 ♂♀ともに、各部位の形態比率がどうかの観察が要される。

 識別するには先ず体型がクワガタ的かどうか知っていなくてはならない。大抵は「卵型」や「筒型」と表現されるが、その程度なら別科でもありうる。とりあえず扁平な種が、現生種に多い。

 一般的な知識から想像されているより大顎は大きくても小さくても良い。上唇が節として見え無い(融合した頭楯として備わる)。

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 クワガタムシ科の体型は、多様であるが有限でもある。他の科と似通う形態、間違いなく異なる形態が如何なるものか、よく覚えて考えなくては概念化が叶わない。

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 下唇基板もクワガタらしい特徴の一つ(ケシキスイ科にも似た形態がある)。

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 前脚ケイ節外縁の棘列も、クワガタムシ科などのコガネムシ上科ならば、よく見られる形態である。

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 触角は大抵の種で10節以下の構成(例外的にマメクワガタ類や、ツメカクシクワガタ類の一部の種は見かけ上8〜9節構成)。細長い第1節、鞠状の第2節、第8〜10節で末端となり先端節前縁端は丸みを帯びる。中間節のいずれか〜先端節でラメラ(片状節)が棍棒状部を構成しており、触角が前方を向いた時の状態で観察された場合、片状節は内側に肥大していて、棍棒状部は全体に扁平な構造をしている(ドウイロクワガタなど一部の種は第七節のみ扁平では無いなどの例外もある)。ラメラは節ごとに分離独立した可動形態であり球状にはならない

 第1節と第2節の関節が膝状に曲がる型の触角を持つ普遍的クワガタである場合は、第1節が非常に細長くなっているので、大抵は別科と区別に困らないと考えられ、腹節板の欠損や爪間板が見えない等の状態でもクワガタと同定する為に障壁は無いと考えられる。

 しかし一方で、第1節と第2節の関節が膝状に曲がらないストレート型の触角を持つマダラクワガタ、マグソクワガタなどの原始的グループである場合は、見かけ上5枚の腹節板と、爪間板が見えていなくては同定出来ない。※アカマダラセンチコガネ科などは、体型は異なるが爪間板が小さくて殆ど見えない事以外はよく似ていて厄介であり、腹節板形態や上唇節の有無で見分ける。

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 「腹節板5枚合わせた長さ:中胸腹板+後胸腹板の長さ1:1」の比率。マダラクワガタ系統の外形はコブスジコガネ科に似ている。コブスジコガネ科では小さくて殆ど見えない爪間板が、クワガタムシ科ならば比率的に大きいので見分けられる。

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 またクロツヤムシ科も近似しているが、そちらは爪間板が小さく、また触角の中間節外縁がやや肥大しラメラが内側にまわり込むような形態に曲がる事で判別され、大抵の種は上唇節が見られ、鞘翅肩部は撫型など体型が一律的であるので見分けやすい。(クロツヤムシ科に似ているクワガタはチビクワガタ属程度であり、チビクワガタ属は真性クワガタムシ亜科としての触角形態を獲得し不変的維持しているので判別は容易。幼虫形態は全く異なる)。

https://unsm-ento.unl.edu/Guide/Scarabaeoidea/Passalidae/Passalidae-Key/PassalidaeK.html

 そして、それらの外形的特徴に相関する交尾器形態があり、また幼虫形態を含めた其れら形態的特徴からクワガタムシ科をクワガタムシとして概念化たらしめていると言える。

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 クワガタムシ科は、現生種の外部形態の特徴、交尾器形態の特徴、また幼虫形態などから系統の独立性を担保され、甲虫類全体からの部分的な遺伝子解析からも其の特異性を支持されているようになっています。このような形態の参照により、現生種に似た古代クワガタムシ科甲虫群を、外部形態のみの特徴によって科同定が可能になっているという訳です。

【Reference】

Holloway, B. A., 2007. Lucanidae (lnsecta: Coleoptera). Fauna of New Zealand, 61, Manaaki Whenua Press, Lincoln, Canterbury, New Zealand, 254 pp.

Latreille, P.A. Histoire naturelle, générale et particuliere des crustacés et des insectes. Paris 10:1-445. (1804)

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 しかし近年は、現生種の標本だと裏面が全て台紙になっているようなものが少なくありませんね。仮作製の標本なんですか?完成した標本みたいなツラして紹介している人が少なくありませんが。で、其の標本、いったい何に使うんですか?同定のためには観察不可欠な、腹節板や後胸腹板、前胸腹板、頭部腹面(下唇基板など)、顎裏、脚の裏形態等の色・点刻・体毛など形態が全く見えませんよソレ。ちなみに、腹面観察用標本と背面観察用標本を別々の個体で済まそうなんて方法は絶対に認められません。形態の相関を考える上で、変異誤認によるバイアス発生のリスクを避ける為に、同一個体内での考察を、別個体での考察と比較して初めて正常な観察比較になりますからね。条件は一揃いに合わせてなくては正常ではありません。腹面を別個体から参考にしたら変異の考察でデータのコンタミをさせているのと変わりありません。(私も稀に台紙で腹面が全て見えない標本を敬遠しつつも仕方なく入手する事がありますが、絶対に湯に入れて外し、標本を作り直しています)。背面だけだと情報量が少ないですし、それだけで済ますような大雑把な観察なら少々綺麗な画像で事足りますし、実物の必要性は客観的にあまり感じられません

 ちなみに私は「腹面や肩部などの生物種的特徴が現れやすい部位が見えない標本は未完成の標本」と考える他に、「完全な交尾器が見えない標本は未完成の標本」とも考えています。そりゃあそうでしょう。視覚的に種概念を確認する上で、重要な形態が隠れて見えない標本から、どうやって見えない部分の生物情報を知るんでしょうか。よく同定方法として代案される部分的な遺伝子観察なんかは、あくまで参考で大した情報にはなりません(観察方法によって結論が変わる現象を最大根拠にしてはなりませんし、遺伝子観察の方が非常に煩雑で時間がかかります)。自然界ではフェロモンで雌雄が集まるという説も曖昧で、人間が誤同定するように昆虫達も少なからず誤同定していますからね。「雑種崩壊」の説も曖昧で、戻し交配による「雑種強勢」で効果は打ち消されます。先ずは歴史的に汎用して観察されている部位を先ず観察出来なくてはなりません。外形的分類を挑戦的に行う人もいますが、それも過去の偉人先人達が大量のサンプルから導き出した答えを参考にされている事を前提としていますよね。騙されて外形分類を続けてしまってきた人達は、心機一転しましょう。偉そうに外形や遺伝子だけで分類をする人もいますが、そういう人達には「真面目に観て考えてからモノを言うように」としか言えません。

 ただまぁ、交尾器を出していない仮作製の標本も存在意義はありまして、交尾器を観察可能にされてある個体は「標本の損壊」を余儀なくされていますから、一方で仮作製の標本は「未損壊の個体から交尾器を出して観察」という一連の行程を踏めるように保存されている資料としての存在意義があります(絶滅していなければ再現性確認のために新資料を採集する事も可能ですね)。しかし、ならば仮作製は不要なのでは?という疑問もありますが、其れは標本の状態を良好に保ちやすいという意義があります(別に作らなくても保管が良ければ大丈夫ではあります)。

 しかし当ブログでの批評や歴史的知見などから色々考えると、仮作製の時点で完成に近いビジュアルの標本にする意味は全く理解できません。「シンプルなビジュアル系標本」を作ったならば思想性が無いですし、科学技術の未発展だった時代の真似をするならば新規性もありません。バイオミメティクスに利用する標本としても成形に拘る必要性はありません。成形の参考標本にするにしても未完成標本を大量生産する事は不要です。それに完成までの行程で一度は必ず型崩れします私なら二度手間にならないように心がけます。虫好きだとかなんとか言いながら、やってる事は外面に重点的、そんな彼らは何をやっている人達なんでしょうか。インテリア目的とか言っている人もいますが、そういう「独りよがりな感覚で虫の死体を飾る」という光景はサイレントマジョリティから客観的に如何なる様相だと思われるでしょう。自然を愛でるとか言いながら人為を優先した側面を混ぜるなんて「ダブルスタンダード」と言われませんか。そんなに杜撰な考えで此の時代に世に出てくるなんて、お金の為に虫をやっていて実はそんなに虫好きでは無いという事なんじゃないんですか?(過去デビューしたての昆虫ショップの人から「お金の為に虫業界に参入しました。特に虫好きとか興味があるのではありません。」とハッキリ聞きましたが、時間が経ってある程度知名度が付くとSNSで虫好きを公言していましたね。何を信用して良いのか不明ですが、殆どの人がそういうハリボテ虫屋なんではないですかね。)最初から用途明瞭な標本にしておけば良いものを、そうしないのは、そうしなくても良いとか「標本の完成」の概念を誤認させるよう促しているような、わざとらしい違和感すら残ります。そういう態度からは「台紙で片面全部見えなくしたから今更作り直すの躊躇わせるし、交尾器も出していないから誤同定の可能性が凄く高いけど、素人に売るだけなんだからコレで良いんだ」とでも言いたげな、非常に恣意的な印象が強くあります。悪い学者らは素人に誤認を促して自身らだけで研究を進めやすくなるので一石二鳥ですね。

 標本群から導き出される結論について、いわゆる「総合的判断をすべき」とは誰しも思うでしょう。しかし、そう言う人達は其の結論に至る為の行程を踏めているのでしょうか?"其れらの結論"に不足の多い、僅か部分的な観察だけで生物分類を断定的に行うなどという活動は、勝手な事を得意気に言うような表現をしているに近く、普通に自然や自然史への冒涜に他なりませんし、私にとっては他山の石にすらなりません。何事も百聞は一見にしかず、根拠の物証となり得る証拠を見なければ何も納得出来ません。

 ちなみに私は「バイアスを批判する特定個人が信用されやすくなるバイアス」にも懐疑的であるので、対抗策として匿名での論考公開に意義を見出しています。批判者だからといって盲信していては、いつまで経っても本質的評価を得られません。

 いやまぁ別に良いんですよ?誰が誤同定しても、誤認させるような宣伝をしても(倫理的には疑問ですが)。私はそういう事をしないよう気をつけていますが、他人の害悪行為なんて止めようがありませんからね。ただ、誤認を促すような表現は、応用性の狭く限られる認識だなぁという客観的事実を世に残すだけです

ある「記述」についての検証~Lucanidae of Siberian amber?~

 調べているうちに、「シベリア産琥珀からクワガタムシ科甲虫が出ている」という記述があるらしい文献に当たった。なので文献を取り寄せる事に。

 シベリアンアンバーは約105.3 - 84.9 myaの白亜紀のものだそうで、となるとローラシアが分離した約200 - 170 myaには北半球にクワガタが居た事を示唆している。

https://antwiki.org/wiki/Taimyr_Amber

 私の仮説ではローラシア分離ごろの三畳紀クワガタムシが出現したと考えており、もし独立したローラシアクワガタムシが分布していたとなると、其の仮説の有力な補強資料になる。ただ、クワガタムシ科が出現した頃は南半球の一部から分布拡大をしようとはしなかった可能性もありうる(その頃は小型種ばかりで、当時高温で過酷な環境だった赤道を突破しようとしなかったかもしれない)。三畳紀に出現していたか否かを調べるには、おそらく南半球の化石を調べなくてはならない。

https://www.kerbtier.de/Pages/Themenseiten/enPhylogenie.html

 三畳紀というとクワガタの化石は見つかっていないが、白亜紀のクワガタ化石(現状未公開、そのうち記事化)から生物的進化変遷を考えると、そのくらいが始祖と逆算可能である(仮説であるので間違いかもしれない)。

 はてさて、ではシベリアンアンバーのクワガタとは??

 文献を入手したので早速開いてみる。147ページ。記述はこうである。

 Lucanidae (stag beetles). These moderately large, robust beetles are usually associated with trees, and the larvae develop in decaying wood. Species of Dorcasoides, Paleognathus, and Platycerus have been described from Baltic amber, and the family is also represented in Siberian and Dominican amber (Spahr, 1981A) (Appendix B).

 なるほど。285ページのAppendix Bを参照するとDominican amberのリストにクワガタムシ科が記述されている。Syndesus ambericus Woodruff, 2009のタイプになる標本である。Woodruff, 2009によれば、1983年にドミニカ共和国へ訪れ、故Jacob Brodzinsky氏のDominican amberコレクションの識別を手伝ったそうで、この時「未知の甲虫化石」とされていたものをクワガタムシ科と同定し、それに基づきPoinar(1992: 285)に記載されたとある。

 となるとSiberianの方はSpahr, 1981Aを参照したと言う事だろうか。文献を引いてみる(以下URL)

https://www.zobodat.at/pdf/Stuttgarter-Beitraege-Naturkunde_80_B_0001-0107.pdf

 ん?あれ?シベリア琥珀のクワガタなんて全く記述が無いぞ。クワガタムシ科としてリストされているのはバルト琥珀からとされた3既知分類群のみである。おいポイナー、いったいどういう事なんだ。

【Reference】

Poinar G. O., Jr. 1992. Life in amber Stanford, CA: Stanford University Press.

R. E. Woodruff. 2009. A new fossil species of stag beetle from Dominican Republic amber,with Australasian connections (Coleoptera: Lucanidae). Insecta Mundi 0098:1-10

Spahr, U. 1981A. Systematischer Katalog der Bernstein-und Kopal-Käfer (Coleoptera). Stuttgarter Beitr. Naturk. (Serie B) 80: 107 pp.

【追記】

 考えてみれば、図鑑や適当な書籍でクワガタムシ科甲虫化石種と確信出来るマトモな図示に出会えた事が無い。

 論文にしてもそうなのだが、人と違い奇抜な事を言ったり、或いは目立つような事をしているような表現で注目を集める事が、職業研究者らでは死活問題に近い人が多い。SNSで"バズり"を起こす事を目的にしているようなものだ。古い時代から歴史が示している通り、真実に基づき真摯に考える人は、その時代にあった知識を用いて注意深く思慮深い思考をする傾向がある。しかし曖昧な思考や実績で勝負を仕掛ける人は間違えてしまいやすく、また気付いたところで更に嘘に嘘を固めていき、オーディエンスの眼を真実から逸らそうと必死になる。

 たしかに、パトロンとなる人物から資金提供をしてもらっている場合は、良い結果をこれでもかと急かされる。しかし、カネが全ての世の中になれば、それは最早どうしようも変えようが無いディストピアな社会構造になるのだ。だから予め、若く学者を目指す人には「功を焦るくらいなら研究者になるな、研究に関わるな」と私から助言しておきたい。

 中世の時代、科学研究は欧州貴族が嗜むようなものであり、現在のように一般庶民が関わる事は、殆ど無かった。現在に比べれば、パトロン要らずで独断と偏見に満ちた時代である。下記に面白い例を引用してみる。

 Pierre François Marie Auguste Dejean(1780年8月10日~1845年3月17日)は、フランスの昆虫学者である。ナポレオン戦争で活躍し、ナポレオンの補佐官として中将にまで上り詰めた。彼は膨大な数の甲虫類を収集し、中にはワーテルローの戦場で収集したものもあった。1837年には22,399種のコレクションを公開しているが、これは当時、世界で最も偉大なコレクションであった。1802年、彼は22,000種の種名を含む膨大なコレクションのカタログを発行し始めた。Dejeanは命名法における優先順位の原則に反対していた。というのも、「最も古いものではなく、最も一般的に使用されている名前を維持することを常に規則としてきた。なぜなら、一般的な使用に常に従うべきであり、すでに確立されたものを変更することは有害である。」と考えたからである。Dejeanはその通りに行動し、他の著者が既に発表した名前を置き換えるために、自分で付けた名前をしばしば文章に導入した。それらは無効となった。https://en.wikipedia.org/wiki/Pierre_Fran%C3%A7ois_Marie_Auguste_Dejeanより一部抜粋和訳)

 いまから200年ほど前、とっくの昔だが命名法の先取権に反対しポピュリズム化を図ったDejeanは、命名規約から見事に其の方針を却下された。大衆迎合を優先目的とすれば、生物種名などの科学的学術用語が古典として安定しないからである。よって、Dejeanが記載した生物名は大抵が無効記載の裸名(nomem nudum)とされる。Dejeanの活動は、命名法施行の黎明期にされた事であるので時代考証的にも未だ情状酌量の余地が考えられるが、これと似たような事を科学技術の発達した21世紀になった現在でもやってしまおうとする残念極まりない人達がいる。

 科学に対する興味を一般的に広める事は大切だろうが、2021年現在、そんな子供向けの活動はネット上でも溢れに溢れている(検索妨害かとすら思うくらいにまとまりが無い)。その程度の新規性が殆ど無い活動ならば誰でも大したコストをかけずに情報収集と拡散が出来る。故に、もし仕事として科学研究をしたいならば、パイオニア的な仕事をしなければならないが、そんな事を20年そこらぽっち学校で暗記学習しかしてこなかった人達に出来るかというと甚だ疑問なのである。

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〈Drawing of Pierre François Marie Auguste Dejean (1780–1845), French entomologist, Lithographie par Jacques Llanta, about 1850〉

【道草話】熱河層群(Jehol Group)の1甲虫化石についての検証

 私が過去に入手していた白亜紀前期の甲虫化石が、まぁこれかなという程度に同定出来たので記事にしただけの由。

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 おそらく、ヒゲブトハナムグリ科(Glaphyridae)Lithohypna属の1種と考えられる。

 産地は中国東北部遼寧省北票地域、熱河層義県累層。

 以下URLの記載文では、破損の大きいタイプ標本で分類されていて私は困ったが、記述上ではヒゲブトハナムグリ科に分類されている。

 此の化石を当属に暫定分類した理由は、この産地で1億年以上前に分布していたヒゲブトハナムグリ科絶滅種としてLithohypna属が最初に記載された事によっていて、私自身はヒゲブトハナムグリ科の専門では無いので妥当か否かは自信はあまり無い。

https://www.zin.ru/animalia/coleoptera/pdf/nikolajev_wang_zhang_2011_lithohypna.pdf

 とりあえずヒゲブトハナムグリ科近縁種なんだろうか。まだあまり納得がいかないが、消去法で頭部の上唇板や顎形態、触角形態、脚部形態、体型からしてヒゲブトハナムグリ科の可能性は高い。ヒゲブトハナムグリ科甲虫は、クワガタムシ科に最近縁のホソマグソクワガタムシ科(Diphyllostomatidae)によく似ている。

 また熱河層からは以下URL先にあるような、クワガタらしき形の化石が出ているが、細部形態が不明なため、科同定は保留とされる。

https://livedoor.blogimg.jp/nappi11/imgs/4/1/41aae945.jpg?fbclid=IwAR2DVreb6JcAv18Tm4f6kg8y9agVawvm4KjtLbklgUE2AuN756t53zWSyBI

 クワガタモドキゴミムシダマシCalognathus chevrolati Guérin-Méneville, 1836)なる虫もいるし、ゴミムシ科(Carabidae)なども似ている。なかなか化石の分類は難しい。

http://virtualcollections.naturalsciences.be/virtual-collections/entomology/coleoptera/tenebrionidae/pimeliinae/calognathus-chevrolati-chevrolati-guerin-meneville-1836

【追記】
 既知の科同定や種分類が曖昧な昆虫化石種はクワガタのみにあらず様々なところで問題が多い。ヒゲブトハナムグリ科も熱河層から何属か記載されていて頭が痛かった。

 科ごとの特徴、属レベルの特徴、種としての特徴、亜種としての特徴、遺伝子型としての特徴は、それぞれ汎用される概念が異なる。

 なあなあで済ませて良いとする感覚は、私には何が良いのか分からない。他人を騙すに等しい行為をしていると自覚はあるのだろうか。そんな事をして何が面白いのか。本筋とは無関係な他意に感けて発表する側の人は気分が良いのかもしれないが、観客の私にとって其れは全く面白くもなく、只々全てがつまらない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

https://m.srad.jp/story/18/10/09/0734246

https://current.ndl.go.jp/node/42703

https://current.ndl.go.jp/node/44289

Kaliningradの博物館にあるクワガタ(?)入りバルト琥珀についての検証

 一冊の本に何やら「11mmのLucanidae」が入ったバルト琥珀が載っているかのような紹介を見つけ取り寄せた。

 そう言えば過去に以下URLにて、「KaliningradのMuseum of World OceanにLucanidae (?Succiniplatycerus) がある」という情報が寄せられている。

https://www.researchgate.net/post/I-am-working-on-a-monograph-of-Scarabaeoidea-incl-Lucanidae-from-Baltic-amber-Do-you-have-any-specimens-available-that-I-have-not-seen

 この情報を見つけた当時、ネット上では画像も無かったので、「いつか観に行かないと実態不明だな〜。」と億劫な気持ちで悶々と文献の掘り出し物を探していたところ本を見つけ、画像を入手出来ると分かって僥倖な気分であった。

 上記URLでのカリーニングラードの博物館所蔵らしい琥珀はKrylovs collectionとされ、文献の方でもcoll. KRYLOVとある。"Krylovs"の方はおそらく"Krylov's"の事かな?おそらく同一個体と考えられる。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「Jens-Wilhelm Janzen 2002. Arthropods in Baltic Amber. Ampyx-Verlag.」より引用した図)

 問題の標本写真だが、コレはだいぶ気泡に巻かれていて判別が難しい。また図示写真は満足行くほど鮮明でもないし細部が見えない。クワガタムシ科と同定したなら、その特徴的形態をまざまざと見せつけて欲しかった。金属光沢(?)を思わせる状態は素晴らしいが、パッと見ではコクヌスト科(Trogossitidae)かゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)にも見える。触角や頭部、また脚部の写りがわるい。触角は微妙に細長い第一節らしき形態が見えるのでクワガタらしい気もしなくもないが不鮮明で難しい。また片状節が見切れている画像で残念である。脚も琥珀内にあるため歪んで見えるが、短か過ぎでは無さそう。

 クワガタムシ科の可能性もありうるが、この画像からは同定が難しく判然としない。やはり実物を見た方が正確な事が分かりそうである。

【Reference】

Jens-Wilhelm Janzen 2002. Arthropods in Baltic Amber. Ampyx-Verlag.

【追記】

 論文でもない図鑑とはいえ、もう少し色々な角度から詳細な画像を複数載せてくれても良かったのではなかろうか。「本にそう書いてあるのだから、斜めに構えて読まない方が良い」という次元の話では無い。当ブログの他化石種学名の検証を見ても分かるように、一般的には誤同定が溢れに溢れている。そのため読者に誤解させない表現が必要不可欠な筈で、説得力が殆ど全く無い情報は、利用価値もやはり殆ど全く無いという問題点なのである。

 Lucanidae科というのなら、読者にもついてこれるようにして欲しかった。そこそこな値段の本だったが、これでは利用価値が薄く勿体ない。

 こういうバイアス頼りなレベルの論文に出くわすと、もはや脱力感が凄い。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, amber, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石, 琥珀, 虫入り琥珀, 昆虫入り琥珀,

†Miocenidorcus andancensis Riou 1999についての検証

Miocenidorcus andancensis Riou 1999

Type data: Miocene Turolian crater lake, Montagne d'Andance, Saint-Bauzile, Privas, France.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=294954

 産地は南フランスのアンダンス。約800万年〜約850万年前の新生代第三紀中新世下部トロリアン(MN 11)の地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「Riou, B. (1999). Descriptions de quelques Insectes fossiles du Miocène supérieur de la Montagne d’Andance (Ardèche, France). École Pratique des Hautes Études, Biologie et Evolution des Insectes 11/12, 123–133.」より引用した図)

http://www.thefossilforum.com/index.php?/topic/107522-le-mus

(博物館による別画像があるURL)

 41mmの甲虫でアンタエウスオオクワガタ(Dorcus antaeus)の小型個体のようなシルエット。詳しい触覚の構造を見たいけど鮮明ではなさそう。体型は殆どクワガタ的とはいえ現状では確定させづらい。論文上でクワガタだと分類されてあるのみで、私のような頭の堅い読者を納得させるだけの検証はなされていない。触角の節々が鮮明に見えないと正確な分類に出来ない。似た化石が完全体として新しく採掘される事で補完される迄は分類保留と考える。

【Reference】

Riou, B. (1999). Descriptions de quelques Insectes fossiles du Miocène supérieur de la Montagne d’Andance (Ardèche, France). École Pratique des Hautes Études, Biologie et Evolution des Insectes 11/12, 123–133.

【追記】

 しかし、やはり岩石化石は一目見ても真偽判定が難しい。私も過去にオークションでアノマロカリスの化石を手に入れて調べてみたけど一見では絵と変わらない。微妙な凹凸が特徴なのか?自身で採掘した葉の化石とそんなに質感は変わらない。恐らく岩石の種類で加工可能なものか否かで調べるんだろう。ただ、以下URLのような場合だと判定に色々工夫があるようだが、精巧な贋作というのはどう見分けるのだろうか。調べても皆苦労されている様子に見える(まぁ偽物なら年代分析装置使って塗料の成分が新し過ぎるとか分かるか)。

f:id:iVene:20211105231431j:imageカンブリア紀アノマロカリスの化石。顕微鏡で観ると凹凸に生物痕跡的なメリハリはあるが不安。※専門外なので学名は入手時のものを踏襲したが一応「?」を付す。)

f:id:iVene:20211105231422j:image(約5億5千万年以上前のエディアカラ動物群の化石。立体的だが本物と言って大丈夫なのか不安。やはり石だけだと難しい。※ラベルには書ける情報をなるべく1枚に書く。分けておくと、悪人が一部のラベルを盗む等のために入れ替え、意味の通らない標本にされるリスクがある為。)

f:id:iVene:20211105215501j:imageストロマトライトの化石。約17億〜20億年前ってどれくらい正確なのやら。)

https://www.google.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/285-888/entry-10770037726.html

https://ameblo.jp/285-888/entry-10769037760.html?utm_source=gamp&utm_medium=ameba&utm_content=general__285-888&utm_campaign=gamp_paginationList

https://f-favorite.net/blogs/dinosaur_treasure_house/tamura-n_022

https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/smp/kaiun_db/otakara/20181016/05.html

https://www.google.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/shoubaiagattari/entry-12611841933.html

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59764?page=3

 そう言えば、沖縄や奄美にいるノコギリクワガタで「金粉ノコ」というのが流行ったが、アレは泥である。むし社の雑誌などで大々的に「洗っても取れないから泥じゃない!」と宣伝され、まんまと騙され高額で買ったコレクターが沢山居たのをよく覚えているし、未だに泥じゃないと思っている人がいる。検証方法はやや難しいが、顕微鏡下で、エタノールを染ませた金粉部位を、まあまあ尖ったピンセットでホジくるというやり方。金粉という名の泥を取る事が出来ると、その下から本来の黒く艶々な外骨格表面が顕わになる。虫の生物体内組織で変異が生じているならば、金粉部位の除去下にはクチクラの破壊痕しか見えない筈なのだ。粗っぽくほじると傷が付いて分かりにくくなるので、丁寧にホジるのが良い。沖縄・奄美を含む南西諸島の赤土は細かい微粒子状のものがあるらしく、サトウキビの汁でベタベタになった虫個体が其れを装飾し、乾いたらなかなか取れないデコレーションとなっている訳である。これが金粉部位が遺伝されない理由でもある(あれだけ不思議な見た目で遺伝もしないのに誰も詳しく調べようとしない時点で怪しかったと言えば身も蓋も無いか)。

 同じ理屈で、羽化不全が連発する「極太」や「超巨大」のなんやらにもややこしい人為的な作為が含まれていると考えられる。データも信用ならない。「日本産オオクワガタの90mm」というのが出た直後に「韓国産オオクワガタ85mm」も出た。色んな別問題(データ詐称、遺伝子や発生に影響する薬品使用、亜種交雑や其れの戻し交雑の繰り返された品種と隠されていそうな点)が何重にも絡みあっていて何がなんだか分からないが、兎も角客観的に見れば怪し過ぎる。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Syndesus ambericus Woodruff,2009についての検証

Syndesus ambericus Woodruff,2009

Type data: Burdigalian/Langhian Amber fossil, Dominican Republic, probably Cordillera Septentrional.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=226308

 産地はドミニカ共和国。約1400万年前〜2000万年前の新生代第三紀中新世バーディガリアン/ランギアンの地層から出土した琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210926020955j:image
f:id:iVene:20210926020958j:image

(「R. E. Woodruff. 2009. A new fossil species of stag beetle from Dominican Republic amber,with Australasian connections (Coleoptera: Lucanidae). Insecta Mundi 0098:1-10」より引用した図)

 体長は13mm。触覚は不鮮明だがツツクワガタ属(Genus Syndesus)以外には見られない特徴的な形態が見えるのでツツクワガタの仲間だろうと判断出来そう。

 大顎や前胸背の形態は現生種のツツクワガタ属では見られない形態であるので絶滅種と考えられる。

 原記載によればWoodruff氏が最初にクワガタムシ科と同定したのは1983年。スミソニアン研究所に買い取られた後(1989年)さらに米国国立博物館の昆虫学部門→古生物学部門と所蔵場所を点々としている間に、琥珀が一度壊されて修理されたため中身が見えにくくなったとの事(before図3→after図8)。これ以上無い貴重な琥珀を壊すとは、やはり公的機関にあると言えど肝が冷える。しかし、どうやったらそういう壊れ方になるのかというヒビ割れ模様。触った事があれば分かるが「琥珀」というのはそんなに脆いものでは無い。初期の粗研磨で壊れなかった琥珀を、後からこのように壊すというのは相当粗雑に扱ったという証左である。この標本はぞんざいに扱って良いものでは無い。

 琥珀の場合は真偽判定が色々ある。ある程度慣れると顕微鏡で覗いただけで、どの部分が本物を示し、どうなっていれば偽物なのか分かる。とりあえず中身の虫が綺麗過ぎる標本は避けたいところ。

https://www.kaseki7.info/c/?p=589

https://www.k-grace.com/hpgen/HPB/entries/6.html

 偽物の概念は様々。ちなみに琥珀を溶かす方法もあるが、数千万歳以上のものは虫がバラバラになってゴミになるので溶かしてはいけない(数万歳程度のコパルなら大丈夫な場合もある)。

https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/smp/kaiun_db/otakara/20200714/02.html

https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/smp/kaiun_db/otakara/20160202/07.html

https://plaza.rakuten.co.jp/hosomichiblog/diary/201502080000/?scid=wi_blg_amp_diary_next

 ちなみに画「ジュラシックパーク」のように恐竜のDNAを採取し復活させる事は出来ない。

https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02071.html

【Reference】

R. E. Woodruff. 2009. A new fossil species of stag beetle from Dominican Republic amber,with Australasian connections (Coleoptera: Lucanidae). Insecta Mundi 0098:1-10

【追記】

 DNA関連で頻繁に勘違いされるのだが、集団間の遺伝子差があれば分類して良いのでは無いかという人がいる。しかし遺伝子の差異のみで種分類は絶対に為されない(単細胞生物ですら形態が重視される)。別記事でも書いているが、生物種分類は「種間隔離の条件と形態的区別点」を確認されているから為されている。遺伝子(および其れに起因する形態変異)の差異だけなら遺伝型の記載になり、種分類とは別のルールに従われる。なので化石種も大抵の現生動物も形態だけで種分類が可能になっている。

 もし遺伝子が違うだけで分類群が定義されれば世の中は大混乱する。遺伝型名と冗長になる名称は不要だからである。

 よく系統樹に使われる遺伝子は大きく2種類。一つは生物種を形成し生命活動を維持する核DNA(およびRNA)で、これは配列する塩基の数が非常に多く、また顕性遺伝子と潜性遺伝子の対立遺伝子等を非常に複雑に持ち合わせているので、変異幅を確かめる事は大変と言える(ショウジョウバエなどのモデル生物は集中的且つ網羅的に研究されていて知見のレベルが全く異なる)。もう一つはmtDNAで、こちらは生物種の核DNAなどに対しては直接的な働きかけは不明と考えられ、精子卵子の細胞内核外にあるので雌親からしか受け継がれない(mtDNAは筋繊維に割合多く存在し、代謝において利用されていると推定される)。系統関係を調べるにはmtDNAで調べられる場合が多いが、このmtDNAも継続的な変異が経時的に一定かどうか不明であるため近縁遠縁論には弱いエビデンスという印象がある。産地が違えば別産地からの流入があっても集団が持つ傾向に差異は必ず出うる。また核DNAもmtDNAも塩基配列が転座など大きく突然変異した痕跡例が知られているので、大なり小なりこの階段的無秩序な突然変異の蓄積が絶対的にあると踏まえると系統関係を調べる意味はかなり希薄となる。大抵の系統樹を計算するソフトウェアはこの按配をバランスよく最もらしく見せるように設計されている。そして大抵の論文は全体ではなく一部の遺伝子配列を調べてあるのみである。なので、比較する生物種群を同じにしても、遺伝子解析の方法が違うだけで全く異なる系統樹がいとも簡単に検出されてしまう

 DNA解析実験を自身でやってみたり意見を聞いたりすると、データとして有効利用出来るような材料と実験の相性であれば良いけど、さまざまな生物種にあたると何をやっているのか分からない事が多々あると言われるし分かる。この方法が良いと言われて使用しても自分の眼で見えるサイズの構造では無いために納得しづらい。であるので、よく遺伝子系統樹を調べる人に何故調べているのか聞くと「あくまでも参考の位置付け」と答えられる。

 クワガタムシ科の系統樹も何度か作られているのを論文で見るが、色々異論が飛んでいるのは部分的にしか解析していない方法の其れが原因だったりする。ちなみにそういう系統樹は、遺伝子情報だけでは足りないとして形態解析で化石種なども含めたデータが埋め込まれ、既に説得力を出そうと模索された結果で其れなのである。

 またmtDNA系統樹では特定の1種の中に入るのに形態的には別種・別亜種となっていて(レニノコギリクワガタブランカルドノコギリクワガタの関係の例など)混乱している人がいるが、それはある系統が地域隔離でフェノコピーを形成し核DNAを大幅に変異されたからだと考えられる。実験室で突然変異を選び出し、特定の飼育瓶に閉じ込めて飼育累代系統化している話と同じ方向性の話で、本質的には人為選択か自然選択か差異。それが生殖隔離を持つか持たないか、形態的差異を持つか持たないか、どれもこれも独立し経時的に一定では無い速度で行われていく。それよりも古い時代からは全く見つかっていない昆虫類が石炭紀になってから爆発的に多様化し且つ最大種を出現させている時点で、遺伝子と形態の変化が一定では無い事がまざまざと知らしめられているではないか。種分化がいつ行われたのか遺伝子のみからの推定は困難である。

 近年、発生学的にカブトムシやクワガタムシを使用した遺伝学的な実験が行われているが、其れらは全てショウジョウバエで確かめられてきたような事の焼き増しである。各ニュースではブレイクスルーかのような評価で報じられるが、我々にとってはそこまで驚くべき話では無い。

 mtDNAには種や亜種の隔離に対する直接的な因果関係は無いし、核DNAには因果関係の無い配列が殆どで、僅かな特定の配列が隔離の形質発生に関わっているかどうかの見極めは非常に難しい。万象の可能性から消去法でミクロ視点とマクロ視点を繋げる作業になるので無理難題である。

 というか現生の昆虫種なら交尾器硬質部位の形態が隔離にどう関わっているか調べるための比較観察をもっとやれば良いのではないかな。人によっては交尾器の部位でも形態状態が定まらない内袋を変異幅も反証実験も無視して分類への使用をしたり、遺伝子情報だけで分類しようとしていて、いやいや一番説得力のありそうな部分を避けてどうするのかと。何の情報も検知されていないような、しかもかなりな割合少量の遺伝子情報なんて何を調べているのか全然分からない。全ゲノム解析が家庭にまで普及するまでは、そんなの見ても一般庶民にはどうしようもないししょうがない。

 頻繁に情報交換する分類友からの話によると「遺伝子考察はアマチュア論文との差別化のために入れている」と、とある○○大学学生が言っていたという事だった。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, amber, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石, 琥珀, 虫入り琥珀, 昆虫入り琥珀,

†Lucanus fossilis Wickham,1913についての検証

Lucanus fossilis Wickham,1913

Type data: Oligocene, Florissant, U.S.A.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=284021

 産地はアメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス郡のFlorissant Formation。約3500万年前の新生代第三紀漸新世の地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20211002000239j:image

(「H. F. Wickham. 1913. Fossil Coleoptera from Florissant in the United States National Museum. Proceedings of the United States National Museum 45(1982):283-303」より引用した図)

 タイプ標本は長さ18.5mmの翅一枚の化石。過去に所蔵する博物館が画像をネット上にUPしていたのだが、今は見れなくなっているようだ。

 画像を見た印象では、原記載で記述されているように北米のカプレオルスミヤマクワガタLucanus dama= Lucanus capreolus)の質感に似た雰囲気はある。しかし原記載ではクワガタムシ科では無く「大型のコガネムシ科(Scarabæid)かもしれない」という可能性にも触れられている。よくよく考えればコフキコガネの仲間(Melolonthinae)やノコギリカミキリの仲間(Genus Prionus)で質感のよく似ている翅を持つものがいる。

 結論として約3500万年も昔の古い昆虫である事を踏まえると、残念だが新たに似た化石が完全の状態で追加発見されるまで、どのような虫だったのか翅一枚からは想像すら出来ない。

【Reference】

H. F. Wickham. 1913. Fossil Coleoptera from Florissant in the United States National Museum. Proceedings of the United States National Museum 45(1982):283-303

【追記】

 具体的な言及はしないが、一方で科学技術の発展した筈の2021年現在でも、翅一枚で新種記載等の決めつけの分類を堂々行う夜郎自大な学者・研究者が少なからずいる。しかも彼らは他の研究者を夜郎自大だと言わんばかりの態度をする。石炭紀の昆虫化石も頻繁に翅や翅脈の形のような僅かな差異だけで属・種分類されるが、其れは遺伝子協同性(gene cooperativity)とトランスポゾン(transposon)の機能が起因する種内変異である可能性が大いにある("wing vein, gene cooperativity"などでgoogle検索すればショウジョウバエのOregon-R や Canton-Sの標準野生型系統のみの知見から沢山の論文が出てくる)。同分類群内での個体変異でも、たった数塩基の違いならば大抵の遺伝子変異で生じていて影響が無い場合の方が多いが、たった数塩基違うために劇的に外見が変わる例は知見としてある(しかし其れを化石種で完璧に説明する事は不可能であるし、種差の論に迄は到達しない根拠でしかない)。模様だけで分類するのにも、同様の疑念が現生種の変異の例をよく知っていれば違和感として有る。翅脈形状や模様は、僅かな遺伝的要因で劇的に変化しうる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%82%BE%E3%83%B3

 そもそも雌雄差か否かも分からない。翅1枚での記載は、賢い人からすれば過剰解釈の結果が知見として論文となっていると簡単に見抜ける。このような論文を書く意義を何とか汲みとろうと頑張ってみると幾つか挙げられる。①其の産地では見られなかった形態の虫と同定したため、②記録のため、③研究費を確保・研究職の立場繋ぎのため、であろうか。①については、如何なる状態変化が起きているか分からず、分類に必要十分な形態が残存していない化石を予断で分類すべきではなく、新たに完全体化石を見つけるまでは新分類群記載ではない型のレポートに留めておくべき、②については、なんらかの既知種の変異がたまたまその産地で絶滅した可能性を無視しているのは良くない、③については、STAP事件を思い出しますねと、それぞれ言及したい。

 こういう記載論文を有りがたがる人は化石種だけでなく現生の生物分類や応用生物学方面でも悪徳宗教的杜撰な研究を論文発表する傾向が高い。色々言ってても結局は矛盾だらけの思想だったり言行不一致じゃないかという姿勢を見せつけてくれる。反科学か宗教狂いの類である。論文で税金から予算が降りている記載を見ると、こんなのに研究費出るんだ!という感想が真っ先に出てくる。そこそこのジャーナルでも専門的な査読が居ないと粗雑な論文は通りうる。だから誰でも簡単に真似が可能な論文でまあまあ高給取りの学者をやっているのかと。学者・アマチュア関係なく問題なのだが、ヘモゲニーを握る為だけを目的とした活動を辞めるべきと考える。其れ等は何の役にも立たないし教育に悪い、そして「学者・研究者」の印象を落とし、間違った信頼を集める。特に学者らは研究不正をしていないか肝に銘じるべきである。

https://m.srad.jp/story/18/09/05/0956253

https://twitter.com/papilio_memnon/status/817736866866696193?s=21

 私はアマチュアだが、筆頭著者として学会誌への5論文ほか同好会誌への論文や、匿名の記事を含めれば20本程度の記事を「出版物」として世に出している。また質の高い論文をジャーナルのレベルに拘わらず多数世に出している人物との意見交換で、出版誌によって内包される無根拠なイデオロギーが其々異なる事がよく話題に出る。頻繁に「査読であれだけ高圧的に言ってきた事が、同じ号の別著者の論文では守られていないじゃないか。所詮は御仲間有利という訳だ。」と。たしかに肩書きや派閥従属はあった方が良いのかもしれないが、大自然はそんなに寛容では無い。軽薄な内容で論文の数を稼ぐ人が多い世の中、其れらを踏まえれば一番吟味されるべきは論文にして世に出す事ではなく「内容」であるという結論に行き着く事は自明である。

 「生物種学名」というのは一つのコードとしての単位であり、社会概念を不安定化させる為にあるものでは無く、安定化を図って説明される。

 僅かな部位の化石で新種記載されて以後100年以上その分類の議論が終わらないスピノサウルス等の例は学問ではなく、学問を嘲笑する象徴となりつつある。そういった例を教訓にすべきであり、その戒めを知ると言うならば口先だけでなく身を切って実行してほしい。疑問するだけでは真実を体現しない。

https://getawaytrike.hatenablog.com/entry/36950355

f:id:iVene:20211105231754j:image(昔よろこんで入手したスピノサウルス類の牙の化石。今は歯だけで同定して良いものかと訝しむ。)

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Ceruchus fuchsii Wickham,1911についての検証

Ceruchus fuchsii Wickham,1911

Type data:Oligocene Chadronian (Miocene in Wickham,1911), Florissant Formation of Colorado.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=285781

 産地はアメリカ合衆国コロラド州Florissant Formation。約3500万年前の新生代第三紀漸新世シャドロニアンの地層から出土した甲虫化石を基に記載された(原記載では中新世となっているが、おそらく現在までに採掘された地層の年代測定の研究が更新されたと考えられる)。

 Wickhamによる記載。時期タイプ標本の画像を所蔵博物館がネット上にUPしていたのだが今は消されている。スケッチ等を図示する文献もなく、私自身で描写するのも面倒なので姿見についてはご想像にお任せ。

 16.5mmの甲虫。うっすら見える触覚はクワガタでは無い事を示してやいないか?という疑念がある。クワガタと分かる触角や爪間板の見える化石でも無い。クワガタらしくは無い。

 以上の事から、コクヌスト科(Trogossitidae)かゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、またはエンマムシモドキ科 (Synteliidae)という印象がある。

【Reference】

H. F. Wickham. 1911. Fossil Coleoptera from Florissant, with descriptions of several new species. Bulletin of the American Museum of Natural History 30:53-69

【追記】

 本分類群のタイプ標本画像を見た時「なんだ。やっぱりそういう化石か」と思った。なお観たい場合はホロタイプを観に行かなくてはならない。残念ながら当然だが、観ない人は虫の究極的な奥深さを知る事が出来ない。

f:id:iVene:20211114025758j:image

 「画像も貼らずに記事化とな?」と思われたとしても、わざわざ博物館が引っ込めた画像を単なるブログの為に引用するのは気が引ける。

 稀に「ホロタイプを見に行かなくちゃ分類出来ないなんて言う奴は病気!」と言う一般人が居るが、それこそマトモな思考が出来ていない。しかし、そういう論に便乗する「学者」が居ると、私の眉間に皺が寄る事になる。既知種のホロタイプと比較されていない標本を新種記載の比較に使用する人が大変多くいるのだが、そうして既知種を取り違え結局新学名もシノニムになるなんて間抜けな事もしばしばあるからである。やり方を間違えるなと言いたいが、本人らから話を聞けば彼らは自覚があって、しかも方法を守らず、敢えて破ろうというスローガンがあるんだそうな(なんじゃそれ)。まぁ破戒僧みたいな者だ。だから論文を読む際は、そういう論文がありうるという前提を懸念しておかねばならない。

f:id:iVene:20211114030847j:image

 記載者にしても読者にしても、希少標本や昆虫化石と知るや「珍しいものを知った」気分に巻かれて、その生物学的分類に詳細な疑問をする人は少ない。だが、ひとたび疑問を持つと「アレアレ?なんだこの論文は。無駄に長い論文で読者の気分に煙を巻き、推測を断定にすり替えている。」という結論に達するものが多くある事に気づく。記載者側に胡座をかく癖が付くと、よく知らない一般人さえからも疑問視されるような論文が世に出てくる。

f:id:iVene:20211121140821j:image

 正直、私は必要になった時にしか論文は読まない。ツールの説明書を読む程度の用途でしか使っていない。よろしくない論文を頻繁に読んで"参考になる"とか"分かりやすい"とか評論をSNSで放言している人は一体「何」に役立てているのだろうか(棒読)。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Platycerus zherichini Nikolajev,1990についての検証

Platycerus zherichini Nikolajev,1990

Type data: Oligocene, Pozhar region, Russia.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=224871

 産地はロシアのヴォログダ州ヴォジェゴドスキー地区ポジャル。約3500万年前の新生代第三紀漸新世の地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210926012314j:image
f:id:iVene:20210926012316j:image

(「G. B. Nikolayev. 1990. Stag Beetles (Coleoptera, Lucanidae) from the Paleogene of Eurasia. Paleontological Journal24(4):119-122」より引用した図、スケールバーは1mm)

 これはクワガタムシ科。Nikolajevがクワガタムシ科化石種に分類した数多くある記載種中で、第三者からもクワガタムシ科甲虫と判る唯一の化石種(事実)。

 触覚は第一節が長く第二節から膝状に曲がっておりクワガタムシ亜科に分類可能と思える。他形態もクワガタらしい。Platycerus属に分類されてはいるが、大顎はやや短い雰囲気もあり変わっている。触角の形態がSucciniplatycerus属の形態に共通しているように見えるので、其方の属に分類するのが良いのかもしれない。

 ちなみに、この虫の腹部先端では生存時に収納されていたと考えられる腹部背板第8節・腹部腹板第8節(腹板第6節)と9th segmentが、腹板第5節先端から飛び出している。

【Reference】

G. B. Nikolayev. 1990. Stag Beetles (Coleoptera, Lucanidae) from the Paleogene of Eurasia. Paleontological Journal24(4):119-122

【追記】

 こういう化石画像を眺めていて思い出すのだが、稀に個人コレクションから新種記載される事例をチラホラ聞く。だが巷では個人の秘蔵や死蔵が問題だという意見が出ているのを見る。これは金銭的な問題が絡む事もあり非常に悩ましい問題なのだが、よく考えてみればそんなに解決を焦らなくても良いのでは?と考える(急ぐなら持ち主に交渉すれば良いのでは?と)。しかし彼らは枕詞に研究が遅れる事を危ぶむ文章を添えて話す。いやいや、どれだけ昔の資料で論文を書こうとしているのか分かっているのかと。数百万数千万数億年前の絶滅生物化石の研究が少し遅れたくらいで人類の生活には何の支障も無い。政治的過ぎて原野商法を連想してしまう。そもそも現生種との直接的関係も上手く解釈出来ない。タイプ標本1頭や僅かな部位で粗野に描かれた論文が通るような再現性もそこまで求められていない風潮の業界で何の研究が遅れるんだろう。他人に上から目線で分かりにくい軽口を叩く前に既知論文の再検討した方が良いんじゃないかな。他人の苦心して集めたコレクションに文句を付ける前に採集作業に時間を割いた方が生産的と考える。博物館に寄贈された中に贋作や面白い標本が色々ありそう。それをどう解釈するかで、科学的な進歩とするか宗教家に嗜められるかが変わってくる。客観的に見れば全て娯楽。どれだけ高尚難航且つ平易明解かが勝負どころである。

https://ushikubou.com/culture-america-evolution

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Ceruchites hahnei Statz,1952についての検証

Ceruchites hahnei Statz,1952

Type data: Oligocene, Chattian lacustrine - small shale in the Rott Formation of Germany.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=288345

 産地はドイツのRott Formation。約2500万年前の新生代第三紀漸新世の地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210926010938j:image

(「G.V. Nikolajev 2006. On the taxonomic status of the Upper Oligocene genus Ceruchites Statz (Coleoptera, Lucanidae)」より引用した図)

 化石中の虫は破損・欠損が大きい。

 本属のタイプ種の体色は赤褐色。Ceruchites hahneiの寸法(単位:mm):体長(大あごを除く)18.8;頭部の長さ4.6;前胸部の長さ3.8;エリトラの長さ10.2。前胸部の幅は9.0、との事。

 当分類群について、追加報告書は何だか解釈が難しい。右図(b)は再構築図という事だが、キンイロクワガタ亜科(Lampriminae)的な形態の触角が新たに描かれているように見えるのは一体何なのか。ツヤハダクワガタ属(Genus Cerchus)に近しい形態だからと付記された予想図なのか分からないが、ツヤハダクワガタ属とキンイロクワガタ亜科は触角の形態がそんなに似ていない。体型はクワガタらしい気分はするが、左図(a)のスケッチが真だとすれば其の化石ではクワガタとは言い切れない。クワガタムシ科にも見えるがゴミムシ科やゴミムシダマシ科等にも見える。また触角が揃っていたとしても思い込みのスケッチか否か確認する必要がある。腹節板5枚が欠損し且つ触角第一節が短い描写はクワガタムシ科ではない可能性を含んでいる。

 タイプ標本を確認する必要がある。

https://research.nhm.org/ip/georg-statz/

f:id:iVene:20220411232907j:image

(「G. Statz. 1952. Fossile Mordellidae und Lamellicornia (Coleoptera) aus dem Oberoligozan von Rott. Palaeontographica Abteilung A 102:1-17.」より引用図)

 原記載に掲載される写真図では触角が見られない。

【References】

G. Statz. 1952. Fossile Mordellidae und Lamellicornia (Coleoptera) aus dem Oberoligozan von Rott. Palaeontographica Abteilung A 102:1-17.

G.V. Nikolajev 2006. On the taxonomic status of the Upper Oligocene genus Ceruchites Statz (Coleoptera, Lucanidae)

【追記】

 クワガタムシ科絶滅化石種とは触角が見えていなければ絶対に同定出来ないのだが、これを過剰解釈(pareidolic interpretations)によって分類を断行する目的のために触角を想像で描くという行為は捏造と言われても文句は言えない。

 別件だが2019年あたりだったか、Advanced Amber Kretaceous Zoologia (AAKZ, aka the 'pterosaurs in amber' folks) なる研究?団体が化石の過剰解釈による同定をビジネス目的で行い、同意しない学者や学生を教育機関から懲戒処分を受けさせようという越権行為まで行おうとまでした例を告発されている。カネのために卑怯な事をする輩は沢山見てきたが、いくらなんでも卑劣過ぎやしないか。(https://twitter.com/markwitton/status/1188748368295743488?s=21)(しかし日本にも似た例はあるhttps://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20160113-00053369)植物片か何かが入ったミャンマー琥珀を「翼竜の頭部が入った琥珀である」というように同定し、8万〜12万ポンド(およそ1200万円〜1800万円)でオークションにかけたらしい。間違いなら法外な金銭的設定であるのにも関わらず、疑いがかけられても標本の詳細検証がなされていない事は更に怪しさを増している。

 「過剰解釈をして腑に落ちる」という一連の思考動作は人間をはじめ知的生物の癖だが、事と場合によっては大ごとになりかねない。よくよく戒められなければならない。

 胸糞悪い話を聞く度に思い出すのですが、実は私も昔、とんでもないブラック企業(医療関係技術職)に勤めていた事がありまして、求人票にはまぁまぁ普通の事が書いてあったんですよね。しかし入ってみれば残業代は見なしで殆ど出ない(労基対策でカモフラージュのため雀の涙)、早朝から深夜近くまで終わらない仕事量(パート業以外は誰も終業時間に帰る事が出来ない)、タイムカードは一人が名目上の終業時間に全て代行押し(労基対策の為のタイムカード)、有給休暇制度は無く無給休暇制で同調圧力が凄い(休みを取った人は病欠でも必ず陰口を叩かれる)、ずっと愚痴ってる同僚(妬み嫉み)、能力は凄いのに早く死にたいと言う先輩、目の死んでる同僚達、すぐに辞める社員、昇給を匂わせる甘言で社員の士気を上げつつ労働量だけ増やす采配、統合失調症の上司陣経営陣、社員は全員実質コミュ障化、儲かりゃ多少質を落として納品でエエ(薄利多売の方が経営リスクが小さい。なお顧客に叱られた時だけ質を上げる)、外部や顧客には良い顔、昇給有りだが上がった分控除される(最低賃金下回る事もしばしば)、なのに業界では県内上位の売り上げという謎、社員一人一人がアマチュアでは出来ない難しい仕事をしているのに兎に角限界まで搾り働かせるという悪徳黒化型企業でした。会社内では学生気分でいるな云々言われましたが、私の学生時代って其のブラック企業的意識の人々ばかりだった覚えしか無いんですよね。窃盗行為や詐欺行為、恫喝嫌がらせ、バレなきゃなんでもござれだった人も割と多かったですね。むしろ君らが学生気分を早くやめろよと。医師とか看護師は患者の目に入る職業なので、怪我もしない仕事で賃金が高く羨ましかったですね(私のいた業界は毎日のように怪我をしていましたよ)。なので私は人間の根源的悪意には詳しいかもしれません。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Platycerus sepultus Germar,1837についての検証

Platycerus sepultus Germar,1837

Type data: Oligocene, “in carbone fossili territorii Rheni prope Bonnam”, Germany.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=284492

 産地はドイツのボン近郊ライン川流域。約2500万年前の新生代第三紀漸新世の地層から出土した甲虫化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20211028001909j:image

(「E. F. Germar. 1837. Insectorum protogaeae specimen sistens insecta carbonum fossilium. Fauna Insectorum Europae 19」より引用した図)

 記載文ではサイズが不明。

 原記載論文の図からは、この化石がクワガタムシ科だとは言いづらい。何の虫なのか分からない。

 ちなみにこの種について、Nikolajev, 1990はクワガタムシ科やルリクワガタ属への分類を疑問視していてホロタイプの観察を必須だろうと言及し、私もそれには同意する。だが其れを言うならNikolajev自身の記載種はどうなんだと場外乱闘ながら突っ込みたくなるのだが。。

【References】

E. F. Germar. 1837. Insectorum protogaeae specimen sistens insecta carbonum fossilium. Fauna Insectorum Europae 19

G. B. Nikolayev. 1990. Stag Beetles (Coleoptera, Lucanidae) from the Paleogene of Eurasia. Paleontological Journal24(4):119-122

【追記】

 倫理観を考える上で、他人に厳しく自分に甘い人間を皮肉り戒める「人の七難より我が十難」という日本の諺を思い出す。しかし、こと金銭や立場の関わる業界は吹毛之求が如く輩が跋扈しており、更に派閥が先鋭化していく(しかも彼らみたいな人間ほど夜郎自大なのだ)。そんな社会に溶け込まなければ村八分にされてしまう。奥ゆかしさに乏しい業界になってしまったが、日本以外でも見られるとはイヤハヤ僥倖な見聞となった。これだけ不安要素が積まれながら開き直って「私は大丈夫」とどうして言えるのか。「嘘も100回言えば真実となる」とは何処の伍長の側近の言葉だったか(ゴドウィン点に達する)。

https://www.youtube.com/watch?v=_dhtP-k4vgU

 化石種は昔からだが、近年は現生種の新種記載論文でも非常に分かりにくい論文が多い。比較標本が無い、分類群の自然界における隔離条件が示されていない、途中まで推論だった話を妥当な理由も無く断定にすり替える等、いずれも誤解を促すような科学的良心に欠く行為だ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0

 分かりやすい考え方の悪例も実際にある。(特定されないよう情報をボカすが)とある記載者による"あるカブトムシ"の新学名群のアレらはパラタイプを増産し、お金持ちに高額で売りつける意図を含まれた記載であった(現在は削除されているが、過去その論文を有名雑誌へ掲載の折、関わったらしい一人が某SNSで得意げに汚言を吐いていた事を昨日の出来事のように覚えている。他にも「あの事かな?」程度に覚えている人が居るのではないだろうか。別件だったとしても其れも悪例である。それくらい是迄の昆虫業界では異質な出来事であった)。其れらの記載論文はいずれも疑惑があり、交尾器形態の変異を無視、スケールバー皆無、既知種タイプ標本の図示が雑、知見整理の記述論理も破綻的且つ、曖昧な判別法を「生物種(←確率的現象では無い)分類」に用いるなどの非科学的方法の採用は歪曲的であり不正研究の可能性なども考えられ、また再現性に乏しい結果を出している(再現性が無いなら汎用性のある論文では無い)。今の時代、原記載以外でのパラタイプ増産は偽ラベル標本とのコンタミネーションを促しており反科学的行為且つ国際動物命名規約第四版の最終目的「安定・普遍・唯一・独自の分類群の命名」から遠ざかる。加えて一連の素行や言動から、この記載に関わっている人達は非常に強欲で金銭的問題を沢山抱えうるように思えたため、私は関係しないように気をつけている(実際に標本を現地原価相場の数百倍以上にして売り込んだり、ホームページで思想性の薄い評論を書いたり、コレクターに嘘の価値観を吹き込んだり)。だが大手の博物館や国立大学の人間も関わっていて大笑いした。調べれば件の嘘はすぐに分かる。そもそも論文の謝辞に競合した別論文と同一人物名が入っている時点でお笑い草である。言わずもがなだが、巷でも疑問を漏らす人々はおられ、私と同意見の人も沢山いた。ちなみに色々な問題を清算していない事について、某社の某氏は「商業誌だから仕方ないんです。」と仰ってられたので、なるほど商業誌だから敢えて悪評を集める商業的な論文を通し問題を増やして放置するんだと暫定的に納得し、私は一応の溜飲を収めた事をここに記す(科学的には納得していない)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E8%A1%8C%E7%82%BA

 Twitterは時折とんでもない昆虫分類学者に出会える。例えば今はやはり削除されているツイートだが、クワガタムシ科の琥珀か否か画像を尋ねられて「クワガタムシ科で大丈夫」と返答していた学者が居た(画像はこのURLから見られる→https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcRnyyI_u44sRqtfBq-Qj3xofz3avuqEwzadgA&usqp=CAU)。触角ラメラ形態は確かにクワガタ的な印象だが、センチコガネ科にもありうる形態であるし、体型は全体的にアカマダラセンチコガネ科的である。何より拡大して明るくしてみると、触角が11節構成であるのでセンチコガネ科でありうる。ミャンマー琥珀の出品を10年近く見てきた中では全くクワガタでないインクルージョンを「クワガタムシ科」とする誤同定はとても多かったので、私は気をつけて観る癖がついている。アマチュアの私は「大抵の学者とはそう軽い肩書き」と思っていなかった頃に此のツイートを見てしまったので非常に面食らったしショックだった。


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(削除済ツイートのスクリーンショットより※個人情報はボカシ)

 近似した触角形態を持つセンチコガネ科はGeotrupes属で多く見られる。

 TwitterなどSNSは世界中のインターネット利用者が閲覧可能である。それを利用してデマとも受け止められる情報を公開し、何の説明も無く削除するという事は削除した者には問題無いかもしれないが、情報を鵜呑みした別個人には迷惑な話である。デマ発信者が地位と責任のある人物であれば、あらゆる信頼を損ねる。学者等の肩書きを持った人間が、肩書きを信頼の担保にしながらSNSで情報を出す事は規制されるべきではなかろうか。実際色々追っていると「学者」という肩書きを載せながら威張り散らすアカウントは多く、印象は頗る悪い。私はアマチュアだが、彼らと同じ方向の趣向で研究しているとは思われたくないとすら感じた位である。

 そして、そういった学者の書く論文は全く生物学的種概念に沿っていないし、理解されにくいように長文で煙に巻いている。実力があれば低コストで良い論文が書ける筈なのにである。まぁ、そういう立場の著者の生活の為に作られる論文は、相当に緊張感がある業界でもない限り往々にして分かりにくい。そして未解決の問題が山積している。其れが何を意味しているか、である。

https://www.google.co.jp/amp/s/www.weblio.jp/content/amp/%25E3%2582%25B9%25E3%2582%25B1%25E3%2583%25BC%25E3%2583%2597%25E3%2582%25B4%25E3%2583%25BC%25E3%2583%2588

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Succiniplatycerus berendti (Zang,1905)についての検証

Succiniplatycerus berendti (Zang,1905)

Type data: Eocene of Poland, Baltic Amber.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=224884

 産地はポーランド。約3500〜4500万年前の新生代古代三期始新世のものと推定されるバルト琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205」より引用した図)

 バルト琥珀より記載されたクワガタムシ科への分類群として、恐らく最も詳しく原記載論文で記述説明されたクワガタムシ琥珀種。

 タイプ標本のサイズは、全長12mm(エリトラの長さ7、前胸部2.5、大あご部1.2mm)と説明される。

 たまに種名をberendtiiという語尾が違う綴りを記載しているサイトを見かけるが、それは不正な後綴りが起因。国際動物命名規約第四版の条 33によると不正な後綴りは適格名では無いとの事(シノニムですら無い)。

33.3. 不正な後綴り. ある学名の後綴りのうち正しい原綴りと異なるものは, 強制変更でも修正名でもなければ, すべて“不正な後綴り” である. それは,適格名ではなく,不正な原綴り [条32.4] と同様に同名関係には入らず,代用名として使用し得ない.しかし,

33.3.1. ある不正な後綴りが慣用されており, しかも原綴りの公表に帰せられているとき, その後綴りと帰属を保存するものとし, その綴りを正しい原綴りと見なすものとする.

33.4. 種階級群名の後綴りにおける, -ii の代わりの -iの使用およびその逆など の選択綴り.人名に基づいた属格である種階級群名であって正しい原綴り が-iiで終わっているものの, 後綴りにおける属格語尾 -iの使用, およびその逆は, その綴りの変更が意図的であったとしても、不正な後綴りだと見なすものとする. 同じ規則を -aeと-iae, -orumと-iorum, -arumと-iarumに適用する.

33.5. 疑わしい場合. 原綴りと異なるある後綴りが修正名であるか不正な後綴りであるかの判別が疑わしい場合,それを修正名としてではなく不正な後綴り(したがって不適格)として扱うものとする.

23.9.1. 次の条件が両方とも当てはまる場合は, 慣用法を維持しなければならない. すなわち,

23.9.1.1. 古参異名または古参同名の方が, 1899年よりも後に有効名として使用されていないこと. かつ,

23.9.1.2. 新参異名または新参同名の方が、特定タクソンに対する推定有効名として, 直近50年の間で10年間を下回らない期間中に, 少なくとも10人の著者によって公表された少なくとも25編の著作物中で使用されていること.

(国際動物命名規約第四版より抜粋)

http://www.ujssb.org/iczn/pdf/iczn4_jp_.pdf

(詳しい解説は→の記事内"追記"にて説明https://ivene.hatenablog.com/entry/2021/10/16/132331

 原記載文を読んでみるに現状のバルト琥珀からのクワガタムシ科記載種はSucciniplatycerus berendti (Zang, 1905)のみが有効な既知の絶滅した生物種学名としてクワガタムシ科への分類が認められそうである。Dr. Georg Karl (Carl) Berendtによる1845年のコレクション目録にバルト琥珀含有物としてPlatycerusがリストされており、その記述を元にZangは標本を探し出し、それをタイプ標本として1905年に記載したそうである。原記載論文はドイツ語だったが非常に詳しい形態の記述ほか(おそらく樹脂の脱水収縮による圧力で潰れ)身体は平たく上翅が大きく抉れているなどの虫の状態や、色が濃く観察が難しいなど琥珀の状態が記述がなされている上、現生の近似種とされたカラボイデスヨーロッパコルリクワガタ(Platycerus caraboides)を始め現生種との比較説明が他の化石種の記載文よりも丁寧な論理構成である。原記載当時はPlatycerus属で記載されていたが、それはZang自身が「ルリクワガタとの大きな違いは顎の形態くらいであり、一般的な現生種を見てみれば顎が違うくらいで別属にするほどでも無い」という認識からであるというニュアンスの記述がなされている。

 本分類群のスケッチと論文のみからの琥珀標本実在性とクワガタムシ科との同定に関しては、先ずは記載文での詳細な生物形態説明と琥珀状態言及で科同定と真偽判定(贋作や加工品では無い等、琥珀ならば中身の虫を加工するのは不可能)が満たされている事と、タイプ標本が1845年にBerendt氏が目録に記した標本である事、1905年のZangによる新種記載より半世紀も以前から実在していたと分かる事から信頼性がある。また今回の記事では記さないが私個人的な生物形態における特徴の再現性考察理由などもある。いずれはタイプ標本の実物を詳細に観察してみたい。

 Zangは新種記載する際に、比較対象としてヨーロッパから北米までの様々なルリクワガタグループとの関係を考慮した。そのなかで最も似ているとして比較された現生種Platycerus caraboides (Linneaus, 1758)のZangによるスケッチ(図4)では、実際の形態に近い触角第7節の肥大も表現されている。つまりSucciniplatycerus berendtiのスケッチ(図2)で形態差異があるように表現されている事は、デフォルメでは無く特徴の描写を意図したものであると分かる。

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(R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205より引用したPlatycerus caraboides頭部腹面スケッチ図)

 記述では大して問題と思われなかった為なのか詳しい説明がなかったが、スケッチでは両種間の明瞭な差異を描かれていた事が分かる。なお原記載記述では和訳すると「触角は太く、第1節(軸)は他の節を合わせた長さと同じで、先端が太くなっており、次の6節は幅よりも明らかに長く、それぞれに本質的な違いはない。最後の3つの節には微毛があり、厚くてふっくらした薄板があり、第8、9節の薄板は幅が長さの2倍で、第10節は輪郭が広めの卵形である。」と説明される。また「Pl. Berendtiと現在のPl. caraboides L.の主な違いは,頭部の前角が耳状であること,前胸部の輪郭がより角張っていること,触角,脚のかなりの長さ,特に中間部(おそらくケイ節の事)の長さ,そして最後に大あごの形で,多くのクワガタ類の雌の大あごと共通する。頭部と前胸部の大きさなどから、この標本が確かなものであることを疑うことはできない。」と言及される。

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(R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205より引用した比較スケッチ図)

 P. caraboides(図3)とS. berendti(図1)の比較図では、大顎のほか体型の差がよく分かるように示されている。

 後に当分類群を別の属へ分類するため記載されたGenus †Succiniplatycerus Nikolayev 1990の特異性は、属記載論文の記述からは明瞭には理解出来かった。Nikolayev, 1990は、同文献内で記載された化石種Platycerus zherichiniの岩石標本(他詳細は当ブログ別記事)から腹節板が6枚というような説明の記述をしており、Succiniplatycerus属は腹節板が5枚で触角ラメラ3節の長さが第2節〜第7節の中間節の長さより短いからPlatycerus属とは異なる属だとしていた。Platycerus zherichiniのスケッチを見て推察したが、標本の虫体が潰れ第5腹板先端から飛び出している第6腹板を6枚目と認識して記述したと考えられる(第6腹板は大抵のクワガタムシ科で腹部内に収納されている)。Platycerus属現生種の腹節板は見かけ上5枚であり、6枚目は収納されているため、化石によっては状態からの考察が必須である。また触角については、ZangのスケッチでPlatycerus caraboidesの触角第一節の描写を見ても分かるように、特に強調の意図が無い形態は再現された描写になっていないと分かる。実際の琥珀内昆虫の触角の幅や長さは一見では変形していないように見えて、左右で大きく異なっている等から変形している事が分かる例が多々ある。タイプ標本や様々な標本の観察からの考察は、そういうところで必要になってくる。

 また、スケッチからZangの意図を考えてみると、基本的な外形はルリクワガタ属やニセルリクワガタ属(Genus Platyceroides)のどれとも似ているが、触覚第6〜7節が殆ど肥大せず第8〜10節で急激な肥大をしている形態はSucciniplatycerus属に特異的と思える。

【References】

Berendt, Georg Carl, 1845. Die im Bernstein befindlichen organischen Reste der Vorwelt, gesammelt. Berlin,In Commission der Nicolaischen Buchhandlung,1845-56.

R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205

G. B. Nikolayev. 1990. Stag Beetles (Coleoptera, Lucanidae) from the Paleogene of Eurasia. Paleontological Journal24(4):119-122

【他参考URL】

https://www.gia.edu/JP/gia-news-research/historical-reading-baltic-amber

https://www.genesisworld.jp/amber/ちなみに←のURL内で「クワガタの仲間」として図示されてある琥珀内の虫は、1頭は鞘翅形態など体格からキクイムシ、もう1頭は前胸背形態など体格からゴミムシと考えられる。

https://osanpowanko-europe.hatenablog.com/entry/LT-9

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%A5%E7%8F%80%E3%81%AE%E9%81%93

【追記】

 絶滅化石種の場合、この分類群の原記載論文で示されている通り「現生種との比較」が最重要視される。同形態な現生種が居るならば、其の現生種の学名が付される事が相応しいからである。消去法で現生種のどれとも同形態ではなければ、其の化石個体が生きていた時代特有の種との推定が妥当となる。そのため僅か1頭の標本で記載が成り立つ。だが、同じバルト琥珀からの同科既知種との判別も、しっかり検証されなくてはならない。

 Succiniplatycerus berendti についてZang,1905はバルト琥珀からのクワガタムシ科他既知種とは別属のPlatycerus属に分類している事から、其れらとは現生種における属間差異程度の差異があると思い記載されたのだろうと考えられる。しかし絶滅種の場合であると、そう甘い事も言えない側面がある。実際の既知種ホロタイプ化石は、時代考証的にも既知種同士の雌雄差や種内個体差程度の生物関係だったかもしれない、記載文は綺麗にスケッチが書かれているが実物は酷く変形していて検証困難かもしれない、そもそもでっち上げられた分類群かもしれない。様々な可能性も考慮されるべきであったが、他既知種について上手く実物観察出来なかったために苦肉の記載になったのではないかと推察する(それ故に詳細に記述したとも考えられる)。あるいは、適当な形態的差異があるなら種記載してしまえば良いという非科学的・非論理的な悪しき慣例に呑まれていた可能性もある。

 現生種の場合は、他の近縁種に無い形態である事が最重要視される。生物の形態は一つの種内であっても、ありとあらゆる自然現象の例に漏れず変異幅がある事から、「複数個体での検証にて其の種としての変異と特徴」が見出される事が必要不可欠である。その検証に加えて、集団間の隔離条件が生物的なものである"別種"なのか、非生物的なもの(地理的環境要因等)である"別亜種"なのか検討・確認され分類が下される。しかし、論文を読んでいると、この検証が分からない分類がなされている例によく引っかかる。客観的・視覚的に概念が定まっていない記載文が多過ぎて、数多の学名使用が生物学に即しているようには見えない印象が強い。

 マイヤーによって1942年に提案された生物学的種概念は非常に安定した概念と思うが、最近の研究では異論が多い。定説となっている主流の分類法を覆したいが為の論理を提唱する研究者は実は沢山いるのだ。だがどうも彼らの言い分は根拠に乏しく、観ていない事をさも見てきたかのように話したり、杜撰且つ作為的論文を根拠に教条的な言説を持って議論を展開してくるため無限後退の概念にハマって抜け出せない。昆虫類での話題なのに別な節足動物の話題に当て嵌めて議論する人も居てビックリする。こういう議論にならない為に、論理的思考、自身での観察、詳しい再現性の確認、非営利での活動、倫理的な研究運営が不可欠になるのだが、延々と次の応用研究に進ませないならばそれだけ肩身が狭くなるだけである。ーーー以前とんでもないのをSNSで見かけたのだが「雑種を商売目的に作り売って儲けよう」という最低最悪な倫理観のキャンペーンがあった。そもそも営利目的である上に、研究目的としても面白いかのような言い回しで目眩がした。「雑種を作る事で市場に出回る個体と照らし合わせる事が出来る」など色々賛同する人もいたが、そもそもの親になる個体の分類同定が間違い無いという保証が無い商業飼育品を材料にしてある(雑種の親も雑種かもしれないが分からない不安)、あるいは意図的に表示とは別種の親個体が使われていないという保証が全く得られ無い商業行為(殿様商売目的の詐欺の不安という事)であり、極めて低俗愚劣な倫理観と言わざるを得ない。そんな目的で作られた標本を使っても書かれているデータや生物体情報が実際と整合性があるかどうか全く信頼が得られない。例えば科学研究を全く別目的の商行為に利用する目的で実験材料の杜撰且つ作為的、詐欺的な選定をする可能性を懸念されうる人間は全く信用がおけない。もしも研究所などで同様な事が行われた場合は制裁対象となりうる。どうしても交雑実験したいなら商業目的にはせずに最低限の信頼を維持しなくてはならない。自然界で昆虫観察でもして頭を冷やした方が良かろう。今後継続されたとしても、危険行為に及ぶ人物がいるという知見にはなるだろうが、少なくとも私には、そのような下賤な目的の為にしか作られていない雑種に資料価値なんぞ全く感じられない

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

 生物的な隔離は、昆虫類の場合だと交尾器形質(稀な奇形以外の100%安定な形態的特徴)、哺乳類の場合は精子の保護有機物と溶解物質の相性、植物の場合は雑種第一世代から受け継がれた染色体が入る受精卵の減数分裂の可否で決まる等が定説となっている(疑う研究者もいるが、未だ実質的な反証が無い)。単細胞生物の場合はそもそも交わらないため、生活史などにおける形態的特徴と遺伝子情報で客観的な判別・区別が試まれている。このようにして世界中の生物種が、「種」の系統を悠久の時代に亘り維持し続けている。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, amber, Burmite, Burmese amber, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石, 琥珀, 虫入り琥珀, 昆虫入り琥珀,

偽論文?!Fake amber?! †Paleognathus succini Waga, 1883の件についての検証

Paleognathus succini Waga, 1883

Type data: Eocene, Baltic Amber, Gdańsk, Poland (Germany).

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=263078

 産地はドイツのダンツィヒ近郊のバルト海沿岸とされ、其処は現在ではポーランドグダニスクである。バルト琥珀に入ったクワガタとされてきたが。。。以降詳しくは後述する。

 検証説明のため画像を引用する。

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(図の引用:「Waga A. 1883. Note sur un Lucanide incrusté dans le Succin (Paleognathus Leuthner succini Waga.). Annales de la Société ento- mologique de France (6) 3, 191–194.」)

 スキニカセキクワガタというと、「現在では南半球の一部地域にしかいないキンイロクワガタ亜科(Lampriminae)に似た北半球で絶滅したクワガタ」として色々な文献でスケッチが登場していた有名な分類群である。キンイロクワガタの成虫は大顎が反り返り、蛹の時に頭を腹側に曲げない亜科として特異的とされる。南半球にしか現生していない系統に似た種が約4000万年前には北半球にも生息していたとなると重要な研究資料となる。

 しかしこの分類群唯一の一時資料であるタイプ標本が無い事に加えて記載文が不自然な論調記述である事から、2019年に贋作だろうと認定するレポートが出ている。これは興味深い原典批判(Textkritik)である。

「AMBERIF 2019 BURSZTYN BAŁTYCKI (SUKCYNIT): INTRYGUJĄCA ŻYWICA XXVI SEMINARIUM, 22 MARCA 2019, Gdańsk, Polska」

http://www.amberif.amberexpo.pl/mtgsa2010/library/File/AMBERIF/2019/Amberif_2019_pl_eng_18_03_2019_rgb.pdf

「Unique inclusions in Baltic amber」

内容を抜粋すると下記のようだ。

Even today, the record of Baltic amber palaeofauna includes a beetle of the stag beetle family Paleognathus succini Waga, 1883 (Fig. 4), ca. 14 mm in length, which is probably also fake. Although the original specimen went missing, the illustration depicting a perfectly positioned beetle, along with the description with no mention of any significant deformations or milky clouding, allow us to suppose that it was fake. But on the other hand, it is puzzling that this species, so accurately illustrated in a published paper, has not been found in present-day fauna.(レポートより抜粋)

現在でも、バルト海琥珀の古生物の記録には、クワガタムシ科のPaleognathus succini Waga, 1883(Fig.4)という約14mmのカブトムシが含まれているが、これもおそらく偽物であろう。オリジナルの標本は行方不明になっているが、甲虫を完璧に描写した図版と、大きな変形や乳白色の濁りなどの記述がないことから、偽物と考えられるだろう。しかし一方で、論文に正確に描かれているこの種が、現在の動物相で発見されていないのは不可解である。(和訳)

 つまり、このレポートからは「現生種を用いて作られた贋作の標本を使って記載された種」という推測がなされている事が読解できる。化石の贋作標本は何処から出てくるか分からない。緊張感が漂う界隈である。

 そして唯一しか無いタイプ標本の実物が行方不明とされた時点で本物が存在する事を証明出来なくなった。偽物だろうどころか本物という保証が金輪際出来ない。

 よくよく考えてみると実際は更に呆れるような話だと思える。そもそも1883年の原著論文自体が嘘出鱈目なのではないかという身も蓋も無い説が想起可能である。以下に、そう考えられる根拠を説明する

 1883年のWagaによる原記載論文では、昆虫学者を目指す若きM. Xavier Branickiが1881年にドイツのダンツィヒ(現在のポーランドグダニスク)あたりバルト海沿岸で採集したもの(※バルト琥珀バルト海海底に沈んだ大森林化石から海岸に打ち上げられるものと、ロシアの地層などで採掘して出土するものがある)を観察したとの話だが、其の非常に貴重な筈のタイプ標本の行方は現在分からない。追加記録の期待が薄く唯一しか無い絶滅生物の資料が大して実在性を検証されないままに失われた場合、其の分類群の実態は観測上の幻と化してしまう。そしてクワガタ入りバルト琥珀という凄まじい希少性の標本を採集しているとされるBranickiでありながら、氏のコレクションから記載されているのは本分類のみという事実のギャップが実物の存在感を希薄にする。ハッタリで何かの商売でもする事が目的の記載だったのかという類推すらさせる。

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=collectionSearch&collection_no=140931&is_real_user=1

 かたや間違いない琥珀種のSucciniplatycerus berendti (Zang, 1905)の琥珀を含んでいたDr. Georg Karl (Carl) Berendtのコレクションは1815年から1845年までの30年間に集めきったとは思えないレベルのボリュームであり、非常に沢山の虫入り琥珀が論文に新種記載として登場している。大抵の、分類学に貢献活躍してきた化石コレクターは、本来これくらいのボリュームのコレクションを扱っていて然るべきなのである。

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=collectionSearch&collection_no=109625

https://en.wikipedia.org/wiki/Georg_Karl_Berendt

 バルト琥珀はこれまでに少なくとも10万トンが得られているとされる。人類史で見つかっている最古のバルト琥珀加工品は紀元前約15,000年〜10,000年のヴュルム氷期第2期後半旧石器時代末期の西ヨーロッパ、フランスやスペインのマドレーヌ文化(Magdalenian)で作られた琥珀のビーズであり、他の古代エジプトや地中海への浸透など記録からも昔から大量の採掘されてきた長い歴史を理解される。近年の産出量は年間数十トン、多い年は2014年で約250トン、2015年で約400トンとされる。参考までに、10〜15mmのクワガタが入るサイズの琥珀となると大体2〜5グラム。Paleognathus succini琥珀バルト海沿岸から見つかったという事になっているので、実在した生物種ならどの海岸に打ち上げられてもおかしくない。つまり、いくら貴重とはいえ、新たなPaleognathus succiniの標本、またはその近似個体が得られないというのは、そんな分類群など実態が無いという事を示唆している

 またPaleognathus succiniのスケッチは精密な線で描かれていて異物の付着など全く感じさせない事への疑問視さえある

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(図の引用:「Waga A. 1883. Note sur un Lucanide incrusté dans le Succin (Paleognathus Leuthner succini Waga.). Annales de la Société ento- mologique de France (6) 3, 191–194.」)

 おそらくこのスケッチは1845年に記載されたクワガタモドキ科(Trictenotomidae)をベースに描かれている空想画と考えられる。タテヅノクワガタモドキの1種Autocrates aeneus Parry, 1847はサイズ以外が特によく似ている。触覚の形態も、側面図では細く長い第一節から数えて先端までの10節で描かれるが、背面図では左右2本両方の触角でそれぞれ11節あり、どちらかは間違いなく嘘の絵だ。また側面図ではクワガタムシ科で言う第一節の付け根に更に小さい節が描かれているようにもみえるが、この形態は現生種のクワガタでは全く見られない。とりあえず同じ標本のスケッチな筈でありながら側面図VS背面図で解釈の齟齬が明瞭に示されてあるのは科学論文として全くのアウトである。クワガタムシ科ならば大抵は10節以下で、11節以上の触覚を持つクワガタは他では見つかっていないクワガタモドキ科ならば触角は11節である。脚部ケイ節外縁に全く棘が見られないのもクワガタモドキ科チックで、クワガタでは先ずなかなか見られない形態である。顎、頭部、前胸、エリトラ、フ節、どれを取ってもクワガタモドキ科らしい形態とも見える。しかし14mmサイズという小型のクワガタモドキ科甲虫というのは見た事も聞いた事も無い。Zang, 1905は本分類群についてスケッチが精密に描かれている事を記述しているが実物の検証までは記述していないのでZang自身ではタイプ標本の実物観察を行ってはいないと考えられる。即ち、空想のスケッチと推察可能なのである。

 原記載論文のフランス語文章を全文読んでみたが、触角の事について節数に関する文章は無く「触覚の付け根が見えにくい」という甲虫入り琥珀で有り触れた様子を記述している程度である。ちなみにスケッチでは明瞭に描かれており、記述に対して嘘のスケッチをしていた事が読解できる

 また原記載において属名も同時に記載されているが、種小名記載者がWagaであるのに対して、属名はLeuthnerの記載となっている。しかし論文の追記を読む限りでは、Leuthnerは当時の手紙か何かの通信で知ったのみで実物を確認していない事がわかる。

 原記載の記述から読解出来る「琥珀の実物を見ただろう人物」は、たった3〜4人。先ずは採集したとされる若き昆虫学者を目指すM. Xavier Branicki、そして「良い虫眼鏡で1000回も観察したんだ」と原記載に証言風な記述をする種記載者Waga、またWagaの同僚でスケッチをしたM. A.-L. Clémentである。Wagaの別な同僚でありクワガタ現生種で複数記載の実績があるM. H. Deyrolleは「オニクワガタ属(Prismognathus sp.)に似ているが形態から別属とすべき」とコメントしたらしいが、実物観察をしたか否か不明である。Deyrolleについては贋論文作成に共謀したか判断が難しく、なんとも言えない。まぁ普通気になる筈なので近場に実物があったのなら見た筈だろうし、適当に引き出されたコメントの可能性や、Wagaが意図的に贋作論文を書いていたと考えるとDeyrolleにはスケッチしか見せていない可能性もありうる。ヨーロッパ中の博物館で標本観察のために練り歩いていたというLeuthnerは通信のみで判断し実態は知らないと読解できる。後年の文献にもLeuthnerが観察したという記述は無い。

 クワガタモドキの外形はクワガタらしい雰囲気もあるが実際はかなり遠縁でクワガタムシとは他人の空似のような関係。クワガタモドキ科はゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)に分類され、クワガタムシ科はコガネムシ上科に分類されてコブスジコガネ科やセンチコガネ科の方が近縁である。

 記載当時は生物にDNAがあるなどとは知られず、またメンデル遺伝学も一般的に知られない時代であり、スケッチでの記載が一般的だった時代である。そんな訳で、いくらでも稚拙な嘘が通じてしまっていたのだが、だからと言って科学技術の進歩目覚ましい135年以上の間、一度たりとも実物を検証出来ていると読解可能な資料が無い上で存在が信じられてきた事実はなかなか物悲しい。まともに調べようとしなかった学者らの怠慢としか考えられない。根源的調査を避けるやり方は、正に悪しき慣例である。

 一つ付け加えると今後タイプ標本が見つかったなどという報があった場合には相当精密な検証が必要となる。超希少絶滅種ならば簡単には自然界から見つかってくれない。方法としては①赤外線分光法での成分分析から間違いなくバルト琥珀と判明するのか、②成分分析から接着剤混入のアンブロイド贋作か否か、③虫は人工物ではないか、または研磨切削(および人為か不明の加熱)以外の人為的加工痕跡は全く見えないか、④合体標本を埋没させた贋作では無いか、⑤琥珀内に別な人工物の含有(人為的な切断面の枝片など)は無いか、⑥虫の状態は新鮮過ぎないか、⑦1883年の原記載文による説明通りか、⑧データラベル等の記述も一致するのか、等を調べなくてはならない。まぁタイプ標本でありながら一度失われた事実が報告されている以上、実際には自分の眼で実物を見て自分の手で真偽判定をするまで納得行かないのだろうが。

 やはり実物のあらゆる角度からの精密な検証が必要な時代になったかと色々思い侍らせるが、拙いSNSや稚拙な論文でなんでも解決した気分になる人々が増える世の中で一体どのような真実の保証を伝聞出来ようかと悩ましい。創作がまるで真実を担保するような言い回しをする人間はイヤと言うほど出会うが、その手口はまるで新興宗教の布教活動と変わらない。それなのにそのような事を恥かしげもなく堂々とするような学者ら研究者ら、またはその信奉者らを目の当たりにすると、無意味な過重労力をふっかけられそうで再た嫌になる。

 調べれば調べるほどに「これでもか!」というくらいに情報が安定しない。AMBERIF 2019等で報告されているように恐らく現在2021年から数えて138年前(1883年)の記載以降タイプ標本の行方を知る人物は居ない架空の分類群という疑念が確定的である。初めてスケッチを見て、こんなクワガタが居たんだと感動したあの頃が懐かしい。いつかどこかの博物館にある実物標本を観察したいと熱意を燃やしていた時間と労力を返して欲しい。宛ら心の中で絶滅したクワガタといった結末(しかしまぁ、この種を参考にして系統関係や大陸移動を考察している人がいるの、どうするんだろ、)。

【Refarences】

Waga A. 1883. Note sur un Lucanide incrusté dans le Succin (Paleognathus Leuthner succini Waga.). Annales de la Société ento- mologique de France (6) 3, 191–194.

R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205

Elżbieta Sontag, Ryszard Szadziewski, Jacek Szwedo. 2019. Unique inclusions in Baltic amber. AMBERIF 2019 BURSZTYN BAŁTYCKI (SUKCYNIT): INTRYGUJĄCA ŻYWICA XXVI SEMINARIUM, 22 MARCA 2019, Gdańsk, Polska.

Wolfe, A. P.; Tappert, R.; Muehlenbachs, K.; Boudreau, M.; McKellar, R. C.; Basinger, J. F.; Garrett, A. (2009). "A new proposal concerning the botanical origin of Baltic amber". Proceedings of the Royal Society B. 276 (1672).

Poinar G. O., Jr. 1992. Life in amber Stanford, CA: Stanford University Press.

Weitschat W., Wichard W. 2002. Atlas of plants and animals in Baltic amber Munich, Germany: F. Pfeil Verlag.

【追記】

 過去、日本では「ゴッドハンド」と呼ばれる人物による旧石器捏造事件という出来事があった。この事件発覚で、見えないところで悪さを行い、あまつさえ手柄にしようとした行いが随分と非難された

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A7%E7%9F%B3%E5%99%A8%E6%8D%8F%E9%80%A0%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 "どの論文が"とは具体的に言わないが近年ですら少なくない化石種記載論文などの生物種分類に関係する論文では、やけにボンヤリとフワついた表現ばかりで形態記述が為されていて、クワガタムシ科等昆虫を含め生物種分類をよく知らない人にとっては成果が煙に巻かれたような体裁になっている「論文であるから」や「著者が責任を持つ学者・研究家だから」という要素だけで、読者衆を騙しきろうという魂胆が透けて見える。こういうスケコマシのようなやり方は頻繁に多用されており、全く説得力の無い結果にリアリティのある幻を吹き込んである。しかも一丁前に、彼らは自身らの所属すると自認しているであろう学閥派閥外の人間が怪しげな論文を出すと掌を返したように批判をしつつ、自らは身の振り方を変えないのである。彼らにとっての敵は「疑いようの無い現実」である。他の如何なる自然現象も、平易明快に示されてきたからこそ科学技術革新が起きてきた。それを煙に巻いて杜撰な論文で実績を積むために既知知見に毒を盛る輩が無垢な民衆の思考を妨げている。一般の人と生物分類学について突っ込んだ話題になれば必ずと言えるくらい頻繁に「分からなくて困っている」という問題に出会うが、これを放置して自身も分からずに最新の論文に従うとしている学者は「単なる教条主義者」であって分類学者では無い。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, amber,  extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石, 琥珀, 虫入り琥珀, 昆虫入り琥珀,

†Dorcus (Eurytrachelus) primigenius Deichmüller,1881についての検証

Dorcus (Eurytrachelus) primigenius Deichmüller,1881

Type data: Eocene, Kučlín near Bílina, Czech Republic.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=256743

 産地はチェコのビリーナ近郊クチュリーン。約3500万年前の新生代古代三紀の地層から出土した化石を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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(「J. V. Deichmüller. 1881. Fossile Insecten aus dem Diatomeenschiefer von Kutschlin bei Bilin, Böhmen. Nova Acta Academiae Caesareae Leopoldino-Carolinae Germanicae Naturae Curiosorum 42:293-330」より引用した図)

 破損大の頭部しか無い化石。大顎を除いた長さが8mm、大顎は12mm。雰囲気だけなら例えばクワガタのDorcus rectusらしいようにも見えるけど触角の欠損した頭部のみならば違う科にも分類可能な標本。

 以下のページでは、原記載を読まずにヨーロッパにいたDorcusなのだからDorcus parallelipipedusに似ていたんだろうという推論が書かれている。

http://paralleli.life.coocan.jp/essay/022/index.html

 よく考えてみて欲しい。3500万年前はとてつもなく昔であり、約2000万年間に亘り続いた暁新世-始新世温暖化極大という温暖化現象がようやく収まった頃合いである。現在迄に過酷な氷河期を挟み当時のヨーロッパにどんな生物種が居たのかなんて現生種からは予想もつかない。生物進化の再現実験など出来ない。環境が変われば住める場所に移動しつつ進化淘汰を繰り返して形態変化もしていくとされているのが動物である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%81%E6%96%B0%E4%B8%96-%E5%A7%8B%E6%96%B0%E4%B8%96%E6%B8%A9%E6%9A%96%E5%8C%96%E6%A5%B5%E5%A4%A7

 触角第一節と頭部しか残っていないこの型の化石だとゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)などかもしれない。今は居ない生物種の一部だと、なかなかまともに分類が出来ない。

【Reference】

J. V. Deichmüller. 1881. Fossile Insecten aus dem Diatomeenschiefer von Kutschlin bei Bilin, Böhmen. Nova Acta Academiae Caesareae Leopoldino-Carolinae Germanicae Naturae Curiosorum 42:293-330

【追記】

 たまに学者をやっている人のコミュニケーションを側から見ると、出典不明な状態で推定を断定にした論調をする人が多い。「科学者」の筈なのに議論中で出典を全く示さずに意見を主張するのは如何なものか。詳細な論理の部分への議論へ進めず、人格攻撃を始める人間が居たのを見た時は驚異した。いったいどんな教育を受けたらそうなるんだ。生物種分類ならホロタイプの観察、沢山の標本の形態変異や特徴と其のデータから導き出される相関現象考察、交尾器形態などの生物学的隔離や地理的隔離の付記、遺伝子情報からの変異推定や遺伝子機能からの種内変異出現の既知知見論理、生物種学名を維持するために規約がある事や原綴りを確認したり、命名規約には両論解釈が無いという解釈が必要と理解したり、シノニムのようでシノニムにならない普遍化した種学名についてなど、様々な事を参照せねばならないのに出典が示されてなく、意味の無い議論へと突き進む職業研究者が目立つ(近年2020年あたりのSNSインフルエンサーしている人物などは先ず其れが先鋭化している)。

 確かに出典を示さないならば即席での対応が出来て、詐欺師がよくやる手口で恰も知識人のような振る舞いを見せつけられる(「なりすまし詐欺」との差があんまり無い。詐欺の1種か)。しかし我々の生活基盤に関わる古典的な知識というのは、物的資料の貴重品を保護するという名目以外では、わざわざ個々人で金銭取引をしてまで得るものであってはならず、誰もが学者の意見に疑問を向ける事が出来る(少なくとも日本は)。一般人には出典を示さないレベルのリテラシーが危険であると理解している人が沢山いるので、職業研究者の信用とは何なのかとボンヤリ哲学的に考えてしまう。

 大抵の言葉遣いが粗い「学者」は、実地的実直的な研究をしていない。そのため研究方法も粗雑且つ結果も胡散臭い。何もかもが粗く自己中心的で、公共性には頑なに浸透せずマトモな科学者達に擬態するのを徹底している。彼らの科学への興味は其れらの実績から見るに真実味が希薄である場合が多く、知識人からは落胆されやすい。「独りよがりな論文」なんぞはエゴイズムの塊であり、書かない方がマシである。彼らの中には「ハッタリで科学を盛り上げている」と存在理由をゴネすらする人間がいるが、実地研究をする人からすれば、つまらないだけの傍迷惑な邪魔者達でしかない。

 例えば以下のツイートでは、とある展示会での解説を読めるが、虫入り琥珀石炭紀からも見つかっているかのような表現である。 石炭紀から完新世の間で、虫入り琥珀が見つかっているのは白亜紀から完新世の間という知識が一般的な筈だが、妙な解説である。

https://twitter.com/lunaasron/status/1436631842858274818?s=21

 最古の虫入り琥珀は約1億2500万年前のレバノンから、また最古の生物痕跡が入るのはイタリアからの約2億3000万年前のダニで、石炭紀から虫入り琥珀が出ればニュースになる。しかし石炭紀琥珀は見つかっていても、2021年現在まで石炭紀の虫入り琥珀というのは他に聞いた事も無いのだが、こういう展示を博物館関係がやって良いものか疑問である(私は全く興味が持てず足を運ばなかった為知らなかったが、展示は最早数年目と考えると肝が冷える)。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石,

†Dorcasoides bilobus Motschulsky,1856についての検証

Dorcasoides bilobus Motschulsky,1856

=Scydmaenoides nigrescens Motschulsky,1856

Type data: Baltic Amber(Eocene), Priabonian terrestrial amber in Poland.

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=285174

 産地はポーランド。約3500〜4500万年前の新生代古代三期始新世のものと推定されるバルト琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

f:id:iVene:20210925233636j:image

(「Broili, Ferdinand; Koken, Ernst Friedrich Rudolph Karl; Schlosser, Max; Zittel, Karl Alfred von 1903. Grundzüge der Paläontologie (Paläzoologie)」より引用した図)

 先ず1903年の後出記載著者らのスケッチが曖昧過ぎる。キクイムシ科(Scolytidae)やマグソコガネ亜科(Aphodiinae)らしき姿見とも解釈出来そう。大顎の描写が無いあたり特にクワガタムシ科らしく無い。

 Zang, 1905はD. bilobusについて「非常に表面的に記述し、大まかに図示したものであるが、Mengeコレクションにあるオリジナルの標本の助けを借りて解釈する必要がある」としている。標本の確認はなされていない様子である。

 サイズは5 1/2リーニュで換算すると12mm程度で合っているだろうか。バルト琥珀に入る虫にしては割と大きいがスケッチの曖昧さ加減からサイズの正確さも心配になる。

【References】

V. Motschulsky. 1856. Lettres de M. de Motschulsky à M. Ménétriés. Études Entomologique 5:3-38

Broili, Ferdinand; Koken, Ernst Friedrich Rudolph Karl; Schlosser, Max; Zittel, Karl Alfred von 1903. Grundzüge der Paläontologie (Paläzoologie)

R. Zang. 1905. Über Coleoptera Lamellicornia aus dem baltischen Bernstein. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin 1905:197-205

【追記】

 スケッチを眺めていると不意に笑ってしまうのだが、それはこの時代だともう少し上手にスケッチされる文献もあるからで、どんな気分で描いたのだろうかと気になってしまう。まぁ、現代科学においても杜撰であったり巧妙な嘘で煙にまかれた論文と、非常に精緻に平易明解な表現をする論文までピンキリなので、そういう拘りや心意気の差は何百年かかっても縮まらないのかもしれないが。

【Key words】Lucanidae, Lucanid beetle, Lucanids, Lucanoid Coleoptera, Stag beetle, fossil, amber, extinct species, article, description, クワガタ, クワガタムシ科, 甲虫, 昆虫, 化石, 琥珀, 虫入り琥珀, 昆虫入り琥珀,